5スレ>>103(4)

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 ハイツェン腕より騒動記  1話  山と海にはさまれた町がある。人口七千人ほどの小さくもなく、大きくもない町。  そこは、人と萌えもんが入り混じって住む町。人と同じように萌えもんも、家を持ち、職を持つ。  この町は、今から三百年ほど前にできた町。一人のトレーナーとその仲間の萌えもんたちによって作られた町。  陸の孤島と言ってもいい町だが、暮らしていくうえでの施設などはそろっていて、町を出ずとも暮らしていける。  ほかにも春と秋が短いという特徴はあるが、住みやすく安心して笑って暮らせる町だ。  町の名前はシキタウン。町を作ったトレーナーのパートナーから取ってつけられた名前だ。  そんな町の「ハイツェン」という喫茶店が物語の舞台。 「今日は暇ですねぇ」 「そうだなぁ」  本来ならば客の座る席に、二十手前の男の店主と、店主より少し年上な男のマッスグマのコックが座っている。  二人の言葉通り、普段ならば二、三人はいる客も、今日に限っては誰一人いない。  午前中はそこそこ来ていた客は、昼を過ぎるとパッタリ途絶えた。  この店の人気がないというわけではない。ただ、たまたま客が来ず暇になっただけだ。  食器洗いや砂糖などの補充、ちょっとした掃除はすでにやってあって、やることがなくなった。 「店長、スグさん、お茶入れましたよ」 「あ~ありがとうマールさん」  店の奥から出てきたコック姿の女のマリルリが、トレイに乗せたティーカップを置いていく。お茶請けは彼女の作ったクッキーだ。 「ふむ、腕を上げたなマール」  クッキーを食べたスグが、感心してマールを褒める。 「ありがとうございます」  答えるマールの口調はそっけないものだが、その顔は赤く染まっている。褒められて嬉しいのだろう。 「わかりやすいよね、マールさん」 「そうだな。クールを装っているけど、表情に表れやすいからな」 「ほっといてください」  今度は羞恥に顔を赤く染めて、二人から顔を背ける。  男性二人がマールに謝っていると、ドアが開く。  客かと三人とも席を立とうとして止まった。 「ただいま~」 「おかえりなさい、リサちゃん」  店に入ってきたのは、お使いに行っていたバイトのウェイトレス。女のリザードで、この中では一番若い。  マールは店長と同じくらいの年で、この店のデザートを担当してる。  この四人で喫茶店は切り盛りされている。 「あー! 三人だけでおやつ食べてるっ私の分は~?」 「まだ余ってるから、勝手に食べればいいじゃないか」  店長はクッキーの載った皿を、リサに差し出す。 「いただきまーす。  ……これマールさんが作ったの?」  いくつか食べてリサがマールに聞く。 「そうだけど……なにかおかしなところでもあった?」 「いやいや、美味しいです。ただ、以前食べたスグさんのクッキーとは味が違うなーって」 「それは当たり前だろう、俺には俺の味、マールにはマールの味があるんだから」 「わかってるよぅ。思ったことを聞いただけじゃない。それに好きだよこの味」 「ありがとう。お茶はどうする? 私が入れる? それとも店長に入れてもらう?」 「そうだね……ケイタで」 「バイト中は店長って呼べって。働いて給料もらってんだから、そのくらいのけじめはつけとけ」  店長、ケイタが紅茶の準備をしながら言う。 「ごめん。わかってはいるんだけどね」  頬をかきながら謝るリサを、しょうがないなといった表情でケイタは見ている。  蒸らし終え、最後の一滴まできちんと入れた紅茶をリサに渡す。それをリサは何もいれずに飲む。 「うん、やっぱり飲料系は美味しいね」 「それが一番得意だからな」  誇らず当たり前といった顔のケイタ。  料理はスグ、飲料はケイタ、最近になってデザートはマール、接客はリサという役割分担ができている。まあ、接客はケイタもするのだが。  これは最近できた役割分担だ。少し前までは、料理とデザートをスグとマールが一緒に担当していた。スグがデザートをマールに任せてもいいと認めたため、役割がわかれた。 「全員そろったところで、ちょっと相談があるんだ」  ケイタに視線が集まる。 「相談?」  三人を代表して、スグが聞き返す。 「うん、バイトをもう一人雇おっかなと」 「ちょっと待ってね」  事務を兼ねているリサが、新しく雇う余裕があるか頭の中で計算している。 「一人くらいなら雇えるね。でもなんで? いまでも十分店はまわってるよ?」 「いや、一人抜けると途端に苦しくなる現状はどうかと思って」 「たしかに急用で休みとかって苦しかったですね。今までバイトを雇おうと考えなかったのが不思議です」  マールは以前経験した忙しさを思い出して、苦い表情になる。  そのとき休んだスグが居づらそうにして、立ち上がり席を離れる。 「どこに行くんです?」 「いやタバコを吸おうかと」  換気扇のそばで、タバコを取り出し火をつけるスグ。なんらかのこだわりがあるのか、ライターではなくマッチだ。  吐き出された煙は換気扇へと流れていく。それを見てケイタが聞く。 「以前から思ってたんですけど、タバコって美味しいんですか?」 「美味しいっていうか、吸うと落ち着くんだ」 「俺も吸ってみたいんですけど、一本もらえません?」  以前から興味のあったケイタは、スグにそう言ってみる。  だがそれは、リサとマールに止められた。 「これ以上煙たくなるのは嫌よ」 「体にも悪いから、やめておいたほうがいいです。スグさんも」 「俺はやめないが、店長が吸うのは賛成せんな。前店長にお前のことを頼まれてるから、体に悪いことはさせられん」  スグも止める。  ケイタのことをスグに頼んだ前店長、ケイタの両親は二年前から仕事で各地を飛び回っている。そのときからケイタは店長をやっている。 「残念。でもスグさん、そういうことなら俺の目の前で吸わないで欲しかった。何度も吸われてると、興味が出ますよ」 「そういえば、そうだな。すまん、今度から気をつける」  本当に今度からのようで、今は吸うのをやめない。 「スグさんはどこか抜けてるんですよね」 「だよねー」  その自覚はあるのか、女二人の会話に苦笑で返す。 「話を戻して、一人抜けても大丈夫なように新しく雇いたい。それで誰かいい人知らない?」  張り紙をはって募集する前に、知り合いを当たるらしい。  三人は考え込むが、思い当たることはなかったようだ。 「そっか、じゃあ張り紙をはっとこか」 「ですねぇ。条件はどうします? できるだけ幅広くこなせるような人がほしいと思いますけど」 「普段はウェイトレスかウェイターで、いざとなったら調理場に行けるような?」 「そうそう。飲み物はできないでもいいです。店長が休みの時は、店も休みでしょうから」 「じゃあ、そう書いておこう。時給は八百円くらい?」 「もうちょっと下でも……いや複数こなすことがあるからそれくらいが妥当かな。  そっかバイト仲間が増えるんだ~ちょっと楽しみ」  それを聞いてマールが首を傾げる。 「リサちゃんってバイトだったの? 私たちと同じように働いているから、正社員かと」 「私はバイトだよ、ね?」  リサがケイタに同意を求める。ケイタは今の会話を聞いて、ちょっと驚いている。  今の会話に、驚くようなところはどこにもないはず。ケイタは何に驚いているのか。 「そっかバイトだっけ、忘れてた」  店長が自分の店のことを把握してなかったらしい。 「給料、俺たちと同じ分だけ渡してた」 「急に給料増えたの昇給じゃなくて、勘違い?」  働き始めて一年を過ぎた頃、給料が上がって嬉しかったのを思い出すリサ。あの感動を返せと言いたい気分だった。 「正社員でいいよな? いやならバイトのままでもいいけど」 「正社員がいい。でもそんなに軽く決めていいものなの?」  軽くて不安が湧いてくる。 「反対意見のある人……誰もなし、よってリサを正社員へと迎え入れます」  ならばとケイタは、少しだけ堅苦しく言ってみる。軽く決めたあとなので、厳かさは全くない。  パチパチと、ケイタ、マール、スグから祝いの拍手が贈られる。  怒るようなことでもないし、そういった気分でもないので、もういいやと流すことにしたリサ。むしろ就職できて儲けものと考えることにした。 「お客のいない今のうちに張り紙作っとこ」  ケイタは立ち上がり、レジの下から紙とマジックペンを取り出す。  そして、さあ書こうかというときに、 「ちょっと待った」  静かだったスグによって止められた。 「追加条件でもあります?」 「もしかしたら妹がバイトにこれる……かも」  スグは自信なさげに言う。たしか最近バイトを止めたと言っていたはず、と思い出したが聞き流していたので自信がなかった。それにもう別のバイトをみつけているかもしれないので、どうだったか思い出そうとしていたのだ。結局は思い出せなかったが。 「ちょっと電話かしてくれ、聞いてみる」 「どうぞ」  スグは店の奥、ケイタの住む家に入っていく。何度も上がったことがあるので、電話がどこにあるのか知っている。 「スグさんに妹がいたんだ」 「知りませんでした」 「俺は聞いたことある。ヨーギラスの頃は可愛かったって懐かしそうに言ってたよ」  ケイタとスグの付き合いは九年になる。その間に、家族のことを聞いててもおかしくはない。  ケイタとそれぞれの付き合いは、マールとは四年、リサとは二年だ。 「今はサナギラスですか?」 「進化したって聞いてないから、たぶんそう」 「ほかに家族は?」 「バンギラスの母親とマッスグマの父親と妹の四人家族だってさ。稀に起こる夫婦喧嘩の際に、破壊光線を打ち合うのが悩み事だって。そのせいで得意技はまもるだとか」 「なるほど」 「スグさんのことになると真剣ですね~」  ニヤニヤと笑い顔のリサ。ケイタも似たようなものだ。 「そ、そんなことはありませんっ。ただ同僚のことを知っておくのも……そのですね……えっと……」  冷静に返そうとしたマールだが、上手くいかずごにょごにょと声が小さくなっていく。  面白いのでさらにいじってみようと口を開きかけたところで、スグが戻ってくる。 「大丈夫だとよってどうしたんだ?」 「な、なんでもないですっ」 「うん、なんでもない」 「そうそう」  顔を赤くしたマールと笑い顔の二人、この図を見てなんでもないと言っても、たいして説得力はない。  だがスグはそのとおりに受け取った。 「ならいいけど。妹、キラっていうんだけど、明日から入れるってさ」 「その人は幅広くできる人?」  さっきの条件に当てはまるかケイタが聞く。 「家じゃ料理手伝ってるし、接客は前のバイトでやってたっぽいぞ」 「それなら大丈夫そうだ。あっお客さんが来た!」  ドアに手をかけた人にケイタが気づく。  それを聞いて全員リラックスモードから、商売モードへと頭を切り替える。  カララーンと小さな鐘がなり、ドアが開く。 「いらっしゃいませ!」  リサが元気に客を出迎え、スグとマールは調理場へと戻る。  店長のケイタはカウンターに入って、客へと笑顔を向けた。意味なくグラスを磨きながら。テレビ番組に出演した喫茶店のマスターがやっていたので、こうすることが当たり前だと思い込んでいるのだった。

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