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「4スレ>>129」(2008/01/15 (火) 21:53:34) の最新版変更点
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底冷えのするような、暗い洞穴の中。
削れて丸みを帯びた岩が作る小さな生簀のような水塊に、天井からぴちょん、と水滴が流れ落ちた。
奥の奥まで繋がった闇の中にぽっかりと空いた小さな穴、それを怪奇な自然現象だなどと考える必要はない。
何故ならそこは、玉座だから。
神聖ではあるが不可侵ではない、圧倒的な存在だからこそ、侵入者でもなく、此処まで訪れるゲストに対しては寛大だった。
永く永くその時間を漆黒と共に刻んできたその空間は、人の希望という希望を叩く永遠かと思われる闇の終点。
しかしそれも、所詮は振るい落し。
それを待ち受けるのは人智を圧倒的に超えた、生物というより存在そのもの。
尤もだからこそ、その玉座に訪れるゲストも、近づけずに断念する一流の冒険家達も、後を絶たないわけだったのだが。
そして彼も、そんな果敢で優秀なトレーナーの一人。
「……」
憔悴しきってぜいぜいと息を吐いて仰向けに倒れる彼は、未だ信じられないというように唇を噛み締める。
信頼できる相棒も、十二分を望んだ戦力も、普通に考えれば異常に過ぎる準備も、全てを完璧に怠らなかったはずだったし、
彼が何度思い返してもそれが間違っていない事は変わらない。
それを以ってしても、遠く支配者たるべき者には届かなかっただけ。
(……あー、ちっくしょ。体動かねーや)
力を使い果たしきった彼は首だけを動かして、台座のように飛び出した岩の上に優雅に座る彼女を見つめた。
いや、違う――彼女が座れば、そこが台座になるのだ。
錯覚でもなく事実としてそれを認めさせる何かを、彼女は持っている。
白と青、透き通るようなその世界を体現するドレスに、ルビーのような赤い装飾が映える。
足はすっぽりと覆われて見えないが、手には手甲とも手袋とも違う、腕より遥かに太く平たい『何か』を付けていた。
(まさか、ここまでとは。……つーかスカーフ巻いてんの、何だろ)
その支配者の名前は、カイオーガ。
其の名の通り海の王であるが、彼女はどちらかといえば海の王というよりむしろ、世界を構成する海そのものだった。
暇を持て余した彼女を楽しませたその『返礼』を受けて、彼の相棒という相棒は片端から全滅。
敢え無くボールへと身を置くことになり、その余波を受けた彼もやはり無事では済まなかった。
尤も、余波でなければ彼の意識自体が紙くずのように消し飛んでいただろうが。
(あ、……来るか)
彼の視界の中で垂直に座る彼女は、ドレスをほんの僅かに捲り上げてからあくまで優雅に立ち上がった。
強烈な彼女の一撃を受けて岩盤ごと抉れた天井から今もぽたぽたと零れ落ちる残滓の中、彼の方へゆっくりと近づいてくる。
その表情は、無表情――と、そう彼には見えた。
しかし正確には立っているだけで身を貫くような威圧感があるその姿の前で、彼女の表情を窺うなどという小細工をする事が出来なかったのだ。
(何をされるんだろうな)
純粋に嬉しそうに微笑みながら、非道にもほどがある激流をぶっ放してきた彼女に取って食われるだろうという事はないにしても。
勝手に住居に入った事は確かだし、と彼は考える。
何より何か楽しそうだという理由で恐ろしげなことをされる気がなくもない。
どちらにしても、自分は敗者。
その運命を断ることなく受け入れようと思った。
そんな彼の想いが通った視線の中、彼女は彼の横まで来ると、その削れた穴だらけの岩床の上に腰を下ろす。
露出した肩部分が、他の部分が隠れているせいか、それともこの特殊な状況下のせいか、妙に艶かしく眩しかった。
彼は覚悟してその瞳を瞑る。
来るべき何かに備えてか、あるいは無意識に恐怖を嫌ってかは知らずに――
――ふに、ふに
知らずに?
――ふにゅ、ふにゅ
「あ゛ぁ?」
知らずに。
思わず声を出してから、彼はしまったと口を塞ごうとして、それ以上に異常な状況に我を忘れた。
あろう事か。
「どうかしました?」
あろう事か彼女は彼の横に座り込むと、その脚で彼の胴体を踏み始めていた。
「いや、どうって何故?」
腕をついて少しだけ背を反らし、座った姿勢のままで膝を曲げながら、その足の裏で彼女の胴体部分をやわやわと踏んでくる。
「人間は、こういうのが良いと聞いたんですけど。試してみようかと」
誰だよ教えたの。
彼はそう思いながら、半ば呆然とした表情で、あまりにも異常が過ぎるその光景を見つめていた。
「ん、やりにくいですね」
さらに暫くすると、彼女はそのまま体勢を変えて、彼の腰部分にそのまま体重を乗せようとしてくる。
さすがにそれは抵抗感が働いて、呆然としていた意識を覚醒させると無理矢理その体を反転させようとする。
「ぐっ……」
瞬間、びきりと彼の体が疼いた。
彼に動く事を許さないかのように、打ち付けられた傷跡が疼いて彼をひるませると、その間に悠々と彼女はその柔らかい尻部分を下ろした。
そしてそのまま彼を上から見下ろすような体勢。
すっぽりと脚を覆っていたドレスを膝の後ろまでめくりあげると、そのままその脚で梳くように彼に足の裏の体重をかけてくる。
意図せずに無防備に晒された細やかな素肌の脚と、両脚の付け根の間――が見えて、彼は思わずひるんだ。
その間に、その体を縦横無尽に彼女の足が荒らし回る。
「ちょっ、ちょ、おいっ、やめっ」
早くも敗北者として貫くという初志貫徹は崩れていたが、それを特に気に留める事もなかった。
さすがにこの状態はたまったものではないと、彼は必死に抵抗しようとする。
「嫌なんですか?」
「嫌に決まってるだろッ、というか何考えてるんだ、足でっ」
そんな趣味はないと。
そう主張したくて彼は体を動かそうとしたが、未だに思ったように体は動いてくれていない。
渾身の力を込めても、体重を乗せたカイオーガはぴくりとも反応せず、むしろ押し返すかのように彼に体重を掛けてくる。
逃げられない。
そう思って冷や汗をかきながら顔をひきつらせる彼に、しかし――彼女は、
「そうは、思えませんけど」
「何で、そんな事が言えるんだよっ」
心底おかしそうに、微笑んだ。
「だってさっきから、あなたはちっとも抵抗してませんよ? 指はぴくぴくしてますけど」
「……え?」
彼の口が、一瞬ぽかんと開く。
はっと気付いたように、感覚を確かめる。
右手、左手、右左足、気付けばとっくのとうに体を縛り付けていた痛みは消え去っていた。
なのに体がちっとも動かない、まるで遅れた信号のように指先がぴくぴくと切なく動くだけで、抵抗の素振りをちっとも見せていなかった。
「ほら、ね?」
そら見たことかと笑う彼女の声は、彼にとってはある種の絶望に近かった。
(……俺はいつの間にこんな事で抵抗できなくなるような変態になったんだろう?)
しかしその思考も、すぐにかき消される。
気付いてしまえば逃れられない、その艶かしい足からは。
軽く体重を乗せるように踏んできていた足が、さらさらと足の裏で撫でるように胸元を這い回って彼の全部をひっくるめて刺激する。
つつっと足の指先の小さな親指がくすぐるように脇を狙って進撃する。
その土踏まずが、かぷりと彼の体に喰らいつくと、血を吸われる獲物のようにただ身悶えるしかない。
「やっぱり人間は、こういうのが良いんですね」
否定できない、否定するだけの気力と体力は未だに僅かに残されていても出口を求めて底なしの沼に消えるだけ。
踏み躙るというより優しく愛撫するようなもどかしさに、思わず彼は脱力してしまう。
一方的ではあるが、それは確かに人間の愛とは違う、また一つの愛だったかもしれない。
しかし、面白がって足の進撃をさらに強める彼女に、彼に残されていた人間としての最後の意地が働いた。
「くそ、てめっ……いい加減に、しやがれっ……!」
神経という神経が、たったの足二本で優雅に弄ばれている、その中で。
全身全力を込めて、人間としての尊厳と意地を賭して思い切り四肢に力を込める。
(動けッ、動けッ、動けッ! 受け入れてたまるか、意地を見せろよ……ッ!)
彼の想いが通じたのか、全ての回路は彼に再び再接続。
完全ではないものの、ぐっと身を起こすために力を入れると、そこで初めて上に乗っている彼女の体がぐらついた。
戦闘中にすら見せなかった僅かな表情の動きを見せると、絶え間なく責め続けていたその足が一瞬止まる。
無謀とも言える相手に生まれた、千載一遇の好機。
逃してなるものかと、渾身の力を込めて彼は跳ね飛ばしてでも起き上がろうとする。
彼女は慌てて体を動かしているがもう遅い、体勢を変えるだけの力を入れることなど既に僅かに持ち上がっている状態では出来ない。
人間としての色々なものを賭して、ぴちゃんと上から額に落ちてきた水滴も気に留めず、一気に体を持ち上げる。
――瞬間。
彼の視界が唐突に闇に遮断された。
「……駄目じゃないですか、そんな事したら」
そして、粉々に破壊された。
視界を覆ったのは、繊細にして優雅を極める足の裏。
彼の視線で線までくっきりと見えるその足が、ぴったりと彼の顔を押さえ込むように、頬にあてがわれていた。
それが両足、まるで足の裏が合わさって仮面にでもなったかのように彼の視界をすっぽりと覆った。
そのまま彼の粉々にされた全てを、丹念に磨り潰してしまうかのように、柔肌がやわやわと波打ってくる。
すっと足をどかして彼の目だけを明らかにすると、既に戦意という戦意が喪失していた。
総力を結集した攻め手はたったの一撃で全滅。
「あ、くうっ」
完全に緩みきったその顔に、さらにさわさわと両足が追撃を掛ける。
触れている部分がどこであっても、もはや関係ない。
それは正しく抱擁だった。
足の裏で包み込むかのように優しく抱擁されると、磨り潰されたそれは溶けて消えていってしまう。
その様子を見て、彼女は満足したように慈愛たっぷりに微笑んだ。
「……ふふ」
「く、あぁっ」
嗚呼、と彼はこの時になって、彼女の微笑みを下から見上げながら、ようやく理解した。
対峙した気になっていたのが間違い、そもそもただの自分などではこんな存在に抵抗することすらおこがましいのかと。
神格化されたかのように話される神話上の彼女は、その通り誇張表現ではない。
それは存在自体が、ただの人間とは桁が違いすぎる。
「あ、うっ」
彼女達は一方的に恩恵を与える側。
その体にただ触れることですら、人間にとっては圧倒的、壊れてしまうほどの充足感。
ましてや積極的に弄られているとなれば、そこが例え人間にとってはどれだけ忌まわしく思うべき足という部位であったとしても、
それは至上の幸福感と同義。
勝てるはずもなく、ただ、からからになった喉でごくりと唾を飲み込みながら、彼はその体の上で行われる優雅な舞を眺めていた。
ふと、彼女が動きを止める。
「次は、どうしてほしいですか?」
ああ、恐れ多くも発言権を賜っている。
彼は神経と思考をそのまま焼き切ってしまうかのような、強烈で容赦の無い幸福感に身を抱かれて、すでに荒く息をついていた。
その息を整えないまま、言葉を紡ぐ。
夢見心地の、そのままで。
「――」
「あらあら、大変ですね」
「――」
彼女はそこで、くすりと微笑んだ。
それにどんな意図が込められていたのか、彼は知ることもない。
知る必要も、ない。
「わかりました。それでは、望みのままに」
その素足を持ち上げて、くるりと彼の腰の上で180度、方向を転換して――
――めのまえが まっくらになった
◇ ◇ ◇
「という夢を見たわけだが」
「だから、それで何をコメントしろと言うんだ? 主は。踏んでほしいのか」
「夢にしてはやけに過ぎるほどリアルですよねー。マスター、実はそういう経験があるんじゃないですか?」
「…………」
「おい、ドククラゲ。何処に行くんだ」
「……ちょっとそこのショップまで……。新しいストッキングと靴下と下着とリボンと鞭とローションとボンテージを買ってくる」
「後半の意味を教えてくれないか……?」
「真面目にやれ、クラゲ」
「私はいつだって本気」
「いっそ風邪でもひけ、クラゲ。少しはマシになるかもしれない」
どうやら、この先を見るにはパスワードが必要なようだ。