5スレ>>260

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【デートシリーズその3 -オニドリル編-】 「…では、明後日出発ということで」 「ああ、それでいい。その前に買い出しに行かないとな」 ここは、とある田舎の萌えもんセンター。 周りは険しい山々に囲まれ、センター内の人の数もまばらである。 俺達が何故こんな辺鄙な所にいるかというと、近く開かれる萌えもん地方大会に出場するため、まずは この山を越えなくてはならないからだ。 「…明日は休養日に?」 「そうする。ここに来るのだって大変だったんだ。休んでもらわないと山越えなんてできないよ」 ジョーイさんと数名のスタッフ以外に、目立った人影が見当たらないフロント。 そこに備え付けられた椅子とテーブルで、俺とオニドリルは定例の作戦会議を開いていた。 他の皆には、センターの簡易個室で休んでもらっている。 今頃はサンドパンの入れてくれたお茶でも飲みながら、まったりと談笑でもしている事だろう。 「…了解。皆には私から伝えておくから」 だが、こいつだけは別格だ。 常に状況を的確に見極める冷静な判断力があり、一度決まった事は着実に遂行する。 俺はこいつのそんな能力を買い、いつからか自分の副官としてサポートしてもらっている。 「…おつかれさま。マスター」 「ああ、お前もな」 1時間程、地図とにらめっこしていたため、すっかり目が疲れてしまった。 あらかじめポケットに忍ばせていた目薬を取り出し、手を震わしながらもなんとかさす。 「お前もいるか?」 「ううん、私はいい」 丈夫だなぁ。 まぁ普段から、皆が騒いでいても1人で新聞読んでるぐらいだし、目は鍛えられてるんだろう。 俺なんか小説の最初の3ページ目ぐらいで目が霞んでくるのに(単に活字嫌いなだけかもしれないが)。 「それじゃあ、お前も休んでいいぞ。俺もすぐそっちに行くから」 「…ええ。また後で」 個室の方に向かうオニドリルを見送り、俺は広げられた地図を片付け、出発前の買い出しリストの作成 に取り掛かる。 買い出しは明日、こっそり行く事にしよう。教えると付いてくると言いかねないからな、あいつらは。 明日は皆にゆっくり休んでもらいたい。 山越えもそうだが、戦いとなるとどうしても俺はお荷物になる。 だからこそ、こういった裏方の仕事だけは俺がこなさないといけない。 「えぇと、とりあえず傷薬系は補充して…。それから…」 胸ポケットから手帳を取り出し、明日購入する予定のものを書き連ねていく。 「………」 背中に刺さる視線に気付くこともなく、俺は自分の作業に没頭した。 翌朝、俺達は遅めの食事をとり、一時解散した。 ピカチュウは、近くの草むらで遊んでくるという。サンドパンとフシギバナがその保護者だ。 2人とも幼いピカチュウを妹のように可愛がり、何かと世話を焼いてくれる。 こちらとしても大助かりだ。 キュウコンとギャロップは、久々の大会前という事もあって、2人で修行にいそしむらしい。 まったく、今日は休めと言ったのに…。 まぁ適当なところでキリをつけて、俺が帰る頃には部屋で酒盛りでもしているだろう。 食後すぐにオニドリルの姿が消えたのは気がかりだが、あいつの事だ。心配は要らないだろう。 さて、俺も出かけなきゃ。 最寄のショップには、徒歩でどんなに急いでも片道2時間はかかる。 のんびりしてると日が暮れるな、こりゃ。 そう思いながら、俺は萌えもんセンターを出たのだった。 歩き始めておよそ30分。 空は快晴。本来ならば、うららかな春の陽気を堪能しながらハイキングを楽しむだろう。 だがそんな余裕は無く、それを許す環境でもなかった。険しい山道で、既に少し疲れ始めている。 「これは帰る頃にはクタクタだなぁ」 明日にも山越えが控えてるんだ。今夜はだいぶ早めに寝て、体力を回復しておこう。 それから更に10分ほど歩みを進め、一旦休憩をとることにした。 用意していた水筒のお茶で乾いた喉を潤しながら、これまで歩いてきた道を見下ろす。 「野生のやつに会わなくて良かったな…。ボールは持ってるけど、戦う術がないし」 ゴツゴツとした岩肌は、見事なまでに殺風景な風景を作り出している。 わずかな木陰で身体を休めると、疲労感が少しだけ和らいでいった。 そんな時、不意に上空から飛来する何かに気付いた。 「…マスター。やっと見つけた」 見慣れた影で、すぐにその正体は分かった。オニドリルだ。 「お前、どうしてここに?」 理由は概ね分かっている。 朝食後にすぐ姿を消したのも、俺がここを通るのを空から待ち伏せするためだろう。 「…マスターの事ぐらい、お見通し。ご飯の時にずっと手帳を確認してたから」 それは迂闊だった。昨日、買い出しの話なんかしなきゃ良かったなぁ。 「…1人は危ない。私もついてく」 「はぁ…」 ダメだと言おうとしたが、どうせついてくるだろう。 確かに今まで野生の萌えもんに会わなかったからって、これから会わないとも限らない。 「仕方ないな。その代わり、荷物は分担して持って歩いてもらうぞ?」 「…その必要はない」 オニドリルの言葉に少しばかり驚く。 なんだ? まさか全部自分で持つとか言うんじゃないだろうな。 人間より強い萌えもんとはいえ、女の子だ。そんなことさせられるか。 「…私が飛んで行ってくる。マスターはそこで待ってて」 ああ、なるほど。確かにそれは早く済む…って、それじゃ結局同じじゃないか。 「ダメだ。今日は休養日って言ったろ? お前にそんな用事を押し付けるワケには…」 「…いいから」 俺の手から手帳と財布を強引に引ったくる。 その際に、オニドリルの爪が俺の手をかすめる。 「痛っ…!」 「…それじゃ、行ってくるから」 俺に一瞥をくれると、そのまま一目散に飛んで行ってしまった。 なんだよ…。黙って行こうとした事、そんなに怒ってるのか…? やはり、歩いて行くのと飛んで行くのとは雲泥の差があるようだ。 俺の見積もりであと1時間ちょっとかかるはずの道程を、たった20分で行ってきやがった。 「…書いてあったの、買ってきたよ」 「ああ、ありがとう」 財布を返してもらい、レジ袋の中を確認すると、今日買う予定だったものが間違いなく入っていた。 「…それと、はい」 所定のレジ袋とは別に、小さな袋を渡された。 中に入っていたのは、人間用の消毒薬と絆創膏だ。 「…ごめんなさい。痛かった?」 どうやら爪の傷のことを指しているらしい。 「なんだ、気にしてたのか。こんなもんはツバつけるときゃ直る…」 「…ダメ」 俺をその場に座らせると、オニドリルは前述の2つを取り出し、素早く措置をしてくれた。 「…傷口が化膿したら大変。マスターはもっと自分を大事にして」 「あ、ああ」 全く、これじゃ文句も言えないな。 しかし、これでだいぶ時間が短縮できた。帰ってもかなり時間が余るな、どうするか…。 「…これで……」 「ん?」 俺が座っている横にちょこんと腰掛け、何か言いたそうにモジモジとしているオニドリル。 「…時間、出来たよね? 予定の時間までは…帰らなくて良いよね? (///)」 「ああ…まぁ、そうだけど」 ああ、そういうことだったのか。 その意味を理解した途端、俺まで恥ずかしくなって照れてしまう。 「…あのね、マスター」 オニドリルが、山のかなり高い所を指差す。 「…あそこから見える景色、すごく綺麗だよ」 「そ、そうか」 暗に、一緒に行こうと行っているのだろう。 「…マスター1人ぐらいなら、連れてってあげられるよ」 「わ、分かった」 女の子に背負われるというのも気が引けるが、その飛行能力はいつも使わせてもらってるんだ。 今更遠慮することもないだろう。 幸い、直線距離にしてはそこまで遠くない。 こうしてオニドリルに連れられ、俺は険しい山の更に上の部分へと向かうのだった。 飛行中、終始俺は、オニドリルの成長具合をしみじみと感じていた。 幼い頃から共に時間を過ごしてきたんだ。 変な意味ではなく(それもあるけど)、純粋に感心した。 オニスズメとして出会ってから、もう10年も経つんだなぁ。お互いに大きくなったもんだ。 「…マスター、気持ち良いね」 「ああ。ほんとにな」 そうこう考えているうちに、目的の場所へたどり着いた。 眼下には、無骨な岩肌と僅かな草木、少しだけ人家も見える。 はっきり言って、あまり綺麗な景色とは言えない。 だが、コイツが何のためにここに連れてきたかは分かっているので、俺は何も言わなかった。 適当な木陰を見つけたので、そこに2人で座る。 標高がそれなりに高いためか、風が先ほどの場所より強い。 だが春の陽気と、隣に座るこいつを意識して、そんな些末な事はどうでもよかった。 「久しぶりだな。『お前』と2人きりになるのは」 「…うん」 もちろん、作戦会議と称して2人で話し合う事はある。 だがその時のこいつは、あくまでも''俺の副官''であり、私的な感情は一切出さない。 恐らく、こいつも同様に思っているだろう。 「…本当に、久しぶり」 青い春空を見上げながら、オニドリルが呟いた。 「…マスターと初めて出会って、最初は怖かったけど、優しい人なんだって気付いて…」 何かを懐かしんでいるような表情で、オニドリルは言葉を続ける。 突然のことに戸惑いつつも、なんとか平静を保つ。 「…怒られた事もあったけど、色んな事を教えてくれた。今はあなたに、本当に感謝してる。あなたに ついて来て、良かった。でも…」 「…でも?」 少し表情を曇らせながらも、尚も話を続ける。 「…時々、凄く不安になる。あなたがいつか、どこかへ行っちゃうんじゃないかって。一緒に過ごして きた時が、いつか思い出の中だけのものになるんじゃないかって…」 「お前…」 こちらに体勢を向き直したオニドリルは、じっと俺の目を見据えている。 次の一言を紡ぎ出す。 ただそれだけの事が、こいつにはとても勇気のいることなのだと感じる。 数分? 数十分? そんな時間の感覚がなくなるほど、その沈黙は長く感じられた。 やがて、オニドリルの重い口がゆっくりと開かれる。 「…あなたが、大好きだから。愛してるから。離れたくない。ずっと一緒に居たい。本当なら、このま まあなたをどこかへ連れ去ってしまいたい……」 恐らく、本心だろう。そんな切なげな表情で訴えられたら、信じないわけにはいかない。 ただ、こいつから直接想いを伝えられたことがない分、こちらの戸惑いは大きくなる。 「……でも、それはルール違反。皆と平等に付き合った上で決めてもらうのは、私が提案した事…」 静かに、ゆっくりと、オニドリルが立ち上がる。 「…だから」 もう一度こちらに向きなおすと、優しく微笑んだ。 「……見ててね。絶対、あなたに相応しい女になってみせるから。身も心も、もっと綺麗になるから。 あなたに頼られる存在に…。あなたにとって不可欠な存在になってみせるから…」 そう言ったこいつに、普段のクールなイメージは当てはまらなかった。 幼い頃から、ずっと慕い続けてくれていた1人の少女。 俺がその気持ちに応える時が来るのかは、まだ分からない。 でも少しだけ、彼女に対する想いは大きくなったのかもしれない。 そう思ってしまうほどに、今の彼女が愛おしかった。 それから少し時間が経った。 オニドリルは先ほどのセリフですっかり照れてしまい、今は俺の横で縮こまっている。 その姿は、正直、めちゃくちゃ可愛い。 思わず抱きしめたくなる衝動を抑えながら、何とか頭を撫でる程度に留めている。 「…マスター」 不意に、オニドリルに声をかけられる。 「どうした?」 「…肩、借りても良い?」 なんだ。そんな事なら喜んで協力しよう。 「…えへへ (///)」 はにかんだ笑顔で、俺の肩に頭を預けてくる。 「…やっぱり、マスターはおっきいね」 「そうか?」 口調も、いつものキリッとしたものではない。 どことなく幼い、そんな印象を受ける。 「…はぁぁ。落ち着く」 俺の腕に自分の腕をそっと絡め、頬を擦り付けてくる。 「おいおい、どうしたんだ?」 「…いいの」 俺が問いかけても、一向に気にする気配は無い。 何かに蕩かされたように、ただひたすら俺に身体をすり寄せてくる。 なんだかんだいって、こいつも甘えたかったんだろうか。 俺は常に、副官としての冷静沈着な姿勢を、こいつに求めてきた。 こいつもそれに応えようと、自我を殺して尽くしてくれたんだろう。 パーティーの中でも、ありのままの自分をさらけ出して過ごしたことはないだろう。 平静を装っていても、心のどこかで居辛い思いをしていると思う。 「~♪」 そんなこいつが、俺にここまで心を許して甘えてくれるんだ。 明日からはまた、俺の重要な参謀役として動く事となる。 せめて今日ぐらいは、好きにさせてやりたい。素の自分でいさせてやりたい。 「ん~」 「こらこら。引っ付くのは良いけど、キスはダメだ」 「や~だ」 そう言って、強引に頬にキスをされてしまった。 傍から見たら完全にバカップルじゃないか…。ここが人のいない場所でよかったよ。 ともあれ、こんな風に程度にイチャつきながら、俺達は短い時を過ごしていった。 「…マスター。マスター、起きて」 「ん…。ああ、おはよう」 2人で乳繰り合ってる間に、いつの間にか眠ってしまったようだ。 「…もう夕方。帰らなきゃ」 「もうそんな時間なのか」 結構寝てたんだな。 しまった。こいつの寝顔を確認してなかった。なんて惜しい事を…。 「………」 山のはるか向こう側を見つめるオニドリルの顔は、心なしか寂しそうだ。 そんなこいつの肩に、ポンッと手を置く。 「また2人で出かけよう。色んな所にな」 俺がそう言うと、少しだけ顔をほころばせた。 「……うん」 よしよし。クールなお前も綺麗だが、笑顔のお前も可愛いぞ? これを実際に口で言えないのが問題なんだろうけど。 「…また、2人で」 最後に、もう一度だけ、オニドリルの唇が俺の頬に触れる。 こちらもお返しに、同様の行動をとる。 「…帰ろ。皆待ってる」 「ああ」 再びオニドリルに背負われ、一路萌えもんセンターへの帰路につく。 もし、俺がこいつを選ぶ未来があるならば、再びここを訪れるだろう。 ここもまた、2人の思い出の場所の1つになったわけだからな。 帰ってみると、皆が萌えもんセンターの前に立っていた。 普通ならば、和やかな出迎えの儀式と見られるだろう。 だがその様相は、明らかにこちらに対して怒っている。うん間違いない。 仁王立ちで腕を組んでるなんて、怒ってるとしか考えられない。 しかも、俺がオニドリルに背負われて帰ってきたことが、結果的に火に油を注ぐ形となった。 その夜、そもそも何故黙って出て行ったのか、何故オニドリルと一緒だったのか、オニドリルと何をし ていたのかなど、とにかくあらゆる怒りの声でこってりと絞られたのは、言うまでもない。 ところで皆さん、何故オニドリルに関しては不問で、わたくしにだけ怒るのでしょうか…? オニドリルも涼しい顔でお茶なんか啜ってないで、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!! 【あとがき】 (´・ω・`)ども。デートシリーズも第3弾(作品通算7作目)となり、我が嫁オニドリルの回としてみまし た。今回はちょっと特殊で、事前の約束のない状態でのデート発生という形をとってみましたが、いか がだったでしょうか? 恥ずかしそうにデートの催促をするクール娘も、それはそれで萌えますが、やっ ぱり彼女の場合、こうやってさりげなく2人きりになるチャンスをうかがうのが合ってるんじゃないか と。彼女には、作戦会議と称して主人公を独占しているという負い目がありますので、それが更に彼女 からのデートの催促をしにくい精神状態にしていると思いました。

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