5スレ>>153

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『ようやく見つけたわ、コウヤ……  今度こそ、私のパートナーを返してもらうわ。  ……あんたを、殺してでも!!』 『素敵な気迫だ。今の君なら、本当にそれをやってのけるだろうね。  だけど、そのときはまだ早いよ。  いつか本当に僕に追いついたら、そのときこそ是非、殺しておくれ。  それじゃあ、また逢おうね…ヨウカ』 『!待ちなさい、コウヤ!  コウヤ───!!』 ─────────────────────────────────────────────────── 「……ター……マ…ター…………  …マスター!」 耳元で響く大声、そして揺さぶられ続ける刺激で私は目を覚ました。 「う…ん……。  …あぁ、どうしたの、サイホーン…?  もう朝…?」 「…寝ぼけてますね?  さっき、あんなにうなされてたのに…」 「うなされて…?」 瞬間、先ほどまで見ていた夢が蘇る。 昔と変わらぬ柔和な笑みを浮かべ、だがどこかこの世ならぬ場所を同時に見つめているような眼をして。 追っても追っても、穏やかに笑いつつ遠くへ去っていってしまう、私がこの世で最も憎悪する男。 彼女と、相棒と、それから彼と。何時、どんなときも三人一緒で過ごした仲だった。 かつての、幼馴染。 「マスター?  …先日の、あの男性絡みですか?」 「言葉にしないで頂戴。  あの男だけは、許すわけにはいかない…絶対に…」 少女の瞳を彩るのは、普段快活で心優しい彼女に似合わぬ、暗い暗い感情。 ヨウカ───陽花というその名が示すような、常日頃は笑顔が絶えぬその顔。 今は何の感情も浮かんではいない。少なくとも、表立っては。 そばで見守るサイホーンには、少女と、追っている男との間に起きた出来事はわからない。 だが、少女が秘める憎悪がただ事ではないことだけははっきりとわかる。 そして、それが単なる憎悪でもないことも。 …頭を振って、思考を追い出す。 今の自分のなすべきことは、彼女を支え、付き従うことだ。 サイホーンは己にそう、命じていた。 「待ってて、サンド…  必ず、救い出してあげるから…  どんなことがあっても…!」 少女の決意。共に育ってきたパートナーを、あの男の下から救い出すこと。 そのためになら、本当に命のやり取りも辞さない覚悟がある。 パートナーへの想いだけが、そうさせるものではなくて。 むしろ、根幹には幼馴染だった男の裏切りによる衝撃が強くあった。 幼心ながら、ほのかに恋心めいたものすら抱いていた相手。 誰にも知られることなく寄せていた想いが、行き場を無くし───反転した。 「(どうして、こんなことをしたの?   あんなに仲良く遊んでいたのに。   貴方の優しい笑顔が、とても好きだったのに。   何故──────?)」 ─────────────────────────────────────────────────── 「コウヤ…さん」 地面に座り込み、月を見上げている男に、サンドは話しかける。 「呼んだかい? 「ご主人様のことが、好きなんでしょう?」 思い切って、質問をぶつける。 「ヨウカのことかい?  勿論、大好きだ。愛していると言ってもいい」 「だったら何故、この様なことをなさったのですか」 「この様なこと?」 「私を攫ったことです。  まさかこうする事で好きになってもらえるだなどと、本気で思っている訳では無いのでしょう?」 「当然。だけどね、サンドはちょっと勘違いをしているよ」 そう言って、彼はサンドを振り返る。その顔に浮かんでいた笑みは、サンドも、彼女の主もよく知っている物だった。 少なくとも、サンドにはそう見えた。 「確かに、想いを通わせあうことが出来たなら、と思っていた。  けれどね、彼女にとっては僕は、永遠に幼馴染だったのさ」 ぽつぽつと、コウヤは言葉を紡いでいく。 「恋が叶わないとわかったから。彼女が僕を男として好きになることは、無いから。  だから、君を攫った。彼女と常に一緒だった、彼女の最も大事な相棒の君をね」 語る様子は変わらない、だがその内容は徐々に正気の沙汰から逸脱しつつあり。 「君に危害なんて加える気はこれっぽっちもない。  ただ、彼女に僕を常に心に掛けていてほしいだけさ。  それが好意、愛ではなくてもいい。憎悪でも殺意でも、何でも構わない」 いつしか全身でサンドに向き直っていた彼の、狂気に彩られた心が覗く。 「彼女が僕を見てくれるのであれば、僕を想ってくれるのであれば。  彼女の心を僕が占めることが出来るなら、  それは僕にとってはこの上も無く嬉しいことなのさ」 愛しい者から、好意を、心を、愛を得られないとわかったから。 その者の最も大切なものを奪うことで、代わりに憎しみを得る。 彼女からもらえるのであれば、それがなんであろうと───それこそ死ですら喜んで受け取ろう。 彼───コウヤが口にしたことは、つまりはそういうことだった。 「あなたという人は…」 サンドには、理解できなかった。 いや、このサンドでなくとも彼の言い分に共感できるものはそうは居るまい。 「ん?僕が何かな?」 「あなたは……狂ってます。  もう、救いようがないくらいに…」 サンドのこの言葉に。彼は、 「狂ってる?この僕が?  …ク、ククク、アッハッハッハッハ!」 あろうことか笑い出した。心底、可笑しそうに。 「気も狂おうというものだ!  どれほど好きでも、どんなに愛しても!  相手の心は手に入らない、相手にとってはほんの仲良し程度でしかない!  それを思い知らされれば、誰だって正気を捨てるだろうさ!」 そう笑いを撒き散らしながら吼える男の目は、紛れも無く病んだ光が燈っている。 体ではなく、心を病んだ者が眼に燈す光。 その壮絶な輝きに、サンドはただ身を凍らせるばかりだった。 「さぁ、そろそろ出発しようか。  早くしないと彼女が追いついてしまう。  今度こそ、本当に命をとられかねないからね。  彼女に殺されるのは本望だけれど、もうしばらくは彼女の心に潜んでいたいし」 はたと笑いを止め、その用意を始めるコウヤ。 作業をするその顔は、かつてサンドがよく知っていた頃の彼そのままで。 その瞳だけが、コウヤ───更夜の名が示すような、更けゆく闇夜の色に沈んでいて。 「コウヤさん……」 最早、止める事は出来ず。救われることを拒んでおり。 外れてしまった歯車を、元通りに直すことはもう、何者にも不可能。 それがただ哀しくて、サンドはただ涙を零すばかりだった。   『更夜……決して許さない…絶対!』   『誰よりも愛しているよ……陽花…』       砕けた彫像はただの石くれに等しく       ひび割れた窓では光は通わぬ       暖かき日々の想い出は地に落ちて砕け       拾い集めたピース 探せども一片が足りぬ       脇目も振らず突き進んでたどり着く結末       はたして幸福と受け取るは誰ぞ

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