5スレ>>155

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「こんにちわ。久しぶりー」  そう言ってハイツェンに入ってきたのは男のオオスバメ。 「スバルさん、帰って来たんだ。おかえりなさい」 「また明日から通わせてもらうよ」  リサが半年振りに会う常連に挨拶する。  スバルはカウンターに座り、ケイタに挨拶している。  スバルが誰かわからないキラが、リサに小声で誰なのか訊ねる。 「あの人もここの常連さん。もう何年も通ってるらしいよ。  私が働き始めたときにはすでに通ってたし」 「常連っていうなら、毎日きてるはずだと思うんだけど?」  それはオオスバメの習性に関係する。  寒さにあまり強くないオオスバメは、渡り鳥と同じように越冬する。  厚着して暖房をつけて耐え切れないこともないが、移動しないと落ち着かないらしい。  そのため出張をかって出て、秋から冬の間はシキタウンにはいないのだ。  と言ったことをリサはキラに説明する。 「なるほど、今日か昨日帰ってきたばかりなのかぁ」 「そういうこと」 「これお土産」 「いつもすみません」 「あとこれもあげるよ」  饅頭の詰まった箱と一緒に渡されたのは、飴の入った小袋。 「手作りの飴だってさ、作りすぎて困ってたらしい。食べてみたけど美味しかったよ」 「ありがとうございます」  ケイタは受け取った小袋をしげしげと眺める。  そうしていると自分を見る視線に気づく。 「リサどした?」 「美味しいなら食べてみたいなって」 「んー……まあいっか。お客さんスバルさんしかいないし。  ほら」  少し考えたあと、小袋から出した飴をリサとキラに投げる。 「「スバルさんありがとうございます」」  二人はお礼を言ってから、もらった飴を食べる。  トーガもこの場にいてもよさそうだけどいない。締め切りが迫っているらしく家で缶詰だとキラが言っていた。 「あ、ほんとだおいしー」  リサが感想を言う一方で、キラは静か。なぜか首を傾げている。 「味しません」 「え? 私の甘いよ」 「キラさん、こっちも食べてみて」  ケイタはもう一つ飴を取り出して、キラに投げ渡す。  これでまた味を感じなかったら病院行ったほうがいいかな、などと思いながらキラの反応を待つ。 「あ、こっちは甘い」 「それじゃあ、さっき食べた飴がおかしかったのかな?」 「そうかも。一応吐き出したほうがいいよ」  ケイタの言葉に頷いて、ティッシュに出そうとしたキラの動きが止まる。 「どしたの?」  近くにいるリサがキラの肩を触って反応を窺う。  リサの顔色が変わる。キラが苦しそうな顔していて、触った肩が服ごしなのに熱かったからだ。 「ほんとにどうしたのさ! ケイタっタオル濡らして持ってきて!」  急な事態にわけがわからないながらもケイタは、リサの言うとおり濡れタオルを渡す。  スバルもわけがわからず、呆然とするしかない。  うずくまったキラの額や首をリサが拭いている。少しでも熱さが取れればと思っての行為だ。  フロアの騒ぎに気づいたスグとマールも、フロアに出てくる。 「どうしたんだ!?」 「いや、それがさっぱり」  妹の異変に慌てるスグに、ケイタは現状そのままを伝えるしかない。  続けて何か言おうとするスグだが、キラの状態がさらに変わって何も言えなくなる。  それはこの場にいる萌えもんたちには、なじみのあることだった。少なくとも全員一回は経験している。  今起きていること、それは進化だ。  キラは変化が治まると、サナギラスからバンギラスに進化していた。 「なんで?」  呟いたのはキラ。その意味がわかったのはスグだけ。  原因はあの飴だったらしい。  キラがタイミングよく進化の時期だったわけじゃない。キラ本人も、進化はあと何年か先のはずと証言している。  スバルが説明をしている。 「今回の出張先ではね、萌えもんの力を増す研究してたんだ。萌えもんの力を増すアイテムの筆頭といえば、ふしぎなあめだ。  それを量産できたらという考えで日々研究していた。でも上手くいかなくて、成功したって言う話は聞かなかった。  でも噂で、別のアイテムができたっていうことは聞いてた。それがその飴だと思う。  効果は、力量が足りなくても進化できるということだった。ただの噂話だと思ってたんだけど」 「まざっていたと?」  問いかけるのはスグ。キラは想定外な進化が負担となり、客席でぐったりとしている。リサが隣で看病している。 「たぶんわざとだと思う。作った物の効果を知りたがったんだ。  会社に問い合わせるよ。副作用とか会ったら大変だ。治療費とかの問題もあるし」 「そっちはスバルさんに任せます」  スバルは変なもの食べさせてごめんと謝ってから帰っていった。早速、会社に問い合わせるのだろう。 「ようやく楽になってきたよ」  キラは額にのせられていたタオルをどけて起き上がる。 「もう大丈夫?」 「大丈夫みたいです」  心配そうに声をかけてきたマールに、キラは大丈夫だと笑みを浮かべて応える。  それで皆一安心といった表情になる。  キラはしげしげと変化した自分の体を見ている。母親と同じなのが面白いのか感慨深いのか、ほーへーなんて声が漏れでる。 「キラさん、今日はもう上がっていいよ。っていうか上がるべきだと思う」 「そうだな、少し休ませてもらって帰ったほうがいい」   ケイタの提案にスグが同意する。  キラは少し考えて頷いた。本当はまだ辛いのかもしれない。 「客間に布団しくからそこで寝ればいい」 「えっと……お世話になります」  普段は使わない部屋に布団を敷く。  ケイタが店に戻るのを確認してからキラは布団に入る。五分も立たずに寝息が聞こえてきた。  キラはスグたちが帰る頃になっても起きてこず、午後十時まで眠り続けた。  スグが背負って連れて帰ろうとしたが、マールがこのまま動かさずに休ませたほうがいいと言って、本人の知らぬところで外泊となった。  スグが家族に説明した後、ハイツェンに戻ってきたのでケイタと二人きりという状況はなくなった。  男と二人きりというのは、見知った相手でも不安が拭いきれなかったらしい。  ケイタとスグがテレビを見ていると、ようやくキラが起きてくる。 「おはよーございますー」  片目を擦りながら、キョロキョロと周囲を見渡して困惑気味。少し寝ぼけているようだ。 「あれ~? ボクの家じゃない?」 「ケイタの家だ。お前は昼からずっと寝てたんだよ」 「ご飯食べる?」 「うん」  キラが頷いたので、ケイタは台所にキラのぶんの夜食を取りに行く。  空いている座布団に座ってぽーっとしているキラ。目の前に食事が置かれてようやく視点が定まる。 「え? なんでボク、店長の家でご飯食べるの?」 「起きなかったからだ」 「起きなかった…………あーそういえば、布団敷いてもらって休んだっけ」 「そうだ。それで動かさないほうがいいって言われて、ここに泊めることになったんだ」 「それで、なんで兄ちゃんもいるの?」 「俺がいなかったらケイタと二人きりだろう。何かあったらいけないと思ってだな」 「なにもするわけないって、何度も言ったんだけど聞いてくれなくてさ。信用ないんだと思い知らされた」  テーブルにぐたーと寄りかかってケイタは言った。  それにスグは慌てながら、 「信用してないわけじゃないだ。ただ万が一っていう可能性もあるわけだし」 「どうにかできるわけないよ? ボクは萌えもんで店長は人間。力の差がありすぎる」 「それでも寝込みを襲うとかあるだろ」 「しないって、さっきのフォロー台無しじゃん」  その会話を面白く聞きながらキラは、目の前に置かれた箸をとる。  ケイタとスグの会話が、木が折れる音で遮られる。  二人が音の発生源をみると、キラの手の中で箸が折れていた。 「え? 何か怒ってる?」 「俺たちは何もしてないはずだ」  キラは慌てて、 「怒ってないよっただ箸が脆かった?」 「そんなに古くないよ、うちの箸」 「これは簡単には折れないな」  折れた箸の一部を手にとって、スグは曲げようとしている。  だがキラの言うように脆くはなく、日常で使うに相応しい硬さを持っていた。 「でも簡単に折れたけど?」    次に渡された箸とコップを簡単に壊して、ちょっと真面目に考えようということになった。  話し合いだけじゃわからないので、本やパソコンを使い調べた結果わかったことは、力加減ができないんじゃないかということ。  早すぎる進化で、じょじょに慣れてくはずのことができていない。だから肉体と思考の差が出て壊してしまった。  キラは、サナギラスのときと同じつもりで行動している。だからズレが出ている。 「でもいきなりバンギラスとして動けって言われても難しいんだけど」 「調べたかぎりじゃ、とくに解決法はなかったな。慣れろっていうだけで」 「慣れろって、ご飯食べるのにも一苦労するのに」  箸だと食べることができなかったキラは、ケイタが持ってきたスプーンを使ってどうにか食べた。  力を抜いていても、取りにくい料理を食べているとつい力が入ってしまい、スプーンをグニャリと曲げてしまった。 「これは特訓しかない」  そう言ってケイタは台所から二枚の皿と割り箸と豆を持ってくる。  それをキラの前に置く。 「豆を一つ一つ移していこう。力入れすぎても抜きすぎても豆は掴めないよ」  げんなりとした顔を見せるキラだが、 「めんどくさいけど、また何か壊すよりかはましだよね。  うん、やるよ!」 「「がんばれー」」  男二人の声援を受けてさっそく始めるが、豆を取る前に割り箸を折ったことから、先は長そうだと三人とも同時に考えた。  その予感は当たって、0時を過ぎても成功率は三割を切っていた。ゴミ箱にはたくさんの折れた割り箸が入っている。 「ちょっと休憩しよう」  二つのコップにジュースを入れてきたケイタが言った。  暇で寝てしまったスグのぶんはない。 「店長も寝ていいですよ」 「まだ眠くないし、寝たらキラさん一人で起きてることになるし、一人は寂しいからね」  店にいるときは従業員と客に囲まれているが、店を閉めると家に一人なケイタの言葉には説得力がある。 「ありがとうございます」 「いえいえ、どういたしまして」  丁寧な返事にキラはクスリと笑みを浮かべる。  なぜ笑ったのかわからないケイタは不思議そうな顔をしている。 「明日も店をあけるんだから、無理はしないでね」 「眠くなったらそう言うよ。キラさんもあまり無理はしないようにね」 「うん。でもボクは昼寝してるから。  そうだ、キラさんじゃなくて呼び捨てでいいよ。店長のほうが年上でしょ?」 「いいなら、今度からそう呼ぶ」  再びキラは割り箸を手にとって特訓を再開する。  特訓は午前四時まで続いた。ケイタは眠ることなく、特訓に付き合う。  それのおかげかどうかわからないが、力の加減はほぼ上手くできるようになった。  驚くようなことさえなければ、日常生活で支障はでないはずだ。  二時間ほど仮眠をとった二人。  睡眠の足りているキラは元気そうだが、ケイタは少し元気がなかった。  その日一日、ケイタは何度もあくびをして過ごす。  でも、何も壊すことなく働いているキラを見て、上機嫌に微笑んでいた。

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