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「4スレ>>99」(2008/01/12 (土) 23:37:38) の最新版変更点
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電灯の落とされた暗い部屋に、着流し姿のもえもんが一人、窓辺に腰掛けている。
手には杯、床に酒瓶。満月を肴に、ゆっくりと酒宴を楽しんでいる。
満月の柔らかな光に照らされたもえもんは、じっとしていると芸術品と言っていいほどの美麗さを醸し出す。
白の長髪は、月明かりで煌いて銀糸へとかわる。一房だけある黒髪だけは、光を反射せず、漆黒の輝きを見せている。
紅玉の瞳は何を思うのか、誰にもその感情を読み取らせることなく、静かに夜空をみつめる。
時おり、くいっと杯を傾けるだけで、ほかには何も動くものなどない静寂の空間に、誰かがやってくる。
その気配に、気づいていても気にすることなくもえもんは、一人の酒宴を続ける。
「……アブソル、ここにいたんだ」
カチャリと小さな音を立てて、開いたドアの向こうにいたのはアブソルのトレーナー。
少しアブソルに見惚れた少年は、顔を赤くしたまま声をかける。
「なんのようだい、坊主」
目は外に向けたままアブソルは、自らの主人に問う。
それを少年は気にせず、アブソルに近寄っていく。電気をつけなかったのは、この光景がなくなるのがもったいなかったからなのか。
「リーグ挑戦激励会の途中でいなくなっただろ? どうしたのかと思って」
「十分楽しんだからね、一人でゆっくりしたくなったのさ」
「そうなんだ……少しお邪魔していい?」
「いいぜ」
再び杯を傾ける。
こくりと艶かしく動く白い喉に、少年は見惚れる。それに気づいて、ついっと目をそらす。
少年とアブソルの付き合いは古い。カントーとは違う地域から流れてきたアブソルに、七年前出会ったのが付き合いの始まり。
仲間の中で、付き合いが一番長いが、いまだにアブソルのこういった雰囲気に少年が慣れることはない。
いや、こういった色気がわかるようになって、接し方がわからなくなっているのだろう。
そんな若い反応を見せる少年をアブソルは、面白がっていた。今も、クスリと少年に見えないように笑っている。
「お酒って美味しい?」
少年は照れ隠しに話しかける。
「美味い。興味あるなら、飲んでみるか?」
「いいの?」
「少しだけならな」
そうういって手に持った杯を、少年に渡す。
受け取った杯を口に持っていき、くいっと傾け一瞬止まって、アブソルに返す。
顔が赤いのは、酔ったからではないだろう。初めて飲んだとはいえ、酔うほどの量は飲んでいない。
アブソルが飲んでいたところと同じ箇所で飲んだと、気づいたからだ。
「どうだ?」
「喉が熱くなるだけで、あまり美味しくは感じない」
「まだまだ子供だな」
杯に酒をなみなみと注いで、いっきに傾けた。
くはぁと熱い吐息が漏れる。
美味しそうに飲むアブソルを、若干羨ましそうに少年は見る。
「そんなに美味しいなら、いっきに飲むのはもったいないんじゃ?」
「酒は、ちびりちびり味わいながら飲むか、水のようにごくごく飲むかだ。
だから、いっきに飲むのも間違っちゃないんだよ」
「へー、俺もそんなふうに飲めるようになるのかな?」
「坊主が飲めるようになったら、またこうやって一緒に飲むか」
「うん」
「酒の味がわかるようになるのは、当分先だろうけどな」
「すぐにわかるようになる」
少し急いた感じで少年が答える。
「急がなくていい。私は逃げやしないから、ゆっくりと成長していけ。
急いだっていいことはないぞ」
アブソルが諭すように言う。
それと同じタイミングで、部屋の外から少年を呼ぶ声がする。
「ほら、あいつらが呼んでる。行ってやりな」
「アブソルは?」
「私はまだここで飲んでるよ。
満月が綺麗過ぎて、離れるには惜しいからな」
ドアノブに手をかけた少年に、付け加えるように声をかける。
「激励のプレゼントはあげたんだ、明日から頑張れよ」
「何かもらったっけ?」
「間接キス」
不思議そうだった少年の顔が、瞬時に真っ赤になる。
「いやっあれはって気づいて!?」
「わざとそうなるように渡したからな」
くくっと笑うアブソルを、情けない表情で少年は見返す。
何も言い返すことなく、少年は部屋を出る。
「可愛いねぇ」
楽しそうに笑い、杯を傾ける。
「ああいった反応が見られるうちは、一緒に酒は飲めないか?
ふふ、あの坊主が、どんなふうに大きくなるのか楽しみだ」
満月に加えて、少年の成長を楽しむということを酒の肴に、さらに杯を傾ける。
本当に楽しそうな顔のアブソルを見ていたのは、満月だけ。
そんな満月に、アブソルはもう一つの杯を用意して、酒を注ぐ。
乾杯と当てられた杯は、リーンと涼やかな音を響かせた。