4スレ>>98

「4スレ>>98」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

4スレ>>98」(2008/01/12 (土) 23:37:11) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

 風がある。  山を麓から頂まで駆け上がる初春の風だ。  草花や木々を撫で上げて、波の如く斜面を揺らしている。  そしてその山に、大きく開けた場所があった。  延々続く森が途切れ、一本の未舗装の道が新たな森の中へと伸びていた。 「ますたー、ますたー!」 「山道だってのに元気だな……少し休ませてくれよ」  その道に、二人分の姿が現れる。  帽子を深めにかぶったズバットと、それを追うようにトレーナーが。  森を抜けたことに気付いた彼らは一帯に広がる景色に圧倒された。 「うわぁ……綺麗ですねますたー」 「あぁ、こんなところが実際にあるんだなぁ」  左手、視界一杯を埋め尽くすように存在する二色は、麓からそれが続いているかのよう。  それは右手、緩やかな勾配を山頂付近まで覆っていた。 「でも……ちょっとおかしく見えないか、ズバット」 「……ボクも少しだけそう思いました」  揺られ動く二つの色はそれぞれ一種類の花だった。  タンポポの黄とバラの赤。  在り得るのかと思われるような花の共生。  それぞれは真っ二つに分断され、作為すらを感じさせる。  だが、その作為性が、群れる黄と赤の違和感を軽減しているようだ。 「――」  トレーナーに相槌を打って、立ち尽くしていたズバットが突如動き出す。  翼を広げ、ぱたぱたと花畑へと下り、ちょうど二種の境目に降り立った。  くるり、と振り返って、帽子のつばを上げる。  視線を彼へと、見上げるようにし、口を開いた。  真剣な面持ちで、 「ますたーは……ますたーはバラとタンポポ、どっちが好きですかっ」 「んー、派手なのよりは控えめで落ち着いた感じがいいから……タンポポかな」 「そ、そうですかっ!?」 「あぁ。んで、ズバット、お前はどうなんだ?」 「ボクは――」  ざぁ、と一際強い、疾風とも呼べる風が吹き抜けた。  山頂まで一気に突き抜ける風は、ズバットの帽子と黄色の花びらを奪っていく。  その言葉も同時に、だ。  そして、勢い良く舞い上がった帽子をズバットは見送った。 「よ――っと」  ズバットは思う。  ボクの言葉はいつもタイミングが悪い、と。  大事なことを伝えようとすると何かに邪魔される。  落雷であったり、汽笛であったり、それは様々だ。  溜息一つ。 「ほら、帽子。気に入ってるんだったらちゃんと大事にしてくれよな」  顔を下げた彼女にトレーナーは帽子を手渡した。  だが彼女は何も口にせず、手も出さない。  彼は困ったように一度だけ空を見上げる。  透き通るような青空の中、何かに追われるように雲が行く。  漂っているようにはどうしても見えなかった。  視線を戻し、 「ふぅ……落ち込んでるお前はあんまり見ていたくないんだけどな」  地面にしゃがみこむ。  彼はタンポポを一輪摘むと、帽子の脇に茎を刺した。  そうして立ち上がり、彼女の頭にかぶせる。  帽子が、彼女の手に取り戻された。  トレーナーはばた、と赤と黄の色に仰向けになって倒れる。  空を見ていたくなくて、目を閉じた。  そして一言。 「……タンポポ、好きなんだろ?」  その言葉にズバットの顔がば、と上がる。 「え? そ、それは……ますたー……」  違うのか? と彼は尋ねた。  その声色は疑問というよりは念押しのような雰囲気だった。  絶えず流れていた風がぴたりと止んだ。  耐え難いようで、どこか心地よい無音が辺りを支配する。 「いえ、ボクは――ボクもタンポポの方が好きですっ」 「そっか。なら良かった……」  バラの方が好きだったら恥ずかしかったよ、と彼は笑う。  その笑顔につられてズバットの顔にも笑みが浮かんだ。 「もう少しのんびりしようか、気持ちいいし。ほら、隣空けてやる」 「はい……有り難うございます」 「ん? 何か言ったか?」 「少しだけ。でもますたーなら分かってくれると思います」 「はは、無茶苦茶なこと言うなよ」  だって、とズバットは前置きする。  ますたーは帽子だけでなく、ボクの言葉も取り返してくれましたから。 ト「いたっ」 ズ「ますたー、どうしたんですか?」 ト「いや、ちょっとバラの棘が……」 ズ「見せてくださいっ」 ト「ほら、このあたり――ってズズズズズズバット!?」 ズ「ますたぁの血……(ちゅうちゅう」 ト「このオチで締めるのかっ!? ズバットはこのオチなのかっ!?」 ズ「おいしいです……」

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。