4スレ>>99

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電灯の落とされた暗い部屋に、着流し姿のもえもんが一人、窓辺に腰掛けている。  手には杯、床に酒瓶。満月を肴に、ゆっくりと酒宴を楽しんでいる。  満月の柔らかな光に照らされたもえもんは、じっとしていると芸術品と言っていいほどの美麗さを醸し出す。  白の長髪は、月明かりで煌いて銀糸へとかわる。一房だけある黒髪だけは、光を反射せず、漆黒の輝きを見せている。  紅玉の瞳は何を思うのか、誰にもその感情を読み取らせることなく、静かに夜空をみつめる。  時おり、くいっと杯を傾けるだけで、ほかには何も動くものなどない静寂の空間に、誰かがやってくる。  その気配に、気づいていても気にすることなくもえもんは、一人の酒宴を続ける。 「……アブソル、ここにいたんだ」    カチャリと小さな音を立てて、開いたドアの向こうにいたのはアブソルのトレーナー。  少しアブソルに見惚れた少年は、顔を赤くしたまま声をかける。 「なんのようだい、坊主」  目は外に向けたままアブソルは、自らの主人に問う。  それを少年は気にせず、アブソルに近寄っていく。電気をつけなかったのは、この光景がなくなるのがもったいなかったからなのか。 「リーグ挑戦激励会の途中でいなくなっただろ? どうしたのかと思って」 「十分楽しんだからね、一人でゆっくりしたくなったのさ」 「そうなんだ……少しお邪魔していい?」 「いいぜ」  再び杯を傾ける。  こくりと艶かしく動く白い喉に、少年は見惚れる。それに気づいて、ついっと目をそらす。  少年とアブソルの付き合いは古い。カントーとは違う地域から流れてきたアブソルに、七年前出会ったのが付き合いの始まり。  仲間の中で、付き合いが一番長いが、いまだにアブソルのこういった雰囲気に少年が慣れることはない。  いや、こういった色気がわかるようになって、接し方がわからなくなっているのだろう。  そんな若い反応を見せる少年をアブソルは、面白がっていた。今も、クスリと少年に見えないように笑っている。 「お酒って美味しい?」  少年は照れ隠しに話しかける。 「美味い。興味あるなら、飲んでみるか?」 「いいの?」 「少しだけならな」  そうういって手に持った杯を、少年に渡す。  受け取った杯を口に持っていき、くいっと傾け一瞬止まって、アブソルに返す。  顔が赤いのは、酔ったからではないだろう。初めて飲んだとはいえ、酔うほどの量は飲んでいない。  アブソルが飲んでいたところと同じ箇所で飲んだと、気づいたからだ。 「どうだ?」 「喉が熱くなるだけで、あまり美味しくは感じない」 「まだまだ子供だな」  杯に酒をなみなみと注いで、いっきに傾けた。  くはぁと熱い吐息が漏れる。  美味しそうに飲むアブソルを、若干羨ましそうに少年は見る。 「そんなに美味しいなら、いっきに飲むのはもったいないんじゃ?」 「酒は、ちびりちびり味わいながら飲むか、水のようにごくごく飲むかだ。  だから、いっきに飲むのも間違っちゃないんだよ」 「へー、俺もそんなふうに飲めるようになるのかな?」 「坊主が飲めるようになったら、またこうやって一緒に飲むか」 「うん」 「酒の味がわかるようになるのは、当分先だろうけどな」 「すぐにわかるようになる」  少し急いた感じで少年が答える。 「急がなくていい。私は逃げやしないから、ゆっくりと成長していけ。  急いだっていいことはないぞ」  アブソルが諭すように言う。  それと同じタイミングで、部屋の外から少年を呼ぶ声がする。 「ほら、あいつらが呼んでる。行ってやりな」 「アブソルは?」 「私はまだここで飲んでるよ。  満月が綺麗過ぎて、離れるには惜しいからな」  ドアノブに手をかけた少年に、付け加えるように声をかける。 「激励のプレゼントはあげたんだ、明日から頑張れよ」 「何かもらったっけ?」 「間接キス」  不思議そうだった少年の顔が、瞬時に真っ赤になる。 「いやっあれはって気づいて!?」 「わざとそうなるように渡したからな」    くくっと笑うアブソルを、情けない表情で少年は見返す。  何も言い返すことなく、少年は部屋を出る。 「可愛いねぇ」  楽しそうに笑い、杯を傾ける。 「ああいった反応が見られるうちは、一緒に酒は飲めないか?  ふふ、あの坊主が、どんなふうに大きくなるのか楽しみだ」  満月に加えて、少年の成長を楽しむということを酒の肴に、さらに杯を傾ける。  本当に楽しそうな顔のアブソルを見ていたのは、満月だけ。  そんな満月に、アブソルはもう一つの杯を用意して、酒を注ぐ。  乾杯と当てられた杯は、リーンと涼やかな音を響かせた。  

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