5スレ>>144(2)

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-ヤミカラスの追憶・後-  どんな人間にも、そしてどんな萌えもんにも。  忘れたい記憶、忘れたくない想い出は存在する。  ソレは、他者にとっては些細な事であるかもしれないし、逆に他者から見るとむしろ不幸と呼ぶべき想い出もあるかもしれない。  しかし、総じて言える事は…。 「どんな喜劇も、当事者にとっては悲劇たりえ。悲劇は喜劇たりえる…か」  ついこの間、主人から借りた本を途中で閉じて横になり…。  眼前に広がる青天を見上げる。  今日は、主人と私達の仕事場であり自宅でもある診療所の定休日。  私を含め、それぞれが思い思いに時間を過ごしている。 「今日も、良い空だ」  お気に入りの場所、屋上貯水タンクの上で寝転がったまま伸びをする。  主人に見つかると行儀が悪いから、と注意されてしまうのだが…こればかりは譲れない。 「…くぁ……」  麗らかな陽気につい欠伸が漏れ、瞼が重くなりはじめる。  そして、ふと何気なく。今まで何度も思い出し再認識してきたように…今も思い出すのだ。  今私がいるこの場所で。  私は、主人を『主人』と認めたのだと。 「うん、さすが萌えもん…ほとんど治ってきてるね」    看護帽を頭にかぶったウインディの補佐を受けながら、手際よく私の診察を進めていくウインディのマスター。  私がここに来てから早一週間が過ぎ…。  ウインディのマスター、ドクターに触れられる事への抵抗も和らいできた。と思う。 「………あの…?」 「なんだい?」  おずおずと口を開いた私に、カルテを書く手を止めるドクター。 「私……行く所、ないです……」  そう、傷が癒えたとして…どこに行けばいいと言うのだ。 「…そうか………」  私の言葉に、ドクターは顎に手をやり少し考える。  そして、その口を開いた。 「ウインディの手伝いをしてもらってもいいかい? 食事と寝床はこちらで提供するから」  うん、それがいい。と一人で勝手に決め…ウインディに夕飯の準備をお願いするドクター。  なんで、この人は………。 「なんで……ですか?」  私の呟きに、不思議そうな顔をするドクター。  その顔を見ると、我慢ができなかった。 「なんで、傷だらけで転がってた萌えもんを治療して面倒見て………世話までできるんですか!?」 「なんで、と言われても…」  僕医者だからなぁ、とボヤきながら頭をぽりぽり掻くドクター。  止まらなかった、自分自身で理不尽だと理解もできた。 「私は……ロケット団の、萌えもんだったんですよ!?」 「たくさん、たくさんの萌えもんを傷つけて人も傷つけたような萌えもんですよ!?」 「なんで、なんで…!」  私の言葉にもドクターは動じず、ただ穏やかな目で私を見る。  そして、私の言葉が止まり…嗚咽しか出なくなった頃に、口を開く。 「確かに君はロケット団の萌えもんだったかもしれない……だけど、君は今でもロケット団に戻りたいのかい?」  問いかけに対し首を横に振る。 「じゃあ…君は、誰かを傷つけたかったのかい?」  問いかけに対し、首を横に振る。 「ならば…いいじゃないか、今の君に必要なもの心と体の治療と休息だよ」  そう、穏やかな顔で私に告げた。  そして、私の『仮就職』とやらを歓迎する簡単なパーティまでドクターとウインディは開き…。  生まれて初めて食べる、ケーキというものの味に。  色々と教えてあげるからね、と優しく笑うウインディの言葉に。  私はまた、泣いた。 「…………」  そんな楽しいと思う夕飯の時間もあっという間に過ぎ……。  夜が、訪れる。 「……………」  ゆっくりと、ウインディを起こさないようにベッドから抜け出る。  ウインディは私がここに担ぎ込まれた時も、そしてそれからもずっとこうやって一緒に寝てくれて…。  抱きしめてくれた。たくさんの優しさをくれた。  だから、サヨナラしたくないけど……でも………。  ドクターも、ああ言ってくれたけど……。 「………今までありがとう、そして。サヨウナラ」  寝息を立てるウインディに、お礼と。別れを告げる。  やっぱり、私はたくさん傷つけてきたから……優しいウインディと一緒に、いれない。  足音を殺しながら、ゆっくりと部屋から出…扉を閉め。  暗い、昼とは違って気配がしない診療所の中を歩く。 「…………」  とても楽しかった、今まで生きてきた中ですごく…幸せだった。  だから、この思い出があればこれからも生きていける。 「……ドクター、ウインディ。ありがとう」  ロビーにつき、セキュリティをOFFにして……外へ。 「こんな夜更けに、どこへ行くんだい?」 (……え…?)  出ようとしたその時、ドクターの声が、した。  その顔は今まで見たことのないような、怖い顔をしていた。 「え、あ、あ……」 「………きなさい」  戸惑う、私の手を取ると診療所の中へ歩き出すドクター。  手を振り…解こうにも、ドクターは手を離さない。 「ウインディが起きてくるよ…ソレは君も不本意だろう?」  そのドクターの言葉に私は項垂れ、抵抗などできるはずもなく。  私の頭の中には、迷惑をかけたくないから出て行こうとしたのになんで邪魔を。という考えが渦巻く。 「………」  ドクターは無言のまま、私の手を引き階段を上がり…屋上への扉を開く。  そして、貯水タンクに登り……私に来い、と促す。 「…なんで、こんなところに…?」  声が、色んな感情の混ざった声が喉から漏れる。  私のその様子に、ドクターは…その口をやっと開いた。 「……君が何を思って抜け出ようとしたか、そして今何を考えてるかは推測できるよ」 「だったら、なんで……!」  感情が、爆発しそうになる。が、ドクターはソレを手で抑える。 「君は、優しい子だ」 「優しくなんて…ない…!」  ドクターの声を否定する、気が付けば声に嗚咽が混じり始めていた。 「いや、優しい子だ………君は、ロケット団の一員だった自分が。誰かを傷つけてきた自分が許せないのだろう?」  言うと同時に、ドクターの手が。私の頭に触れる。  ウインディとも違う、でも優しい触れ方。 「だから、ね。 君が自分を許せないのなら…」 「僕が、君を赦すよ」  ドクターの言葉が、私の中に染み込んでいき……何かを、ゆっくりと崩し始める。  もう、だめだった。こらえていたものが、我慢していたものが、止まらなかった。 「どくた……どくたぁ……」  目の前の、ドクターに縋りつく。  ドクターも、凄く暖かかった。  ウインディの優しさは太陽みたいで、凄く明るくて暖かくて。  ドクターは、月みたいに穏やかで、でもそこにいてくれる暖かさで…。 「君は確かに誰かを傷つけてきたかもしれない、でも…君は十分苦しんだんだ。 だから、幸せになっていいんだよ」  縋りつく私を撫でながら、囁くドクター。 「ゆっくりと、ゆっくりと癒していこう。体も心も」 「……………あの時の、夢か」  昼寝から目が覚めてみると夕暮れ時。思わぬ寒さに意識が覚醒するのも頷ける。  そして、意識がほぼ完全に覚醒する頃に。屋上の扉が開く音がする。  この足音は…。 「やぁ主人、どうしたのかね?」 「いや、ヤミカラスの姿が見えなかったからね……ここにいるかな、と思って」  よっこらしょ、と声を出しながら貯水タンクの上に登ってくる我が主人。 「……主人」 「なんだい?」  いつもの穏やかな顔で振り向く主人。  アレからそれなりに時は経ったが…この表情だけは、あの頃からほとんど変わっていない。 「私の心と体も完治して久しいのはご存知だと思う」 「ああ、そうだね……」  あの頃の事を主人も思い出してるのか、若干遠い目をする。 「だからこそ、今告げたいと思う」 「…?」  頭に?を浮かべる主人。  …やれやれ、ほんと。昔から変わらない人だよ、主人は。 「……大好きだよ」 「…そっか」  主人の胸に頭を寄せる。  主人は、ただ相槌を打ち。私の頭を優しく撫でた。  …たまには、こう言うのも。悪くないね。  -終ー あとがき  長文を読んでいただきありがとうございました。  地味に難産でしたが、楽しんでいただければ幸いです。  それでは、今回はこの辺りで失礼致します。

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