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前回までのあらすじ
エリカ嬢に踏まれて悦んだ…じゃなかった。
ディグダの穴を経由してカントー首都圏へ行こうとした少年一行。
タイミングの悪いことに、洞窟内部の落盤で足止めを食らうことに。
そんな時ディグダ総長に別の首都圏への抜け道を教えてもらう。
ついた先は黒ずくめの集団の本拠だった。そこで本拠に潜入していたエリカと出会う。
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05 首都圏アンダーグラウンド
~地下帝國大潜伏作戦~(後編)
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「こちらB1区画。異常なし。警備を続行する。」
無線機に向かって報告する、黒の集団。
その様子を窺う視線にも気づかずに――
――入り口の警備は薄いようだな。三人か。
……天井裏から、少年は人の影を確認する。視覚の情報こそ少ないが、聞こえてくる会話で人数を把握する。
――そろそろ頃合だな。
少年は当初の作戦通り、水面下で静かに動いた――
・
・
・
「ようこそ、タマムシジムへ。」
連れてこられた建物の中に入ると、エリカは少年に向かって軽くお辞儀をしながら言った。
「………。」
納得できないまま連れてこられた少年。その間にわからない疑問を自分に何度投げかけたことか。
――この女は何を考えている?
…結果として少年を助けたことになった。その流れで彼に敵意が無いということも把握していただろう。
しかしそれは少年をここへ連れてくる理由にはならない。何か別の目的があるはずだと少年は考えた。
「訊きたいことがある……」
少年はもうこの際、単刀直入に聞くことにした。
「あら…なんでしょう?」
エリカは顔を上げる。横には七人の女性達がずらりと並んでいる。
「何故…俺をここへ連れてきた。」
「何故とは?」
「あそこで偶然遭遇して警戒されたのは理解できる。
…だがここに俺を連れてきてどうするつもりなんだ?」
「……あら、あなたはロケット団と対峙する勢力ではなくて?同志ではないのですか?」
――ロケット団?…同志?
少年には何のことかわからなかった。そんな単語、聞いた覚えは無い。
「違ったのでしょうか?これは大変な勘違いをしてしまいました…。」
少年の反応に肩を落とすエリカ。
「そうでしたか……。これは失礼しましたね。……ですがあなたは何故あのようなところに?」
「え…それは……。」
「…いいえ、話しづらければ結構です。お帰りになられますよね?でしたら見送りに…。」
「待ってくれ。……。」
この場から追い返される前に、少年は少し考えた。
――こいつらの話には首を突っ込みたくは無いが、…ジムリーダーには用がある。
「俺はロケット団とか言うのには用は無い、が…このジムには用がある。」
少年には、違う目的があったが、それに困った様子も無くエリカは毅然とした態度で言った。
「そうですか――やはり貴方が…ペルシアンを従える少年。」
――この女にも情報が渡っているのか。
「詳しいことはカスミから聞いています。かなりの腕前とお見受けしました。」
エリカはそう言うと、巫女服の懐を探り始めた。再び腕を取り出した時、その手には何かが握られていた。
少年に向かってその腕を突き出し、掌を開くとそこには――
「差し上げましょう。…これが必要なのでしょう?」
見る角度によって色の変わる、レインボーバッジ。それが、少年の手にあっさりと、渡ったのだ。
「………。」
少年はそれを、素直に受け取った。…必要なものだ、それを与える資格を司る本人が差し上げると
言っているんだから、受け取るべきだろう、しかし……。
「残念ながら、今は貴方と戦っている余裕がありません。貴方の強さは存じ上げています。
誇ってよいのですよ。…口惜しいですが、これでお別れですね。」
そう言うと少年の横を通り過ぎ、ジムの入り口に向かって歩き出すエリカ。
「さぁ、お行きなさい。旅を続けるのでしょう?」
エリカは迷える子羊を導くように、少年に道を譲る。
しかし、少年は……しばらくその場に留まったままで、動こうとしない。
「………どうしたのですか?貴方は」
「ロケット団は!」
エリカの発言を遮り、少年は不意に叫んだ。
「ロケット団は……"焼き払われた村"に、関わっているのか…?」
…少年の様子に、エリカはしばらく考え込んだが、
「…直接の犯人かどうかはわかりません。ですが」
少年に思っていることを素直に言った。
「関わっていると思います。」
・
・
・
……壁に寄りかかって意識を手放したロケット団団員達を見下ろし、少年は天井裏から通路へ降りた。
「粉は吸ってないな、ぺるこ。」
「吸ったけど、この程度の量なら平気よ。」
先に通路に下りて団員達をおびき寄せたぺるこは、爪の付け根を気にしながら言った。
「うまくいったようですね。エステル、ありがとう。」
「えへへ…ご主人様のご主人様に礼を言われると嬉しいな。」
エリカはフシギバナを労い、持ち主の下へ引き渡す。
……既に入り口の前で待機していたエリカの眷属たちとの合流も完了した。
進入時の作戦はこうだ。まず、少年を隠し通路から天井裏へと回し、ぺるこを送り敵を引き寄せる。
次に別経路から潜入したエリカが、死角からフシギバナのねむりごなを送り一気に眠らせる。
騒ぎはことのほか大きくならなかった。それはぺるこが主人から命令されたとおりに、
ある一人の敵に真っ先に襲い掛かったからである。あとは、無線機を取り上げ縛り上げれば
残りの敵はフシギバナが相手をしてくれた。
「しかし、よくわかりましたね。無線機を持っている敵を真っ先に特定するとは。」
エリカは少年の働きを賞賛する。
「ぺるこに予め命令していたからな。」
少年は、なんとも無いだろこんなこと、と言うかのように毅然とした態度で答える。
「…なんという命令を?」
その命令に興味があるエリカは、詮索する。…いや、詮索の気は無い、ただ純粋な質問だろう。
少年は答えた。
「…"おまえの勘に任せる"」
その答えに満足なのか、微笑むエリカ。
「そうですか。」
エリカは判断した。この方ならもしかしたら…我々の未来を導けるかもしれない、と――
・
・
・
『B1区画、どうした?定期連絡が無いぞ。応答せよ。』
無線機から雑音交じりの声が発せられた。
B区画からの定期連絡が来ないため、業を煮やしたようだ。
その声に応えるのは――
「…こちらB区画。先程までこちらの通信機にトラブルがあったが、…今は解決した。
それ以外に特に……異常は無い。…警備を続行する。」
『了解。…ブツッ!』
手短に連絡を済ませると、通信は途絶えた。
ふぅ、とため息をつく、ロケット団団員。
…体は蔓で自由を奪われ、身動きは取れない。その上、エリカの眷属に命を預けた状態だ。
……首筋には、木葉のような色と形をした刃物が、つきつけられていた――
「――作戦を開始します。散りなさい!」
エリカの命令で、一斉に散開する眷属たち。
「では、わたくし達も行きましょう。」
そしてエリカと少年も、アジトを叩くべく最深部へと向かって進みだした――。
・
・
・
不自然な重力を感じながら、少年とエリカはエレベーターの中、佇む。
眷属と合わせて9人の猛進は、予想に反してあっさりと各要所を制圧できた。
――そもそも人数が圧倒的に少ないだろう。
これが敵の本拠かと言われると、なんだか違和感があるというか、肩透かしというか。
「ここから地下四階へ行けば、最深部のようです。」
エリカは疲れた様子を見せることも無く少年に言う。
作戦の監督からアジトの様子見まで様々な仕事をこなしているというのに、健気である。
そんなエリカに、少年は幾つか質問を浴びせた。
「……俺のことを知っていながら何故脅すような真似を?」
「わたくしでも暗闇で個人を特定することなど不可能ですよ。外に出てみてからようやく
もしかしたら…と気づいたんですの。」
「その後で作戦にスカウトしたときはわかっていただろう?」
「……あんなところにおられたものですから、てっきり目的が同じなのかと思いまして…。」
――そうか、そう言われればそうだな。普通あんな場所で邂逅すればそう思うか。
ようやく納得のいった少年。しかし何故こんなにも疑ってかかったのだろうか。
「さて…そろそろ着きますわ。キリエレ、ラプティ。いらっしゃい。」
ボールを取り出し、二人の萌えもんが飛び出した。
「この御仁にご挨拶申し上げて。」
「「はい、エリカ様。」」
エリカと少年に対して畏まる二人。
「はじめまして、キレイハナのキリエレと申します。」
「ラフレシアのラプティです。よろしく。」
まこと丁寧なお辞儀である。それだけで二人の育ちのよさが窺えるから不思議である。
「貴方もそろそろ萌えもんを出しておいたほうがいいですよ?」
「………わかってる。」
エリカに促され、少年もボールを二つ、取り出す。
「二人とも、準備はいいな?作戦通りに動くぞ。」
…その時、体にわずかな浮遊感――どうやらエレベーターが止まったようだ。
少年はボールを地に投げつけると同時に、地面を蹴っていた。
それに併せる様に、エリカも駆け出す。
――最深部への、扉が開いた。
・
・
・
そこには既に大量の萌えもんがいた。…どうやら最深部で待ち構えていたようだ。
戦力を集中して叩くとは、どうやら敵も莫迦ではないらしい。
「甘いですよ。」
がッ!…だんっ!
襲い掛かってきたラッタをまず、攻撃を受け流し壁に投げつけるラプティ。
「ぎゃっ!」
強い衝撃を背に受けて、ラッタは気絶する。
「てぇいっ!」
その側面から、別のラッタが――。
「!」
「甘ぁああいッ!!」
バキッ!
死角を突いてラプティに噛み付こうとしたラッタの下顎を、ぺるこの脚が襲った。
「きゅぅっ…」
足にきたのか、両膝から脱力していき、最後に意識を手放した。
「あ~あ、ツメが使えないから脚しか使えないじゃない…。困ったわ…」
「助かりました。」
こんな状況でもお礼を忘れないラプティ。
「まぁ今は共闘関係なんだしこのくらい。…今はね。」
「……?」
ぺるこの言葉と微笑は、何か別のものを意図しているようだが…。
とにかく今は、"共闘関係"なのは紛れもない事実だ。
「ほぉら!ぼさっとしてると来るわよ!第二波!!」
ぺるこの宣言どおりとなったか、今度はゴルバットの大群が上から襲ってきた。
射程圏内に二人を捕らえ、一斉に毒針を射出してくる。
「嫌だわぁ…ふん!せいっ!…こういう小賢しい技。鬱陶しいだけなのよね。」
空に脚を振り回し、毒針の軌道を捻じ曲げ吹き飛ばすぺるこ。
「芸がありませんね。そのような攻撃では葉緑素一つすら壊せませんよ。」
一方のラプティは花を取り出し、それを棒術のように扱って毒針の弾幕を突破する。
「フラワリングバトン!!」
ビシィッ!
ラプティは軽く地を蹴り宙を舞い、下から花の棒を、先陣を切っていた一体のゴルバットの胴にねじ込む。
ぐらっ…
声をあげることもできないのか、そのまま重力に身体を任せ、沈んでゆく。まずは一体――。
「チャーンス!!」
そのラプティを横切って飛び出すぺるこ。飛翔する――
「旋・風・脚!小太刀!!」
そして腰を支点にぐるんと後ろへ一回転。
スバン!!
鋭い脚線が一人のゴルバットをとらえ吹き飛ばす。後続のニ、三人を巻き添えにして墜落していく。
「御美事…。」
ラプティはその美しい三日月の脚線に感嘆の声を漏らす。
「ふぅ…意外と善戦できるじゃない♪」
ぺるこの本来のバトルスタイルではないが、それでも通用するのは嬉しいようだ。
「! まだ来ますわよ!上です!」
ラプティの警告に促され、ぺるこが頭上を確認したときには、既にゴルバットの牙が眼前にあった。
「やば…っ!」
ぺるこには回避の余地もなく、反射的に身体が竦む――
ボンッ!
「ぐあっ…!!」
……が、ぺるこにその毒牙が届くことはなく、頭上のゴルバットは遠方へ吹き飛んでいった。
「ふっふっふーなのですぅ…このぴくるの新・必殺技、"リトルムーン"の味はいかがですぅ?」
「! ぴくる!助かったわぁ♪」
現象を起こしたのはぴくるだった。"リトルムーン"…それは"気"を操る格闘術のように、
"コスモ"を物質化して飛ばす指弾のようなものである。
人差し指を突き出して構えを取るぴくるはまさに、旧世代の魔法少女を髣髴とさせる。
「はいはーい、みなさま。頭上注意ですよ。」
ぴくるのさらに後方…キリエレが注意を促す。
「行きますよー!フラワリングロッド…はなびらの舞、弐ノ舞!!」
ばっ!
花を模した杖をかざすと、キリエレの周囲にどこからともなく現れた花弁が舞い始めた。
そしてそれは段々と広範囲を巻き込み、遂にはゴルバットの集団を包み込んだ。その瞬間――
「「ぎゃぁぁぁぁっ!」」
花弁が銃弾の様に、ゴルバットたちを襲った。それは自分の周囲から銃口を突きつけられ、
一斉に射撃されたに等しい攻撃。避けるのは、至難の技である……。
絶えず衝撃を受け続けたゴルバットたちは、次々に意識を手放し堕ちて行った。
「ふぅ…一丁上がりね。」
辺りに敵はいない…。再び静寂が包み込んだ。ぺるこは主人の姿を探す。
「ここは鎮圧できたみたいですね。」
「……ああ。」
エリカと少年は、互いに背を預けるように立っていた。…足元には気を失ったロケット団員の姿がある。
――ちょっと心配したけど…問題なかったようね。
ぺるこの心配も杞憂に終わったようだ。まさかトレーナーに倒されているのではないかと思ったが、
そこまで少年自体弱くない。…何年も旅を続けているとそういう状況は多くある。
時には萌えもんすら生身で倒した人物だ。少年の"強さ"は、ぺるこが一番理解していた。
「よし、ぺるこ、ぴくる。よくやった。」
「ぺるこさん、かっこよかったのですぅ。」
「ぴくるもナイスアシストじゃない!」
……二人のコンビネーションはいい方向で育ってきている。
「キリエレ、ラプティ。お疲れ様。」
エリカも従えている二人を労う。
――こいつらの戦い方…洗練されていたな。
傍目で断片的にだが、彼女らの戦いを見ていた少年は、その強さを認めた。
今は関係ないが、来るべき時に対して、水面下で警戒し始める少年であった。
「…さぁ、最深部はこの先です。行きましょう。」
エリカと少年は、さらに奥へと進んでいった――。
・
・
・
………。
その空間を一言で表すとしたら"死屍累々"という言葉が形容に相応しいか。
実際には気を失っているだけだが、それらはおそらくロケット団が操っていた萌えもんだろう。
ベトベター、ドガース、あるいはその進化系、ベトベトン、マタドガス。
壁にもたれかかったまま動かない者、床に大きく四肢を伸ばしてして寝ている者。
はたまた、蔓で縛られている者。…様々である。
それだけならよかったが、それだけではなかった。
ウツボット、ベイリーフ、キマワリ、キノガッサ、パラセクト、ストライクなど、
意識こそはっきりしているものの、明らかな深手を負って倒れこんでいる者もいる。
7人のエリカの眷属たちが争った結果だろう、彼女らの姿はその死闘を物語っていた。
「大丈夫?しっかりして!」
「…うぐ…。マスター気をつけて。あいつ、今までのやつらと桁が違いすぎる。」
「ごめんなさいマスター…。油断しました…。」
「いいの。今応急処置をするから、動かないで。」
眷属たちは負傷した自分の萌えもん達を治療するのに忙しい。
そして、その奥――。
数十人の萌えもんを巻き込んだ戦いは、未だに物語を紡いでいた。
対峙しているのは、ワタッコ、そしてフシギバナ。二人のエリカの眷属。
敵は、たった一人の萌えもんと一人のマスターだけであった。
「弱ぁーい♪手ごたえなさすぎよ貴方たち。つまらないんですけどー。」
その一匹の萌えもんに、眷属たちの萌えもんは被害を被っていた。
片手に巨大なツメをつけている。黒いゴスロリのような衣服を着ていて、
そのギャップはいかにもアンバランスである。
「……強い…。どうしようか、エステル。」
「ダメだってわかってても引き下がれないよ。ご主人様、命令するんだ!」
勇猛果敢にもその恐怖に立ち向かうのは、先程潜入時に活躍したフシギバナ、エステルである。
「コッコ、ボクに合わせてうまく牽制して!」
「わ、わかった。」
コッコは早速、わたほうしを飛ばして相手の視界と動きを奪う。
「…なーにこれ?」
ツメの少女は、不思議そうにわたを手に取った。
「…あら、周りが真っ白…。」
「よし、今よエステル!」
「りょーかいだー!」
エステルはすかさず頭の花からタネを射出した。
ぷっ。
「え?」
タネはツメの少女の、腕に止まった。その瞬間。
ぞわぞわぞわ!
タネは急成長し、蔓となってツメの少女の身体を締め付けようとする。
「!」
少女は急いで空いていた腕で蔓を振り払う。
スパッ!
蔓は大きなツメに切断された。しかしそれでも蔓の成長は止まらない――。
「やだ!なにこれぇ!?」
次第に蔓は彼女の自由を封じていく。抵抗しているのは右腕――大きなツメを振り回すことしかできない。
「効いてるわ!止めを刺すわよ!!」
「わかった!いくぞ、切り裂け!!」
エステルは無数の葉を辺りに散りばめた。
そしてそれを、少女に向けて放つ――はっぱカッター。
「何……っ!」
ツメの少女はツメを振り回して襲い掛かってくる葉を切り裂いていく。
「くそーっ!姑息な手ばっかり使って……!っつ…。」
ピッ!
遂に少女の右腕を葉が捉え、切り傷を与えた。
その瞬間、少女の動きが鈍った――この期を逃さないのは、エステル。
「蔓、いっくぞー!パワーウィップ!!」
パシ!!
少女の右腕に、エステルの蔓が襲い掛かる。
「ひぃっ!痛いぃぃぃ!」
そのまま蔓は少女の右腕に巻きつき、動きを封じながら、先程できた傷口を抉る。
「な…なにを…?」
「さぁ蔓よ!吸い取ってしまえ!!」
――ギガドレイン!
「あぁ…ぁぁぁぁぁぁ!!」
蔓が、容赦なくツメの少女の体内を貪っていく。
「! いけるわ!コッコ、止めを刺すのよ!」
コッコのマスターはこの期を逃さない。更なる追撃を狙う。
「は、はい!せぇぇぇぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
コッコの渾身の一撃が、少女に牙を向く――。
・
・
・
――やった…か?
二人のマスターは、突如現れた白い霧に視界を奪われ、事の顛末を確認できずにいた。
しかし、確実に優勢なあの状況、絶対に仕留めたと確信を得ていた。
その結果を――示すように、徐々に白い霧が晴れていく。
二人の目に……示された答えは――
「「!!!」」
……想像を絶するものだった。
ぼたっ……ぼたっ……
――血が滴り落ちる、音。
「こっ…コッコぉぉぉぉぉぉ!!」
…コッコの身体は、少女のツメの餌食になっていた。
身体への直撃は間一髪で避けていた。が、ツメとツメの間に挟まれ、脇腹が抉れた状態だ。
「……なぁんちゃって♪」
ぶんっ!
ツメの少女はその大きなツメを一振りし、コッコをツメから振り払った。
コッコの身体がマスターに向かって飛んでくる。
「コッコ!!」
抱きとめるマスター。
「しっかり!しっかりして、コッコぉ!!」
泣き叫ぶ。
「ぅ…ぁ……。」
かろうじて意識が残っているのか、コッコはマスターの涙を…力ない手で拭う。
「コ…ッコ…っ!」
そのままコッコを抱きしめるマスター。
「エステル!?どうしたの!?」
一方で、エステルの様子がおかしいことに気づく主。
「ご主人様……。ボク、なん…か、寒い…さむい、よ…。」
――寒い?
全身を小刻みに震わせているエステルは、その寒気を訴える。
――まさか!?
急いで主はエステルと少女をつなぐ蔓をナイフで切断する。
……蔓には、霜が生えていた。
「気をつけて…ご主人様…あれは…」
「あーあ…本気を出すまでもないなーって思ってたのに…ついやっちゃった。きゃはは♪」
少女の身体からは、相変わらず白い霧が噴出している。
――あれは…まちがいない、冷気だ…。
そう、それが敵の真の性能。見抜けなかった、というより、隠されていたのだ。
「随分と手こずったようだな…フューリ。」
その時、奥から出てきた男――間違いない。ボスだ。
「だって…本気出すなって言ったじゃない、ボス?」
影から出てきた大柄な男は、ツメの少女をフューリと呼んだ。
「…ううん、確かにこの子達、強かったわ。油断しちゃったわ。」
「…まぁいい。さて、どうしてくれようか、彼女らは…。」
倒れている萌えもん達を一瞥し、男は口角を吊り上げる。
「あんたが…ロケット団の首領…榊ね。」
「いかにも。」
榊と呼ばれた男性は、エステルに寄り添った女を見下ろす。
「何故……萌えもん達を悪事に使う…!どれほどの大罪かわかっているのか!?」
そう言って睨みつける女に、榊はその表情を変えることなく言い放つ。
「それを君に応える義理はないのだよ。」
そして、フューリに合図する。
巨大なツメが、エステルとその主を襲う。
――もうこちらには戦える娘達がいません。エリカ様……あとは頼みます……。
"全滅"という二文字は、彼女に死に対する覚悟を与えた――
残酷な爪は、振り下ろされた。
――キィィンッ!!
………。
エステルと主の耳に、きつい金属音――。
「どうやら状況は芳しくないようですね。」
そしてその後に、聞き慣れた声。…我等が主の、声――!
二人は目を開く。
「よく持ちこたえてくれました。皆、遅れてごめんなさい。」
全員の眼が、声の主に注がれた。
そして、希望がそこに再び、芽生えた――。
途中で分隊した主、エリカとの合流に。
「「「「エリカ様!!」」」」
皆の希望に、微笑で返すエリカ。溢れ出すほどのカリスマである。
「…さぁて、再会を喜ぶのも程々にしてよね。こっちも余裕があるわけじゃないわよ!」
そう言うのは、フューリと対峙している、ぺるこ。
ツメによる一撃をツメで受け止めたのは良いものの、今は間合いをあけて硬直状態である。
「……まだ無理な負担をかけられないようだな。」
「そうね…。こっちが全力出せない分、不利かしら。」
ぺること少年は頭を抱える。この物量差とコンディションから、戦力差がどのぐらいかを計算している。
「皆、下がりなさい。そして善戦してくれた娘達を癒すことに専念しなさい。」
そう言うのは、エリカ。キリエレとラプティを従え、対峙する。
「気をつけてね二人とも…。」
彼女らに忠告するのは、ぺるこ。
「あの子は"ニューラ"。冷気を扱ってくるわ、迂闊に踏み込むと一気に凍らせられるわよ。」
ニューラ。…今まで戦ったことはないが、彼女の存在はぺるこの知識の中にあった。
様々な敵との遭遇に備えて、情報の管理は常に怠らない少年とぺるこである。…特に、
ニューラという萌えもんがいることを知ったぺるこは、その印象が深かった。
ツメによる攻撃が得意。…しかしそれよりも危惧するべきは、冷気による攻撃!
「…あなたがロケット団のボス、榊ですね。」
「……これは驚いた。この娘達を纏め上げていたのはエリカ嬢だったか。」
尚更愉快と言わんばかりに榊は余裕の表情を崩さない。
「貴方はただのジムリーダーでしょう?我々と戦って何の利益があるという?」
緊縛の一瞬であった。榊の表情に、深い闇が垣間見えたからだ。
こちらを威嚇しているのであろう。しかし、エリカは毅然とした態度で言い放つ。
「わたくしは、貴方のように利益を考えて生きているわけではありません。」
「っはははは!答えになっていないな。私は得られる利益について聞いているのだよ?」
「ええ、ですから貴方の質問には一生答えは出せませんね。」
…まさに、人間性のパラドクスである。相見えない思考、相反する組み合わせなのだ。
利益を考えない女と利益しか考えない男。それは永遠の平行線。
「残念だ。フューリ、相手をしてあげなさい。少し痛い目にあわせる必要があるようだ。」
そして遂に、激突の時が――
―ぉぉぉぉぉぉぉぉ!
やってきた。
「…?」
エリカの眷属の一人が、その異変に気づいた。
「どうしたの?」
「なんか…今、揺れなかった?」
――ごごごごごご…
「ほら、また!」
「確かに…揺れてるかも…」
―――どどどどどどどどどどど!
「!?」
「「きゃぁぁぁ!!」」
「! な、何?」
「この揺れは……」
「ぐ…こんなときに何なんだ!」
「ご主人様……」
「…まさかとは思うが……」
――みしみし、メコッ!!
「!!みて、天井が!!」
天井はへこみ、亀裂ができていた。そして遂に――
パキンッ!ぶしゃぁぁぁぁぁぁ!!
「「「きゃぁぁぁぁぁ!!」」」
異変が起きて、何度目かの、悲鳴――
そして遂に、パイプが耐え切れなかったのか、水が吹き出し始めた。
辺りは大混乱極まりない騒ぎとなった。敵味方問わずパニックに陥っている。
「おい、やばいぞ!このままじゃ崩れる!!」
「エリカ様!」
「逃げろ逃げろ!外に早く出るんだ!!」
「総員落ち着きなさい!まずは萌えもん達をボールに戻すのです!準備ができたものから各自、
この施設から離脱するのです!」
「「「は、はい!!」」」
「ご主人様、あれ…」
「ぺるこ?……。」
混乱に乗じて、何人かのディグダを確認した少年とぺるこ。
「おい、なんか変なとこ掘り起こしちまったな。」
「つぅかなんか取り込んでるぞ?帰ったほうが良いなこれ。」
「お前が変な柱壊しちまうからだろ、バカ!」
「ええぇぇ、アタシのせいなの!?」
――空気を読めない、ディグダ隊である。
「…もしかして、あの子達――?」
「詮索してる時間はないぞ、ぺるこ。ボールに戻れ!」
「そうね。わかった。」
少年も離脱の準備にかかる。時間はない。
「な…なんということだ!俺のアジトが!地下都市計画の再興が、無に帰すというのか…!」
「ボス、ちょっとやばげよこれ!逃げないの!?」
「く……こんなことで、俺の計画に泥を塗るとは…おのれ、おのれぇぇぇ!!」
怒り心頭の榊であったが、間もなくアジトの奥へと消えていった。
「逃げられますか?」
「…ああ。こっちはいける。」
「ではわたくし達も逃げましょう。」
残るはエリカと少年だけである。いつの間にか周りには誰もいなくなっていた。
…どうやら敵も真っ先に逃亡したようだ。
――これで、よかったのです。これで……。
エリカは予想外ではあったが、事を起こしたであろう片隅のディグダたちに感謝しつつ、
少年と共に崩れ行くアジトを後にした――。
・
・
・
「あなたのお陰で、我々の作戦も成功しました。深く感謝申し上げます。」
……タマムシジムに戻ってきた一行。あの後、一人の犠牲もなく、全員生存して地上に出ることができた。
地上で出会ったロケット団員を警察に引き渡す作業も忘れていない。
「これでロケット団はこの街から去ることでしょう。…あの場で首領を捕まえることができなかったのが
残念ですが。彼はまだ生きているでしょう。」
エリカ一同、少年に感謝を述べる。
……当の少年は、複雑な表情を浮かべていた。
「……本当にこのバッジ、貰って良いのか?」
不意に少年が問う。
「…構いませんよ。貴方の強さは今回の一件でよくわかりました。それだけで十分でしょう。」
「十分じゃ、ない!」
珍しく少年が声を荒げた。これには動揺したのか、エリカの顔にそれが表れている。
「本当にそれで良いのか?」
「………。」
「俺は認めないぞ。本当は、アンタと戦いたいんだ俺は。そうじゃなければ納得がいかない。
…まだこれは受け取れないな。」
少年はそういうと、ここのジムのバッジを宙に放った。
「!」
エリカはそれを受け取った。
「俺は必ずここへ戻ってくる。それまで勝負は預けたぞ。」
少年はそういい残して、ジムを去った。
呆然とするエリカの眷属達。それに反して、エリカは嬉しそうである。
「フフフ…楽しみに待っておりますよ。」
そう言うエリカはさすがというべきか。もしかしたら少年の心のうちも読んでいたのかもしれない――
・
・
・
「やっぱりねぇ~…絶対ご主人様やると思った!」
ひとしきり笑い転げたぺるこは、納得しているようだ。
「ぶぅ。ぴくるはわからないのですよ。ご主人様の行動のワケが。」
つまらないのはぴくるのほうである。ご主人に対する理解が足りない自分自身に
納得のいく説明ができないからである。
「ふふふ…ぴ・く・る。いいこと教えてあげるわ。」
含みのある笑いでぴくるに教授するぺるこは上機嫌である。
「オトコってね……いくつになっても素直になれないの。特にオンナに対してはね♪」
「……???」
ちんぷんかんぷんなぴくるに、全てを見通したぺるこ。
「おい、早く行くぞ。」
…そして少年。三人の旅は、まだまだ続く――。
「は~い♪ぴくる行くわよ。また特訓の日々が始まるのかしら。」
……落ち始めた陽を背にして、三人は、また歩き出した。
05 首都圏アンダーグラウンド~地下帝國大潜伏作戦~(後編) 完
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【設定集】
キリエレ 名前の由来は、kyrie eleison キリスト教の礼拝の際の祈りの一つ。
種族はキレイハナ。遠距離からの攻撃を得意とする。
彼女の持っている『フラワリングロッド』は自然の力を増幅する道具で、
萌えもんが武器持って戦うというのは萌えもんならではの要素だと思って
実装してみました。『はなびらの舞 弐の舞』は、遠方から花弁の嵐を
放ち、敵と認識した者に襲い掛かる技です。原作の『はなびらのまい』は
ここでいう所の『はなびらの舞 壱の舞』に相当します。
ちなみに"フラワリング"なる名称は、Z○N氏作曲の"フラワリングナイト"
から勝手に拝借させていただきました。某PA…メイド長の曲ですね。
ラプティ 名前の由来は、Rhapsody 狂詩曲から。種族はラフレシア。
エリカの扱う萌えもんの二人目。近接攻撃を得意とする。
彼女の『フラワリングバトン』は近接用の武器で、やはり自然の力を増幅
する道具。キリエレの持つロッドと対になっています。
二人のコンビネーションは抜群で、近接担当のラプティは接近戦で積極的に
当たりに行きます。その間に、キリエレは強力な遠距離攻撃を放つための
準備にかかり、止めはほとんどキリエレの一撃で終わってしまいます。
単体戦でもその力は発揮され、『はなびらの舞 壱の舞』を得意とします。
エステル 名前の由来は、strange 不思議な、という英単語から。種族はフシギバナ。
エリカの眷属の一人が持つ萌えもん。今回は活躍しました。
↑の二人みたいに革新的な技が今回多かったので、原作に忠実な技で
戦えないかということで、やどりぎ、パワーウィップ、からみつく、
ギガドレイン、ねむりごなを駆使して戦いました。そしてボクっ子。
コッコ 名前の由来は、cotton 綿、の英単語から。種族はワタッコ。
エリカの眷属の一人が使う萌えもん。やられ役っぽいのが残念でした。
少し勇敢さに欠けますが、彼女のアシスト能力はエリカジムでも1、2を
争うほど優秀。最後、敵に突っ込んでいかなければあんなことには…
フューリ 名前の由来は、fury 憤激、の英単語から。種族はニューラ。
榊の萌えもんとして敵役です。むしろぺるこの因縁のライバルになります。
今回はワンクッション当てて決着は次回以降持ち越しということになりそうです。
まだ実装されていない嫁ですが、ドットは既にあるようなので、
それを資料にしました。わがままっぷりがぺるこの比ではないですね。
旋風脚・小太刀 ぺるこのサマーソルトは小太刀のように鋭い一撃で、風圧をも発生させ、
その衝撃は想像を絶します。ちなみに、作中で毒針を吹き飛ばした大胆な回し蹴り
は、これの対となる技で、"旋風脚・轍(わだち)"という名称設定があります。
リトルムーン ぴくるのコスモエネルギーは、時として飛び道具にもなる優れた力なのですぅ♪
比較的燃費も良いので連射もお手の物なのです♪試してみますかぁ?
えいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえい……(フェードアウト