3スレ>>898

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  ‐温かい雪と氷の欠片‐ ①  世の中には、萌えもんマスターを目指して頑張る多くのトレーナーたちがいる。  彼らは己のパートナーと共に戦い傷つき、そして成長していくのだ。  ナナシマ地方、4の島に住むヒロキも、そんな萌えもんトレーナーの一人だった。 「いけっ、ユキワラシ! こなゆき!」 「えーい、こなゆきびゅうー!」  ヒロキのパートナーであるユキワラシの攻撃が、相手のデリバードへと放たれる。  だが…… 「……ほいっと」  いとも簡単に、こちらの攻撃がかわされてしまう。 「ふふん、そんな攻撃じゃあたらないよ~」 「う~……」  デリバードが余裕綽々といったようすで言ってのけると、ユキワラシが頬を膨らませ唸り声を上げる。  そんなユキワラシを尻目に、デリバードは手に持った袋から何かを取り出した。 「はい、プレゼント」  取り出したソレを、無造作にユキワラシのほうへと放り投げる。  それを見たユキワラシは、何の疑いも持たずにそれを受け取りに行った。 「わーぃ♪」 「あ……危ない、ユキワラシ!」  ヒロキが声を上げるが、すでに手遅れ…… 「レッツ・ショーターイム!」  デリバードが指を鳴らすと同時に、 「きゃあっ!?」 「うわぁっ!!」  ユキワラシが受け取ったプレゼントが、大爆発を起こしたのだった……    ・    ・    ・ 「もーぅ、いくらプレゼントって言ったからって、戦ってる相手のをそう簡単に受け取っちゃダメじゃないのさ」  戦いの後、デリバードは黒焦げになったままのユキワラシに延々と説教を受けていた。  実のところ、このデリバードは野生ではあるが、ヒロキがまだ小さい頃からの長い付き合いだったりする。  今では、ヒロキが立派な萌えもんトレーナーになれるために、先ほどのようにバトルの稽古をつけてくれているのだ。 「いいかい? 世の中にはアタイよりもよっぽど狡賢い連中もいるんだ。  そんな調子じゃ、いいように弄ばれちまうよ?」 「うぅ……ひろきー……」  ユキワラシがこちらに救いを求める視線を投げかけてくる。  とはいえ、ヒロキも助けるわけにはいかない。彼自身、デリバードから罰を受けている真っ最中なのだ。 「ヒロキも、ポケモンへの指示をもっとちゃんとやってやらなきゃ。  トレーナー同士のバトルってのはね、結局は駆け引きなんだよ」 「う、それは……」 「それだけじゃない。アンタはユキワラシに甘すぎるんだ。  トレーナーってのは、時として厳しさも必要だよ?」 「……はい、返す言葉もありません……分かったので、とりあえずこの氷をどけてください」  今、ヒロキは正座の体勢で、太ももの上に数段の氷が積み上げられている。  言い忘れていたが今ヒロキたちがいる場所は、4の島にある洞窟、いてだきの洞窟のなか。  ただでさえ温暖な気候にしては珍しく極端に気温の低い場所だ。  今のヒロキの状態では、どんどん体温が奪われていってしまう。 「もうちょっと待ちな。このコへの説教が終わったら、どけてやるからさ」 「は、はは……それまで生きてりゃいいんだがな……」  ヒロキが乾いた笑いを浮かべた。  ……結局。  氷をどかしてもらえたのは、その更に数十分後のことだった。 「ほ、本気で死ぬかと思った……!!」  暖炉の前で、ヒロキは毛布に包まっていた。まだ体のあちこちが痺れている感覚がする。 「ひろきー……だいじょうぶ?」  心底心配した様子で、隣に座っているユキワラシが覗き込んでくる。  ヒロキはそんな彼女の顔を見ると、笑って頭を撫でてやった。  それだけで、ユキワラシの表情がこれ以上ないほどに幸せそうなものに変わる。 「ああ、なんとかな」  しかし同時にヒロキは、帰り際にデリバードが言い残した言葉を思い出していた。 『最近、洞窟によからぬ輩が紛れ込んできたんだ。いいかい、アタイと一緒じゃない時は、絶対に洞窟に近づくんじゃないよ』  よからぬ輩。それが何なのかヒロキが尋ねても、結局彼女は答えてはくれなかった。  ただその時の様子から、それだけの相手だということは、容易に想像できる。 「…………」  傍らのユキワラシを見る。  もし自分たちだけでソレに遭遇した時、己自身はそれにうまく対応できるのだろうか。  ヒロキにとってユキワラシは、妹のようなものだ。  そんな彼女が、必要以上に傷つく姿は、あまり見たくない。 「おいで、ユキワラシ」 「ふぇ? わぷっ」  衝動に駆られ、ユキワラシの体を抱きしめる。  小柄な彼女の体は、いとも簡単にヒロキの体に収まった。  最初こそとまどっていたユキワラシだったが、じきに鼻をヒロキの体にこすりつけてきた。 (甘い、か……確かに、そうかもなあ……)  デリバードの言葉を思い出し苦笑しつつ、ヒロキはユキワラシの頭を撫で続けていた。  後日…… 「ぶえっくしょーい!!」  冷え切った体でユキワラシを抱きしめていたヒロキは、当然のごとく風邪をひいていた。

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