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「5スレ>>144(1)」(2008/02/15 (金) 20:01:09) の最新版変更点
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-ヤミカラスの追憶・前-
「へ? 私と主人の出会い?」
主人をそらをとぶ、で送り届け。野暮用を済ますまでの短い時間。
いつものように公園のベンチでまったりしているところに、そんな質問を浴びせかけられ…。
鳩が豆鉄砲を食らった顔、というようなきょとんとした表情を浮かべるヤミカラス。
視線の先には萌えもんジャーナルの女性記者、どうやらそう言うコーナーがあるとの事。
「そうだね、怪我をしてどうにもならない所を。主人に助けてもらったのがはじまり、だったかな」
割と普通な回答に、僅かに失望したのか女性記者は礼を言い。次のターゲットを探し始める。
(まぁ、律儀だったり惚れっぽい性格の子が。助けてくれた人間をマスターと定める事も最近は珍しくないからね)
ヤミカラスも、そんな女性記者に対しても興味も失せたのか…視線を中央にある噴水へ向ける。
(そういえば、私が主人に拾われてから結構経つんだな)
女性記者からの問いかけ、ソレに対する返答。
この僅かのやり取りの中で、ささくれのように掘り起こされた記憶。
(思い出したくない記憶で、でも絶対に忘れたくない想い出)
ゆっくりと、ソレは彼女の思考を満たし、追憶の光景を呼び起こさせる。
彼女は、出自こそ普通であれど。物心ついた頃には既にロケット団の団員の手駒の一つだった。
そう、『一人』ではなく。『一つ』。
その頃の彼女の記憶は灰色で、強いか弱いかしかなかった。
いや、なかったのではない。認識できなかったのだ。
しかし、その灰色の世界は唐突に終わりを告げる。
「………痛い…」
雨が降りしきる闇の中、濡れた茂みの上で横たわるヤミカラス。
彼女は…主だった、ロケット団の団員に捨てられた。
理由は萌えもんトレーナーとの闘いで敗北した、ただそれだけである。
「…冷たい……」
全身を襲う痛みが、体温を奪う冷たさが原初の恐怖へと彼女を誘う。
「死にたく、ない…」
初めての願いが自然とその口から出る。
もっと幼い頃に流したはずで、それっきりだった雫が両目から溢れる。
「死にたくないよ……」
ソレだけを、願いを口にしながら。ゆっくりと意識が蝕まれていく。
そして、全部が闇に包まれるその間際。
誰かの声と、初めて。暖かいと思うモノに包まれた気がした。
「…ん、大丈夫?」
目が覚めたら知らない萌えもんが目の前にいた。
凄くビックリした、その頃は一度も上げた事ない声を上げて。
思わず耳を覆う目の前の萌えもん、そして程なくして聞こえてくる慌てたような足音。
「な、何かあった?!」
と思ったら部屋の扉が開いて、白衣を着た知らない人間が飛び込んできた。
(…白衣?…部屋?)
状況が飲み込めず、周囲を見回す。
自分…白い、ふかふかしたベッドにいる。
目の前の萌えもん…紅い毛並みで、ピンと立った耳、確かブリーフィングで見たウインディって萌えもん。のはず。
入ってきた人間…黄色いバッジを付けた白衣を着てる、あまり強そうに見えないけど。それでもマスター達とはまた違う雰囲気がする。
部屋…薄い青を貴重とした部屋で、他にもベッドがある。窓からは雨の降る外が……。
「…マスター……雨………」
瞬間、目覚める前の。闇に覆われる瞬間が、マスターからの言葉と暴力が蘇る。
「や、いや……やぁ…」
怖い。
すごく怖い。
どこに行けばいいの? 何をすればいいの? もう……。
「大丈夫、大丈夫だよ」
目の前にいた萌えもん…ウインディが私を抱きしめる。
この暖かさって……?
「ここには、アナタを傷つける人も。モノもないからね」
ただ、ソレだけを言って。ゆっくりとした手付きで私の頭を触る。
身を強張らせるが…何もなく。ただゆっくりと、まるで毛繕いをするかのような穏やかな手付きで。
また、雫が両目にたまってくる。でも今度は怖くない。
でも、雫は止まらない。
「泣いていいんだよ、嬉しくても。安心しても泣いていいんだよ」
私の様子に気付いたのか、穏やかな。声で私を包んでくれるウインディ。
ああ、そうか。コレが…優しさで。
この空間が、優しい場所。なんだ。
「ぁ、ぅ、ぁぁぁぁぁぁあぁあああ……!!」
そう、認識した瞬間。
もう私の両目の雫は止まるどころか、まるで今も振り続ける雨のように。
止まらなかった。
「うん、泣いていっぱい泣いて…そうしたら。少しは悲しい気持ちもなくなるから」
優しい声で私をあやしながら、包み込んでくれるウインディ。
そして、私は気付く。
今、この場所で目覚めた瞬間。
私の世界に色はついて、そして……。
生まれ変わったのだと。
「……ぉーい、ヤミカラスー」
ぺちぺちと、何者かが私の頬に軽く触れる感触で意識が覚醒する。
どうやら私は寝てたらしい。しどけない寝姿を晒すとは、らしくない。
「…泣いてたのか?」
「なんですと?!」
思わずぎょっとする。
いかん、いかんよ。
まさかかつての記憶を夢見ただけで泣いちゃうなんて…、なんという乙女ちっく。
コレじゃカイリューの事笑えないじゃないか。
「……ご主人、頼むから内緒にしてくれたまえ」
「大丈夫、そんな珍しく手合わせて拝まなくても誰にも言わないよ」
いつもの苦笑を浮かべ、ぽふぽふと頭を撫でる主人。
ウインディとは違う撫で方なのだけど、コレはコレで凄く安心する。
「信じたからね」
目元に残っていた雫、涙を拭い不適に笑ってみせる。
ウインディだけじゃない、主人にも。返しても返せないほどの恩はあるし、ソレを忘れるつもりもないし……。
(…なんだ、私も。惚れっぽい子らとなんら変わりないじゃないか)
改めて再認識した事実に思わず我ながら苦笑が漏れる。
不思議そうに振り向く主人に対してなんでもないと言いつつ、空を見上げる。
気が付けば青空だった空は茜色。やがて黒くなるけどまた青くなる。
あれから私の世界は大きく、それどころか一度完全に壊れ。それから産声を上げた。
そんな機会を私にくれたウインディに、そして主人には本当に感謝しているし……うん。そして大好きだ。
だけど…そう簡単には教えない。
さてはともあれ、このままでも何かこうもやもやするし……。
(うん、とりあえず…)
いきなり抱きついて、主人を困らせるとするか。
-あとがき-
長文、読んでいただき誠にありがとうございました。
久しぶりに長文を打ったため、まともな小説になってるか少し不安が残る部分もありますが…今現状で出せる文章力を投入したつもりです。
なお、ひねくれものな彼女が『主人』に対して好意を抱いたきっかけにかんしては、後編にて執筆させていただきます。
もし、楽しみにしていただける方がいらっしゃいましたら。申し訳ありませんが、もうしばらくお時間の方いただけますようお願い申し上げます(ぺこり)