5スレ>>124

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 時刻は午前八時四十五分。店を開ける十五分前だ。  たいていこの時間帯になると、社員全員ハイツェンに来ており、ケイタ宅のリビングで連絡事項などを伝え合う。  それは今日も変わらない。ただ今日はいつもと少しだけ違う。新しく一緒に働く人がいるからだ。  連絡事項を伝え終わったあと、自己紹介が始まった。  スグの隣に座っていたキラが立ち上がり、一礼する。 「はじめまして、ボクはスグの妹でキラと言います。見てのとおりサナギラスです。  喫茶店でのバイトは初めてなので、迷惑をかけることになるかもしれませんが、よろしくお願いします」 「十六にもなって自分のことをボクとか言う奴だが、仲良くしてやってくれ」  スグがキラの挨拶に付け加える。 「オレっていうよりはいいでしょ!」 「たしかにオレよりかは可愛げはあるがな」  オレと言う妹を想像したのか、ややげんなりとした顔になったスグ。 「とりあえずはウェイトレスを担当してもらうよ。それで仕事覚えたら、忙しいときに厨房に入ってもらう」 「店長のケイタさんですね。兄がいつもお世話に」 「俺も世話されてるし。  ウェイトレスとしての仕事は、リサに聞いてくれ」  そう言ってケイタはリサを示す。 「よろしくキラちゃん。私リサ! 同じ年齢同士、ウェイトレス同士仲良くしよう!」  元気よくリサは手を差し出す。差し出された手をキラは笑顔で握る。  年齢がでたので、ほかのメンバーの年齢も紹介しておこう。ケイタが19才、スグが23才、マールがケイタと同じ19才だ。 「私はデザート担当のマール。よろしく」  マールもキラに手を差し出し握手する。 「時々兄がお土産に持って帰るお菓子を作った人ですね。いつも美味しくいただいてます。  こちらこそよろしくお願いします」 「そう言ってもらえると嬉しいわ、ありがとう」  今回は感情を抑えることに成功したのか、少しも赤くなることはない。  開店時間になり、皆それぞれの持ち場へと移動する。リサは渡された見習いのワッペンをつけている。  ケイタはカウンターでコーヒー豆や茶葉の確認。スグとマールは厨房で、料理の仕込みやお菓子を作る。  そしてリサはキラに、テーブル上の確認を教えている。足りていないものはどこにあるか、どれくらい減ったら補充しておくかなど。  そうしていると本日一人目のお客がきた。 「「いらっしゃいませっ」」  やってきたのはマタドガース。二十手前の女で、ケイタよりも年下に見える。  ウェイトレスの案内に軽く断りを入れて、窓際の席へと腰を落ち着けた。メニューを手にとって一分ほど見続けて、ウェイトレスを呼ぶ。 「教えたとおりにやってみよう」  リサがそう言ってキラの背を軽く押す。その後ろ、少し離れたところからリサは見守っている。  伝票を片手にキラは注文を聞き、書き込んでいく。リサが動かないということは、間違いはないということなんだろう。  何事もなくキラは役割を終え、ケイタに注文を伝える。 「梅昆布茶一つです」 「あいよ」  注文を聞いたケイタは早速準備を始める。お湯は熱すぎず、されどぬるすぎず。注意して少しだけ冷ます。  それを見ながらリサは、 「喫茶店に梅昆布茶って珍しい。抹茶なら見たことあるけど……」  と思いを漏らす。 「俺はほんとに飲み物に特化してるから、そのぶん種類増やしとこうと思って。  ほかにも中国茶とか青汁とかとうもろこし茶とかハーブティとかもある。  フルーツアンブロシアってのを作ってみたいんだけど、作り方わからなくてね。  はいできた」  湯のみに入れた梅昆布茶をキラに渡す。  キラはこぼさないように、気持ちゆっくりとマタドガースのもとへ移動する。  目の前に置かれたお茶を、マタドースは両手で包みこみ口へと持っていく。ふわりと漂う香りを楽しんだあと、ずずっと口に含み飲み込む。満足したのか、ほうっと息を吐くマタドガースはどこか幸せそうに見える。 「あの人今日もずっといるのかな?」 「どうだろな? まあ迷惑かかってるわけじゃないから、いいんだけど」 「昨日ずっといたんですか?」  キラも会話に加わる。 「うん。昨日もこれくらいの時間に来て、一時前に帰っていった」 「暇なんでしょうか?」  ちらりとリサとキラの二人はマタドガースを見る。  マタドガースはお茶を飲みながら、ポヤ~としている。 「お客さんのことをあれこれ言うのは下世話ってもんだ。それくらいにしとけ」  それに二人は頷く。  それから徐々に増えだしたお客の相手にウェイトレスたちは気を取られ、マタドガースのことを気にすることはなくなった。  マタドガースも相変わらずポヤ~としながら、追加注文をしたりして居続ける。 「キラー休憩入っていいよ」  お昼を少し過ぎて、リサがキラに休憩を言い渡す。一緒に仕事をしながら、お互い名前を呼び捨てにするくらいには仲良くなっていた。 「うん。先に休憩もらうね」  キラもリサに対しては丁寧な言葉もしなくなった。 「スグさんに食べたもの言うといい。社員割引で食べられるから。あとメニューはリビングにもあるから」 「わかりました~」  兄のところへ行こうとするキラが止まる。自分で止まったわけでない。腰の当たりをクイっと軽く引っ張られたからだ。  振り返るとマタドガースが手を伸ばしていた。 「追加注文ですか?」  それにフルフルと首を横に振り否定する。 「友達になってくれない?」 「はい?」  突然の頼みに少々大きめの疑問の声を上げたせいで、店の中の視線が集まる。  キラがなんでもないですと誤魔化すと視線は散ったが、注目までなくなったわけではない。  とりあえずマタドガースの前の席に座ってみたキラ。 「えーと、なんで突然?」 「引っ越してきたばかりで知り合いが誰もいないので? それとなんとなく?」  なぜ疑問符がつくのか。  どこか浮世離れした雰囲気を持つマタドガースに、キラは若干の不安を持つ。  真正面から見てわかったが、表情に少し寂しげなものが浮かんでいることから、本当に友達がほしいのだろうとキラは思う。  悪意があるわけじゃなさそうだからいいかな、と考え、 「いいよ」  と友達になることを了承した。 「ボクはキラ。サナギラス。今日からここで働き始めたの」 「私はトーガ。マタドガース。常時春の人と呼ばれてた」 「?」  今はこの二つ名の意味がわからないキラだが、トーガとの付き合いが長くなるうちに十分すぎるほど理解するのだった。  また何年経っても、なぜ自分が気に入られたのかわかることはなかった。  そんな先のことはわからないキラは、新しくできた友人と一緒に昼食を楽しむ。  マタドガースは午後になっても帰らず、ポヤ~としながらキラのことを見ていた。友達ができて嬉しいのか始終笑顔だ。  美人さんが笑顔なのは店内が華やいでいい雰囲気になるので、むしろ大歓迎といったケイタ。一杯無料でカフェオレを出してみたり。  五時になってトーガは、仕事を終えたキラとリサと一緒に帰っていった。  六時になると明日の仕込みを終えたマールも帰る。スグも同じように仕込みを終えているが、こっちはカウンターでくつろいでいる。  この時間帯からはお客も減るので、ケイタ一人でも店はまわる。軽食は午後四時までなので、料理を作る必要もない。 「キラの働きぶりはどうだった?」  妹のことが気になって残ったのだろうか? 「特に問題はなかったです。接客には慣れている様子でした。仕事も時間が経てば、順調に覚えていくと思いますよ」 「そうか。それで一緒に帰っていったマタドガース、あれは誰なんだ?」  安心したように頷いたあと、聞いてくる。 「昨日も来たお客さん。なんでかキラさんを気に入ったようで、友達になってほしいと頼んで、それをキラさんは受け入れたようです」 「キラをどこかで見て気に入ったのか?」 「キラさんも会ったのは今日初めてって言ってました」  首を傾げるスグに聞いたことを教えるケイタ。 「変わった人だな」 「そうですねぇ」 「多少変わってようが、悪い奴じゃないならいいんだ」  そう言うスグは兄としての顔になっていた。 「悪人には見えませんでしたよ」 「ケイタがそう言うなら、そうなんだろうな」  ケイタの観察眼に信頼を置いているんだろう、安心した表情になる。  その後スグは、ケイタの夕食を作って帰っていった。  午後八時になりケイタは店を閉める。  スグの作ってくれたご飯を食べたあと、今日の売り上げを計算し、自由に過ごして0時頃布団へと入る。  新しく働く人と新たな常連客が増えた、そんな穏やかな日だった。  

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