5スレ>>188

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 シキタウンに人が集う。  この地方には目立った観光地はなく、普段は観光客がくることはない。  だが今日だけは別だ。今日は祭。出店が出て、芸人が集まり、街をにぎやかす。  その賑わいにつられて、ほかの街の人が集まってくる。  住人以外にはただの楽しいイベント。けれど住人にとっては、街ができたことを祝う建街祭。  しかも今年は五十年に一度の大祭だ、  五十年に一度のイベントに皆期待を膨らませ、街の東にある見守神社へと集う。  見守神社は、樹齢三百年を越す大木を神とあがめる神社。  その大木があがめられているのには、きちんとした理由があった。  それはおいおい語っていくとして、ハイツェンメンバーの様子を見てみよう。  店を一時的に閉めて、見守神社へと来ている一行。  見守神社はハイツェンから東、歩いて一時間以上かかる山の麓にある。  神社へはバスが出ていて、歩いていく必要はない。  今日は客が多いとわかりきっているので、臨時のバスも出ていた。  そのバスに乗り、神社へと着いたのだ。  臨時のバスが出ていても乗車客は多く、神社にたくさんの人が集まっていると簡単に予測がついた。 「例年より人が多いからはぐれるなよ。  人の波にさらわれそうなら、誰かの服でも掴んどけ」  スグの言葉に、ハイツェンメンバーとトーガが頷きを返す。 「はぐれたら、えんまくの狼煙上げるから気づいてね」  見つけてもらうにはいい手段だ。目立つこと間違いない。  ただ警備員にもみつかって、説教くらうことも確実だ。 「周囲の迷惑だから」  トーガにキラが軽く突っ込み、トーガの手を握る。  はぐれないようにするためには、確実な方法だろう。 「スグさん失礼します」  マールもスグの腕部分の裾をチョコンと握っている。  人波にもまれたらすぐに離れそうだが、そのときはスグが気づいてどうにかするだろう。  余ったケイタとリサは、リサがケイタの腕を取って自分の腕と絡ませている。  ケイタはされるがままだった。リサもこれといった意図はなく、軽く悪ふざけといった感じ。のはずだたぶん。 「リンゴ飴にわたがし、チョコバナナ、とうもろこし、たこ焼き、焼きそば、ホットドッグ!  これぞ祭の醍醐味だね! どれも美味しそう見えるよ!」 「あんまりよそ見するな。皆においてかれるぞ」  そういうものの出店から漂ってくる匂いには、ケイタも心引かれるものがある。  隣で普段以上にテンションが高いリサの騒ぐ声に少し顔を歪めるが、どこからか聞こえてくるアップテンポの楽器音に心も弾む。  欲しいものを素早く買っていくリサから離れず、皆の姿も見失わないようにケイタの視線はスグに固定されている。 「おまたせ」 「少し強引に行くぞ」  たこ焼きを買っている間に、離れた距離を縮めるため二人は、人をかきわけて先に進む。  観光客に睨まれたが、謝罪しながら進み追いついた。 「キラ、このたこ焼きスグさんたちに渡してくれる?  もう一つはあなたたちのぶんだから」 「うん、わかった。ありがとね」  キラは受けとったたこ焼きを、リサからだと言ってスグへ渡す。 「リサちゃん、ありがと」  マールが振り返って礼を言う。その際につまづいたが、スグが支えて転ばずにすんだ。  恥ずかしさからか顔を赤く染めて、礼を言っている様子が後ろから見える。 「ん、この店は当たりだ」  買ったたこ焼きを食べながらリサが嬉しそうに言った。  回りの人々に合わせてゆっくり進んでいるので、食べながらでも進める。 「おおー外はかりっと中はとろーっていうやつだな。タコも大きめで食べごたえある。  リサの言うとおり当たりみたいだ」 「でしょー」  リサの買ってきたたこ焼きはほかのメンバーにも好評だ。  スグの口元についたソースをマールがハンカチで拭い、それを皆ではやし立てるなんてことをしながら、穏やかに進み目的地へと到着する。    着いた場所は神社の境内ではなく、神社と役所が用意した大広場。  そこにたくさんの人が集まり、皆同じ方向を見上げて今か今かと待っている。  皆が見る方向には神社があり、そこは神社の庭。ただ庭があるだけではなく、飾り立てられたステージになっている。  飾り立てられたといっても派手さはなく、厳粛な雰囲気をかもし出している。 「楽しみです」 「私も」  マールにトーガが同意する。何も言わなかった人たちも同じ意見だろう。 「以前姿見せたのが五十年前だから、親父たちも見たことがないんだよな」  すごいなとスグが呟く。 「この街ができた頃から生きてるらしいから三百才以上。すごい長生きだ」  ケイタも同じように感心している。 「それなのに姿は若いままなんだと。神様だって言われるのも納得だ」 「伝説系とは違って普通の萌えもんなのに」 「その秘密、私が盗んでみせる」  トーガにリサが突っ込もうとしたところで、ステージに神主らしき人が現れた。  ざわざわ人の声が響いていた会場は、神主の登場でじょじょに静まっていく。  喋り声がほとんどなくなった頃、神主は口を開いて皆が待つ存在の登場を告げる。 「シキ様こちらへ」  神主に呼ばれステージ裾から中央へと現れたのは、神主と同じ格好のフシギバナ。  神主は黒袴、シキは紺袴という違いはあったが。  ケイタはシキを見て、先ほどの言葉を取り消していた。普通の萌えもんという言葉だ。  シキは普通の萌えもんとは違った。その身に纏う神秘性が一線を画していた。  誰もがシキを見て綺麗だと感動するだろう。  白磁の肌に、鮮やかな新芽の緑の長髪、紅玉を思わせる瞳、穏やかに浮かぶ笑み。  まるで芸術から抜け出してきたような人物だ。  綺麗な人形のような感じを受けるが、会場にいる者たちは神秘性と綺麗さにあてられてそこまで考えが至らない。  ケイタもその一人だった。シキのちょっとした変化を見るまでは。  それはシキが皆の歓声に応えて、軽く手を振って会場全体を見渡しているときのことだ。  ケイタたちの方向を見たとき、表情が崩れたのだ。表情には驚きと懐かしさが表れていた。  そのときだけはシキは、人形から一人の萌えもんへと存在を変えていた。  それは一瞬だけで、すぐに元の笑みを浮かべ、一礼してステージの裾へと帰って行く。  それを合図として皆も会場から立ち去ろうと動き出す。  リサに引っ張られながら、ケイタは首を捻っている。  それはないだろう、自意識過剰だと思いながらも、シキは自分と目が合って驚いて懐かしそうな顔をした。  そう思えてならなかったのだ。  しかし、いくら悩んでも答えなどでないこと、ケイタは次の日の朝にはそのことを頭の隅へとおいやっていた。    三日続いた祭が終って二日目。  ハイツェンはいつもどおり営業している。  ケイタもシキのことで悩んだことなど忘れている。会えるとしたら五十年後、そんな人のことで悩んでもどうしようもない。  扉についた小鐘が鳴って客が来たと知らせる。 「いらっしゃいませ」  キラが客を出迎える。  テーブルに案内される途中で、店内を見回した客はケイタを見て止まる。 「カウンターでもいいしら?」 「お好きな場所でかまいませんよ」  キラはそう言って、お冷を取りに離れる。  客はケイタの目の前に座り、ケイタをじっと見ている。 「こんにちわ」 「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたら、いつでも申し付けください」  ケイタはいつもどおりの受け答えで返す。  客の顔にかげりが見える。  雰囲気的には、期待していなかったけど、やはり期待が外れて少し残念といったところ。  何か不味かったかとケイタが内心焦る。  そのかげりもすぐに消えた。 「名前を教えてもらえます?」 「いいですよ」  なんでだろうと思いながらも、隠すほどのものではないのでフルネームで答える。  聞いても納得いかなかったのかさらに、 「ご両親の旧姓もいいですか?」 「……」  さすがに怪しい。ケイタは旧姓まで聞かれるのは初めてだし、普通は聞かないだろう。 「駄目ですか?」  しかし、シューンと申し訳なさそうにされると、自分が悪いように思えて答えることにした。  ケイタの返答を聞いて客は納得したという表情になる。 「フウカの家系の分家ですか。そういわれればほんの少しだけ面影が」 「フウカ?」 「ええ、ブーバーのフウカ。私の仲間だった女性」 「?」  思わず出た疑問に答えてもらえはしたが、理解できないケイタ。 「店長、ほうじ茶のおかわり」 「あっはいはい。お客さんも注文きめてくださいね」  追加注文を聞いてきたリサの声で、ケイタは我に返って作業にうつる。  その様子を客は楽しそうに眺め、作業が終ったときに注文を告げる。 「オリジナルブレンドのコーヒーお願いします」 「わかりました」  ケイタの入れたコーヒーをゆっくりと時間をかけて飲む。  その間もケイタの様子を眺めていた。  この女性客以外に客がいなくなったとき、ケイタに話し相手にもらえないかと頼んできた。 「一応はじめましてですね。私はシキといいます」  掛けていためがね外し、お団子にまとめていた髪を下ろし、化粧をおとした女性はそう名乗る。  その姿は服装こそ違うものの、祭の時みた姿と同じフシギバナのシキ。  違うのは服装だけではなく、あのときのような神秘性を纏っていないこともだ。  ケイタは、垣間見た表情雰囲気と同じだと思い出す。 「え? なんでこんなとこに? え? どっきり?」  きょろきょろとテレビカメラを探し出すケイタに微笑みながら、 「どっきりがなにかわかりませんが、私はあなたに会いたくて探してたのですよ」 「俺に? どうして?」  ますますわけがわからなくなるケイタ。 「ケンゴに似ていたから」 「ケンゴ? 誰?」 「私のマスターで、あなたの先祖、この街の創始者。  あの舞台で初めて見たとき、あまりにも似ていてビックリしました。  こうして間近で見ると、雰囲気まで一緒でさらにビックリです」 「え、えーとなんて言っていいのやら? 俺は俺でケンゴ……さん? とは別人なんだけど」  戸惑いながらそれだけは言えた。 「そう……ですね。わかってはいます。  でも、もう二度会えないと思っていたので、こうして目の当たりのすると懐かしくて」  シキは寂しげに笑う。  ケイタは、目の前の女性が三百年生きてきたことを思い出した。  それは主人と仲間たちと死に別れたことを示している。  まだ誰かと死に別れたことのないケイタには、シキの心情はわからない。  けれど寂しいのかと推測することはできた。 「ケンゴさんとしては振舞えませんけど、話し相手くらいにはなれますから、いつでも会いに来てください」  これでいいのか自信はないが、何か言ったほうがいいと直感が囁いた。  その直感に従うと自然に口が動いた。  直後に頭の中で、シキはまた木の中で眠るのではと思いつく。  この提案は無駄になるだろうなと考えていたが、 「ありがとうございます。  厚かましいのですが、お願いがあります。  私をここに置いてもらえませんか?」  考えもしなかったシキからの提案で、ケイタの思考は真っ白になった。

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