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「5スレ>>210」(2008/02/28 (木) 16:32:06) の最新版変更点
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納得できない場合は、そんなもんなんだと軽く流してください
深い考察ではないので、それで十分です
ケイタの思考が真っ白な間にちょっと説明をいれよう。
それはフシギバナのシキが三百年という長い時間を生きていられたか。
理由は二つあって、その片方はシキ自身が語るので、ここでは語られないほうを書くことにする。
萌えもんを生命という視点から見ると、例外を除き変わった特徴を見せるタイプが三つほどある。
それが草と虫とゴースト。
ゴーストは置いといて、先に草と虫を説明する。
萌えもんにかぎらず、草と虫は強い生命力を見せる。
引っこ抜かれても根さえ残っていればそこからまた生えてくる草。
外的要因がなければ、長く成長を続けていく樹木。
腕がもげて治療せずとも、頭を潰されても動き続ける虫。
草は生命力の長さに強みを持ち、虫は生存力の強さに強みを持つ。
そしてそれはタイプとして持っている萌えもんにも同じことが言える。
虫タイプの萌えもんは怪我の治り、病気の耐性、健康維持といった面が優れている。
さすがに頭を潰されれば即死だ。
それでも無茶な生活をしても、それが死の要因になることは少なく、通常の萌えもんと同じか少し短い程度生きることができる。
草タイプの萌えもんの特徴は寿命の長さだ。
通常の萌えもんが人と同じくらいの寿命なのに対して、草タイプの寿命は二百年近く。
人間の三倍近い寿命の長さだ。
まあ利点ばかりではない。
虫タイプはやや短命。ほかの萌えもんが六十年以上生きるのに対し、虫タイプは六十に届けば十分長生きとされる。
草タイプは子が生まれる確率が低い。長く生きるので、子孫を残す重要性が低いからだろう。
それならば岩タイプなどの無生物タイプも寿命が長いのでは、という意見が出るかもしれない。
しかし彼らは人と同じだけの寿命だ。
それの説明として石を見てみよう。
傷を入れても、割っても、砕いても、当然のことながら石は自己再生しない。
常に受身で、受け入れた状態のままなのだ。
彼らは寿命というものを、人と同じものとして受け入れていると考えられる。
ゴーストタイプの説明にうつることにする。
シキの説明は終えているので説明する意味はないが、ここまで説明したついでだ。
彼らには、生命というものは無関係だ。
すでに死んでしまっているからだ。
それでは彼らの寿命とはなんなのか?
それは満足したときだ。悔い、心残り、執念というものが無くなったとき、彼らの生命活動は終わりを迎える。
つまり成仏というやつだ。
なので彼らの寿命は個体によって様々で、平均というものがとれない。
解析不明という結果しかでない。
稀に悔いがなくなっても、別のものに執着を見せ、さらに生きるなんてものもいるくらいだ。
例外としてドラゴンタイプと伝説タイプがいる。
ドラゴンは草タイプに輪をかけて長寿で、個体数が少ない。
分析するのにも一苦労で、研究は遅々として進まない。
強いから、龍だから、で納得することもできる。
伝説は簡単だ、一言で足りる。
規格外。
この規格外ということにもいくらか推測はたっているが、話がますますそれるのでやめておく。
そろそろケイタも落ち着く頃だ。本編に戻ることにしよう。
ケイタはとりあえず落ち着くことにした。
別に慌てていたわけではないが、大きな衝撃みたいなものを受けたのは事実だ。
その動揺のまま承諾するのは、あまりにも軽率だと思えた。
シキの頭部に咲く花からわずかに漂う、甘くすっきりした香りも落ち着くのに役立った。
ケイタは考える。
なぜシキがここに住みたいと考えたかを。
「(なんでここに住みたいか?
ここじゃなくても神社で裕福な暮らしができるだろうに。
それにほかの場所でもいいはずだ。守り神が住みたいっていえばいくらでも名乗りを上げるやつはいる。
なにか利点でもある? ここを拠点に何かしたい? ここの土地自体になにかある?
ここでなければならない理由……)」
ここまで考えてケイタはちらりとシキを見る。
受け入れられるか不安げなシキの目を見て、わかった気がした。
所詮、推測でしかないそれに確信が深まっていく。
それはさっきも感じた「寂しさ」だ。
会って半日も経っていない人物のことがわかるなんておかしい、とケイタは思う。
ご先祖様の血のおかげというやつなのだろうか?
「(寂しい?
俺がマスターに似てるって言ってたから、俺と一緒にいることで昔に浸りたい?
でもケンゴさんとは違うってわかってるって言ってたし、ちょっとした懐かしさを味わいたいってとこかな?
害意があるわけじゃないさそうだし)
いいですよ。
ただし、この店の手伝いくらいはしてもらいますが」
「ありがとうございます」
お礼を言いつつシキは嬉しそうに笑う。
その笑みは祭のときに見た人形めいたものと違い、感情の篭った綺麗なものだった。
ここにいる理由のほとんどは、ケイタの考えたもので合っている。
しかし完全正解とは言えない。
シキが樹に帰り眠らず起きていたい、と言えば神社でも受け入れるだろう。神として。
その扱いは、他の場所でもおそらく同じなはずだ。
だがシキ自身はそんな扱いを望んでいない。
本人はちょっと長生きしている萌えもんで、神様なんてつもりはないのだ。
シキがここにいたいと思った一因は、ケイタの態度が変わらなかったことにある。
ケイタの態度が変わらなかったのは、驚きが続いてそんな余裕がなかったからだ。
丁寧な言葉も使ってはいるが、それは年上に対するもので、神様に対してではない。
それがよかったのか、わるかったのか、わかるのは未来の話になる。
「はーい、全員集合~」
手を叩いてケイタは従業員全員を呼ぶ。
「どうしたケイタ」
「なにかありましたか?」
「「なに?」」
それぞれなんの用事なのか聞いてくる。
「新しい仲間が増えたから、紹介しようと思って。
シキさん自己紹介どうぞ」
シキは椅子から立ち上がり、一礼してから口を開く。
「今日からケイタさんのお世話になるシキと言います。
お店の手伝いもしますので、よろしくお願いします」
「「「「はい?」」」」
四人とも同じ表情で驚き戸惑っている。
無理もない、数日前に見物に行った有名人が目の前にいて、一緒に働くとか言っているのだから。
「え? どっきり?」
ケイタと同じ反応をするのはリサ。
つられて一緒にカメラを探すのはキラ。
「どっきりじゃないらしい」
自分も思ったことだからリサとキラの気持ちがよくわかったケイタ。
軽く事情を話してい、その際に寂しいといった推測部分は話さない。
所詮推測でしかなく、間違っているかもしれないからだった。
「男一人の家に住み込むってあんた貞操観念ないのか?」
「兄ちゃん、私のときと同じこと言ってる」
「あらあら、三百才のおばあちゃんにそんなことしませんよね?」
「しないよっ! 俺ってそんな節操ないように思われてるのか!?
酷いよ! スグさん!」
「すまん、ほんとすまん」
スグがケイタに謝り倒している間にも話は進む。
「ほんとにシキ……様なのでしょうか?」
戸惑いながらマールが聞く。
「様づけなんてしないでいいですよ。さん付けでお願いします。
わたしがシキなのか? それは難しい質問です。自分が自分である証明、誰もが悩むことです」
我おもうゆえに我あり、なんて考えながら、人生の難問に悩み始めるシキをマールは止める。
「いえ、そこまで難しく考えなくても。
数日前に神社にいたシキさんでいいんですよね?」
「ええ、たしかに見守神社にいましたよ」
「ああ、本物なんだ」
思わず呟くリサ。そのまま思いついたことを聞いてみる。
「樹に戻らなくていいんですか?」
普段、シキは神社近くにある大樹の中で眠り続けている。
起きているのは今回の大祭や、何か特別な事情があったときだけだ。
「あとで力だけ置きに行きますから、それで大丈夫です。
それに今樹に戻ると、もう二度と目覚めることはできませんから」
「え?」
「そろそろわたしも寿命なんです。
だから短い人生を、自分の過ごしたいように過ごしたいと思って。
十分に約束も果たしたと思うし」
疲れを見せるシキの突然の告白に全員が黙り、フロアは静寂で満たされる。
「それなら自分のやりたいようにやるべきだね」
リサの言葉に、シキを除いた全員が同意する。
「長く見積もっても六十年しか生きられませんから」
「長い! 十分長いよ! 人一人の人生分はあるよ!」
シリアスだった空気がいっきに崩れる。
リサの突っ込みに皆が同じ気持ちだ。本日三度目の全員一致だった。
たしかに三百年に比べたら短いかもしれないが、六十年をしかと言える感覚がケイタたちにはわからない。
「長い?」
このタイミングでやってきたトーガが首を傾げる。
「いらっしゃいませ」
キラが出迎えて、席まで案内する。
客がきたことで従業員は自分たちの仕事へ戻っていく。
「わたしも一度樹に戻ります」
「あ、はい。力を置きにいくとか言ってったっけ」
「あの大樹は昔から、それこそこの街ができる前から、守りの要として大事な役割を持ってました。
その樹と一体化していたから、わたしはここまで長生きできたんです」
「そうなんだ」
「その力をまだ持っているから返さないといけないんです。
今までのお礼として、わたしの力の一部も置いてくるつもりですけどね」
席を立って樹に戻ろうとするシキをケイタが止める。
「お金わたしますから、生活に必要なものも買ってきたらどうです?」
「そういえば、生活用品も必要ですね。忘れてました。
でもお金は大丈夫ですよ。マスターの残してくれた遺産がありますから」
そう言ってシキは、再び変装して店を出て行く。
しばらくして、以前のお金が使えなくて戻ってくるのだが、今の両者には知る由もない。
使えないのは貨幣だけで、物は売ればお金になる。売るつてがないので、意味ないものとなっているが。
店を閉めて、皆が帰った頃。シキは午後七時に帰ってきていた。
ケイタは夕飯を食べようと台所へ向かう。そこにはすでに夕飯を作り終ったシキがいて、テーブルに料理を並べていた。
「ご飯作ってくれたんですか」
「居候だからこれくらいはしないと」
「助かります」
「お口に合うかわかりませんけど」
「俺が作るよりは美味しそう」
いただきますと手を合わせる。
ケイタはちょっと嬉しかった。これから毎日食事時に誰かと一緒にいれるのだ。
家に一人なんてこともなくなった。
家族と毎日一緒じゃないと嫌だなんてことはないのだが、それでも時おり家に誰もいないことに寂しさを覚えていたのも事実。
その寂しさから解放されることに嬉しさを覚えていた。
「ありがとうございます」
嬉しさも込めて料理のお礼を言う。
「どういたしまして」
シキはなにも聞かずにニコニコと笑っている。
ケイタ以外に誰もいない家を見て、ケイタの心境を推測できたのかもしれない。
シキが黙ったままなので、それすらも推測にすぎない。
家からはテレビの音ではなく人の声が聞こえ、あたたかい夜はゆっくりと過ぎていった。