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「3スレ>>737」(2007/12/26 (水) 20:30:31) の最新版変更点
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(いいかい、このペンダントを常に身につけているんだ。
絶対、外してはいけないよ?)
あるところに、ハクリューと少女がいました。二人は、まるで姉妹のように仲良く一緒に暮らしていました。
いえ、まるでというのは間違いです。二人は姉妹として育っていました。
ハクリューは少女が生まれる前から、ミニリュウの姿で少女の家にいて、少女が赤子の頃からずっと姉してそばにいたのです。
少女も回りの人間も、それを当たり前のように受け止め、共に暮らしていました。
二人はときに、喧嘩もしましたが、すぐに仲直りして笑いあっていました。
二人が成長し、ミニリュウからハクリュー、少女が10才になると、もえもんトレーナーとして、旅に出ることになりました。
少女は、パートナーとしてハクリューを選びます。ハクリューは、それをこころよく引き受けました。
妹と離れたくない、妹を守るためという理由に、誰もが納得し、ハクリューならばそれを違えることはないと、誰もが信じます。
頼りになる姉と大切な妹の二人組みは、数多いるトレーナの中で、めきめき頭角をあらわしていきました。
始めは、トレーナーの拙さを竜種としての強さでカバーし、もえもんバトルを乗り越えていきました。
それでは駄目たと、姉にだけ負担はかけられないと、少女も様々な経験を糧に、トレーナーとして順調に成長していきました。
勝ち負けを繰り返し、仲間を増やし、いろいろなヒトに出会い、いろいろな経験を得て、二人は旅に出る前よりも大きくなっていました。
たまに家に帰ると両親は、二人の成長が嬉しく、旅に出したことを喜びました。
旅を始めて二年ほど経つと、二人は有名になっていました。実力があり、それに驕らず努力を忘れない、将来有望な若者として。
そんな二人は、よく聞かれる質問がありました。
それは、なぜハクリューを進化させないのか? ということです。
ハクリューの実力は、すでにカイリューに進化するのに、じゅうぶんすぎるものだったのです。
二人の答えはいつも同じで、進化はしない。今のままで満足だから。というものでした。
それを聞いて人々は、「ハクリュー」が好きなのだと推測し、納得していました。
ハクリューの胸にある、かわらずの石のペンダントも、その推測を助長していました。
ある日、旅の途中のことです。三日続けて大雨が降り、ようやく晴れになった日のこと。
旅を再開した二人と仲間たちは、次の目的地にむかって歩いていました。
それは、山を抜ける道を歩いていたときに起きました。
ハクリューが、遠くから響く微かな音に気づきます。それは山の斜面から聞こえてきます。
嫌な予感が浮かんだハクリューは、空を飛べる仲間に、偵察を頼みます。
その予感は、当たりました。
たっぷりと水を吸った土が、土砂くずれを起こしていました。
いまから逃げても間に合いそうにないと、土石の流れが速すぎると、仲間は告げます。
空を飛べるものは、誰かを乗せて飛べるほど、大きくありません。
どうしようかと考えるハクリューに、一つの案が浮かびました。
それとともに、苦しい思い出と一つのいいつけが思い出されました。
「いいかい、このペンダントを常に身につけているんだ。
絶対、外してはいけないよ?」
なぜと問うハクリューに、少女の父親は答えました。
「君は、進化に耐えられない。
進化というのは、本来ゆっくりと時間をかけて行われるものだ。
だが君たちもえもんは、短時間でそれを起こしてしまう。
急激な変化は、体に少なからず負担をかけるんだ。
そしてまれに、その変化に耐え切れないものがいる。
それを僕たちは、進化不適応とよんでいる。
君も経験したからわかるだろう?
ミニリュウからハクリューに進化したときに感じた苦しみ。
死の淵を彷徨ったあれを」
苦しさを思い出したハクリューは、ぎゅっと手を握り、青ざめた顔で頷きました。
「再び進化すると、今回みたいに運よく助かることは、ないかもしれない。
そんなことが起きるとあの子がとても悲しむ。もちろん私たちも、家族がいなくなるのは悲しい。
だから、そんな悲しさを起さないように、そのかわらずの石でできたペンダントを身につけているんだ。
それさえ持っていれば、君が進化することはないから」
自分が倒れたときに見た少女の涙を思い出し、ハクリューはペンダントを常に身につけることを誓う。
自分は姉で、姉は妹を守るものだからと、妹を泣かしてはいけないと。
そんなハクリューを少女の父親は、愛おしそうに撫でた。
その光景はたしかに、父親と娘の、家族のふれあいでした。
思い出といいつけを思い出したハクリューは、迷います。
しかし、その迷いは少女の不安そうな顔を見て、なくなりました。
ハクリューは、仲間たちをモンスターボールに戻します。
そして、少女を抱き寄せて、
「心配しないで、お姉ちゃんが絶対守ってあげる」
と言って、迷いなくペンダントを引きちぎります。
ハクリューにとっての進化の意味を、少女は父親から聞いてわかっていました。
どうしてと驚く少女にハクリューは、大事なものを守るため、と笑顔で言います。
進化が始まりました。
ハクリューは、体に力が満ちていくのを感じました。それと同時に、大事な何かが削れていくのも。
痛み苦しさを隠して、少女に大丈夫だと笑いかけます。
進化が終わり、カイリューへと姿を変えたハクリューは、少女を強くそして優しく抱きしめました。
しっかりと大地を踏みしめたカイリューに、土砂が襲い掛かります。
カイリューは、背中に石や木のぶつかる衝撃を感じる一方で、腕の中の大事な宝物の無事も感じていました。
どれくらいの時間がたったのか、二人にとって永遠にも等しい時間は終わりをむかえます。
土砂崩れの泥水によって少女は、体温は奪われはしましたが、傷はかすり傷すら負っていません。
カイリューは、妹を守り通したのです。
しかしその代償は、カイリューの命。
少女は、大事な姉を助けるため、仲間と力をあわせて姉をポケモンセンターへと急ぎます。
手術室の前で少女と仲間たちは、カイリューの無事を祈り続けます。
進化不適応と受けた傷のせいで、助かる見込みは10%をきっていました。
それでも少女は、姉の生還を信じて祈り続けました。
やがてストレッチャーに乗せられて、カイリューが手術室から出てきます。
カイリューは麻酔によって意識がないはずでしたが、少女が近づくと薄く目を開き、微笑みます。
それは、大事な妹を守りきれたことを、誇っているような笑みでした。
それで力尽きたかのようにカイリューは、再び目を閉じます。
少女がいくら呼んでも、その目を開けることはありません。
いつも、呼べば笑いながら応えてくれた姉は、なんの反応も示しませんでした。
カイリューが眠り続けるベッドの横で、少女は姉が起きるのを待ち続けます。
ともすれば、食べることさえ放棄して待ち続ける少女を、仲間たちが支えました。
祈りの日々が続いた、ある夜のことです。
ベッドの横で、うとうととしていた少女の耳に、微かな鈴の音。
なぜだか気になった少女は。目を覚まします。
個室からでずに、姉に負担をかけないよう、静かに音源を探します。
音は窓の外から聞こえていました。
開けた窓から、ひやりとした空気が入ってきます。
姉の体に悪いと思った少女は、慌てて窓を閉めようとしましたが、空を見て動きが止まってしまいました。
いまだに、シャンシャンという綺麗な鈴の音は降っています。
鈴の音は、待つことに疲れ始めていた少女の心に、ゆっくり染み込んでいきます。
じっと、鈴の音に聞き入っていたから気づけませんでした。
カイリューが鈴の音に導かれるように、まぶたをあけたことに。
鈴の音は、じっと姉を待ち続けた少女へと贈られたクリスマスプレゼント。
奇跡を起す、引き金。目覚めを促す、祝福の音。
抱き合う姉妹を脊に、鈴の音は遠ざかっていきます。
次の奇跡が待っているとばかりに。