3スレ>>589

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「ますたー、ますたー」 わたしの後ろをてこてこと歩いていたイーブイが、ふとわたしのことを呼び止めた。 「なぁに? また何か見つけたの?」 「いえすですますたー。あれはなんですか?」 振り返り問いかけると、イーブイは茶色くて長い尻尾をぴこぴこ揺らしながら、右手にある、彼女の知らないなにかをつっと指差していた。 指の先に目線を送る。 「ああ――パラスのきのこかな。きっと何かの拍子で落としちゃったのよ」 「ぱらすさんのおきのこさんですか。拾ってきてもいいですか?」 「んー、ま、危ないものじゃないでしょうし、いいかな。転ばないように気をつけてね」 はい、と元気良く答えて、茶色くて長い耳をぴこぴこ揺らして走り出し、舗装道から草むらに出て、無造作に落っこちているそれを拾い上げる。 「ぷにぷにしてます! ぐったりしてます!」 高々と差し上げて、こちらにそれを見せ付ける。紫色基調の色合いに、どこか毒々しさを感じるきのこ。やっぱりパラスのかしらねぇ。 「こっちに戻ってからゆっくりみせてちょーだい」 「あ、はいそうですね! そうしますますたー!」 ぱてぱて、と足音立ててこちらに戻ってくる。草むらの草を踏みつけて走るはだしの足が可愛らしい。 たたた、と舗装路に戻り、 「もどりました、ますたー!」 と元気良く、ぴしりと右手で敬礼し、左手できのこをわたしに差し出す。 いや、渡してもらっても困るんだけど――まぁいいか。 「ありがと、イーブイ。それじゃ先にすすもっか?」 「はい!」 おつきみやまからハナダシティへ下る山道を、イーブイを後ろに連れて下りていく。 他のメンバーはボールの中に。イーブイだけ外に出しているのは、一応、野生っ子の奇襲に備えてと、あと、 「ますたーますたー! あっちに何かいますよ!?」 ぱたぱたと、好奇心旺盛に走り回っている姿が、とっても可愛くて、ずっと見てても全然飽きないから、だ。 まだ卵から孵って間もないあの子。見るもの全てが新鮮で、色んな経験をこれからしていく、そんな年齢。 おつきみやま洞窟を探索している間はなかなか外に出して上げられなかった分、安全地帯なこのあたりで、 思う存分はしゃがさせてあげたいという、親心みたいなのも、少しはある。と思う。 「今度は何を見つけたの?」 振り返り、イーブイの顔を見る。ぱっくり口を開けて驚き顔。抱きしめたくなる可愛らしさ。ああもう。 指の先には、きのこをしょってうろうろしている小さな萌えもんの姿。ああ、 「あれがパラス。さっきのきのこの落とし主じゃないかな?」 普段なら、ふたつかそれ以上の数を背中にしょったりや手に持ったりしているのに、あのパラスはひとつしか持ってない。 だからきっと、さっき落ちてたきのこを探してるんだろう。多分。 「あれがぱらすさんですか。ぱらすさーん」 ぱたぱたと、イーブイが右手を上げて手を振り振り呼びかけた。 パラスのくりっとした瞳がこちらを向き、とたん、慌てて近くの岩陰に隠れてしまう。そりゃそうよね。野生っ子だもの。 「あ」 とたんしょんぼりと顔を落とすうちの娘。んー、パラスのきのこって結構貴重なんだけど、まーいっか。 「ね、これ返してきてあげて?」 バッグの中から紫色のきのこを取り出し、イーブイに渡す。パラスは岩陰からこそこそとこちらの様子を覗っている。 あの子もまだ子供なんだろう。きのこも小さいし、すぐに逃げ出そうとしないあたり、まだ人の怖さを知らないんだろう。 でも、パラスも可愛いなぁ。くりくりした瞳いいなぁ。ぱたぱたしてる足もいいなぁ。 あ、もちろんうちの子たちにはかなわないけどね? はい、ときのこを受け取って、うちのイーブイがまたぱたたたと走っていく。 びくっと背すじを振るわせた小さなパラスだけれど、イーブイの小さな手に握られたきのこを見て、あ、という顔をした。 「あうあうあう?」 「ぱらすさんのおとしものですか?」 「あうあう」 「あうあう?」 側に寄ってかがみこみ、何かお話している2人。やがて右手のきのこが左手に受け渡され、にこっと2人笑いあう。 「ますたー! お返しできましたー!」 「はーい、それじゃ先急ぐから、戻ってきてねぇー」 「はい! それでは、ぱらすさん、もう落とさないように気をつけてくださいね?」 「あうあうー」 草を踏んづけて走るイーブイ。転ばないかと心配だけれどやっぱりそこは萌えもんなのか、運動能力は人の子供より全然高いらしい。 すぐにわたしの後ろに戻ってきて、嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる。 それじゃ出発ー、と声をかけながら、ふと見ると。 「あうあう~あう~」 両手のきのこをふるふる振って、パラスがずっと、お礼の挨拶をしてくれていた。 夜、ハナダのホテルで体を休めていると、ボールのひとつが出してくれと合図をした。 「何?」 その子を中から出すと、少し不満そうな顔で、こちらを見つめてくれた。 「あのパラス、捕まえなくて良かったのか。確かまだ未捕獲だっただろう?」 「ん、そうだっけ。でもいいじゃない、捕まえようと思ったらすぐ捕まえられるんだし、パラスなんて」 言うとは思ってたけど、やっぱりだった。この子はホントに頭が固いというか、真面目すぎると言うか。 「それはそうかもしれないが。だが、次に挑むのはここ、水使いのハナダジムなんだろう?  パラスは草タイプだ。あいつを外して、代わりに入れておくほうが」 その言葉にむ、っとして、水色のおでこをちょこんとつっついた。 「そういうこといわないの。そりゃ、ブースターは水苦手だけど、でもそんなこと最初からわかってることじゃない。  最初のクチバだって、あなたを外したりしなかったでしょ?」 「それは、今でも不満だよ、僕は。勝利のために合理的判断をするなら、あそこに僕を連れて行ったのは明らかな失策だ」 「もう……ホントに相変わらず合理主義なんだから」 ためいきをつきながら、とん、と頭の上に手を置き、ひとつ、ふたつと撫でる。ベッドの脇には小さくなって眠るイーブイの姿。 ほんと、どうしてこの親からこの子なんだろ。 「いい、シャワーズ。わたしは、あなたたち5人で、5人だけで、ジョウトのリーグを制覇して、ここまでやってきた。  そのスタイルを、こだわりを、いまさら変えるつもりなんて無い。  いい、シャワーズ。何度も言ったけど。もう1度言うよ。  わたしは、あなたたちと勝っていきたいの。他の誰でもない。ここにいるみんなと。一緒に」 ボールの中で休んでいるみんなの顔を思い浮かべる。 のんきなブースター。慌てんぼうサンダース。ひかえめなエーフィ。きまぐれなブラッキー。 みんなわたしの大切な仲間たちだ。 せっかく、そこにイーブイも加わって、完璧になったのに。今更、変えたりなんてするもんか。

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