4スレ>>148

「4スレ>>148」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

4スレ>>148」(2008/01/18 (金) 01:34:13) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

『これも一つの接し方』  空には虹がかかり、その麓に島がある。そこは、さほど大きくもないどこかの無人島。  周囲には、海以外なにもなく、見えるのは空と雲、ときどき水を跳ねる魚ともえもんくらい。  普段は静かな島から、今日は音が響いている。生活音や話し声などではなく、破壊音。  音とともに稲光、炎の残滓、飛び散る氷片、吹き荒れる風に混じって舞う木屑などが、見える。  かれこれ三十分前から、続いている現象だ。  そんな島に、船が一隻近づいている。  船を下りた男は、にぎやかな様子に軽く驚きつつも、のんびりと荷物を下ろす。  四つのもえもんボールから、仲間を出した男は、少し話したあと、荷物の一部を持って歩き出す。  その方向は、騒音の中心地。  仲間たちは、それを見ても慌てず、砂浜で戯れたり、泳いだりと好き勝手遊びだした。  まるで危険なことなど、起こりはしないとわかっているかのようだ。 「強すぎだろっ」  年は十代後半くらいだろうか、もえもんボールを持った少年が、何かを前にして呟いた。  少年の目の前にいるのは、自分の仲間であるラプラスとスターミー、パウワウ。  そして、敵対する七色に輝く羽を持つもえもん、ホウオウ。  少年のもえもんたちは、傷つき息も切れて、その場に立っているのがやっと、といった感じだ。 「もう一度だ! なみのり、ハイドロポンプ!」  少年の指示に従って、もえもんちが攻撃を仕掛ける。  状況から見て、これが最後の一撃だろう。  ホウオウから受けるプレッシャーに萎縮したもえもんたちは、技を使う体力も削られていた。  大波と激水流が、ホウオウに迫る。  弱点である水の技を前にして、ホウオウは慌てず、 「めいそう」  技を用いて、防御を固め、水に対抗する。  衝突した水が、全て地に落ちる。残ったのは、水に耐え、疲れた表情を見せるホウオウ。  だがそれも、 「じこさいせい」  受けたダメージを回復させ、万全の状態にホウオウは戻る。  そして続けて、 「十万ボルト」  瞑想によって威力の高まった十万ボルトが、少年のもえもんたちを激しく打ち据える。  それが止めとなって、ラプラス、スターミー、パウワウの三人は、戦闘不能に陥る。 「これで終わりじゃな?」  ホウオウは、戦闘の終わりを告げる。  僅かにだが頷いた少年は、うなだれたまま仲間たちをもえもんボールに戻していく。  1時間近くにも及んだ戦闘は、ようやく終わり、無人島にいつもの静けさが戻ってきた。    ホウオウが飛ぶことを止め、岩に座るのと同時に、藪ががさごそと音を立てる。 「また客か? 面倒じゃのう」  そう言いながらも、立ち上がり戦闘状態に移行するホウオウ。  少年も、藪を見つめている。自分以外の挑戦者のことが気になるのだろうか。  だが、ホウオウは藪から出てきた男を見て、緊張を解く。 「誰かと思えば、おぬしか」 「や、また来たよ」  軽く手を上げて、ホウオウに挨拶をするのは、船を使い無人島に来た男。 「今日のお土産は、シュークリーム。うちの仲間にも好評だったやつだ」 「それは楽しみじゃな」  言葉から推測するに、男はホウオウに会うのは初めてではないらしい。  ホウオウの柔らかな態度も、そのことを証明していた。  戸惑うのは少年、自分と対していたときと全く違うホウオウの態度に、困惑を通り越して理不尽ささえ感じていた。 「ちょっと待てよ! なんで俺とそいつで態度が違うんだ!  俺のときは、友好さの欠片もなかっただろ!」  思ったまま口に出す少年に、ホウオウは、 「友になぜ敵意を向けねばならぬ?」  心底、不思議そうに聞き返す。 「友?」 「そうじゃ、三年ほど前からの付き合いじゃ」 「もう、そんなになるんだっけ」  シートを広げ、シュークリームを置いて、お茶の準備をしていた男が懐かしそうにしている。 「もとは俺も、ホウオウを捕まえにきたんだよなぁ」 「そうじゃったのか?」  シートに座り、シュークリームをいまかいまかと待ちながら、ホウオウは意外なことを聞いたという顔になる。  シュークリームとお茶をホウオウに手渡し、男は頷いた。 「そうなんだ。でも、ホウオウを一目見て、ああこれは無理だって悟った。  事実、時々練習試合を申し込んで、何度も負けてるしな」  男をへたれと言うなかれ。  ホウオウは伝説に名を残すもえもんだ。生半可な実力ではないだろう。  また、少年のように、従えようとやってくる者を退けて、今尚野生に存在する実力者。  実力を見抜いて、戦うことを選択しなかった判断を褒められても、馬鹿にされることはないはずだ。 「無理だと悟っても、ここまで来たことを無駄にしたくなかったし、  ホウオウに小さい頃からの憧れもあったからな、どうにかできないかと考えた」 「憧れのう……そうストレートに言われると照れるな」  シュークリームをくわえたままホウオウは、頬を赤く染めて、視線をどこかへと向ける。  そんな普段は見れないホウオウに、少し見惚れながらも男は話を続ける。 「んで、考えているうちに原点を思い出した。小さい頃は、友達になって話がしたかっただけだって。  それなら、仲間にする必要はないからな、あとは友達になってくれって頼んだ」 「そんなことを言われるのは初めてだったからの。珍しさもあって了承したのじゃ。  私の元に来る人間は、多くが私を従えようとする者か、幸運をもたらすと伝わっている、この羽を求めた者ばかりじゃ。  この者のように、友になってくれと言ってきた者は初めてじゃった」  いつのまにか思い出話から、少年に言い聞かせるような話し方になっていた。 「また捕まえようとかって思わないのか?」  仲間にすることを望んだ少年が、友であることを望んだ男に問う。 「んー……ホウオウ、仲間になってくれる?」  男は、美味しそうにシュークリームをほうばるホウオウに、無理だろうなと思いながら聞く。 「おぬしの頼みでも聞けんな。束縛は嫌いじゃ。今はまだ自由でいたい」 「それなりの付き合いだから、こう言うってわかってるからな、捕まえようとは思わない。  それに現状で満足してる」  ホウオウの口の端についているクリームを、ぬぐってあげながら、男は言う。 「私もおぬしと友になって、楽しく思っておる。こうやって頻繁に訪れてくれる友は、貴重じゃからの。  それに毎度の土産も楽しみじゃ」  そう言って笑い会う二人には、確かな絆があった。    少年が去っても二人は、お茶会を楽しむ。 「さっきの話の続きなんじゃが」 「続き?」 「直接の関係はないがな。この羽に関することじゃ。  私は、幸運をもたらすなぞ知らん。そのことが不思議での。なぜそんな話がでてきたのか」  自分の羽を、不思議そうにみつめるホウオウ。男も、ホウオウにもらった羽を取り出して見る。 「この羽のおかげかは知らないけど、ホウオウに会ってから運はよくなったかな?」 「そうなのか?」  ホウオウは驚いた顔をみせる。 「実際は、ホウオウとの会話のおかげなんだろうけど。  ホウオウから聞いた話を、本にまとめて出版したら、それなりの稼ぎになってるよ」 「私との話なんかが、役に立ってるのか。  羽の効果は、あながち間違いでもなかったということかの?」 「俺にとっては、どうでもいいことだ。  ホウオウに会えること事態、すごいことだし。これからも会えるし」 「そうじゃな、どうでもよいことか。  今日は、どうするんじゃ? すぐ帰るのか? それとも滞在していくのか?」 「滞在で。あいつらもいるから、にぎやかになるぞ。  ホウオウが美味しいって言ってた料理を、また作るって言ってたし」 「ほう? それは楽しみじゃ」  さらにシュークリームを手に取り、ふと思いついた顔になるホウオウ。 「そういえば、会話を本にしたと言っておったの?」 「うん、言った。  もっと詳しく言うなら、会話を参考にして、物語風味に仕立てた」 「その本がもとで、私がここにいるとばれないか?」  自分を狙うものが増えるのは嫌なのだろう、苦い表情を浮かべている。 「それなら大丈夫。出会ったのは外国の山奥ってことにしてるから。  ここは国内だし、山奥でもなし」 「大丈夫ならばよい」  表情を再びリラックスしたものに戻して、お茶を飲む。  男も、大事な友達が誰かに囚われることを望んでいない。そのために、いろいろと手を打ってある。  ホウオウに渡した、めいそうと十万ボルトの技マシンも、その一つ。ホウオウ自身を強化して、ゲットされないようにとの考えだ。  練習試合もそうだ。こちらの実力アップを目的としているのと同時に、ホウオウの実力アップも密かに目論んでいた。  そのかいあってか。男がホウオウに、初めて会ったときよりも、ホウオウの実力は上がっていた。  以前ならば、少年との戦いでゲットされてもおかしくはなかったのだ。  ほかには、すごい傷薬となんでもなおしを、ホウオウの住処に十個置いてあり、減ったら補充している。  さらには、ホウオウらしきもえもんを見たという偽情報をいくつも流している。  男の大事な友達をなくしたくないという想いと、ホウオウを独り占めしたいという欲によって、考えられた目論見は成功していた。 「お茶会はこれくらいにして、あいつらのとこに行こうか?  あいつらも会いたがってた」 「一緒に連れてくれば良かったのにのう」 「いや、戦ってた音がしてたから、巻き込まれないようって」 「なるほどの」  その言葉に納得して、ホウオウは立ち上がる。  二人きりでの会話を楽しみたい、という男の想いは、隠されたままで気づかれてはない。  ホウオウは、シートをたたみ、荷物をまとめる男をじっと見て、 「背に乗ってみるか?」 「へ? いいの? 前頼んだときは駄目だったのに」 「今日は気分がいい。それに、私も早くあいつらに会いたいからの」  男は嬉しそうに、ホウオウの背に抱きつく。 「しっかり捕まっておれよ?」  飛び立つホウオウの羽ばたきで、虹の欠片がきらきらと舞い散る。  夢のような光景を見て、喜ぶ男の様子に、ホウオウの表情も綻ぶ。  仲間ではないが、それに匹敵するものを男は、手に入れていた。  ホウオウにとっても男は、大事な存在になっていたのだから。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。