4スレ>>110

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「うん、味付けはこれくらいでいいか」 「助けてマスター!」  昼食の準備をしていた少年のもとに、相棒の助けを呼ぶ声が聞こえてくる。 「チコリータ!」  声の聞こえてきたほうへ、少年は走る。  小枝や雑草を払いのけて、藪を突っ切ると、澄んだ泉が見えた。  その中央で、チコリータがバチャバチャと音を立てて、なんとか浮き上がろうとしている。 「マスター!」 「なんでいきなり溺れてんだ!?」  そう突っ込みながらも、少年は泉に入っていこうとする。  だが、それを邪魔するかのように、泉が眩しい光を放つ。  少年は、光に目が眩んで、思わず足を止めた。その間に、チコリータは泉の中に沈んでしまった。 「チコリータ!」  今ならまだ間に合うと、泉の中に入ろうとする少年。  そのとき、再び泉に変化が起きる。ぶくぶくと泉の底から、気泡が湧き上がり、それに合わせるように、影が徐々に水面へと上がってくる。  現れたのは、緊急の用事で出かけた泉の女神に、代理を頼まれたルギア。 「おぬしが落としたのは、こちらのベイリーフか、それともこちらのベイリーフ・ルイ・アームストロング少佐?」  ルギアの両脇にベイリーフたちが並ぶ。  ベイリーフの笑みには癒されるが、少佐のポージングはできるだけ直視したくない。 「両方とも違います」 「正直者には、両方差し上げましょう」 「いらん! 特に、少佐はっ。  チコリータを返してくれ」 「私も正直、少佐と一緒にいるのがつらい。これ以上筋肉見たくない。  チコリータ返すし、ベイリーフもつけるから、一緒に連れて行ってくれ」 「押し付ける気か!? 俺だっているかっこんな筋肉だるま!  というか同種族三人も連れてどうしろと!?」 「お前が連れていかないと、私はもうしばらく一緒にいるはめになるんだぞ!」 「ずっとじゃないんだから、我慢してろよ!」  しばらく二人の言い合いが続く。  さんざんな言われようだが、少佐は気にすることなく、ポーズを取り続けている。  ステータス画面で性格を見たら、寛容とか大物とか書かれているに違いない。もしかすると、ずぶといかもしれないが。 「とにかく」  ルギアはそう言いながら、チコリータを泉から引っ張り出す。 「渡したからな」  少年にチコリータを押し付けて、ルギアは泉の中に帰っていった。  ベイリーフ二人は、水面に立ったままだ。 「置いてくなー! 持って帰れー!」  水面に怒鳴っても、何の反応もない。ただ水面がゆらゆらと揺れるだけ。  ちゃぽんと音のがした方向を見ると、蛙が出てきたところだった。 「チコリータ、昼ご飯たべよーかぁ」 「そ、そうですね」  チコリータを抱いたまま、少年はベイリーフたちとは目を合わさず歩き出す。  抱かれて後ろが確認できるチコリータは、ついてくるベイリーフたちが見えていた。 「マスター」 「ん? 昼は、スープとサンドイッチだぞ」 「そうじゃなくて」 「それじゃ、次はどこへ向かうか? そうだな……」 「そうでもなくて」 「それじゃ」 「マスター、気づいてるでしょ?」  がさごそと、一人が歩くには多すぎる音がするから、気づかないほうがおかしい。  それでも無視したいのだろう。少年はかたくなに、後ろを見ない。  そのまま、もといた場所に戻ってきた。  準備していた昼食を二人分並べる。 「いただきます」 「い、ただきます」  目の前に座っている、ベイリーフたちをまるでいないかのように少年は振舞う。  チコリータは、いいのかなと思っているが、どうしようもないので昼ご飯を食べることにした。 「少年よ」  少佐が呼びかける。  少年は、もぐもぐとサンドイッチをほおばる。 「少年よ」  再度、呼びかけるが、少年はスープを飲む。 「聞こえてないのだろうか?」 「確実に聞こえてるだろ。ただ頑固なだけ」 「どうすべきか」 「こいつが、現実を認めるしかないだろ?  マスター登録もされてるんだし」  なにか噴出す音がした。  そっちを見ると、少年がベイリーフたちを見ていた。 「マスター登録って……まじだ!? なんで!?」  慌てて開いたもえもん図鑑の所有もえもん画面に、ベイリーフたちが追加されているのを見て少年が驚いている。 「あいつは、神と呼ばれるもえもんだからな。それくらいは朝飯前だ」  少佐も肯定するように頷いている。 「んな理不尽な!」 「あははは、諦めろ」 「これから、兄妹ともどもよろしく頼む、主よ」 「お前ら家族かよ!?」  比較的どうでもいいところに突っ込む。本題から目をそらしたいのか。 「即捨てる!」  なぜか、腰に二つ増えてついていたもえもんボールを、森に投げ捨てる。  ぽーんと藪に放り込まれたボールは、誰かが投げ返したように少年の前に落ちてきた。  もう一回違う方向に投げても返ってくる。 「なんでだー!」 「あいつがそうなるように仕込んでた」 「私たちを大事にしてほしいと、願いを込められたのだ」 「願いじゃなくて、呪いだろぉっ!」  そんな少年を妹ベイリーフは笑いながら、見ている。 「おもしろい奴だ、私は気に入った! 兄貴は?」 「私は、良く育てれたチコリータを見たときから、気に入っているが?」 「さすが兄貴。そんなわけで、これからよろしく」  さすがに諦めたのか、少年は地面に両手両膝をつけて落ち込む。  そこに少佐が、止めを刺した。 「我々は、レギュラーメンバーからも外せないので、注意してほしい」  パソコンに放り込んでおくという希望もなくなって、地面に倒れこむしかなくなった少年。  そんな少年をほおって、ベイリーフたちは、チコリータに昼食を出してもらっていた。

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