5スレ>>298

「5スレ>>298」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

5スレ>>298」(2008/03/23 (日) 19:29:27) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

暖かな日差しが窓から差し込む、春の昼下がり。 「……ふう」 微かに額を濡らす汗を腕で拭って、俺はようやく部屋の掃除を終えた。 掃除を行う前はそれほどゴミは出ないだろうと踏んでいたが、俺は几帳面な性格ではないので、長い間掃除をしていなかったせいか、 いざ掃除してみると意外と出る出る。 終わってみれば、目の前には無数のゴミ袋が積み上げられていた。 そのゴミ袋を一旦部屋の外へ出して、俺は改めて綺麗になった部屋を眺める。 ――やはり、綺麗な場所は見ていて気分がいい。そしてご苦労だった俺。 休日の貴重な時間を四時間も労働に費やした自分を称えた後、俺は右手をポケットに突っ込み、 掃除中に掘り出した代物を手に取った。 ――黒色のゴムに、透明なガラス球がついているという、簡素なヘアゴム。 簡素だとしても、俺にとっては色々な思い出が詰まっているヘアゴムだ。 (……髪を結ったジュペッタってどんな感じなんだろうな) ふつふつと湧き上がってきた好奇心のされるがままに、俺はジュペッタのいるキッチンへと向かう。 無論、ジュペッタにこのヘアゴムをつけて貰う為に。 - episode 4 白銀の髪 - 「ジュペッタ、あのさ――――」 ちょっと駆け足になりつつキッチンへと足を踏み入れた俺は、 目の前の光景に足を止め、慌てて口をつぐんだ。 (寝てる……) 日が当たっているフローリングの床に、ジュペッタが横になって眠っていたからだ。 ――きっと今日は天気が良いから、日向ぼっこをしているうちに眠ってしまったのだろう。 俺はジュペッタを起こさないように、一歩一歩、そっと、なるべく足音を最小限に抑えながらジュペッタに近づく。 そして、心地よさそうに眠っているジュペッタの寝顔を眺めた。 「……」 時計の針が時を刻む音と共に、ジュペッタの静穏な寝息が聞こえてくる。 しばらく眺めている内に、いつしか俺は母性愛に似たような感情を抱いていた。 少し頬を突付きたくなってくる衝動を抑えて、じっとジュペッタのことを見つめる。 (ほんとにジュペッタって……子供っぽいよな) 既に俺は本来の目的など忘れ、ジュペッタの寝顔に見入ってしまっていた。 ――ジュペッタが目を覚ましたのは三時のこと。 俺が掃除を終えたのが二時少し前だったから……およそ一時間ほど俺はジュペッタを見つめていたということになる。 しかし俺には一時間が経った実感が今一つ湧かなかった。 ――あれだ。楽しいことやってると、いつの間にか時間がかなり経ってたってやつ。 瞼をゆっくりと開いたジュペッタは、眠たげに目を擦って――――俺の視線に気付いた。 「……!?」 俺とジュペッタの視線が三秒ほど合った後、ジュペッタは慌てて起き上がると、 顔を赤くして俯いてしまった。 そして、ちょっとだけ顔を上げて、上目で俺のことを見てきた。 「ああ……寝顔なら見てたぞ。大体……一時間くらい」 俺の言葉に赤い顔を更に赤面させるジュペッタ。 よほど寝顔を見られたのが恥かしかったのだろうか。 「何もそこまで恥かしがるほどのものじゃないだろ? 可愛かったって」 俺としてはフォローのつもりで言った台詞だったが、それが余計にジュペッタの羞恥心に拍車をかけてしまった。 「……///」 ぽふっ。 「え、ちょ……ジュペッタ? どうしたんだよ、いきなり……」 いきなりジュペッタが抱きついてきた。 突然のことに俺は戸惑いを覚えながらも、その両手でジュペッタを抱きしめる。 顔を上げたジュペッタの表情は、酔った人を連想させるほどに顔が赤く、 羞恥心が最高潮に達しようとしているせいか……瞳が潤んでいる。 ここまでジュペッタが恥かしがるとは思っていなかった俺は、どう接したらいいか困ってしまった。 「あ、えーと……その」 ジュペッタの気持ちを逸らすために、話題を変えようと記憶を辿る。 と、その時、右手に何かを握っているような感触を感じる。 それと同時に、俺はここに来た目的を思い出した。 ――そういや俺、ジュペッタにヘアゴムを渡しにここへ来たんだっけ。 「ジュペッタ、ちょっと離れてくれないか? 渡したいものがあるんだ」 そう言って俺の体を離れたジュペッタの目の前に右手を差し出すと、 握り拳を開いて、ヘアゴムをジュペッタに見せた。 ヘアゴムが何だか分からないのか……ジュペッタの反応は薄く、首を傾げている。 「これは、ヘアゴム、って呼ばれるもので、長くなった髪を束ねるもので……」 俺の説明を聞いたジュペッタは、俺の掌からヘアゴムを手に取ると、それをじっと眺めたり、 ゴムを伸ばしてみたり、ガラス玉を覗き込んだ。 次第にジュペッタの顔の赤みが薄れていく。それを見た俺はほっと胸を撫で下ろした。 「それでさ、ジュペッタが髪を結った姿ってどんなものなのかなーって思って。 だから……いいか? 髪、結っても」 あまりに単刀直入すぎて、どんな反応をするか内心不安だったが、 ヘアゴムから視線を移したジュペッタは、それを俺の掌に戻し、何も言わないまま後を向いて、 自らの頭を覆っている黒いフードに手をかけ――外した。 「……」 俺は言葉を発することを、ましてや息をすることまで忘れてしまっていた。 ……日に照らされ輝くジュペッタの白銀の髪。 互いに絡み合うことがない、肩にかかる程度のストレートは、 見ているだけでもその柔らかさが十二分に分かる。 まるでこの世のものとは思えないほど――それは秀麗な髪だった。 「……?」 不思議そうに後を振り向いたジュペッタの視線に、俺の意識は現実へと引き戻された。 「あ、ああ……悪い、つい見惚れてて」 慌てて俺はジュペッタの後髪に手を伸ばす。 その髪に触れるまであと数ミリ――しかし、俺は手を引っ込ませた。 (こんな綺麗なのに……俺なんかが触ってしまっていいのだろうか) そう躊躇したのは僅か数秒。 (でも……そもそも俺は髪を結ったジュペッタが見てみたい訳で) なりを潜めていた好奇心がその気持ちを糸も簡単に払いのけて、再び俺はジュペッタの髪へと手を伸ばし、 今度は手を止めずに、彼女の髪に触れた。 たおやかなその髪を一つに束ね、バラバラにならないように左手で抑えながら、右手でヘアゴムを束ねた髪へと通し、固定する。 緊張からか、俺の掌はしっとりと汗ばんでいた。 「よし、出来た……ちょっと待ってろ、手鏡持って来る」 手をそっと離し、俺は部屋へと駆け込んで手鏡を持って来ると、それをジュペッタへ渡した。 手鏡を受け取ったジュペッタは、横を向き、自らの束ねられた髪――ポニーテールを、興味深そうに手で触る。 「似合ってるじゃん」 俺が発した言葉は、お世辞などではなく、心の底から出た言葉だった。 ――今までフードで頭をすっぽりと隠していたジュペッタしか見ていなかったせいか、 フードを取ったジュペッタの姿が新鮮で、別人のように思える。 それに、髪を結ったことで、更に新鮮さが増して、どちらかというと俺はこっちの方が好みだったり。 「そのヘアゴム、綺麗だろ? まあ……最近売られてるやつから見るとちょっと地味だと思うけどさ」 俺に似合ってると言われて嬉しかったのか、ちょっと顔をほころばせながらポニーテールを見ているジュペッタを眺めながら、 俺は独り言のように、自らの過去を語る。 「俺さ、妹いるんだよ。四歳年下の。それでさ、妹小学生に入ってから、俺が妹の髪を結ってあげたんだ。 前までは母さんの仕事だったけど、なんだか色々忙しくなって、朝早く家を出なくちゃいけなくなって。 ……最初の頃は酷いものだったさ。上手く結べなくて、三十分くらいかけた思い出がある。 まあ、何回もやっていると自然と慣れてくるもので、一ヶ月ぐらいしたら一発で結えるようになったけどな。 その時に妹の髪を結ってたのが、そのヘアゴムさ。 結局、妹が中学校に入るまで、妹の髪を結うのは俺の仕事だった。 そのことを友達に言ったら「シスコン」って冷やかされて……初めて言われたときはその意味が理解できなかったけど」 いつしかジュペッタはポニーテールをいじるのを止めて、俺の話に耳を傾けていた。 「早いよな……あいつも今年から大学生だぜ? いつまでもガキだって思ってたけど、立派に成長しちゃってさ。 ホント、時間ってのは偉大だよな。子供を大人へと成長させる……魔法使いみたいだ」 そう言って俺はジュペッタに無理矢理作った笑顔を向けた。 「……って、なんだか辛気臭くなったな。悪い」 ジュペッタも俺に笑顔で返すと、俺の頭を撫でてくれた。 きっとポニーテールを気に入ってくれたのだろう。撫でているのは俺への感謝、とジュペッタの行動を解釈する。 俺の身長の半分にも満たない――子供にしか見えないジュペッタから頭を撫でられるのは少し違和感を感じたのだが、 頭に感じるジュペッタの掌の柔らかさに俺は黙って目を瞑り、その感触に身を委ねた。 なでなで。 なでなで。 「……ところで、いつまでやるんだ? これ」 なでな…… 俺の問いかけにジュペッタは手の動きを止めて、不安げに俺の顔を見た。 「あ、いや、別に嫌だってわけじゃないんだけどさ。ちょっと――恥かしいな……って」 俺の言葉を全て聞かずに、ジュペッタは安心そうな表情を見せると、また俺の頭を撫で始めた。 なでなで、なでなで、なでなで…… ――ジュペッタが俺の頭から手を離してくれたのはそれから十五分後のこと。 それからは一日中、ジュペッタは嬉しそうにポニーテールを何度も触り続けていた。 気に入ってもらえたのは嬉しいが、何故そこまで嬉しがるのだろうと、 俺は歓心と僅かな疑問を胸に抱いた。 部屋に入る前に俺はヘアゴムを解いて、ジュペッタに渡す。 大切に保管しとけよ、と一言付け加えて。 ジュペッタは大きく頷いて、ヘアゴムを慈しむように両手で包むと、 それをキッチンの箪笥の中へとしまった。 一応俺もその場所を確認すると、ジュペッタにおやすみを言って、 大きな欠伸をしながら、自分の部屋へと入っていった。 ……陽春の夜に布団など必要なかった。 寝巻き用のスウェットに身を包み、俺はベッドへ寝転んで天井を仰ぐ。 ――そういえば、そろそろ桜が見頃の時期だよな。 「それじゃあ、来週の休みは……花見だな」 唐突にそんなことを口走りながら、瞼をゆっくりと閉じた俺の思考は徐々にその回転の速度を緩め。 ――意識は深い闇の中へと、落ちていった。 「桜の満開は、今週の金曜日から来週にかけての、約一週間だと予想されます。 花見の準備はくれぐれもお早めに……」 橙色の光が仄かに照らす部屋で。 ラジオから放たれるノイズ混じりのニュースキャスターの声が、その小さな空間を掌握していた。 ――――――――――――――――――― まず、第三話でちょっと誤字があったことに対して反省…… なんで投下する前は気づかなくて、後になって気づくんだろう。 集中力の欠落? ということで、自分の中でシリーズ化が決まってしまったジュペッタSSの第四話です。 今回はちょっとしたジュペッタのイメチェンと、主人公のちょっとした過去話。 ポニテにしたのは俺がポニテ好きだからです。 主人公の過去話は今後も引っ張ってくるかもしれません。多分。 後半部分、というか全体的に急ぎ足になってる感じがあるんですけど…… 今後改善出来るように努力していきます。 最後に、第四話を読んで頂き、ありがとうございます! 次回、第五話でもお付き合い頂けたら嬉しいです。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。