3スレ>>777

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※ナッシーの日記より抜粋 「おらーちんたらすんなー飯抜きにすっぞー」 「ちょ、そういうなら兄さんも少しは手伝ってよ!  兄さん鍋見てるだけなのに私お皿出して火加減見て材料切っててんてこまいなんだよ!?」 「知るか、働け」 「Σこの人外道だ――――っ!?」 いやぁ、マスターのお嫁候補(仮)の人と一緒に旅をするようになってからにぎやかになったなぁ。 ご飯もおいしくなったし、お友達も増えたし、いいことづくめだよね。 「……あの子にとっては悪いことづくめだと思うけどね」 「え~、なんでぇ?」 「だって、毎日マスターにあれこれ用事押し付けられてあたふたしてるじゃない」 可哀想にね、とニョロゾくんは肩をすくめる。 かわいそう? それは違うと思うな。 それがなぜかと問われれば。 「にいさーん! おさら、おさら取って焦げる焦げちゃうううううううう!」 「あーおま、アホか!? おらさっさと上げろ焦がしたら全部一人で食わせるぞ!」 「そんな殺生にゃああああああ!?」 あきゃー、と変な叫び声をあげながら慌てて小鍋で炒めていた野菜をお皿に盛り付けるお嫁さん(仮)。 こぼすな馬鹿!と怒鳴りながら、こっそり落ちないようにお皿を動かしてフォローしてるマスター。 ……なんだかんだ言って、楽しんでると思うんだよなぁ、あの二人。 「おぉ? よくわかってるじゃないですかナッシーちゃん、そうですよあの二人はああ見えて仲がいいんですよ好き合ってるんですよ相思相愛なんですよ」 にひひ、とやらしい笑みを浮かべてヤンヤンマちゃんが指を振る。 お嫁さん(仮)と旅をするようになってからいつもこうだ。 むしろもうヤンヤンマちゃんのこの台詞は一日一回は聞く習慣になってしまっている気もする。 「……ヤンヤンマ、人の気持ちを勝手に斟酌して吹聴するでない」 そんな彼女を、ストライクさんがため息混じりにたしなめるのもいつものことだ。 「我々がどう思おうが、惚れた腫れたは個人の問題。 いちいち波風を立てることはあるまいよ」 詮無いことだ、とストライクさんは苦笑する。 まぁ確かに、私達がどう喚こうが、本人達にその気がなければ意味がないのは確かだけれど。 「何言ってるんですかストライクさん! マスターのお嫁さん候補最有力ですよ!? ていうかあの人に逃げられたらマスター一生独身ですよ!?  ここはなんとしてもキープしておくべきでしょう!」 「……えらい言われようだな、マスター」 「……そもそも、なぜそこまで断言できるのか」 熱く主張するヤンヤンマちゃん、ドン引きしながら突っ込むカイリキーちゃんとサワムラーくん。 いやー、楽しいなぁ。 やっぱりにぎやかなほうが、いろいろといいよねぇ。 「だんなー、こっちの準備できたよー」 「あ、ありがとフシギソウ! でもちょっと待ってこの意地悪なおにーさんが私をこき使って」 「誰が意地悪だアホ!」 すぱーん! 「みゃー!?」 あ、マスターがお嫁さん(仮)のお尻叩いた。 いけないなぁ、女の子に手をあげるのは。 ……ん? お尻? 「ねーマスター」 「あ? なんだよナッシー」 「今、その人のどこ叩いた?」 「どこ? どこってしり……あ」 気づいたみたいだねマスター。 あ、お嫁さんも目まんまるにしてる……気づいちゃったねこっちも。 さて、耳をふさいでおこうっと。 「……に、にい、さ……」 ぎぎぎ、と音を立てて首をめぐらし、マスターを振り返るお嫁さん(仮)。 わーマスターが珍しく脂汗流して慌ててるーカメラ用意しとけばよかった。 「い、いやそのあれだ、なんというかだな」 あ、必死に言い訳しようとしてる。 マスターかっこわるーい。 「……き」 あ、右手を振りかぶった。 「きゃあああああああにいさんのばかばかすけべしんじゃええええええええ!!!」 「ごふぅっ!?」 おおー、見事な右ストレート。 いいもの持ってるじゃないお嫁さん(仮)。 「ちょっ、旦那ぁぁぁ!?」 「おー、綺麗に入ったわね」 「ま、しゃーないわな」 「自業自得よ」 「天元突破したねマスター!」 「……久々に、頼もしいところを見た」 お嫁さん(仮)の萌えもん達も、さっきのはうちのマスターが悪いということで意見の一致を見たようだ。 ていうか、天元突破ってなんだろう。 なんかお嫁さん(仮)やプリンちゃんがよく言ってるけど。 ともかく、みぞおちに一発喰らってうずくまってるマスターをそろそろ起こしに行こうか。 *** 「……えらい目にあった」 「兄さんが悪いんでしょ!?」 割と予想外なことが起きた直後にしては普段どおりに、でもやっぱりいつもより不機嫌そうに食事を進めるうちのマスター。 そしてマスターがぼそりと呟いた言葉に全力で反論するお嫁さん(仮)。 まだちょっと顔赤くなってるあたりが可愛いなぁ。 「まぁ、さすがに女の子のお尻叩いちゃいけませんよねー」 「当然の結果だな」 「……うるせぇ、わかってるよ」 聞こえよがしにため息をついてみせるヤンヤンマちゃんと、それに追従するカイリキーちゃん。 二人にちくちく皮肉られ、マスターは余計にむくれながら、でもやっぱり一応自覚はあるのか、反論はしない。 他のメンバーは……あ、すみっこで肩身狭そうにしてる。 そうだよねぇ、うちらんとこ今女の子のほうが多いから、男衆は肩身狭いよねぇ。 ましてマスターがあんなヘマうったんじゃあねぇ。 「おい、へたれ」 「……なに?」 不意に、マスターがお嫁さん(仮)を呼ぶ。 ていうか、幼馴染なら名前くらい呼んであげればいいのに。 「……さっきは、悪かった」 そう言って、頭を下げるマスター。 それを見て、お嫁さん(仮)は、ちょっと眉をハの字にして、ぷぅ、と頬を膨らませた。 「……いいよ、もう。 あんまり、気にしてないし」 「気にしてないならなんで右ストレートぶち込むのよ」 「あ、あれはっ! その……か、かっとなって」 「ひでぇなオイ」 「あはははははは」 小さな声で出たお許しに、的確な突っ込みを入れるスピアーさん。 その突っ込みに小さくなるお嫁さん(仮)の姿を見て、みんなが笑う。 うん、やっぱり、にぎやかなのは、いいね。 *** 「に、兄さん、覗かないでよ? 絶対覗かないでよっ!?」 「覗くかっ! 入るならはよ行けこの馬鹿!」 あれ、なんかもめてるね? もう寝るだけなのにまだ遊び足りないのかな? 「違うよ、なんか近くに綺麗な湖があったらしくて……それで、あの子が水浴びしてさっぱりしたいんだってさ」 ああなるほど、だから『覗くな』か。 ……それはむしろ『覗いてください』という意味に取られるんじゃないかな? 「なんでそうなるのさ……」 ありえない、と呟いて、ニョロゾはもぞもぞと横になる。 わかってないなぁ、もう。 まぁいいや、今日はもう寝ちゃお。 「――って、なんで僕に抱きつくのさぁ!?」 「えー? だってニョロゾ、あったかくてきもちいいんだもん」 「だだだ、駄目だよ離れて、離れてって……あああ……」 えへへ、お休み。 また、明日。 *** ここから先は、追っかけと、へたれと、お月様だけが知っている、秘密。 *** 「あー……しくじった」 後悔のため息を盛大に吐き、呟く。 つい子供の頃の癖のままに動いて、余計な面倒を引っ張り込むとは我ながら情けない。 別に、やましい気持ちがあったわけじゃない。 ただ、昔、お頭の足りない連中を蹴り飛ばしたあと、意地を張ってるあいつを元気付けるためにやっていた癖がたまたま出ただけなのだ。 ――とはいえ。 「言い訳は――みっともねぇな」 どういう理由をつけようと、俺が悪いことは変わらない。 「……ちゃんと、謝っとくか」 食事のときは、周りに萌えもん達がいたせいか、妙な意地を張って適当に済ませてしまった。 あいつはそれでも――あいつは稀代のお人よしだから――許してくれたかもしれないが、やはり、ちゃんと『ごめん』と伝えるべきだろう。 「うん、そうだな――そうするか」 そうと決めれば後は早い。 ひとっ風呂浴びてるあいつが帰ってきたら、ちゃんと、謝ろう。 そう心に決めた、その刹那。 「……きゃあああああああああああっ!?」 「――なんだ!?」 不意に響いた悲鳴に飛び上がり、声の方向に駆け出した。 *** 「うひゃー……綺麗だなぁ……」 目の前に広がる小さな湖。 その水面は穏やかで、夜空をそのまま宝石箱に詰め込んだみたいにきらきらと輝いていた。 「い、いいのかなー、私みたいなのがここで水浴びなんかしちゃって……お、怒られたりしない、よ、ね?」 思わず周囲を見渡して、誰にともなくそんなことを尋ねてしまう。 いかんいかん、いくら私がへたれでヘボでアホで間抜けなトレーナーでも水浴びくらいで怒られたりはしないはずだ。 ……あれ、なんか心が悲しいよ? なんでだろうね? 「……さっさと終わらせちゃおう……」 うん、勝手に自虐してへこんでたら世話ないよね、ごめんね。 馬鹿だな私ー、と自嘲しつつ、そっと服に手をかける。 上着とシャツをぱっぱと脱ぎ、適当にたたんで地面に置く。 ズボンのベルトを外してズボンを降ろし、えい、えいとズボンから足を抜く。 ……ちょ、誰今変なこと考えたの!? 違うよ、私はちょっと汗とか泥とか落としたいだけなんだよ! 「……誰に言ってるんだろ、ほんと……」 ほどほどにしよう、私。 無駄に想像力過多な自分の思考に辟易しつつ、スポーツブラに手をかける。 ……最近ちょっときついんだよなぁ……でもブラなんて下手に買いに行こうものならみんなからこれでもかとからかわれるに決まってるし。 それに――兄さんも一緒にいたんじゃ、余計無理だし。 そんなことを考えながら、下着に手を伸ばし――飛び上がった。 「あたぁっ!? ……そうだった……」 そっとお尻を擦る。 うぅ、兄さんめ……手加減なしだもんなぁ…… し、しかも、よりにもよって、お、お尻なんて。 かっと、顔が熱くなる。 恥ずかしくて恥ずかしくて、でも、なんだか、あれ? 変な感じ。 「う、うぅぅ、もう、兄さんてば」 仕方ないなー、と聞こえよがしに声を出して、胸のもやもやを振り払う。 早くさっぱりして寝てしまおう、うん、それがいい。 そっと、足を水につけてみる――思ったより、冷たくない。 恐る恐る湖の真ん中へと足を進め、そっと両手で水をすくう。 手のひらの中で、夜の闇を閉じ込めた宝石がきらめいて――それをそっと、体にふりかけた。 「……いい気持ち」 思わず笑みがこぼれる。 すっと体の熱が消え、だんだん湖とひとつになっていくような感じがする。 ゆっくりと胸に手を遣り、きゅっと、手を握る。 コレは祈り。 何の神様に対してなのか、そうするだけの資格があるかもわからない、祈り。 この綺麗な湖とひとつになれた今なら、私みたいな人間の願いも、もしかしたら届くかもしれないと。 そんなやましさを秘めた、私の、ささやかな、祈り。 「――フシギソウ、スピアー、オニドリル、ピカチュウ、プリン、ニドリーナ、リュカ」 こんな私を見捨てずに、ずっと信じてついてきてくれる萌えもん達。 「――にいさん」 小さい頃に見たのと変わらない、大きな背中で私を守ってくれる、大切なひと。 私の幸せはいらない。 みんながいるだけで、私は十分すぎるくらい幸せだから。 だから。 「みんなが――幸せになってくれますように」 誰にともなくそう願って、私はそっと、目を閉じた――そのとき。 ――がさり。 「……ひっ?!」 不意に背後で、何かが動く気配がした。 「だ……だれ? 誰かいるの?」 腰を抜かしそうになりながら、なんとかそう、問いかける。 けれど気配からの答えはなく、ただ、確実に少しずつ、その気配はこちらに近づいている。 「……や。 やだ……なに…こないで、こないでよぅ……」 震える声で拒絶しても、気配は止まろうとしてくれない。 嫌だ、怖い、誰か、誰か、助けて―――― 恐怖が黒く染み渡り、心が耐え切れなくなって。 「……きゃあああああああああああっ!」 私は、みんなのいる場所へ向かって、ただ必死に、走り出す。 はだしの足がもつれ、転びそうになるたびに息が切れる。 それでも絶対足は止めず、無我夢中で走り続け――そして。 「――うおっ!?」 「ひゃあっ!?」 期せずして、一番頼りになる人の胸に、飛び込んでいた。 *** 「……落ち着いたか?」 「…………」 こくり、とうなずく。 そうか、とだけ答えて、目の前の湖をじっと見つめる。 水面には、ちょうど中天にかかった満月。 隣には、俺が持ってきた毛布に包まったへたれ。 結論から言ってしまえば、へたれがビビって逃げ出した相手は、単に寝ぼけて木から落ちたズバットだった。 飛び立ちやすいこの湖のほとりまで這ってきている音を、こいつが勘違いしただけらしい。 まぁ、それはそれでいいのだが、問題は。 「ひっく……ひっく……」 「泣くな……頼むから。 わざとじゃねぇのはわかってくれたんだろ?」 「そ、そう、だけどぉ……ぐすっ」 頭を抱える。 なぜこいつが泣いているのか、それは入浴中――あえてこう言おう――に怖い目にあったからではない。 俺が……その、あー、なんというか、ね。 こいつの……えー、と、あー、いわゆるひとつの、はだか、を、事故とは言え見てしまったのが原因なわけで。 ……仕方ないよな!? 急に悲鳴が聞こえて慌てて行ってみたら向こうの方から素っ裸で突っ込んできたんだから不可抗力だよな!? ――なんて、泣いてるこいつに言えるわけもなく。 俺はただじっと、泣き止むのを待ちながら、湖と空を見比べることしかできなかった。 「――ねぇ、にい、さん」 「……ん?」 不意に声をかけられ、へたれのほうを振り返る。 少し腫れた、不安げな瞳と目が合った。 「どした、寒いのか? それとも気分でも悪いか」 そう尋ねてやると、ふるふると首を振る。 じゃあなんだ、と問うと、また押し黙る。 しばらく待つ――すると。 「あの、ね?」 「なんだ?」 おずおずと口を開いたへたれの、次の言葉を待つ。 が、まさか。 「――わたし、お嫁にいける、かな?」 「……はぁ!?」 こんな質問が飛んでくるとは予想外だよばかやろー。 「お、おま……何馬鹿なことを」 「馬鹿じゃないもん! 『お嫁に行く前に男の人に裸見られたらお嫁にいけない』ってお母さん言ってたもん!」 ……いやあの、おばさん妙な貞操観念植え付けないで下さい。 つーかそれなら世の役者やらモデルやらその他諸々の女性諸氏は皆結婚できんことになるぞ。 だが、きっと俺を睨むこいつの顔は真面目そのもので。 「……ったく」 どうしようもなくへたれで、アホで、不器用で、お人よしなコイツには、何を言っても聞かないだろうから。 だから。 「ありえねぇとは思うけどな――もし万が一、お前が嫁に行きそびれたら」 そっと、そいつの頭に手を置き、くしゃくしゃと撫でてやってから。 「そのときは……俺が嫁にもらってやるよ」 そう言って。 俺は、へたれの額に――そっと、唇を、押し付けた。 「…………」 「……なんだよ、その面は」 顔を離してみれば、そこには豆鉄砲を秒速300連射のスピードで食らった鳩のような面のへたれ。 クソ、素で驚くなこんちくしょう、こっちが恥ずかしくなるだろうが。 「に、兄さん、いま、今――」 「オーケーそこまでだ、改めて言われると俺が死ぬ。 恥ずくて」 右手はへたれの口元に、左手は自分の額に。 冷静になると俺マジで何やってんだ。 死にてぇな畜生。 「あー、その、あれだ。 今のはいわゆるひとつの仮定の話であってだな。  別にお前が普通に誰かと好き合って貰い手ができれば別に気にせず嫁に行って問題な――うおぉ!?」 突然へたれが俺のほうに倒れこみ、俺に体を預ける。 ちょ、ちょっと待て何事だ待て早まるなこれは――ん? 「すぅ、くぅ……くぅ」 「……寝てやがるよ」 あー……処理落ちしたか。 ま、しゃーないわな。 ……なんだよコラ。 別に誰も残念だなんて思っちゃいねぇよ。 「やれやれ……」 へたれを起こさぬよう気をつけつつ、そっとその体を横たえる。 そして、その頭を胡坐をかいた己の膝に乗せてやり、微かに濡れた髪をなでつつ。 「――お休み」 そう呟いて、少々寝づらい姿勢ながらも、俺もへたれと同じ、夢の世界に落ちていった。 ――もちろん翌朝、互いの萌えもんにこれでもかといろいろ追求されたがな。

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