3スレ>>567

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天命のあるものというのは数奇な運命に巻き込まれる。 英雄と称されたりする人物は、大抵がこの天命を持っている。 もって生まれたのか授けられたのかは分からない。 別に自惚れるわけではないが、そういった意味で俺は天命のある人間なのだろう。 もしかしたらあの日、オーキド博士から貰った萌えもん図鑑は天啓だったのかもしれない。 俺の図鑑には伝説と呼ばれる萌えもんのデータが記載されている。 伝説というのはその名のとおり伝説だ。 通常はあり得ない。一人のトレーナーの下にそれらが集うなど。 だが、現実それは成った。 それは偶然か必然か……。俺にはよく分からない。 氷の麗鳥、雷の轟鳥。そして火の霊鳥。 そして、罪深い研究の末に生み出された、正しく一体しか存在しない萌えもん。 奇妙な事に俺もまた数奇な運命を巡り歩いてきた。 お月見山での遭遇から始まった、ロケット団との因縁。 タマムシ、ヤマブキでの決戦。そして、バッヂを賭け今後のカントーの動向を決めたトキワでの最終決戦。 どれもがただ一人の人間――それも旅立って間もない子ども――に成し遂げられるものではない。 そして、俺の数奇な運命は回り続けた。 ポケモンリーグ殿堂入り後、チャンピオンとして挑戦者を待つというのがしっくり来なかった俺は、 王座を返還して旅を続けた。それが結果として俺と伝説を引き合わせた。 さらに、ナナシマに生息する新たな萌えもん。 俺はこれからも流浪の旅を続けるのだろう。 そうした俺の運命が、今度は幻を引き寄せた。 ---------- 久々に訪れたシオンタウン。 訪れたのはフジ老人の萌えもんハウス。 フジ老人は俺を歓迎してくれた。俺は少々思うところもあったのだが、 フジ老人の笑みは俺にそれを出させなかった。 「お久しぶりですな。息災そうでなによりです」 「いえいえ」 ニコニコと話しかけてくるフジ老人は好々爺そのものだ。 でも、俺にはその笑顔に陰りが見えてしまう。 「フジさんはシオンのご出身ではないそうですね」 差し出されたお茶を啜りながら問う。 さり気なさを装ったつもりだったが、ひどく動揺していた。 そして家の中にいる子ども達に外に出て行くように言うと、好々爺の面はすっかり隠れてしまった。 「グレンのジムで貴方とカツラさんの写真を拝見しました。  ――いいお友達だったそうですね」 「ええ」 流石のフジ老人も疲れてきたようだ。 観念したように呟くと、俺に質問を放ってきた。 「聞きたいのはポケモン屋敷のことですかな?」 「あ、その事は存じているので結構です」 「――――!」 これには驚いて声も出ない。 まさか、と思ったのだろう。むしろ―― 「やはり、ミュウツーの研究に携わっていたのは貴方だったんですか」 「そうです」 深々と溜息をついたフジ老人は、その顔に似合わない自嘲的な笑みを浮かべた。 「なるほど、カツラと戦うためにあの屋敷に行ったのですね。  そして日記を発見したと……。迂闊でした。研究の記録は全てこっちに持ってきたのですが」 「まぁ、ほとんどは本人から聞いたんですが」 俺の言葉にハッと顔を上げるフジ老人。 信じられないものを見る顔つきだ。 「会ったのですか――? 彼女に」 声が震えている。 俺はフジ老人の真意が読み取れなかった。 ミュウツーを憎んでいるのか、心配しているのかこの時点では分からない。 だからただ一言、はい、とだけ答えた。 そうですか、と続けたフジ老人はしばらく閉口した。 俺が口を開こうとした瞬間、フジ老人の声が俺の耳を打った。 「ミュウツーは――どんな様子……でした、か?」 ああ、なんだ。俺は肩の力を抜いた。知らず力んでいたらしい。 やはり、フジ老人はフジ老人だ。普段の好々爺の面は演技でもなんでもない素なのだろう。 「やっぱり、ミュウと人間と――何より自分自身を憎んでいましたよ」 しかし、どうしても納得がいかない。 フジ老人は非常に温厚な性格の持ち主だ。いや、今の温かさは老成からくるものかもしれないが、 それでも、俺は未だにフジ老人が研究者であったことに違和感を持っていた。 「なぜなんですか」 俺のたった一言から、フジ老人は全てを汲み取った。 「若い頃の私は愚かでした。深く考える事もなく、研究を続けてしまったのです」 元々、フジ老人は研究者でありながら、ひどく萌えもんに懐かれる性質だったらしい。 ミュウと出会い懐かれた彼は、その生態を研究し始めた。 その研究しているうちにミュウが卵を産んだ。 彼はミュウの潜在能力を引き出したらどうなるか、という欲望に囚われた。 欲望は狂気を生み、彼の研究はエスカレートしていった。 それを実行し、ミュウの中に眠るエスパーの遺伝子を色濃く引き出し―― 狂気の萌えもんが誕生した。 「後は、日記から読み取れると思います。そのあまりにも強力な力に屋敷は半壊。  彼女は私に憎しみの視線をぶつけて、去っていきました」 当然の事ですが、と自嘲するフジ老人。 自分の罪の深さにフジ老人は絶望し、失意のうちにシオンタウンまで流れてきたらしい。 「ミュウツーが私のことを怨むのは当然です。  ですが、彼女が自分の出生を罪に思ってほしくはないのです。それは私が背負うべき業ですから」 身勝手な私のエゴですけどね、とフジ老人は悲しそうに笑った。 そう、確かにエゴだ。作り出した人間の勝手な考えだ。 でも、それはミュウツーを思うからこその言葉と分かる。 だからエゴだと分かっていてもその考えを捨てないのだろう。 いまや、この老人に出来る事はそれくらいなのだ。俺はやるせない思いに囚われた。 たった少し歯車が狂っただけでこうなるのかと。 でも、今のミュウツーを知れば驚くだろうなぁ。 キュウコンと舌戦を繰り広げるミュウツーを思い出して笑う。 何か感じるものがあったのだろう。俺の笑みにフジ浪人が不思議そうに俺を見た。 「いえ、今のミュウツーを見れば驚くだろうなぁと思いまして」 そして、俺は今度はハナダの洞窟で出会ってからのことを話した。 特に、ミュウツーが俺に愛の告白をした事などは目をまん丸にして驚いていた。 もう一つ――というか、これが本題だったのだが――ミュウについても聞いてみた。 流石にこの話題にはフジ老人の目の色も変わる。 俺はミュウと思しき萌えもんと接触している事。そして、そのデータが欲しい事を告げた。 「この図鑑の達成はオーキド博士の悲願です。俺としても、あの時会ったミュウが本物かどうか知りたいんです」 最悪、俺はミュウのデータを自分で打ち込む気でいた。 この時点での俺は、幻と対峙する気など全く無かったのだ。 暫しの間、沈黙のみが場を流れた。 フジ老人は席を立つと、古びたファイルを持ってきた。 少々の黄ばみが見受けられるそれは、ミュウの研究日誌だった。 そこに描かれた桃色の萌えもん。正にミュウそのものであった。 「もしかしたら、貴方にこそ資格があるのかもしれませんね」 そういうと、フジ老人は一枚の古いチケットを取り出した。 見た事もないチケットを、俺は訝しげに受け取った。 「ロケット団が私を襲った目的はミュウでした。  ですが、私はミュウがどこに居るか知りません。  ただ、そのチケットで訪れる事の出来る絶海の孤島――最果ての島に彼女を逃がしました」 だから、ロケット団の襲撃は徒労に終わったのだという。 「ミュウツーの心を開いた貴方なら、彼女に会う資格があります。  ――少なくとも、私にはそう感じます」 ――私もですよ ふと、鈴の音のような声が転がった。 ハッとしたように辺りを見回すフジ老人。 そして、光の残骸を見つけたフジ老人は言葉を漏らした。 「私を――こんな私を許すというのですか?」 かける言葉のない俺は、一礼して萌えもんハウスを去った。 ---------- 最果ての島に降り立った少年を待ち受けていたのは、幻の萌えもん――ミュウであった。 ――ようやく来ましたね ミュウの言葉に少年はこくっと頷く。 少年はここで全ての因果を断ち切るつもりでいた。 憎しみ、狂気、絶望という少年の嫌いな負の感情に満ちたこの因果を。 ある研究者とある萌えもんが出会ったことで起こったこの一連の因果。 それらに決着をつけるときがきたのだ。 少年のボールから現れたのは、因果の果てに生まれた萌えもん――ミュウツー。 少年と出会うまでの彼女なら、ここでミュウに対して激しい敵対意識を持っただろう。 だが、当の本人は穏やかな顔をしている。彼女の中では既に済んだ問題なのだ。 ――やはり、貴方はいい眼をしていますね ここでの少年の立場はいつもと変わらない。 そこにあるのは、この萌えもんと友でありたいという願望。 だから、彼は笑みを浮かべた。 この先の事が分かっているから。 30分に及ぶ戦闘の結果は、目に見えていた。 少年と、ミュウツーと――一個のボール。 この瞬間、少年は幻を友にした。 ボールから飛び出た幻は少年とじゃれ合う。 そこに混じるミュウツー。そこには負の感情など見受けられない。 少年は因果を全て断ち切った。 それを見つめる二つの影。 二体の萌えもんは己の羽を一枚ずつ抜き取ると、少年へと落とした。 舞う羽に気付いた少年は目を細めた。傍に居たミュウとミュウツーは眼を見張った。 落ちてきた羽は金と銀。 まるで、少年との出会いを待ち望んでいるかのようなアプローチであった。 ――了――

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