4スレ>>58

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…ん、おぉ、誰かと思えば君か。久しぶりだな。まだ旅を続けておるのか? 君の息子もわしの孫も、君がいない間に大きくなってな。君のように旅に出たいと言いだしておる。 分かっておるよ。わしの手元にあるやつでよければ、彼らに渡そう。 …そうか。たまには家に顔を出してやるんじゃぞ。            番外編 Before Story  ハジマリノヒ 朝起きて。旅の支度をして。外に出たら即座にオーキド博士につかまって。以下略で。 …で、俺は今マサラタウンとトキワシティをつなぐ1番道路にいる訳だ。 最初はひとり旅のつもりだったのだが、半分くらい無理やり博士に持たされた連れがいる。 「御主人さま、ボクフシギダネ!よろしくね!」 「ああ、よろしくな」 頭にタネを被った、小さな女の子――に見える萌えもん、フシギダネ。 今のご時世、子供から悪党までこの生物に頼ってるんだよな…。俺もまぁ、いっぱしの萌えもんトレーナーになるための旅に出た訳だ。 けど、コイツを見ていると俺は過去の悪夢を思い返す。コイツに罪も咎もないというのに。 俺の両親は犯罪組織ロケット団の幹部で、悪事を働いて萌えもんを捕らえ、あるときは売りさばき、 あるときは調教して悪事に加担させ、従わないモノには暴行を加えたり、ひどいには手下を呼んで犯させるなど、本当に下劣極まりない両親だった。 俺はその凄絶な光景を今でも覚えている。虐げる者と虐げられるモノ。種族の違いとは、ここまで人を残酷にさせるのか。 今だって耳に残っている。哄笑と怒号と狂気。悲鳴と絶叫と断末魔。あらゆる悪夢を凝縮した声が。 たぶん、俺もあのまま育っていたら同じようになっていたのかもしれない。いや、確実にそうなっていた。 …今の俺の父親。超凄腕のトレーナーであり、その時は警察と協力してロケット団幹部の屋敷に乗り込んできたその男は、 親に見限られて燃え盛る屋敷に取り残された俺を救いだし、挙句の果てに自分の息子としてしまったのだ。 マサラでの家の生活は、非常に満ち足りたものだった。 義父母の愛情。人間、萌えもん両方での初めての友達。そして何より、あの悲鳴はもう聞こえない。 けれど、俺の中には暗い影は残り続けている。 「…さま…御主人さま?」 「え?」 「さっきから呼んでるのに返事してくれないんだもん。早く行こうよ!」 「…そうだな、悪かった」 …俺はこいつを連れて歩く資格があるのだろうか。…わからない。 俺はそもそもちゃんとしたマスターになれるのだろうか。…わからない。 わからない。わからない。わからない。わからないわからないわからない。 疑問は止まらない。けれど、全て何一つとしてわからない。 そして、俺は決心した。       * * * 「御主人さま、誰も出てこなかったね」 「…だな。まぁ、ボール5つしかないからな…トキワにつくまではそれでもいいだろう」 1番道路を抜ければ、すでにそこはトキワシティだった。 とりあえずセンターに向かう。 「御主人さま、ボク怪我してないよ?」 「…そうだな」 フシギダネの言葉も聞かず、俺はセンターの役員、通称ジョーイさんにフシギダネの入ったボールを預ける。 …そして、俺はセンターを出た。 「俺が育てる訳にもいかない…よな。俺よりもっといいやつはいるはずだ」 俺みたいな大悪党の息子より、ずっとお前の事を大切にしてくれるトレーナーが。 さっきより重くなった足を、俺はトキワの森へ向ける。…あてはないけれど、ここに止まっていたくはなかった。       * * * 森を抜ければニビシティにつくはずだ。…しかし俺は、いったい何がしたいのだろう。 「俺、トレーナーになれないのかな」 バカな話だ。自分でトレーナーになりたいと思って旅に出たのに、結局何もできないとは。 ぼすん。 気づくと、何かを蹴っていた。…それがビードルだと気付くのに、たっぷり20秒かかった。 「…え?」 「そこな人間、私の子に何をする!」 そして、背後からスピアーが襲ってきたのに気付いたのも同時。 その鋭利な槍が、俺の背中を貫こうとして―― 「御主人さまっ!」 俺の目の前に飛び出してきたフシギダネに突き飛ばされた。 …間違いなく、俺がトキワのセンターに置き去りにしてきたフシギダネが。追いかけてきたのか。お前を置き去りにした俺を。 「…ウソだろ」 スピアーは真横に吹っ飛んだが、すぐに態勢を立て直してビードルを蹴った不躾な男をにらみつけてくる。 そして、その視線を遮るように立つ小さな姿。俺はその姿を見て、問わずにはいられなかった。 「フシギダネ、お前、どうして――」 「あたりまえだよ。だって、マスターはボクのたった一人のマスターだもん」 「けど、俺は――」 「マスター、ボクは、ボクはね。マスターがボクを選んでくれた時、凄く嬉しかった。  この人がボクを外の世界に連れて行ってくれるって分かって、すごくワクワクした!  ボクはその時マスターを守って、一緒に旅するって決めたの!だからボクは、ずっとマスターについていく!」 「フシギダネ――」 …ああ、そうか。コイツは俺がどんな人間だろうと関係ないんだ。 ずっと研究所にいたフシギダネにとっては、俺はたった一人のマスターなんだ。 なんだ、畜生。俺はトレーナーになれないんじゃない。コイツと出会った時点で、俺はもうトレーナーとして旅を始めたんだ―― 「…ありがとう、フシギダネ。それとごめんな、置いて行っちまって。  俺さ、頑張るよ。お前が頼りにできるようなマスターになるからさ、俺と一緒に来てくれるか?」 「うん!」 よし、そうときまればまずは目の前の問題を片付けるべきだ。 先ほどと状況は何も変化していない。こちらの圧倒的不利…だが、それを覆すのもトレーナーの仕事だろう。 …だが、新米トレーナーたる俺には勝つ手段は思いつかない。…とすれば。 「フシギダネ!」 「うん!」 「今の俺たちじゃ勝てない、逃げるぞ!」 「はいっ!」 二人で同時に反転し、トキワシティ方面に向かって走りだす。 …俺はこいつを連れて歩く資格があるのか。 俺はちゃんとしたマスターになれるのか。 …わからない。 けれど。今はわからなくてもいい。きっと答えは、この先にある。 仲間たちと進んでいく、この旅路の果てに。 そう、きっと今は、まだ初めの第一歩だから。 「でも御主人さま!」 「なんだ!?」 「どこまで逃げたらいいの!?」 「さぁな!とりあえず森の出口までダッシュだ!後はまぁトキワセンターでも目指そう!」

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