4スレ>>74

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 俺は駆け出しにもなってないトレーナー。  今日、オーキド博士にもえもんをもらって、ようやく駆け出しになるんだ。  名前は……これ単発の話だから、言わなくても問題ないよね。  アニメの主人公みたいに、わくわくで眠るのが遅かったけど、遅刻はしない。  だって、絶対パートナーにしたいもえもんがいるから!  それは、ヒトカゲ!   初心者トレーナーの手引書で、御三家として紹介されていた記事を見たときに、一目ぼれ。  その日から、ヒトカゲと一緒に旅して、仲良くなって、それから……と妄想が広がり続けた。  どこでも妄想に浸っていたおかげで、回りから変な目で見られたけど、ヒトカゲが可愛いから仕方ないんだ。  回りは、わけわからんこと言うなって言ってたけど、ヒトカゲの可愛さがわからんとはけしからん。  つい、言語にできてない奇声で、ヒトカゲの可愛さを表現しただけじゃないか。   「ヒトカゲください!」  オーキド研究所に入るなり、願望や欲望、期待、妄想ごちゃ混ぜにして、大声出したら、大勢の注目集めた。  なんでこんなに人数集まってんだ? 「あ~君、落ち着きなさい」  白衣着た人が近寄ってくる。若いからたぶん博士の助手なんだと思う。 「落ち着いてなんかいられませんよ! 今日という日をどれだけ楽しみにしてたかっ!」 「うん、それはとてもよくわかる。たぶん、この中で一番気合が入ってるだろうね。  でも、説明の始まる時間までまだあるから、それまで待っててくれないか」  また待つのか……。仕方ないか、ここで我侭言ってヒトカゲをパートナーにできないなんて事態にならないようにしないと。 「わかりました」 「うん、あと三十分くらいだから、それまで大人しくね。  それと、これを渡しとくよ」  渡されたのは、15と書かれた紙。なんだろ?  それにしても三十分かぁ、待ち遠しい。  壁際に寄りかかって座る。暇だな~。  時計を睨みながら待つ。ゆっくりと秒針が進み、時間が経つにつれて、十五人くらいだった人数が倍になっていった。  もしかして、この場にいる全員がトレーナーになるのか?  手引書には、同時期に旅立つのは、一人から三人くらいだって書いてあったぞ? 「はいはい、ちゅうもーく!」  さっきの助手さんが、手を叩いて全員の注目を集める。 「オーキド博士から、説明があります。きちんと聞いてないと、困ったことになりますから、聞き逃しのないように」 「はじめまして、私がオーキドじゃ。  これより、ここにいる全員にこれから一緒に旅に出るパートナーを渡そうと思う」  待ってました! いよいよヒトカゲが嫁にくるのか!  でもオーキド博士は、もえもんボール持ってないし、それらしきものはこの部屋のどこにもない。  かわりに助手さんが、穴のあいた箱を持ってる。あとホワイトボードに、三十人のもえもんの名前が書かれている。 「ほんらいならば、ここで御三家とよばれる三人を連れてくるのじゃが、この場を見てもわかるように君たちは人数が多い。  例年をはるかに超す人数じゃ。君たちの世代は、生まれた子が多いし、トレーナーになりたい子も多いみたいじゃな。  そこで私たちは、あちこち走り回り、新米トレーナーのパートナーになってくれるもえもんを探し回った。御三家では、たりないからの。  そのかいあってか、人数分のパートナーは用意できとる。パートナーがいないという事態にはならないから、心配せんでよい」  なんだか嫌な予感がしてきた。 「パートナー選びじゃが、自由に選ぶ方法じゃと時間がかかるし、ほかの人と希望が被るかもしれん。  そこで、こちらでくじを用意した。そのくじをひいて出たもえもんを、パートナーとしてほしい。  こういった方法は、あまりよくないとわかっておるのじゃが、何せ君たちは人数が多いからの。例外的処置だと思ってほしい。  パートナーと性格的に合わない場合は、きちんと考慮するから、申し出てほしい」  くじ? それじゃ俺のヒトカゲが、ほかの誰かのパートナーになる可能性があるってこと?  ちょっそりゃないぜ、とっつぁん。今日という日をどれだけ楽しみしてきたか。  予想外のことが起きて、ほかにも何かを言っているオーキド博士の言葉を聞き逃す。 「それでは、渡された紙に書かれている数字順に、くじをひいてくれ」  俺の嘆きなんか関係なく、くじびきが始まった。  我が嫁ヒトカゲを迎え入れるには、三十分の一の確率を引き当てる必要がある。  ん? いや、そうじゃないか。俺より前の人が、ヒトカゲを当てない可能性と、残ったもえもんの中から引き当てる確率だから……いくつだ?  まあいいや、問題は俺のくじ運が悪いってことだ。  以前から末吉、五等以上のくじを引き当てたことがない!   いやいや、今日この日のために、運を貯めてきたと考えるんだ! レッツポジティブシンキング!  あとは祈れ! 前の人たちがヒトカゲ当てないように、自分が引き当てるように。  祈りが神様に届いたのか、誰もヒトカゲを引き当てることなく、順番がきた。  ただ、伝説もえもんのサンダーがいたような気がするのは、気のせいか? 祈るのに集中してて、よく見てなかったけど。 「紙をください。はい、15番で間違いないですね。では、どうぞ」  箱を差し出される。  今まで生きてきた中で、一番緊張する。震えそうな手を、箱にいれる。かさりと箱の中のくじに、指が触れる。  ど、どれがヒトカゲなのか!  迷う……迷う……迷う……くっどれもヒトカゲの気がしてきた。 「早くしてほしいんだが?」  ま、待ってほしい。  迷いすぎたのか、心の中で変な声が聞こた。 (お前のヒトカゲへの愛は、その程度なのかっ。嫁とまで言うのなら、確率くらい軽く乗り越えて、引き当てて見せろ!) (お前は誰だ!) (私のことなど、どうでもいい。今ここで重要なのは、お前の愛がヒトカゲに届くかどうかだ) (俺の愛は本物だ!)  俺の愛をなめるな! 感じるんだヒトカゲを、俺を待っているヒトカゲを。  もしかしてこれか? 引いたくじはほのかの温かい。ほのおタイプだからか? 「これでお願いします」  震える手で、ひいたくじを渡す。 「はい、えっと」  心臓がすごい音をたててる。  なぜだか、世界の動きがスローに。  口の中はからからで、手は汗だく。 「……ヒトカゲですね」 「モウイチドオネガイシマス」  聞き間違いじゃないよね!? 「ヒトカゲです」 「ぃやったああああぁぁっ!」 「お、おめでとう」  俺のあまりの喜びように、助手さんは盛大にひく。 (おめでとう、これでお前の愛は本物だと証明された) 「ありがとうございます!」  助手さんと誰か二人に、力いっぱい礼を言う。 「あちらで、ヒトカゲの入ったもえもんボールを受け取ってください」  指示に従って、ボールと育て方などが書かれた冊子をもらう。 (よかったな) (ああっ本当に!) (これで私の役目は終った。お前があまりに迷いすぎて、うまれた人格は消える) (お前、俺なの!?) (そうだ。迷うお前に適当なこと言って、選択させるために生まれたのだ。  人によっては、電波を受信したとも言う)  さらりとおかしなことを言って、そいつは消えていった。  えっと、のせられただけ? もしかしてヒトカゲ引き当てたの偶然?  ま、まあいいよね。ヒトカゲがパートナーになるんだし。 「出てこいっ」  研究所から出て、さっそくヒトカゲを出す。  現れたのは、当然のごとくヒトカゲ。  夢じゃないっ夢じゃないんだっ! 「ご主人様?」  涙を流して、感動に打ち震える俺に、こわごわとヒトカゲが話しかけてくる。 「なんだいっ? 式場がどこがいいかは、ヒトカゲの意見も聞くよ!」 「式場?」 「ああっその前にご両親に挨拶に行かないと!」 「挨拶?」  果てしなく暴走する俺に、ヒトカゲのひのこが炸裂するのは、十分後のことだ。  この日から、ヒトカゲと俺のラブラブな日々が始まった。  のちのヒトカゲの証言によると、すぐ暴走する俺に対しての突っ込みの日々だったらしいが。

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