1スレ>>546

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1スレ>>546」(2007/12/09 (日) 16:44:27) の最新版変更点

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ハナダシティに存在する洞窟。 正式な名称などはなく、ただハナダにあるからハナダの洞窟と呼ばれている。 生息する萌えもんはどれも高レベルな個体ばかりだ。 真の意味で実力を認められたトレーナーしか立ち入ることの出来ない魔境である。 そんな洞窟の奥にたった一人で佇む個体があった。 彼女の周りには誰も近寄らず、また彼女も誰も近寄らせることがない。 故に彼女はたった独り。 自分が生まれた事を罪に思い、また生きる意味を探すこともなく、 ただただ人が踏み入れることのないこの未開の地で己が身が朽ち果てるのを待つばかりであった。 そう、彼女が彼と出会うまでは……。 ---------- 「ハナダの洞窟?」 「はい」 聞き返した俺にフシギバナはただ一言で答える。 フシギバナの真意が掴み取れない俺はそのままフシギバナに問いを放った。 「なにか珍しい萌えもんでもいるのか?」 「非常に高レベルな萌えもんが生息していると聞きます。  あとフリーザーさんやサンダーさん、ファイヤーさんもあの洞窟には何かを感じているようです」 ほう……。伝説の三鳥が感じるというから何かあるのだろう。 よし、一回潜ってみよう。 俺はフシギバナにメンバーに準備をするように伝えることを頼み、ハナダの洞窟の情報を集めることにした。 「ハナダの洞窟は相当なトレーナーじゃないと、洞窟の前の人はどかせられないが……。  でも君はその条件を満たしているようだね。あの人も君なら喜んで通してくれるだろう。」 そういってあなぬけのひもを渡してくるおじさん。 感謝しつつ、俺は次の人のところに向かった。 結論から言えば、残念なことに、洞窟の中に生息している萌えもんについての情報はまったくなかった。 これ以上の情報が期待できないので、俺は仲間を待たせてある萌えもんセンターへと歩を進めた。 「では、これより第一次ハナダの洞窟大作戦を決行する。  諸君、質問はあるか!?」 「えらくノリノリだな、ご主人」 そういうカイリューも非常にご機嫌だ。久々のダンジョンでテンションが上がってるのだろうか。 そう考えていたが、ふと結論に至る。すなわち、いつもと同じだということ。 「カイリューはご主人様と一緒だったらどこでもいいのよねぇ」 「うわわわわ! バ、バカ! キュウコン、余計なこと言うな!」 クスクス笑いながらからかうキュウコンにカイリューが猛反論。 そこまで言われると流石の俺も凹むなぁ。 そんな俺の心情を読んだかのようにピジョットが口を開いた。 「これこれ、そんなに否定しては我らが主が立ち直れなくなってしまうぞ」 お前、実はエスパータイプだろ? 「やれやれ、相変わらずというかなんいうか」 グレイシアは苦笑を浮かべながらもこのやり取りを楽しそうに見つめている。 「なんかなんか、すっごい羨ましそうですよね」 そうだなピカチュウ。でもグレイシアが怖いから早く逃げような。 「はいですぅ」 ピカチュウを小脇に抱えてフシギバナの元に退散。 なんかすっごい視線が集中した気がする。 「じゃあ、出発しようか」 その視線を振り切るように俺は出立の号令を発した。だって怖いもん。 サーフボードにちょこんと立つピカチュウに先導される俺たち。 傍から見ればシュールな光景だろうなと思いつつ、ハナダの洞窟の入り口前に到着。 検問もあっさりと突破し、ついに洞窟の入り口に辿り着いた。 入り口に立ち込める霧がこの洞窟の厳しさを表しているように見える。 「よし、いくぞ」 だいぶ強張った声になっているのに自分でも気づいた。 分かっているのだ。自分の胸を得体の知れない不安感が穿っていることぐらい。 「はい、行きましょう」 フシギバナがそっと俺の手を包んでくれた。 振り返れば皆が頼もしげな笑みを浮かべている。 その笑みに俺もフッと笑みを浮かべた。 怖いものなんかない。俺には一緒に歩んできた相棒がいる。 「よし、行こう!」 さっきとは違い、声が前に突き進んでいくのが自分でも分かる。 俺はフシギバナに感謝しつつ、ハナダの洞窟へと足を踏み入れた。 ---------- 彼女がそのとき感じたのは異質な気配。 慣れ親しみ、もはや体に染み付いてしまったゴルダックやヤドラン達の気配ではなく―― 得体の知れない部外者の気配。それも人間一人に萌えもん六体。 だが彼女は行動を起こそうとはしない。 どこの馬鹿が迷い込んだかは知らないが、伊達や酔狂でこの洞窟を潜り抜けることが出来ないということは彼女もよく知っている。 珍しい萌えもんを求めてやってきた人間が野生の萌えもんに撃退される様を、彼女は嫌というほど見てきたのだ。 多くのトレーナーが撤退し、いつしか立ち入り禁止となっていたこの洞窟に挑むのは余程の馬鹿なのだろう。 彼女の彼に対する評価は、この時点では非常に辛辣であった。 彼女はすぐに思考を止め、自己に埋没していった。 ---------- 「しまった」 巨大な岩を前に俺は呟いた。 岩砕きを習得しているオコリザルは現在ボックスの中だ。 このままでは前に進めない。 「どうされますか、ご主人様」 フシギバナが俺に指示を仰ぐ。あまりグズグズするわけにもいかない。 長く洞窟に篭っていると、嫌でも体力を消耗してしまう。 俺は即座に決断した。 「一旦戻ろう。他に道はあるはずだ」 全ての道が塞がっているというのならば一旦引き返す。 とりあえず、行ける所までは行こうと俺は判断した。 その決断にフシギバナは満足気な笑みを浮かべていた。 ---------- 近づいてくる。あの気配が近づいてくる。 彼女は、ここで初めて侵入者に興味を覚えた。 気配が近づいたり遠のいたりしている事から、この洞窟内を彷徨っているのであろう。 だが―― 「ふふ……」 エスパータイプの遺伝子を継いでいる故か、彼女の直感は非常によく当たる。 その直感が、彼の到来を予知していた。だが直感が働くのはそこまで。 もっと知りたいという欲望が頭をよぎり、彼女は皮肉げな笑みを浮かべた。 彼女が忌避する遺伝子が提供するこの力に頼りきっている自分自身。 この皮肉な事実に彼女はまた笑い声を上げた。 久しく声を上げることがなかった。 声の出し方を忘れてしまったのかと思っていたが、染み付いた記憶は早々消えないらしい。 錆付き、軋む関節をほぐすように―― 彼女はゆっくりと立ち上がった。 ---------- 「きたきたきた、なんか奥っぽくない!?」 「主よ。お気持ちは分かるが落ち着きなされ」 洞窟の開けた部分に辿り着き、ヒャッホーと小躍りする俺をピジョットが嗜める。 とはいえ、この凶悪な洞窟を延々彷徨い続けて、やっとそれっぽい場所に到着したのだ。 テンションを下げろとか、それ無理。 水上をサーフボードを装備したピカチュウに先導されて、俺達はすいすいと奥に進んでいった。 そこにはちょっとした小島があった。 本当に何もない――ただの平面な巨大な岩の塊であると言われても俺は納得しただろう。 そして、そこにそいつはいた。 全てに絶望したような虚ろな瞳。いや、ただ空虚なんじゃない。 ロケット団に道具として使われていた萌えもんも生気のない瞳をしていたが、こいつは違う。 その瞳の奥の奥に燻るのは激しい憎悪。 相対するだけで分かる強烈なプレッシャー。 圧倒的だった。俺は息することすらも忘れて、その萌えもんを見つめていた。 「やはり……か」 初めて俺の存在に気付いたかのようにその萌えもんは口を開いた。だが、その瞳は真っ直ぐに俺を見つめている。 虚ろな瞳に映るのは燻っていた憎悪。 今やそれは激しい炎となり、彼女の瞳の中で揺らめいている。 そこから読み取れる意思――殺意に警戒し、俺の周りを咄嗟に固める俺の仲間達。 ピカチュウの電気袋は既に臨界点に達し、電気球が強力な光を放つ。 フシギバナは蔓からリーフブレードを形成。眠り粉を噴出す予兆のように花が脈打っている。 ピジョットは大きく翼を広げ、相手の動きを逃さぬようにその鋭い目が相手を捉えている。 キュウコンは、口から火の粉が吐き出るほどに体内の温度を高めている。その瞳にいつもの余裕は存在しない。 グレイシアからは冷気が溢れ出て、周りの温度をグッと低下させる。相手の動向しだいではミラーコートを張ることも厭わないだろう。 カイリューは既に攻撃態勢に入っている。翼が奏でる頼もしい轟音が俺にとっては救いだった。 そして、俺はポケットに忍ばせてあるたった一つの切り札を握り締めていた。 俺の周りを固める仲間達にその萌えもんは侮蔑を孕んだ声音で言い放った。 「トレーナーに飼われる愚かな者達よ。そこをどけ」 凍てつくようなその声音に俺は凍りついた。 こんなに冷たい声は聞いたことがなかったのだ。 「べーッ! です!」 舌を出しながら、ピカチュウは真っ向から問いをたたき切った。 「嫌です」 静かに。呟くように、フシギバナは強い意志で答えを返す。 「我らにここを退く理由などない。我らが命は、主とともにある」 その鋭い目の眼光がより一層の輝きを放ち、即答するピジョット。 「私達がここにいるのは私達の意志よ。貴女がどう思うとも、私達は誇りに思うわ」 振り返り、俺に微笑を送りながらキュウコンは告げた。 「私達にとって唯一無二の主だ。我らが命に代えても守り抜く!」 一歩踏み出し、正面に彼女を見据えて言い放つグレイシア。 「言いたいことは皆に言われちまったけどさ、オレ達はあんたの言うことなんか聞かねぇっつうことだよ!」 多少の照れを含みながらも、それでも彼女の前に立ちはだかるカイリュー。 ああ、皆本当に―― 「愚かだな」 バカだ――。 バカだ、俺。 皆が自分の意思を示したんだ。俺もここで男を決めないと――愛想尽かれちまうな。 俺が思考の海から帰ってきたとき丁度、彼女が口を開いた。 「貴様らは人間を知らなさ過ぎる。何の権限があって命を弄び、私のようなものを作り出すというのか!」 声を荒げ、自らの思いをぶつける彼女。 作り出す……? ここで俺はこのワードに疑問を持った。 彼女は人工的に作り出された萌えもんだというのか? 俺は一向に反応を示さない萌えもん図鑑に気付き、そしてハッとした。 『シキベツフノウ……。イデンシジョウホウハ[シンシュモエモン ミュウ]ニコクジ』 図鑑が告げたその内容に彼女は怒り狂う。 「その名を出すな! 忌々しい――ミュウという名を……!」 ミュウ――幻とも言われる新種萌えもんで、図鑑にも遺伝子情報こそ記載されているものの、 その容姿については一切の情報がない。なにせ幻だ。目撃情報も極端に少ない。 こいつがそのミュウかとも思ったが……。どうやら複雑な事情があるようだ。 ミュウ、人工的。 この二つの情報が俺の脳内を駆け巡り、ある場所が浮かんできた。 「グレン島のポケモン屋敷……!」 思わず呟いた場所。今は廃墟となっているあの屋敷。 その単語に更に彼女は食らいついた。 「ほう、あの場所を訪れたことがあるというのか? その通りだ。  私の生誕の地はグレン島。あの悪魔のような研究で生まれた萌えもんの成れの果てさ……」 駆け巡るキーワード。研究者の手記。 ミュウのジュニアと称されていたあの萌えもん。 「お前、ミュウツーか?」 この問いに彼女――ミュウツーは自嘲的な笑みを浮かべ、 「私が認識できる、私に対して使われた名称はそれだけだ。  非常に遺憾ではあるが、それが私の名なのであろう」 えらく捻くれた言い回しだ。そんなに自分の名が嫌いなのか? ミュウツーは自嘲的な笑みを歪ませながら口を開いた。 「そもそも、私は何のために生きている? 何のために生まれた?  しかも、生まれたのではなく生み出されたのだ。  分からぬだろう? この苦痛。ミュウツーというのも、ミュウと私を区別するものにしか過ぎん。  私には私というものを表すものがない。だから、私に存在意義など存在しない!  そして、私は全ての人間を憎む。私のような罪深い生命体を作り出した、罪深い種族を」 ミュウツーの感情に呼応するかのように岩の欠片が舞い飛ぶ。 電撃が飛び、草の剣が振るわれ、炎が舞い、氷が生み出され、羽がひらひらと舞い落ち、凄まじい轟音が俺の耳を貫いた。 皆がその岩の欠片を打ち落としたのだ。 「朽ち果てる運命を待っていた私を呼び起こしたのは貴様だ!  そのことを――あの世で後悔するがいい!」 言葉とともに放たれる、今までとは比べ物にならないほど強力な念動力。 あまりに強力なサイコキネシスに、咄嗟に俺を庇った俺の仲間は一斉に吹き飛ばされた。 俺の、仲間の安否を気遣う言葉が口を飛び出る前に皆は立ち上がった。 ただの一撃でボロボロにされながらも、皆の目はまったく死んでいなかった。 「……どうしても庇い立てをするつもりか?」 ならばと言わんばかりにフシギバナに狙いを定め―― 「同属であるから殺しはすまいと思っていたが、貴様らから命を消してくれる!」 ――フシギバナに対して全力のサイコキネシスを放った。 何にも考えていなかった。 ただ気付いたら、俺の体は駆け出していて 「ご、ご主人様?」 フシギバナの切迫した声を最後に俺の意識は消えていった。 ---------- 「ご、ご主人様?」 在りえぬ。こんな人間が居るものか。 ミュウツーの思考はそれで一杯だった。 将を射んとすればまず馬から射よ。ミュウツーはそれを実践したに過ぎない。 「ご主人さま! ……ご主人さまぁ!」 瞳から大粒の涙を零しながら、ピカチュウは必死に少年の体を揺する。 だが、少年は少しの反応も示さない。 「ご主人様? ご主人様!」 フシギバナの心中は穏やかでない。何せ自分を庇ったのだ。 あまりの事態に完全に錯乱してしまっていた。 「主よしっかりしなされ。主よ!」 普段冷静なピジョットですらこの様だ。 普段の冷静さなど、完全に吹き飛んでいる。 「ちょっと、私をからかうのもいい加減にしなさいよ」 キュウコンの言葉は尻すぼみだった。 普段ある余裕が完全に打ち払われた結果であり、そのような状況など今まであり得なかった。 「まだ、息はある。まだ、大丈夫だ。まだ……!」 グレイシアが一番冷静であった。だが、その実一番焦っているのもまた彼女である。 その息が少しで途切れれば……。グレイシアは必死に不安を掻き消そうとした。 「おい、ご主人! 冗談だろ? 冗談だって言ってくれよ!   いつもみたいにさぁ!」 カイリューの悲痛な叫びが洞窟内を駆け巡った。 その勇壮な翼もいまは小さく折りたたまれてしまっている。 この状況を見ながらミュウツーの思考は未だに困惑で満ちていた。 見たことがなかったのだ。 人間と萌えもんの完全なる信頼関係など夢のまた夢だと思っていた。 そこに、主と従の関係がある以上、対等にはなり得ない。当然の考えだった。 だが、色々な意味でこの者達は違った。 対等に話をし、お互いがお互いを認めている。 挙句の果てにあの行動。ミュウツーは、人間というものが分からなくなっていった。 「許さない……」 ポツリと、フシギバナが呟いた。 彼女らに似合わない負の感情は瞬く間に伝播した。 目の前の敵を打ち倒せば主を救える。この洞窟を脱出して、主を救える。 その感情に支配された彼女達はミュウツーの顔に浮かぶ困惑に気付くことが出来なかった。 そして、ピカチュウの電撃が――宙を奔った。 ---------- 暗闇―― 四方八方が漆黒に覆われている、何もない足元すら覚束ない空間に俺はいた。 上下左右すらもはっきりしないこの場所で、俺は一体の萌えもんと出会った。 全体的に丸みを帯びたフォルム。ミュウツーのものに似ている尻尾。 「お前、ミュウ……なのか?」 俺の言葉にミュウはこくんと頷いた。 ――あなたに頼みがあります ミュウは喋らずに、直接頭の中に話しかけてくる。たしか、テレパシーだったか。 なんだ? と答えると答えが返ってきた。 ――彼女はただ孤独なだけ。貴方なら、彼女に居場所を与えることが出来るかもしれません。 随分と買いかぶられたものだな、と思考しているとミュウは困ったように微笑んだ。 ――自覚がないだけに性質が悪いですね。貴方の萌えもんの表情を見ていれば、   貴方がいかに萌えもんを大事にしているか分かるのです。 俺は、ミュウツーを救うことに異論はない。あんな悲しい目をした萌えもんが居てたまるか。 でも、あいつは心底人間を憎んでいる。無理矢理捕まえても意味はない。 ――彼女の思いは既に揺らぎ始めています。貴方がフシギバナさんを身を挺して庇ったことによってね…… 脈があるっていうならやってやる。でももしもの時は……。 ――その時は、私が何とかしましょう。あの子が生まれたことを罪に感じるのと同様に、   彼女が生まれるきっかけを作った私もまた罪を感じているのです。   ですが、できるなら、私は彼女に幸せになってもらいたいのです。 じゃあ、ミュウツーを救うことができたなら、あんたの罪の意識も消えるんだな? ミュウは、首を傾げただけだった。 ---------- 雷撃、業火、深緑、氷晶、残像、轟音。 俺が目覚めたときに感じたのはそれだった。 圧倒的な力を持つ筈のミュウツーは防戦に甘んじ、俺の仲間達はボロボロの身でありながら優位に立っていた。 ミュウツーの困惑の表情――それが、ミュウの言っていた迷いなのか。 目の前の戦いを止めようにも体が思うように動かない。 畜生、と俺は自分の不甲斐なさを呪った。 やがて、ミュウツーに疲れが見え始めた。明らかに精彩を欠き動きが鈍っている。 それでもまだ攻撃を回避しているが時間の問題だろう。 そしてミュウツーの瞳が俺を捉え、その顔は驚愕に彩られた。 それは決定的な隙だった。 フシギバナのリーフブレードがミュウツーの喉笛を襲う。 そんななかミュウツーは、笑顔を零し呟いた。 「あぁ……、ここが私の死に場所だったか」 この言葉が聞こえた瞬間、俺の頭の中がカッと熱くなった。 そして、渾身の力を込めて叫んだ。 「止めろぉ! フシギバナァ!」 喉に突き刺さる一センチ手前。フシギバナの深緑の剣はそこで止まっていた。 「ご主人……様?」 信じられないと言った表情が一変し―― 「ご主人様ぁ!」 俺の胸に飛び込んできた。その顔は涙でしっとりとしていた。 他の皆も似たり寄ったりだった。抱きつかれ、頭を抱かれながら、俺は笑顔を浮かべた。 ミュウツーはそんな俺を見て呆然と呟いた。 「何故だ……? 何故、止めたのだ?」 「そうすれば死ねたのに、か?」 それもある、とミュウツーは頭を振り更に問いを放ってきた。 「私は、お前を殺そうとしたのだぞ。なぜ、命を狙った者を助けるのだ?」 非常に強い口調で捲し立てるミュウツー。 その声には強い困惑が伺えた。 「なぁ、ミュウツー」 俺の呼びかけに、ミュウツーは過敏に反応した。 初めてだったんだろうなぁ。ミュウとの識別のためでなく、 ミュウツーという存在を認めたうえで、ミュウツーと呼ばれたのは。 ミュウツーは無意識のうちに涙を流していた。 「何故だ」 崩れ落ちるミュウツーの頭をそっと撫でる。 「貴様は人間なのに……。なぜこんなに温かいのだ……?」 他者の温かみを知らなかったミュウツーにとって、この温かみは未経験だったのだろう。 俺の萌えもん達も、ミュウツーに寄り添っていた。 ---------- 「で、どうするのだ?」 一通り泣きはらしたのが気恥ずかしいのか、そっぽを向くミュウツー。 そんな様子をニヤニヤと見つめる俺の仲間達。こあくまな彼女が一番活き活きしているのは当然だ。 俺はさして気負いもなく言い放った。 「好きにすればいいさ。出来るなら捕まえたいけど、ミュウツーが嫌って言うなら無理強いはしない」 俺の言葉を受け止めたミュウツーは、 「私を私として見てくれたのはお前達だけだ。  お主と居れば私の生きる意味も見つかるのかも知れぬ」 フッと微笑を湛えてそう言った。 全ての柵から開放されたミュウツーの笑みは、とても可憐だった。 ――了―― 後書 なんか真面目に色々と書いてしまいました。 ミュウツーの心情の転換の切欠が弱い気もしますし、展開が速い、視点がゴチャゴチャなど 私の力量不足を表してしまったかなと思います。 とりあえずですが、これが私のミュウツーに対する見解です。 長々とお付き合い下さりありがとうございました。 後に後日談的な話が書ければいいかなと思います。

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