3スレ>>721

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「はじめまして。君が××君だね。」  父さんに呼び出されて出かけた研究所では、父さんのほかに意外な人物が俺を待っていた。  オーキド博士。萌えもんに関わるものならばその名を知らない人はいないほどの有名人だ。  突然のことに驚く俺をよそに博士は人のよい笑みを浮かべると、 「大変な仕事じゃが、頼まれてくれんかの?」  そう言って、赤い機械を手渡してきた。 ―――    ボールのゆれがおさまり、ランプが点滅する。 「……よし、成功」  捕獲完了を確認してから、俺はボールへと近づいた。  行う行為は二つ。捕まえた萌えもんのデータを記録することと、 「もう行っていいよ。こんなことしてごめんね」  捕まえたばかりの萌えもんを手当てし、逃がすこと。  何度も繰り返したこの作業は、今ではすっかり習慣化していた。    オーキド博士から依頼されたのは、萌えもん図鑑用のデータ収集だった。  博士の話によれば博士の孫とその幼馴染が図鑑作りに出発したが  彼らだけではデータの正確性に難があり、  同種の萌えもん多数から取ったデータを比較する必要が出てきたらしい。  そのデータ収集役として俺に白羽の矢が立ったわけだが―― 「……流石に疲れる」  データ収集のためとはいえ、丸一日萌えもんを捕まえ続ければ疲れもする。  場所がトキワの森のような天然の迷路ならなおさらだ。  ずれた眼鏡を直し、首をぐるりと回す。帰ってくるコキコキという音が少しだけ心地いい。 「お疲れ様です、マスター」 「お前こそお疲れさま、ミルト」  声をかけてきたハクリューのミルトに労いの言葉を返して空を仰ぐと、  木々の隙間からうっすらと赤い色が見えた。 「もう夕暮れ時か。今日はこのくらいにしようか」 「そうですね。流石に疲れましたし。  ……ところであれ、どうするんですか?」 「う~ん、どうしようか?」  俺とミルトの視線の先には、木の陰からこちらを窺うキャタピーの姿があった。 ―――  そいつを見かけたのは、結構早い時間帯だったと思う。  データ収集のためにトキワの森に入った俺たちは、前方の草むらからなにやら物音を聞いた。  おそらく野生の萌えもんだろうとそっと様子を窺ってみると、  一人のキャタピーが三人のビードルに囲まれていた。 「おい、何でこんなところにお前みたいなのがいるんだよ」 「…………」 「黙ってたらわからんだろうが」 「なんとかいったらどうなんだ、えぇ?」  毒針を突き出して威嚇するビードルにたいして、キャタピーは完全に萎縮してしまっている。 「……ビードルたちの縄張りに迷い込んでしまったようですね」 「そうみたいだな。こういうところでは珍しくない光景だけど……流石にかわいそうだ。  ミルト、助けてあげられないかな?」 「ふふ。マスターならそう言うと思ってましたよ。では、行きましょうか」  その言葉を合図に、俺たちは草むらから飛び出した。  救出は大成功だった。俺たちの出現に驚いたビードルたちが一目散に逃げ出したためだ。  その後スピアーの大群に追い掛け回されたが、お約束というやつだろう。  俺たちは助けたキャタピーからデータを取らせてもらうと、  彼女(女の子だった)の礼を背に出発した。   ――― 「今朝の子……ですよね?」 「うん。あれからずっとついてきてた。  ほっとけばそのうちいなくなると思ってたんだけど……」  俺たちとしてはあれでお別れのつもりだったのだが、彼女のほうはそうではないらしい。 「とりあえず、話を聞いてみるか」  そう結論づけて、俺は彼女へと声をかけた。 「よう、こんなところで何してるんだ?」 「え!? えっと、その……ぐ、偶然ですね!」 「偶然もなにも、ずっとついてきてただろう?」 「な、何故それを!?」  彼女なりにうまく隠れていたつもりなのだろう、尾行がばれていたことにひどく驚いていた。  その様子が面白かったので、隠れ方がばればれだったことは黙っておく。 「そんなことより、何か用事? あ、もしかして俺、何か落し物でもしたかな?」  そう問いかけると、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。  小さく首を横に振ったところをみると、落し物をしたわけではないらしい。  それにしてもこの状況、どこかで見たことがあるような…… 「わ、わたしもっ!」  キャタピーの声で既視感から抜け出す。彼女は必死な様子で口を開き 「わたしも連れて行ってくらひゃいっ!」  ――見事に舌を噛んだ。 「ぷっ、くくく……」 「くすくす……マスター、笑ったらかわいそうですよ。……ふふっ」 「わ、笑わないでくださいよう……」  涙目で抗議してくるキャタピーにごめんよというと、俺はミルトに視線で問いかける。  ミルトは考える素振りすらみせず、うなずきを返してくれた。  その日、俺は習慣化している作業を少しだけサボることにした。
「はじめまして。君がトウマ君だね。」  父さんに呼び出されて出かけた研究所では、父さんのほかに意外な人物が俺を待っていた。  オーキド博士。萌えもんに関わるものならばその名を知らない人はいないほどの有名人だ。  突然のことに驚く俺をよそに博士は人のよい笑みを浮かべると、 「大変な仕事じゃが、頼まれてくれんかの?」  そう言って、赤い機械を手渡してきた。 ―――    ボールのゆれがおさまり、ランプが点滅する。 「……よし、成功」  捕獲完了を確認してから、俺はボールへと近づいた。  行う行為は二つ。捕まえた萌えもんのデータを記録することと、 「もう行っていいよ。こんなことしてごめんね」  捕まえたばかりの萌えもんを手当てし、逃がすこと。  何度も繰り返したこの作業は、今ではすっかり習慣化していた。    オーキド博士から依頼されたのは、萌えもん図鑑用のデータ収集だった。  博士の話によれば博士の孫とその幼馴染が図鑑作りに出発したが  彼らだけではデータの正確性に難があり、  同種の萌えもん多数から取ったデータを比較する必要が出てきたらしい。  そのデータ収集役として俺に白羽の矢が立ったわけだが―― 「……流石に疲れる」  データ収集のためとはいえ、丸一日萌えもんを捕まえ続ければ疲れもする。  場所がトキワの森のような天然の迷路ならなおさらだ。  ずれた眼鏡を直し、首をぐるりと回す。帰ってくるコキコキという音が少しだけ心地いい。 「お疲れ様です、マスター」 「お前こそお疲れさま、ミルト」  声をかけてきたハクリューのミルトに労いの言葉を返して空を仰ぐと、  木々の隙間からうっすらと赤い色が見えた。 「もう夕暮れ時か。今日はこのくらいにしようか」 「そうですね。流石に疲れましたし。  ……ところであれ、どうするんですか?」 「う~ん、どうしようか?」  俺とミルトの視線の先には、木の陰からこちらを窺うキャタピーの姿があった。 ―――  そいつを見かけたのは、結構早い時間帯だったと思う。  データ収集のためにトキワの森に入った俺たちは、前方の草むらからなにやら物音を聞いた。  おそらく野生の萌えもんだろうとそっと様子を窺ってみると、  一人のキャタピーが三人のビードルに囲まれていた。 「おい、何でこんなところにお前みたいなのがいるんだよ」 「…………」 「黙ってたらわからんだろうが」 「なんとかいったらどうなんだ、えぇ?」  毒針を突き出して威嚇するビードルにたいして、キャタピーは完全に萎縮してしまっている。 「……ビードルたちの縄張りに迷い込んでしまったようですね」 「そうみたいだな。こういうところでは珍しくない光景だけど……流石にかわいそうだ。  ミルト、助けてあげられないかな?」 「ふふ。マスターならそう言うと思ってましたよ。では、行きましょうか」  その言葉を合図に、俺たちは草むらから飛び出した。  救出は大成功だった。俺たちの出現に驚いたビードルたちが一目散に逃げ出したためだ。  その後スピアーの大群に追い掛け回されたが、お約束というやつだろう。  俺たちは助けたキャタピーからデータを取らせてもらうと、  彼女(女の子だった)の礼を背に出発した。   ――― 「今朝の子……ですよね?」 「うん。あれからずっとついてきてた。  ほっとけばそのうちいなくなると思ってたんだけど……」  俺たちとしてはあれでお別れのつもりだったのだが、彼女のほうはそうではないらしい。 「とりあえず、話を聞いてみるか」  そう結論づけて、俺は彼女へと声をかけた。 「よう、こんなところで何してるんだ?」 「え!? えっと、その……ぐ、偶然ですね!」 「偶然もなにも、ずっとついてきてただろう?」 「な、何故それを!?」  彼女なりにうまく隠れていたつもりなのだろう、尾行がばれていたことにひどく驚いていた。  その様子が面白かったので、隠れ方がばればれだったことは黙っておく。 「そんなことより、何か用事? あ、もしかして俺、何か落し物でもしたかな?」  そう問いかけると、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。  小さく首を横に振ったところをみると、落し物をしたわけではないらしい。  それにしてもこの状況、どこかで見たことがあるような…… 「わ、わたしもっ!」  キャタピーの声で既視感から抜け出す。彼女は必死な様子で口を開き 「わたしも連れて行ってくらひゃいっ!」  ――見事に舌を噛んだ。 「ぷっ、くくく……」 「くすくす……マスター、笑ったらかわいそうですよ。……ふふっ」 「わ、笑わないでくださいよう……」  涙目で抗議してくるキャタピーにごめんよというと、俺はミルトに視線で問いかける。  ミルトは考える素振りすらみせず、うなずきを返してくれた。  その日、俺は習慣化している作業を少しだけサボることにした。

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