3スレ>>684(1)

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 私達がタマムシシティに辿り着いたのは十二月も終盤に差し掛かったトコロだった。  町中が煌びやかな装飾で埋め尽くされ、人ごみは多く、まさにクリスマス一色の様子だ。  そんな中をマスターと私は並んで歩く。 「マスター、この辺りで一度宿をとりませんか?」 『……ここで泊まると正月までに家に帰れない』 「あ、あの……ほら、あのツリーなんて綺麗じゃないですか?」 『?』 「えぇっと、ですから……その……サンタってロマンチックですよね?」 『……そうかもね』  ダメです……。気付いてもらえません。  クリスマスだから一緒に過ごしたいだなんて恥ずかしくて言えないのに。  いつもこうだ。マスターは色々なことに無頓着。  そこが気に入っている部分もあるといえばあるのだけれど、少なくともこのときに限っては悩みの種である。  取り敢えず、引き止めるだけ引きとめて時間を稼いでみましょう。  そのうちにマスターも気付いてくれるかもしれませんし、何かいい案が浮かぶかもしれません。 「そろそろお昼にしませんか、マスター」 『……もうおなかすいたの? いつもはあと二時間くらい遅いけど』 「最近は歩き詰めでしたし、一度のんびり食事もしたかったので」 『うーん……確かに歩きっぱなしだった気がする。じゃあ、行こうか』 「はい。あの、お店は私が決めてもいいですか?」 『……? いつもニーナが決めてた気がするよ?』  私はのんびりと歩くマスターの腕を引きながらあちらこちらの店を回る。  途中、ご飯食べないの? と聞かれたけれど、まだ考えてる途中です、と言い訳。  その言い訳が苦しくなってきた頃、私は見つけておいた小さなレストランに入った。  町の中心からは大きく外れて、ほんのり寂れた雰囲気が私の心を掴んだからだ。 「マスターはどれにしますか?」 『オムライス』 「ふふ、マスターの好物ですからね」 『子供っぽいって笑うんだったら明日から荷物もち』 「いえ、別に子供っぽいだなんて思っていませんよ」 『何か最近ちょっとだけイジワルになってない? どうして?』 「さて、どうしてでしょうね」 『やっぱりイジワルだ』  マスターは不器用に笑った。  旅を始めたころは笑うのが苦手のようで頬を引きつらせていたけれど。  いつの間にか笑顔を頻繁に見るようになっていた。 「マスターが追加注文するなんて、珍しいものが見れました」 『おいしかったから追加しただけ』 「ムキにならないで下さい。あ、口元にケチャップがついてますよ?」 『もうだまされない』  言いながらマスターはハンカチで口元を拭った。  ハンカチにケチャップの跡がついてないのを確認すると怒り出す。 『ニーナっ!』 「マスターがそんな食べ方をするから悪いんですよー」 『む、確かにそうだけど……それでからかう方も悪い』 「いいじゃないですか。今年、二人でのんびりするのもこれが最後なんですから」  胸がきゅっと締め付けられる。  言わなければよかったと思ったけど、言うべきだったとも思った。  でも、私の僅かな変化に気付く様子はマスターにはない。  彼はマイペースな人だから。 「マスター、食後のデザート食べたくないですか?」 『デザート?』 「はい。ほら、ケーキが安いみたいですし」 『食べたいの?』 「た、食べたいですよ」 『太るよ?』 「太りません」 『そう言って太っていく人がこの世の中にどれだけ居ると思う?』 「ふ と り ま せ ん」 『……んー。それじゃあ、行こうか』 「あ、私が買ってきますからマスターはここで待っていてください」 『いいの? それじゃあ、お金』 「はい、すぐに買ってきますね」 『……。……あ、ゲテモノは買ってこないでね』 「ばれてしまいました……」  昼も過ぎ、段々と空気が冷えてきた。  吐く息もうっすらと白く色づき始め、いよいよクリスマスの到来が身近に感じられる。

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