4スレ>>286

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 時刻は深夜。空は曇が覆い、星明り月明かりもない暗い夜。  普段から、光さえ通さぬ木々が深く暗い森のそばに、赤く燃える火が一つ。  焚き火のようで、そばには毛布にくるまり、荷物を枕にして眠る男が一人。  パチパチと薪がはぜる音、木の葉が風に揺れる音、虫の鳴き声だけが辺りに響いている。  静かな夜で、男の睡眠を邪魔するものは何もなかった。  悪戯好きのゴースがやってくるまでは。  暗い森から、ふらりとゴースが現れる。 「明かりが見えたから、もしかしてって思ったけど、やっぱりいた」  小さな声で、嬉しそうな感情を滲ませて、ゴースは男に近づいていく。 「静かにいかないとね~」  飛んでいるのだから、静かにもなにもない。喋ることさえやめたら、本当に静かに行動できる。  それでもやめないのは、これからすることが楽しみでしょうがないからだろうか。  クスクスと小さく笑いながら、ゴースは動いて、男の顔付近、胸の上あたりに浮かぶまで近づいた。 「この人は、どんな表情を見せてくれるかなぁ?」  以前のことを思い出したのか、あの人が一番面白かったなどと、思い出し笑いしている。  しばらく笑ったゴースは、男の顔に触れるギリギリまで、小さな手のひらを近づけ囁いた。 「あ・く・む♪」  このゴースは、旅人をみかけては技のあくむを使い、人々が驚く表情を見て、楽しんできた。  すぐに男の表情が変化したのを見て、ゴースはわくわくとした表情になる。  だが男は、ゴースの予想を裏切った行動に出た。  眠ったまま男は、両腕を広げ、交差させた。  結果、ゴースを抱き寄せることになる。  一瞬呆けたあとゴースは、大きな悲鳴を上げた。  怖がられることや、怒鳴られることはあっても、こんな反応は初めてだったから。  そして、異性に抱きつかれることも。悲鳴を上げたのは、抱きつかれたせいだ。  ゴースの悲鳴で起こされた男は、わけがわからないまま、ゴースに正座させられる。  起きたら女の子抱いてるし、相手は怒ってるっぽいしで、寝ぼけた頭で懸命に状況を判断しようとしている。  起きたばかりで、上手く頭が働かないので、ほぼ無駄に終っているが。 「ど、どうしてあんなことしたの!?」 「あんなこと?」 「抱きついたことよ!」  抱きつかれたことを思い出したのか、ゴースの顔は赤く染まる。 「いや、そう言われても……夢の中の行動を実際にやったのかな?」  悪夢だったはずの夢で抱きつく……どんな夢だったのだろう。  ゴースも気になるのか、男に聞いた。 「えっと、どこかの建物の廊下にいて、反対側の端から女の子が幽霊が近づいてきたんだ」 「それで?」  技はちゃんと効果を発揮していたのにと、さらに不思議がるゴース。 「それで幽霊が抱きついてきた。俺は抱きつき返した、力いっぱい」  なんで突き放すとかしなかったんだろうと、男は首を傾げている。 「なんでそこで、抱きつくのよ! 怖がるでしょう普通は!」 「俺も不思議なのに、聞かれても……」 「ま、まあいいわ! それよりもっ責任とってもらうわよ」 「責任……なんで?」 「私にあんなことしておいてっ、初めてだったのに!」  寝ぼけて抱きつくほ以外に何をやったのかと、男は慌てだす。 「異性に抱きつかれるなんて!」 「そんなことか、よかったぁ」  男はそう言って、ほぉっと息を吐く。  それを聞いてゴースが怒り出す。 「そんなことってなによ!  一言謝って、何か甘いもの奢らせるくらいで、許してあげようとおもったけどやめた!  ずっと憑いていってやるんだから」 「ついてくる? 別にいいけど」  憑いていくを、同行するという意味に受け取った男。  この日から、賑やかな旅が始まることになるのだった。

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