3スレ>>909

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自然溢れる巨大な空間。様々な植物が自生しているここタマムシシティジムでは、 午後のティータイムの時間。ジムトレーナーも萌えもんも、そろってテーブルを囲んでいた。 「エリカ様、お疲れ様です。紅茶をどうぞ。」 眷属の一人が、席に着いたエリカの手前にティーカップを置いた。 「ふぅ。ありがとう。」 紅茶を注がれたティーカップを右手に持ち、一杯飲んで一息つく。 いつもの時間、いつもの催事。しかし…… 「あら…。」 ……その前に、ひと波乱起きるだろうという報せがあった。 吹き抜けになっているジム。カフェテラスから、入り口の大きな扉が開くのがすぐにわかった。 「エリカ様…」 「ええ、どうやらやってきたようです。」 -+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+- 07 天高く舞う花弁の調べ ~Daybreak~ -+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+- 「ん~やっぱり、い~匂い♪ここのアロマで香水作ってもらえないかしら?」 建物に入って早々、ぺるこが感嘆の声を漏らす。 「勝ったら頼んでみるか?」 「あら、ご主人様自信あるの?」 「あ~!ぴくるも欲しいのですぅ。」 「私とぴくる、二人分ね!」 ――女っていうのはどうしてこうも…まぁ、いいか。 再度タマムシジムに足を踏み入れた、少年一行。 「ジム戦……緊張するねますたー。」 …新たな仲間を連れて。 「大丈夫だパトリオ。お前の実力ならひけを取らない。」 緊張しているのは、パトリオ。それを宥める少年は、思う。 ――重要なジム戦だっていうのに、この二人は…… もちろん、その二人とは―― 「わぁ!ぺるこさんっ、綺麗なちょうちょがいますよ~!」 「へぇ~珍しいわね。七色の羽の蝶だなんて…。あ、この花!かわいぃわねぇ♪」 ぺることぴくるの、乙女コンビ。 エントランスに入って早々、周りの珍しい草花に興味を湧かせている。 「…あ、あの二人も戦うの、わかってるのかな?」 「パトリオ、俺に聞くな。」 そんなこと俺にわかって堪るか、と言いたげな少年。 あるいは、戦う前から緊張してどうする?という意気込みなのだろうか? 「――!」 各自がどう考えていようと、 「ようこそ。お待ち申し上げておりましたよ。」 その時は、静かに近づいてきている。 「…帰ってきたぞ。」 吹き抜けになっている上階から、ゆっくりと階段を下りてきたエリカを、少年は見上げた。 「随分と……早かったのですね……あら。」 階段を降り、少年に向き合う。その傍らにいた、以前に見覚えのない顔。 「…見覚えのない方が。新入りさんですか?」 パトリオに近づく、エリカ。 「…えっ、ぼ、僕?」 「…はじめまして。エリカと申します。お名前を伺っても?」 「わ、わふ…いや、はい!自分はパ、パトリオであります!」 「ふふふ…そんなに緊張しなくていいのよ?」 「は、はぁ……。」 まるで拍子抜けである。これが今から戦う相手のますたーなのか…?とパトリオ。 ――なんだよ…戦意がまるでないじゃないか…。 誰と…何を相手に戦えばいいんだか、これではわからないではないか。 「挨拶はいい。」 最早戦意があるのはこの人物だけなのか、少年は短く言い放った。 「バッジをかけて勝負――だっ!?」 が、啖呵を切る前に後ろから何かにがばっ!とのしかかられた。 振り返る。…案の定。 「えー戦うのぉ?ご主人様ー、せっかちさんじゃなぁい?」 ぺるこだ。おまけにぴくるまでついている。 「もう少しゆっくりして行きましょうよぉ。」 「だからお前らは…」 「くすくす…」 なんとものどかなやり取りに、思わず笑いが漏れるエリカ。 「今、紅茶が入ったところだったんです。折角ですから、皆さんもどうですか?」 「はい!飲みますぅ♪」 「お、おい!」 何を勝手に――と言いたい少年ではあったが、ぺるこの言うとおり、少し焦っているのだろうか? そんな疑問を自分にぶつけながら、その流れに反論できる余地は彼になかった。 「いいんじゃない?…たまにはこういうのも。」 ぺるこまでそんなことを言うもんだから、ほぼ全会一致のようなものである。 「……仕方ない。そうさせて貰う……。」 渋々了解する少年。それを見ていた傍らのパトリオだけが、困惑していた。 「どうしたんだろう…二人とも……。」 エリカが降りてきた階段を上っていく三人。そしてエリカ。 二階のテラスへ行く彼らを見て、何故か腑に落ちない。 ――ますたーはともかく……なんだろう……この感じ。 「パトリオ?…何やってるんだ。早く上がって来いよ。」 「う、うん。今行くよますたー。」 何かおかしくないか?という疑問を一人で考えても、答えは結局出なかった。 ますたーに促されて、パトリオもテラスへと向かった。 ……あながち、パトリオの勘は間違っていなかったと、後に気づくことになるのだが―― ・ ・ ・ ……。 視線が集まる。 誰にかといわれれば、少年一行だろう。 テラスで各々休憩をしていたエリカの眷族及びその萌えもん達が、 少年一行がやってきた途端、ほとんど全ての視線を彼に向けたからだ。 少年はうっかり視線を合わせないようやや下を向いている。彼女らの視線は百人百様。 歓迎の笑みを向けるものもいれば、寂しそうに彼らを見るものもいた。 少なくとも少年自体は彼女らにとって、共に戦った仲間である。あるいは彼のことを 救世主、英雄の類だと思っている者もこの中にはいるだろう。だが、それ故に複雑な面持ちなのだろう。 かつて共に戦った仲間が、我々の主に牙を向けるなど、戸惑いを隠せないのが普通なのだから。 「お座りください。」 エリカに案内された先で、促されるように一つのテーブルを囲う少年一行。 少年の対角に、エリカが座る。 ひとつひとつの動きをとっても優雅である。どの静止画もたちまち芸術と化すであろう。 「「……♪」」 戦いのときよりも気持ち生き生きとしている、ぺることぴくる。 パトリオは険しい顔で、二人の様子をじっくり観察していた。 「……!」 少年と目が合った。…言葉はない。 互いに口に言わないのか、それとも単に交わす言葉もないだけか。 しばらくというには足りないわずかな時間であったが、互いに相手の様子を探っているようにも見える。 ――ますたー……気づいて? 少年……静かに首を横に振る。それが意図しているもの、それは、 ――二人の異変には気づいているが、原因は特定できない。 ということだろう、そうパトリオは解釈した。 「失礼いたします。」 …不意に、声をかけられた。エリカの背後から、三つの影。 「紅茶をお持ちしました。どうぞお召し上がりください。」 少年が知っていたのは、そのうち二つ。 一つは、エリカのラフレシア、ラプティ。先の共同戦線において、優れた格闘能力を発揮。 恐らく後の戦いで、その能力に頭を悩まされそうではある。 もう一つの影。同じくエリカのキレイハナ、キリエレ。…問題なのはこちらのほうである。 遠方から支援でも、主火力でも戦えるタイプの相手だ。ラプティとのコンビネーションは 絶妙なものだと聞いたし、また実際に少年はそれを見てきた。 そしてもう一つの影……少年の頭を更に悩ませるのは、そこの眼鏡をかけた女―― 「ようこそいらっしゃいました。」 眼鏡の女は少年の手元にティーカップを置いた。目線が重なり、微笑む。 そのとき少年の鼻腔を掠めたのは、ほのかな薔薇の香り―― 「わたくし、誇り高きロズレイドの系譜、名前をルメラと申します。」 頭を下げて彼らに軽く会釈する、ルメラ。 一見柔らかい物腰ではあるが、瞳の奥にある静かな情熱は、さすが誇り高きロズレイドの系譜。 しかしながらこの地方一帯にはいないはずのロズレイド一族の娘。 エリカに付き従うのには、どうやら深い事情がありそうだが……。 それよりも、彼女らはなにゆえメイド服なのだろうか? キリエレ、ラプティ、ルメラ。おそろいのメイド服である。 「あら……おいしい。ハーブティーこれ?」 ティーカップにひとつ口をつけたぺるこが訊いた。どうやら気に入ったようだ。 「はい。ローズヒップティーです。」 答えるのはラプティ。 「へぇ…ローズヒップって美容にいいって聞くけど…本当?」 「本当ですよ。」 そんな会話から始まり、いつしか二人の会話には花が咲いていた。 ハーブティーの知識から、はては主人の自慢話にまで。どうやら意気投合した様子である。 「いかがですか?」 「んー…いい香りなのですぅ…。」 キリエレと話しているのはぴくる。こちらも会話が弾もうとしている空気である。 「………。」 ティーカップをまじまじと見つめるパトリオ。 ――僕らは……お茶を飲むためにこんなところにきたわけじゃないのに… いかにも不服な表情。その顔がうっすらと底の見えるティーカップの水面に映る。 「いかが、なされましたか?」 不意に話しかけられた。その声の主は… 「…え、えと、ルメラ…さん?」 「ルメラで結構ですよ。」 パトリオはうろたえた。目の前には敵がいるというのに、戦わないというこの歯痒さ。 「気分が優れませんか?…ずっと顔が固いままにお見受けしますが。」 顔を覗き込まれる。至近距離に、討つべき敵の顔が―― 「いや……大丈夫…」 思わず顔を逸らしたパトリオ。鼓動も高まる。 ――どうすればいいんだ? 戦いのときよりも、悩まされる。今すぐ暴れだすのは簡単なことなのだ。 「随分と…緊張されてますね。」 その時、静かに紅茶を飲んでいたエリカが、口を開いた。 緊張、その言葉は少年に向かって放たれた一言。 「………。」 それまで姦しく話し込んでいた娘らの視線が、一斉に少年に集まる。 少年は言葉を発することもなく、ただ静かに目の前に置かれたティーカップを口元まで運ぶ。 「緊張はしていないんだが…」 一口ティーを啜り、少年は遂に動いた。 「リラックスする気もない。」 ――。 エリカに視線をぶつける。それは、彼が投じた一石の波紋―― ここから、戦いは始まったのかもしれない。睨みつける彼の眼は、エリカの穏やかな眼を見据える。 ただそれだけなのに――穏やかだった空気は一瞬にして張り詰めた。 まるで時間が凍りついたかのようだ。誰も頭すら動かさなかったのだ。視線だけが飛び交い、 そしてそれすら固定された空間、エリカと少年は目を合わせたまま微動だにしない。 「…………。」 「…………………。」 呼吸すら止まりそうだ。 長い。 果てしなく長い。 ようやく誰かが口を開いたときには、どれほど時間が経過したのかわかる者はいなかった。 「ここには……高揚した気分を落ち着かせる芳香成分を持つ植物があります。」 発言をしたのは、エリカ。 「鼻のいいパトリオさんには、わかると思っていたのですが…。」 ちらり、とパトリオを見た。 「……!」 ――そうか…!この香りが……。 その時、パトリオは違和感の正体が何だったのか、ようやく気づいた。 否、気づかされたのだ――。 「萌えもん達の戦意はある程度削がれます。 しかしこれは我々が意図して仕組んだものではありません。ただ――」 そう言うエリカの紡ぐ言葉は、この後、更なる波紋を呼ぶ。 「……失礼ながら、あなたと思われる人物の過去を……わかる範囲で調べさせて頂きました。」 ―――!! 首から下が更に締め付けられたような感覚。少年一行の驚きを隠せない様は、皆同じ反応であった。 今まで語られることのなかった、少年の過去。それを彼の目の前の女が、知っているということ。 隠し切れない緊張感が、空間を包み込む。鼓動は早まる。誰の?それすらわからない。 「………どこまで知っている?」 長い長い沈黙の後に、口を開いたのは、少年本人。最も狼狽するであろうと思われていた当事者は 嫌味な程冷静さを保っていた。 「……カントー地方、西部にある外れの村。この村で起きた今からおよそ3年前の事件……。 のちにカントー七不思議の一つと言われるようになった『焼き払われた村』事変――」 どくん―― さらに高まる鼓動。 「謎の集団に襲われ、一晩で村全土を焼き払い、一つの集落を消滅させたといわれている事件。 村の住民は全滅……と記録には記されていますが…行方不明の当事者が一人いるという噂も。」 淡々と語り続けるエリカ。その証言に、間違いはない。 「この事件の背景には不透明な点がたくさんあります。謎の集団とは何者なのか。 何故村を焼き払う必要があったのか。被害者の情報が記録と食い違っているのは、何故なのか。」 そして不思議に付き纏う"何故"の問答。それを知るのは、一部の当事者のみである。 「…わたくしは、前々からこの事変についての疑問を追ってきました。ルメラと出会ったのも、 現地を調査していたときでした。ロズレイド一族は、焼き払われた村の近隣に生息していましたから。」 これは意外な事実であった。ぺるこ、ぴくる、パトリオの視線がルメラに集まった。 「…わたくし共ロズレイドの一族は例の事変に危機を察知し、その地を手放すことにしました。 今では同胞や家族がどこにいるのかもわかりませんが……。」 そう補足するのは、ルメラ。加えた言葉に不安や心配の翳りはない。 エリカ様に付き従ったことに後悔は全く無い、と言っているようなものである。 「そこでわたくしは、当時の状況を遠くから見ていたルメラの証言の元、幾つかの推測に辿り着きました。」 あくまでも推測は推測。だが時に、それは事実よりも鋭い牙を剥く事がある。 「村を襲った集団…これはロケット団では無いと思います。」 そう、村を襲った集団=ロケット団と思いがちかもしれないが、ロケット団ではないという可能性は 捨てきれないのだ。…ではもしそうだとしたなら、その集団の正体は何者なのか? 見え隠れする敵と事実、混ざる憶測に苛立ちを覚える少年。 「この集団が現在どうなっているのかはわかりません。ただ言える事は、今のロケット団とは 手口があまりにも違いすぎるということです。」 よく考えれば、ロケット団が一つの村を壊滅させるほど派手で大胆な手口を好むだろうか? 少年がここ最近、ロケット団と遭遇したのは二回。オツキミ山とタマムシ地下だ。 深夜の人気のない山での乱獲や、地下にアジトを設置するなどということは、 目立つことを恐れての行動ではないのだろうか? 「そして……今はこちらの推測のほうが重要です。」 エリカの推測とは、"村を焼いた集団≠ロケット団"ということが一つ。そしてもう一つの推測は、 焼き払われた村の何故、その一つに迫る核心でもあり、推測が真であれば、解明への大きな手がかりとなる―― 「その焼き払われた村事変の生き残り……その噂は真であり、 その正体は――今わたくしの目の前にいる、あなたですね?」 ―――。 今度は、エリカの眷属たちが驚く番だった。騒ぎ立てる者もいれば、口をあけたまま絶句している者もいる。 そんな中、沈黙を続ける少年に、エリカは更なる言葉を紡ぐ。 「あの村周辺にある、大型の病院を虱潰しに調べさせて頂きました。…当時のカルテはある医師が 保存していました。さらに、同時に運ばれてきた一人の萌えもん、ニャースの記録も同時に発見いたしました。」 ニャース……現在のぺるこのことを指しているのだろうか? 視線を集めた先には、動かぬ証拠があった。ぺるこ――それは少年の運命共同体。 「更に……あなたは一度、焼かれた村に戻りましたね?その時をルメラが目撃してい」 「だから何なの……」 がたっ! 不意に椅子から立ち上がる者がいた。早まった鼓動と焦燥を我慢しきれなくなったか。 「全部、推測じゃない?一方的に自分達の都合のいい解釈を押し付けて…ッ!」 そう、全ては推測である。…しかしそれは真実に辿り着く証拠を持っている。 それを塞ぎたかったのは、聞きたくなかったのは、ぺるこ本人だった。 「これ以上……ご主人様を困らせないで…!」 先程の穏やかな波が嘘だったかのように、悲痛な表情でエリカを睨みつける。 …それでも。エリカは真実に踏み込むための最後のステップを踏んだ。 「わかりました……では、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」 ―――どくんっ! 「それで全てがわかります。私の憶測が正しいのか、はたまた間違いなのか。」 そして、何かが爆ぜた音がした―― ばぁんッ! 「もういい加減にッ」 「わかった。」 第一声は、テーブルを叩く音とともに放たれたぺるこの激昂――そしてそれを遮るかのように、 少年は静かに言い放った。 「ご主人様ッ!?」 「ご主人様は、確か名前を覚えていないはずじゃぁ…」 ――そういえば、ますたーの名前って聞いたことないな……。 ぴくるの言うとおり、少年は名前を憶えていない。…それは本人が言っていたことだ。 「憶えているさ。…自分の名前くらい。」 ぴくるがご主人についていくことを決めた頃だったか。その時は確かに"憶えていない"はずだった。 それは彼の"嘘"だったのか……それとも、旅の途中で不意に思い出したのだろうか? 「俺の名前は――」 ばっ! 少年の言葉は遮られた。 「言わないで……!お願い……言わないでよ……っ。」 少年の顔を…胸に抱き寄せるぺるこの悲しい黄金の瞳は、潤いを増していた。 誰にだって、語りたくない過去の一つや二つは、ある。 「ご主人様は……ご主人様よ…。それだけで十分じゃない…!」 ぺるこには、少年のそれがトラウマになっているのだろう。 普段の彼女からは想像出来ない深い悲しみが、一筋の雫となって頬を撫で伝う。 「……わかりました。」 長い間の末に、エリカが口を開いた。 そう言って、彼女が取り出したのは…虹色に輝くバッジ。 「それでは…あなたは、このレインボーバッジに何を誓いますか?」 質問を変えたエリカ。今度の質問には果たして何の意図が含まれているのか―― 「リーグの"栄光"ですか?無念を晴らすための"復讐"ですか?それとも……」 彼を、試しているのだろうか?このレインボーバッジを受け取る資格が、あるのかどうか。 ぺるこを宥めていた少年は、その質問に真っ直ぐ向き合い答えた。 「………"信念"だ。」 「………わかりました。挑戦お受けいたします。」 その言葉が、合図。 少年とエリカは、席を立った――。 ・ ・ ・ 吹き抜けになっているエントランス奥には、バトルフィールドがあった。 そこに対峙しているのは、少年と、エリカ。 従う萌えもんは三人ずつ。 少年率いるは、ぺるこ、ぴくる、パトリオ。 エリカ率いるは、キリエレ、ラプティ、ルメラ。 「…いけるのか、ぺるこ」 少年は珍しくぺるこに気を遣うが…。 「いけるわ。」 短く答える、ぺるこ。いつものはじけたテンションではないが。 「じゃぁ…パトリオ、ぺるこ。いってこい。」 「了解。」 「おっす!」 軽く"いつもの"タッチを儀式代わりに、ぺるこは戦場へと赴いた。その後ろから、続くパトリオ。 「ご主人様、ぴくるは出番無しですか?」 「いや。ぴくるには最も重要な仕事をしてもらうぞ。」 「…?仕事ですかぁ?」 このジムの公式戦のルール……その上でぴくるのポジションは重要な役割を果たす。 今回のバトルは、ダブルバウト。二対ニだ。さらに場外から支援系の技のみを使える 者を一人配置してよい、というルールになっている。 「…と、いうわけだ。ぴくるにはサポーターをやってもらう。」 「う、うぅぅ……なんだか緊張するのですぅ…!」 確かに特異なルールである。ニ対ニ、三対三であればまだしも、そこにサポーターを配置するという 感覚には慣れないトレーナーも多いだろう。 しかしそうも言っていられないのが現状。一方のエリカは既に戦闘準備ができている。 予想外なのは、キリエレがサポーターであるということだった。 ルメラが出てきたのは、少年の計算式に誤差を与えるだろう。 ……ぺるこ、パトリオ、ラプティ、ルメラ。両者の精鋭二名ずつが、戦場の中ほどまでやってきて、 エリカの眷属の一人により、戦いの合図は告げられた。 「始め!!」 開始と同時に四つの影はそれぞれ独立に動いた。 まずぺるこ。彼女の狙いは中距離からの撹乱と牽制である。若干の距離をとって両の手の爪を構える。 そしてパトリオ。彼はラプティ狙い。前線で彼女を食い止め、ぺるこにルメラを討つ隙を作らせる。 少年の采配は主にこんなところである。…ただ、キリエレ・ラプティペアを想定しての作戦故に、 その誤差がどれだけ響くのかは今のところ未知数である。 一方のエリカ側のラプティ。勿論手に持つ武器はフラワリングバトン。最初から全開で迎え撃つつもりだろうか。 「はなびらの舞・壱の舞。行きます……!」 彼女の周囲に無数の花弁が舞う。それと共に突進――一気に間合いを詰める。 そして彼女の狙いは――ぺるこ。 「……ッ!」 ラプティのバトンと、ぺるこの爪が激突した。 しなるバトンと、震える爪が互いの力を拮抗させる。 「くッ!」 その間に割って入るパトリオ。このままではぺるこが押し負ける。 横から足を振り上げラプティを狙うが、寸でのところで後退された。 再び開く間合い。状況が一変したのは、その時であった。 「……な、何、これ……!?」 敵陣の奥――ルメラのさらに奥にいるサポーター、キリエレ。 フラワリングロッドを高々と天に掲げ、体中から膨大なエネルギーを発していた。 「なっ…ななななんなんですかぁあれ!」 狼狽するぴくる。 彼女が"見上げて"いたのは、広く高いジムの天井を覆い尽くすほどの、球体のようなもの―― 「…擬似太陽だ。」 同様に天を仰ぐ少年は、ぴくるに言った。 「ぎ……ぎじたいよお…?」 「太陽を模したエネルギーの塊だろう。」 巨大なそのエネルギー塊は、今もなお肥大化している。 「これが…オペレーション・デイブレークか。…厄介だ。」 恐らく特定の属性のエネルギーをフィールド全体に行き渡らせて有利な状況を作る。 それが狙いだろうと少年は、巨大なエネルギー塊を睨む。 「あわわわ…どっ、どうしましょぉ…!?」 これがダブルバウトにサポーターを付加した公式戦の、狙いなのだろうか。 ただただ天を見上げる彼らの姿は、あまりにも小さい。 少年は拳を握り締め、空高く陣取るエネルギーの塊に呟く。 「最初から全力で……叩きに来るつもりか……!」 「全力でお相手して差し上げなさい。」 一方のエリカサイド。彼女の命令によって、キリエレは引き続き、天に漂う擬似太陽にエネルギーを送る。 眩しい強い光が戦場に、さんさんと降り注ぐ。 「…相手は一瞬の隙を突いてきます。ですから、全力で早々に決着をつけなさい。」 「はい、エリカ様…。」 そして…ルメラ。エリカの言葉を受け取ると、両手に持った薔薇の花束を、天に向かって掲げた。 「オペレーション・デイブレーク。第二フェーズに移行します。」 ぎらりと刹那、ルメラの眼鏡が光を反射した。 淡々と言葉を紡いだルメラは、薔薇を擬似太陽に向けたまま、微動だにしない。 「さて…どう動きますか?この一撃に耐えて…わたくしの娘達を、あなたは討つことができますか?」 天を支配するは、偽者の太陽――それは空間を、眩い光で照らし続け、支配していた。 - 07 天高く舞う花弁の調べ~Daybreak~ 完 - -+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+--+-+- 【設定集】 ・エリカ タマムシシティのジムリーダー。キリエレ、ラプティ、ルメラを従える使い手。 ホームでの戦闘では絶妙な連携で挑戦者達を困らせる稀代の草娘使い。 正当なる貴族の血をついでいるらしいという設定です。つまり正真正銘のお嬢様。 そんな彼女は、焼き払われた村の事変の真相を影で追究しています。この設定に彼女の婚約者が 焼き払われた村のなんらかに絡んでるとか、そういう裏設定を考えてるんですが、 婚約者とかどうしようみたいな話になるんで今のところ伏せてあります。 ・ルメラ 遂に姿を現したエリカの三人目の娘。ロズレイドの系譜ということで、こっちもおぜうさまです。 本来は高飛車でプライドの塊みたいな性格ですが、エリカには従順なようです。 まだまだ本編のバトルは序盤ですが、この後大変な(ry をぶちかましてくれます。 ・デイブレーク 原作で言うところの「にほんばれ」です。にほんばれの性能は炎タイプの技の威力を上げる云々~ といったものらしいですね。筆者はあまり使ってないのでよくわからんとです。 今回はそれ以外の用途で登場。"草娘に使わせたらマジでうざい"性能となっております。 ちなみに、オペレーション・デイブレークというのは、これを絡めた作戦名で、 その全容は後編で明かされることになります。 あと、擬似太陽という表記は、さすがに萌えもんが気候自体を操ってしまうのは大変なことになるので、 本作では"擬似的に天候を作り出す程度の能力"に踏みとどまっています、ということなのです。 …さて、設定とか人物の量が半端なくなってきたAR本編。ここらで相関図やら作ろうかね……w 次回は07話後編~eclipse編(仮)~です。ノシ

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