1スレ39

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『フシギダネのなやみごと』 「あーそーぼっ」 「……やだ」 おぶさっていることを無視され続けるのに我慢できなくなったビードルの誘いを、フシギダネはあっさりつっぱねた。 「なんでー?」 ふりふりと長いお下げを振って、ビードルが不満そうに尋ねる。 お下げと一緒にぐらぐらと身体を揺らされつつ、それでも努めて冷静に、フシギダネは答えた。 「ひとりのほうがいい」 そう言うが早いか、揺れてほんのわずかに緩んだビードルの腕から抜け出す。 「あうっ」 急に支えを失い、ぺたんと地面に突っ伏すビードル。 それにかまうことなく、ずんずんずんずんフシギダネは進む。 「みんなのほーが、たのしいのに」 不思議そうに首をかしげたビードルの呟きなんて、まるで聞こえていないかのように。 *** 「……ひとりでいいもん」 他の仲間たちがじゃれあう原っぱから少し遠く、トキワの森の丸太の上。 思い切り葉を茂らせ、命の輝きに満ち満ちた木々を見上げて、フシギダネはひとりごちる。 ビードルが嫌いなわけじゃない。 誘われるのが嫌なわけじゃない。 一緒に遊ぶのが嫌なわけじゃない。 ただ、ビードルといると、なぜだか胸が重くなる。 それと同時に、苦いような、渋いような、ねばねばした“何か”が膨らんでいくような感じがする。 消えちゃえ、消えちゃえと願うけれど、それはどうしてもなくならない。 むしろ、そうして意識すればするほど、その“何か”がどんどん大きくなってしまう。 そんな自分が嫌で、惨めで、みっともなくて、大嫌い。 だから。 「……ひとりでいいもん」 誰にもこの心の中を見られないように、フシギダネはひとりになりたかったのだった。 ぎゅっと足を抱え、小さく小さく丸まる。 足を浮かせて、お尻を基点にゆらゆら揺れる。 ゆら、ゆらゆら、ゆらゆらゆらゆら、ぽて。 丸まっていた手足を広げて、丸太の上で大の字になる。 見上げると、まるで自分を呼んでいるみたいに大きく枝を広げた木々の葉の間から、きらきらとお日様が顔を出している。 「……きれー、だな」 思わず、声が漏れる。 お日様は、こんな風に考えることなんてないのだろうか。 自分の心なのに、わからないことがいっぱいだったりしないのだろうか。 きっと、ないんだろうと思う。 だって、もしあったなら、あんなふうにきらきら輝けるとは思えないから。 「いいなぁ……」 もし自分がお日様みたいな心を持っていられたら。 そうしたら――きっと、笑ってビードルに、『ごめんね』って言えるはずなのに。 *** みんなにとっては短い、フシギダネにとっては長い休憩が終わり、フシギダネ達は再びトキワの森の中を進む。 その途中、フシギダネは、仲間の中では数少ないオスポケモン仲間であるマンキーに、思い切って悩みを打ち明けてみた。 「それは、“やきもち”ってゆーんじゃねぇかなぁ」 むむ、と難しい顔で腕を組んで、マンキーはそう言った。 「やきもち?」 マンキーの答えがよくわからず、フシギダネは鸚鵡返しに――これはオニスズメのわざなのに――マンキーに尋ね返す。 「そう、やきもち」 ふーむ、とまるで本の中で見た偉い人みたいな顔をして、マンキーはゆっくりと言葉を繋げる。 「なんていうかな、おまえはごしゅじんとマサラタウンからずーっといっしょにたびをしてきただろ?」 片目だけをぱちりと開けてこちらを見たマンキーに、こくり、とうなずき返す。 それを確認してから、またマンキーが語りだす。 「おれらのなかで、マサラタウンからごしゅじんといっしょなのはおまえだけだ。 だからおまえは、このなかのだれよりもごしゅじんがすきだし、ごしゅじんにもすきでいてほしいんだよ。 だけど、さいきんごしゅじんはビードルばっかりたたかわせてるだろ? たぶん、おまえのこころはそれがいやで、“やきもち”をやいてるんじゃねーかなぁ」 「……そ、っか」 マンキーの言葉をゆっくり、ひとつずつ噛み締めて、自分の心の栄養にしていく。 そういえば、最後に戦わせてもらったのはいつだろう。 ビードルが仲間に入ってから……トキワの森……思い出せない。 そして、それを思い出そうとするとまた、あの“何か”が胸の中に膨らんでいく。 なるほど、これが。 「……やきもち、なのかな」 「そーだよ、たぶん」 にし、とマンキーが笑う。 それに釣られて、にしし、と笑い返す。 不思議なもので、正体がわかってしまえば、胸の“何か”が随分と小さくなったように感じる。 その“何か”が小さくなりさえすれば、こうも簡単に笑顔になれる。 (ビードルに、あやまろう) 誘ってくれたのに、断ってごめんね。 ぎゅーってしてくれたのに、ふりほどいてごめんね。 冷たくしちゃって、ごめんね、って。 「……げんきになったな」 不意に顔を近づけて、マンキーがいたずらっぽい笑顔を浮かべる。 「まぁね」 「おれのおかげだな!」 「……まぁね」 えっへん!と胸を張るマンキー。 そう、確かにそのとおり。 マンキーに相談したおかげで、“やきもち”の正体を見破れた。 見破れた、のだけども。 「どーだ、おれはこうみえてもえらいんだぞ! みなおしたか!」 なんというか。 こうも威張られると、素直にお礼を言いたくないのが、人情(萌えもん情?)というもので。 「……えらいね、うん。 ――おさるにしては」 「なにーっ!?」 聞こえないように呟いた余計な一言に綺麗にひっかかるマンキー。 フシギダネは、べーっと舌を出してから、顔を真っ赤にして怒り出したマンキーから一目散に逃げ走る。 だが、すばやさではマンキーのほうが一枚上手。 あっという間に捕まって、じゃれあいみたいな取っ組み合いになる。 「おさるってゆーなーっ!」 「おさるじゃんー」 「うるさーい!」 そんなやり取りをしながら、上になったり下になったり。 ごろごろ転がりまわっている二人に、不意に声がかけられる。 「あー、なになにー? おもしろそー」 「!」 少し間の抜けたその声に、フシギダネは跳ね起きた。 「うひゃーっ!?」 勢い余ってマンキーを吹き飛ばした気がするが、それは気にしない。 (謝らなきゃ) ちゃんと、ビードルに謝らないと。 そう、自分で決めたんだから。 自分にしっかりと言い聞かせ、ぎゅっと目をつぶる。 「ねーねー、なにやってるのー? あたしもまーぜーてー」 少しずつ近づいてくる声。 その声のする方向に向き直り、大きく息を吸い、吐き、目を開け、そして―― 「……え?」 絶句した。 「ふぇ? どしたの?」 聞き間違いようのないビードルの声。 けれど、その声を発しているのは、ビードルとは似ても似つかない萌えもんだった。 朽ち葉みたいな黄金色の髪に、黄色いスカーフを巻いた姿。 必死に記憶をたどっても、絶対に見たことのない萌えもんのはずだ。 でも、声は間違いなくビードルのもの。 一体、どういうことだろう? 頭の中がぐるぐる回る、ぐるぐるぐるぐるぐるぐる回る。 ビードルはどこへ行ったのか、そしてこの萌えもんは誰なのか? 答えはまったく出ないまま、フシギダネはただ立ち尽くし、目の前の萌えもんを見つめていた。 「……あー、そだそだ、忘れてたー!」 不意に、ビードルの声をした萌えもんが叫ぶ。 何事か、と目を丸くするフシギダネの前でくるり、と一回転して、ちょこん、とお行儀よく一礼。 ゆっくりと顔を上げ、にっこりと満面の笑顔を花咲かせ、こう言った。 「あのね、わたし、“しんか”したんだよ!」 「……“しんか”?」 「そう、“しんか”ー! あのね、わたしね、コクーンってゆーなまえになったんだよー!」 「そ、そう、なんだ……」 うれしそうに語るコクーンをよそに、フシギダネは気を失ってしまわないようにするのに必死だった。 なぜかはわからないけれど、胸がどきどき跳ね回るように暴れて仕方ない。 どんどん頬が熱くなって、コクーンをじっと見ていられない。 何か言おうとしても、まるで何かが喉に詰まっているかのように言葉が出てこない。 それでもなんとか口にすることができたのは、たった一言。 「……おめ、で、とう」 それだけの言葉、なのに。 「――ありがと、だねくん!」 「――っ!」 コクーンは、まるでお日様みたいな眩しさで笑って、フシギダネの手のひらをぎゅっと握った。 そのぬくもりを、だんだん遠くなっていく意識で感じながら、フシギダネはそっと、心の中でため息をついた。 ――“やきもち”の悩みがなくなったのに、また悩み事ができちゃった、と。

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