5スレ>>178

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「きゃははっ、こっちこっちー!」 いつでも元気な彼女は、いつも俺を置き去りに駆けて行く。 ……いや、彼女の場合は飛んで行く、と言うべきか。 「ちょっと、待てってば!」 どちらにしろ、本気で走らないと追いつかない。 浮いている彼女は真っ直ぐ飛んで行けても、地を走る俺はそうは行かない。 整然と立ち並ぶ「とある」障害物の間を、見失わぬよう必死で走る。 それでもやっぱりかなわず、追いつくのはいつも頂上。 「ぜぇ、ぜぇ、……お前、な…」 「あれー?また息が上がってるよー?なっさけないなぁ!」 「飛んでるお前と、一緒に、すんな……  で、話はそれじゃなくって…」 「ん?なになに?」 ようやく荒れた呼吸が元に戻ってくる。 十分に息を吸い込み、俺をここまで散々駆け回らせた相手─── ───ムウマに、全力で声をたたき付ける。 「萌えもんタワーを遊び場にすんなっていっつも言ってんだろーーー!!!」 様々な理由で一生を終え、息をひきとった萌えもんたちが眠る、萌えもんタワー。 シオンタウンを代表するものと言えば、大抵誰もがこれをあげるだろう。 それは決して間違っていないし、むしろその他にこれといった町の名所が無いといえる。 だから、シオンタウンは活気というものに縁がない。 有名なデートスポットを擁するハナダ、 カントー唯一の港町クチバ、 カントー最大のデパートやゲームコーナーを誇るタマムシ、 そして萌えもんグッズの最大手、シルフカンパニーが本社を構えるヤマブキ。 それぞれジムも構えている4都市に対し、シオンだけはジムすらもない。 未来、希望を胸に秘めて歩く者は意気揚々と通り過ぎて。 悲しみ、無念、絶望、そして喪失感に包まれた者が、ここを訪ねてくる。 そんなシオンタウンに、活気など求めようが無い。 きっと誰も、この町にそれを求めないし、それをもたらせる者はいない。 ここに生まれ育った俺がそう思うのだから間違いないだろう。 いつもひっそりとした、しめやかな空気に包まれた町として…… これまでも、これからも、変わることなく続いて行くのだろう。 そう、思っていた。 彼女に、出会うまで。 多くの生を終えた萌えもんが眠る塔は、それゆえかゴーストタイプの萌えもんのたまり場となり易い。 ホウエン地方にあるおくりび山と言う所も、ここと同じようにゴースト系が生息していると聞く。 以前の俺を含めて、ゴーストタイプと言うものをよく知らない人は、皆似たようなイメージを持つだろう。 すなわち、暗く。静かで。時には、生あるものに憎悪を抱き。 だが、それらは勝手なイメージでしかないことを、身に沁みて思い知らされた。 俺が出合ったゴーストの少女、ムウマ。 ふと脳裏をよぎった記憶が、次々と更なる記憶をつれて来て。 俺は、彼女との出会いの日を思い出していた。 ──────────────────────────────────────────────── 俺の肩書きである萌えもんタワーの管理人とは、平たく言えば墓守だ。 その日も、萌えもんタワーの整備及び清掃のため、タワーを昇っていた。 嫌になるほど多くの別れを見守ってきた俺は、自分の萌えもんという奴がいなかった。 別れは避けられない、哀しい思いをする、そうとわかっていながら萌えもんと暮らすというのは、 それまでの俺には考えられなかった。 小さな頃から習慣として親を手伝い、こなしてきた仕事だ。 ゴース達ももはや慣れきってしまい、いないかのように扱われていた。 そんな中で、いつものように立ち並ぶ墓の掃除をしていたときに、彼女を見つけた。 人がいようといまいとお構いなしに飛び交うゴース達が、墓の間にじっとしていることはほとんど無い。 それを知っていた俺は、だから拭きあげた墓のすぐ向こうに見えた黒くて丸い何かに気を取られた。 「…………?」 墓に当たった明かりの影などではない。 昼は墓参りに来る人が多いため、墓掃除は夜に行う。 なので、そんなところにゴース達が寝ているはずも無い。 一体なんなのか、と眼を凝らしていると。 「…ん……ふあぁぁ…」 それは、眼を覚ました。 ゴーストタイプなのは間違いないようだが、見たことの無い萌えもん。 フォルムとしては女の子の胸像といったところか。 「あーよく寝た……あれ?あなた誰?」 ひとしきり伸び?をした後、こちらに気付いたようだ。 「俺はこの塔の管理人。君は誰かな?」 「この塔……?」 どうも、ここを知らない様子。誕生…いや、「発生」したてなのか? 「ここは萌えもんタワー。生を終えた萌えもんが葬られるところだ」 「ふぅーん……  あ、そうそう、アタシはムウマ!」 唐突にどうした? と思ったら、最初の質問の答えだった。 「ムウマって言うのか。じゃぁ、今まで何処にいたのかとか、分かるかな?」 「何処…うーん……どこだろ?」 首をかしげて考え始める。が、わからないようだ。 「やっぱ発生したてか…まぁそうだろうな」 体調によっては休むことも在るが、基本的には二、三日に一片はこの塔を登っている身だ。 ゴースなどの発生に立ち会ったりなども、頻繁にとは行かないが経験が在る。 だから見たことも無いゴーストタイプと対面したからといって、別段慌てはしなかったのだが… その様子が、彼女からすれば興味を惹かれたらしい。 「驚いたりしないの?」 「俺は仕事柄見慣れてるからな。  そうそう、この当たりでわからないこととかあれば、大抵そばのゴースが教えてくれるはずだ」 どのフロアに行ってもきちんと挨拶なり近況報告なりをしてくるゴースがいる。 そういうゴースがこの子の面倒も見るだろうと思い、そう指示したのだが。 「ううん、アタシ、あなたについてく!」 「……は?」 出会って数分で何を言い出すのか? 「いや、俺萌えもんボールとかそういうの持ってないしさ……」 「そんなのかんけーないよ!一緒に遊ぼう?」 子供かよ…… ……いや、発生したてというのは生まれたてのようなものかも知れない。 「わかったわかった、でも仕事中だからまた今度。  大人しく待っててくれ、また来るから」 そう言って、俺は仕事を再開したのだが…… 「……じー」 「…………」 ついてきてる…… いや、憑いてきてる? 邪魔まではしないからほうっておいてるが… 周りのゴース達も興味しんしんだ。多分俺の萌えもんだと思ってるから接触してこないんだろう。 「……どうしてついてくるんだ?」 「終わったら遊んでくれるんでしょ?」 終わるまで憑いてくる気だったらしい。 まぁこのフロアで最後、それももうほとんど拭き終わっている。 「今日は遊んでやれないぞ。もうくたくたなんだからな。  それと、一度言ったと思うがここには一生を終えた萌えもんたちが眠ってるんだ。  俺にはここを遊び場には出来ない」 ゴースたちはここで遊びまわってはいるんだが、基本的にあの子らは音を立てない。 だが、この子と俺とだと間違いなく騒がしいだろう。 というか、それ以前に不謹慎極まりない。 「えー?」 「えー?とか言われてもダメなものはダメ。  大人しく先輩ゴース達に遊んでもらっておいで」 言っては見るものの、聞き入れる様子はない。 結局最後まで憑いて来た。 「これで、今日の分は終わりだな」 「お疲れ様ー」 返事が返ってくるのは今までで初めてだな…… そんなことを思いつつタワーを下り、外に出て。 「ねぇねぇ、あなたの家どっち?」 「ん?真っ直ぐ行って一つ目の角を……  待て」 「何?」 「何で外まで憑いて来てる?」 「言わなかったっけ?」 いや、ついてくるとは確かに言ってたが… 「家まで来る気か?」 「ダメなの?」 完全にうちの子になる気だったらしい。 しっかし、えらくきらきらした眼してんな… さっきも思ったが、まさしく生まれたて、純粋な子供の眼だ。 それにここまで人懐こい(?)ゴーストタイプは生まれて初めて見た。 そういう意味では、俺もこいつに興味があったのだろう。 「……仕方ないな。  ほら、ついておいで」 この日から、俺とムウマの暮らしが始まった。 ──────────────────────────────────────────────── 「ねえってば!」 「うわっ!?」 突然の大声に驚かされて、声の方を振り向く。 見れば、ムウマが頬をぷーっと膨らませて怒っている。 「急にぼーっとしてどうしたのよ。  声かけても反応ないしー」 どうも物思いに没頭してしまったらしい。 「悪い悪い」 答えて頭を撫でてやる。 こいつは機嫌がどんなに悪くても、これですぐによくなる。 体がガス状のゴース達には触れることが出来ないが、ムウマには平気で触れる。 「えへへっ」 案の定あっさり機嫌を直したムウマ。 管理人の権限で頂上のさらに上へ出て、二人でシオンの町並みを見下ろす。 よく笑い、よく怒り、よく泣き、よく遊ぶ。 妹というより娘のような幼い反応の数々は、見てて飽きるということが無い。 ……ゴーストタイプが寂しがりで泣き虫というのはどうかと思いはしたが。 ムウマと暮らす毎日は、いちいち言葉を飾るまでも無く楽しいの一言に尽きる。 これだけ楽しいなら、いつかは別れが来るとわかっていても萌えもんと暮らす気持ちがよくわかる。 今日も時間を問わず静かなシオンタウンに、ムウマの無邪気な笑い声が響く。 この町では極稀な、純粋に明るい声だ。 つられてこちらも笑顔になる。 昨日も今日も、これといった変化はなし。明日もきっと、大して変わらないだろう。 変わる必要は無い、十分に今が楽しいから。 ……ごめんな、ここに眠る萌えもんたち。 皆は、騒がしい、迷惑だと思っているだろうか? それとも、かつての自分達の日々と、俺達を重ねてくれているだろうか? 心の中だけの密かな問いかけに、答えは勿論あるはずも無い。 だが、俺達のすぐ耳元を吹き抜ける風に、ひそやかな笑い声を聞いた気がした。

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