1スレ>>577

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「お腹減ったし疲れた~休憩しようよ~」  私の後ろを歩いているマスターの声が止まる様子を見せることもなく私の鼓膜をひたすらに叩いている。  現在位置はおつきみやまの洞窟の中、それもまだ全行路の四分の一といった辺りだ。 「マスター、せめて中間地点まで頑張ってください」 「え~」  こういった場合、話し込んでしまうと相手に説得をすれば私が折れてくれるかもしれない、なんて考えを抱かせてしまう可能性がある為に少々歩くペースを早めてマスターと距離を取った。  後ろを一瞥すれば、文句を垂れながらもなんとかついて来てくれているマスターの姿。  昨晩、ふもとにあったはずのポケモンセンターがロケット団に爆破され、仕方なく野宿で一晩を過ごした私たちはマスターの「早くハナダに行ってお風呂に入りたい」発言によって早朝に洞窟内に入り、今現在出口を目指し歩いている最中である。  周囲の風景は余り見ていて気持ちがいい、と言えるものではなく、見ているだけで鬱屈になりそうなどこまでも変化が見られない壁と天上のみ。  稀にズバットなど、野生のポケモンに襲撃されるがそれらは全て私のつのを持ってして追い払っている。 「うぅ~ジュンサーさんに汗拭きシート貰えなかったらどうなってたんだろう、私」 「それは、マスターが臭くなるだけでは?」 「うっわ、ひど~い」  ふもとのポケモンセンター跡地には人間の「ニビ警察」という組織の構成員が現場を調査しており、その折に出会った女性がマスターの状況を見て哀れに思ったのか汗拭きシートなるものをマスターに手渡していた。  涙を流しながら喜んでいたマスター曰く、「何があろうとも女の子はキレイにしてなきゃダメ」とのことなのだが、私にはあまりよくわからない。  水浴びをしなければ多少は臭くなるだろうが、それだけだ。水場を見つけるまで我慢すればいいだけである。  どうして食事や睡眠といった生きるうえにおいて必要な事項よりも優先されるのだろうか?  っと、またズバットが出ましたね。  歩く足を止めて、目標を真っ直ぐに見据える。  ゆらゆらと軌道を変えながらこちらに襲い掛かってくるズバットにつのを叩きつけて地面に落とし、踏みつける。  もはや同様の作業を数十回は行っているだろう。  これでしばらくは飛べなくなるだろうが、そんなことは知ったことではない。 「うっわ~相変わらず作業みたいに退治するねぇ~」 「マスター、見ているだけでなく指示を出すなりなんなりしてください」 「え~いいじゃん~サイホーンちゃんが守ってくれるもん」 「ですが、あなたは私のマスターです、マスターたる者、ポケモンに指示を出せないでいてどうするのですか?」 「ちゃんとトレーナー戦は指示出してるじゃんか~」 「はぁ……」  溜息を一つ、全く、本当にこのような感じでいいのだろうか?  かつてのマスターであったオーキド博士と、彼女の母にこの娘の事を頼むと言われ、こうして旅を続けているのですが……  現マスターである彼女は頭がいい、私の知らない言葉だっていくらでも知っているし、野宿は嫌だと言っているがサバイバルの知識も優れている。  ニビシティのジム戦におけるバトルも、彼女の指示があったからこそと言っても過言ではないだろう。  まぁ、体力がなく、すぐに疲れてしまうのが難点でもあるのですが……  彼女の母から彼女について聞かされたのですが、昔はちゃんと学校にも通っていたし、その中でも頭抜けて成績がよかったらしい。  ただそのことが原因となり、イジメにあい、彼女の交友関係は幼馴染であるサトシとシゲルの両名だけになってしまったそうだ。  それ以後、彼女は決して外に出ようとはせず、自室に引き篭もり、ひたすらパソコンとゲームなるものをしていたそうだ。  彼女の母が心配するのは親として当然だろうし、なんらかの変化が訪れて欲しいと願うのも無理は無い。 「どうしたの?」 「いえ、大丈夫です」  雰囲気の変化に気付かれたのか、マスターが私の顔を覗きこんでいた。  ともあれ、女の子に一人旅をさせる、等という私から見ても荒療治な方法によって、彼女の生き方を変えさせようと思ったのだろう。  とは言え、流石に女の子の一人旅は危険である。  そこで、長年オーキド博士に付き合ってきた私に出番が回ってきた。  彼女に不信感を抱かせないよう、ご丁寧にもロケット団に襲われて渡すポケモンがいなかったから仕方なく、という嘘までついて。  そう、彼女は色んな知識はあっても、世の中に対して結構疎かったのだ。今ではそんなことは無いのですが。 「おっ、中間地点だ~」 「そのようですね」  休憩だ~と、気の抜けた声を出しながら駆け足で中間地点に向かっていく後姿を、私はゆっくりと歩きながら眺める。  私の役目は彼女を守る事であり、それは彼女のポケモンとして正しい行為だと、久方ぶりに誰かに仕えるという実感を握り締めていた。 「んじゃ、休憩タイムに入るから周辺警護お願い~」 「了解しました」  先ほどの話を気にしてくれたらしく、今までは私が自発的に行っていた周辺警護の指示をマスターから受け、私は立ち上がった。  高台になっているので上方からの襲撃に気をつけていればいいだけなのだが、折角マスターがマスターらしく指示を出してくれたのだ、それに従うとしよう。  マスターを中心とした半径30メートルほどの円を描くようにゆっくりと歩く。  時折ズバットの鳴き声や、洞窟を歩く人の声が反響して耳に入ってくる。  多少進んだからと言っても、相変わらず洞窟の中らしい湿った空気と薄暗い風景が続いている。  かつて旅をしていた私でさえ少々うんざりしているのだ、慣れていないマスターにはさぞ辛い事だろう。  途中、イシツブテなどを適当に放り投げて、マスターに危害が加わる事がないようにしておく。  一応これで、周囲の野生ポケモンにこの場所によそ者である人間がいるという情報は伝わるだろう。  ふぅ、と息を吐き、円の中心であるマスターが座っている場所へと、私は踵を返した。 「ねぇねぇ、キミはどこからきたの?」 「ん~ウチか?ウチは元主人がポケモンリーグ出場を諦めたらしくてな、逃がされてもうてな、やることないから仕方なく里帰りやわ~」 「へ~じゃあキミここに住んでたの?」  まだマスターの姿は見えないが、誰かと話しているようだ。  音だけが洞窟の中に響き渡り聞こえてくる。  しかし、会話の内容にどうにも違和感を持ってしまう。  ここに里帰り?となると―――まさか。  思考を中断し、私は全速力で地を蹴って己のマスターのいる場所へと急いだ。 「マスター!!」 「せやで、生まれも育ちもおつきみやまやわ~」 「へ~そうなんだ~」  先ほどサイホーンちゃんが周辺警護に行ってくれて戻ってくるまでにポケモンフードでも用意しておいてあげようと思ってたら思わぬ来客が現れた。  茶色の髪の毛に柔らかそうなほっぺたにくりんとした瞳。  ポケモン図鑑で確認したらパラスというポケモンらしい。  んでもってなんという和みボイス、これは間違いなく大阪である。  うん、今まで一度も見たことないのに自然と話が弾んでしまうのはこの子の特徴なんだろう。 「ねえちゃんは何しにここにきとるの?」 「私はね~このポケモン図鑑を完成させるべく一人旅をしてるんだよ~」 「おぉ~なんやようわからんけどおもしろそうやなぁ~」  私の言葉にどんどん興味を示してくれて、おもしろいように話に乗ってくれる。  サイホーンと話するのも好きだけど、こういうのもなんだかいい感じである。 「な~な~」 「どうしたの?お腹でも減ってる?」 「うちもその旅に連れてってや、ここにおるよりもずっとおもろそうや」  なんと、この子、私の仲間になってくれるというのか。  あぁ~でも野生じゃないって言ってたからちょっと納得かも。  いつも変わらない風景を眺めるよりは、きっと旅をしていた方が楽しいのだ。  疲れるけどね、うん。 「んじゃ、とりあえず一応モンスタボールに……」 「マスターっ!!」  ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨とトンデモナイ音を立てながらサイホーンが私の方に走ってきた。  なんだかすっごく焦ってる表情である、なんぞや? 「そこの貴様!すぐにマスターから離れろ!」 「あわわ~」  怒号一閃、パラスがいた場所に鋭く尖ったつのが走った。  というかどう考えてもあのつのって人を二、三人殺してそうだよね。  それを間一髪で回避する彼女、流石は元マスターがポケモンリーグ目指していた事はあるということか。  って、なに冷静に状況把握してるんだ私。 「サイホーンちゃん落ち着いてっ」  座っていた石から立ち上がって今にもそのつのを突き刺そうとしている彼女を後ろから羽交い絞めにする。  それみたことかパラスちゃんも涙目――― 「なんやあぶないなぁ~」  ではない、余裕である、テラ余裕である。  あっ、サイホーンちゃんも唖然としてる。 「え、えっと、マスター、これは、その……一体どういう状況なのでしょうか?」  力が抜けたのを確認して羽交い絞めから解放してあげると、少々顔を赤く染めながらサイホーンちゃんはこちらに向き直って言葉を口にした。  うん、どうやらあらぬ誤解であったことは把握できているみたい。何を持って誤解なのかこっちもよくわからないけど。 「えっとね、この子元はトレーナーのポケモンで逃がされたからココに帰ってきたんだって、それで途中で私を見かけたから話しかけてきたの」 「ということは、彼女はマスターを襲うつもりは無かったと」 「うん、その通り」 「そやで~うちはただ話してただけや~」  私の言葉にパラスちゃんの和みボイスが続く。  それに伴い、サイホーンちゃんの顔の赤さが増していく。  あぁ、やばい、すっごいかわいい。 「え、えっと、その、あの、私は、え~と、その」 「サイホーンちゃん、日本語でおk」  おぉ、ボンッって音を鳴らしてまで恥ずかしがるなんて、なんという萌え。  こんな高等テクニックまで修めているとは、サイホーン……恐ろしい子っ。 「あぁ、えっと、申し訳ありません」  赤くなった顔を隠す為か、深々と頭を下げている。  あぁ、この子は私をどれだけ悶えさせたら気が済むのだろうか。 「ええで~誤解は誰にでもあるもんや~その失敗を次に活かせればええねん」 「はっ、はい、わかりました」  なんだろう、よくわからないパワーバランスが働いているのかな?すごいねパラスちゃん。見た目はどう見てもょぅι゛ょなのに。  お姉ちゃんそんなアナタに恋心を抱いちゃいそうです。 「それでね、この子が私の仲間になってくれるって」 「おう、よろしゅうなぁ~」 「あっ、え、えっと、よろしくお願いします」  うん、見事についてこれてないね。  まぁ、ついてこれてないサイホーンちゃんは置いといて。  リュックから出発の際に博士から貰ったモンスターボールを1つ取り出した。 「んじゃパラスちゃん、とりあえずコレに入ってくれるかな?すぐに出してあげるけど、一応、ね」 「わかったえ、これからはねえちゃんがご主人様なんやな」 「うん、頼りないかもしれないけどよろしくね」 「大丈夫や、そうやって自認できとる人は大抵おっけ~やからなぁ」  何がおっけ~なのかイマイチわからないけど、褒められている事は確かなのだろう。  ボールを差し出すと、パラスちゃんは自分からボールのスイッチを押して中に入っていった。  しばらくして、カチッという音が鳴って、私ははじめてのゲットという事実にちょっとだけ感動していた。  そういえば、トキワのもりじゃ全然ポケモンゲットとか考えてる余裕がなかったなぁ。  うん、私も成長しているってことなのかな? 「んじゃ、出てきて、パラス」  ボールを投げて、彼女をボールから出してあげた。  そういえば、ボールの中でどうなってるんだろ?後で二人に聞いてみよう。 「いや~なんやらひさびさにボールの中にはいったわ~」 「え?あぁ、その、あー」  サイホーンちゃん、まだ帰ってきてなかったんだ…… 「はっ、マスター!?」 「というわけや、今後ともよろしゅうな」 「えぇ、よろしくお願いします」  おや、ちゃんと帰ってきてたのか、じゃあなんで慌ててたんだろ?  サイホーンちゃんはコホン、とわざとらしく咳をして、笑顔で私に向き直ってこう言った。 「マスター、初ポケモンゲット、おめでとうございます」 「おっ、もしかして、うちが初やったんか、なんやらうれしいなぁ~」  えっと、なに?喜んでくれているの?  ―――これは、まずいな。 「マスター?如何なされました?」 「どうしたんや?」  いや、なんだろう、最後に他人に喜んでもらったのって、いつだったっけ?  あぁ、まずい、なんだか本気で泣いちゃいそうだ。 「あぁ、いや、ヒック、なんでもないよ、さぁ、新しくパラスちゃんも加わった事だし、頑張って進もう~」  そう言って、私は顔を出来るだけ二人に見せないようにして早足で歩き出した。  うん、巧くごまかせたかな。  やっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。  出口が見えた瞬間、私は走り出していた。  長い長い洞窟からようやく外に出て、胸いっぱいに外の空気を吸い込んだ。  そして空を見上げればそこには――― 「うっわ~、すっごい綺麗~」  満天の星空に、まん丸のお月様。  赤や青や白、様々な星々が夜空に浮かんでいる。  今まで写真でしか見たことのないような光景が、目の前に広がっているのだ。感動せずしてどうしろと。 「確かに良い光景ですね」 「えぇ月やろ、ここらはあんま人が住んでへんからなぁ~、空気が澄んどるから星がきれいに見えるんや」  遅れて出てきた二人の言葉に私は向き直る。 「よーしっ、今日はここでキャンプを張ろう!」 「おや、マスター野宿は嫌なのでは?ハナダシティまであと少しですよ?」 「あはは~そんなの知ったことか、私がそう決めたのっ、だから今日は野宿なの!」 「フフ、分かりました、それじゃあ私は近くで薪を拾ってきますね」 「せやせや、この近くに川あるから後で案内するわ~」  あれだけ嫌だった野宿も、この星空があればきっと楽しいに違いない。  最初はあまり乗り気じゃなかったこの旅も、この子達と一緒なら、きっと楽しいに違いない。

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