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「5スレ>>319」(2008/04/11 (金) 21:24:13) の最新版変更点
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家へと帰った俺は、自室のベッドに仰向けに寝そべっていた。
「旅、か…」
研究所で告げられた単語。それが旅だった。
学業に進む事も検討はしていた。しかし、その進路へ向かう決心もなく、グダグダと時は流れていたのだった。
俺は決意する。これはそう、一つのターニングポイントなのだ。
旅に出よう。あいつと。
一度起き上がり、近くの机の上に置いてあったモンスターボールを手に取り再度寝そべる。
蛍光灯に照らされ、まだ新品であろうそのボールは光っている。
中央のボタンを押せば、あいつが出てくるんだ。
**第01話**
博士は言った。
萌えもんの研究といっても特別な事をする訳ではない。ただ、萌えもんと旅をするのなら、定期的に様子などをレポートして欲しいとのことだった。
「なんだよ、そんな事か」
博士の孫、そして俺の幼馴染でもあるケイスケが吐き捨てる。
博士はその言葉に軽く頷き、俺達に図鑑を手渡したのだった。
薄型の電子辞書を彷彿とさせるフォルムの機械を渡し、概要説明に入った。
どうやらこれは、捕まえた萌えもんのデータをボールから自動受信する機能を持ち、その時点で研究所に存在するデータをダウンロードしてくる事で、
白紙であるこの図鑑にデータが追加されてゆく仕組みとなっているらしい。
ようは、この白紙図鑑を埋める作業もお願いされたわけだ。
「世の中には伝説のポケモン、萌えもんも存在しておる。こやつらをもしボールでのゲットをした場合、その個体からデータを抜き出し、推定データを生成する」
「難しい事はさっぱりだが、とりあえず捕まえた事のねーヤツをゲットすればいいんだよな」
うむ、と博士は頷くと、博士の背後にあった机の上、書類の山から何やら取り出してきた。
そう、今俺がベッドに寝そべりながら手にしているボールを含む三つのボールの事だ。
最初見た時、そこに何が入っているのかさえ分からなかった。
しかし、博士の説明によりヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメが中に入っている事と、その種類が萌えもんである事が分かった。
「お前先に選べ」
ニヤッと笑いながらケイスケが言う。俺は何の疑念も持たずに、選択に入った。
「このボールの中には…?」
指差す先のボール。俺は何かを感じていた。
まぁ、どのボールにも抱いていたであろう感情だが、最初に目に付いたボールがそれだったのだ。
「フシギダネじゃ」
博士が答えると、俺は迷わずこれにします、とボールを手にしていたのだった。
「じゃ、俺はこれな」
ケイスケが手にしたボールには、ヒトカゲが入っているという。なるほど。昔トキワ小学校に通っていた時に習った気がする。タイプ相性というやつだ。
悪知恵の働きに俺は内心呆れながら、早速ボールから萌えもんを出してみる事にした。
****
「ご飯よー」
階下から母さんの声がする。昼飯の合図だ。帰宅した時既に昼時で、かなりの空腹感を感じていた。
待ちに待っていた昼飯に、
「分かったー」
と返事して急いでリビングへ向かおうとする、が。その前に俺はボールからフシギダネを取り出す。
ちょこんと座って出てきたフシギダネが俺を見る。
「ご飯だって」
「そう」
素っ気無い答えが返される。そうなのだ。研究所で出会った時からこんな調子なのだ。
『初めまして、俺は博士の知り合いで、…』
『マスターね』
このように、俺とのコミュニケーションが取れない状態になっている。
あえて俺を避けるような態度が、初対面から見て取れた。
「…母さん、下で待ってるから行こうか」
気まずい空気が自然と流れる中で、何とか行動と会話を促そうと言葉を紡ぐ。
フシギダネはあえて黙り、すくっと立ち上がる。
「……」
「……」
俺は変な汗をかきながら、一階のリビングへと降りた。
****
「…あー…えっと」
「レクラットです、宜しく」
自己紹介を遮られ、しどろもどろする内にフシギダネは自分の名を名乗った。
「れ、レクラットだね、俺はアキラって言うんだ」
何とか立て直し、自分の名を告げる。さっきから目を合わせようとしないのが気になる。
向こうでは、ケイスケがヒトカゲをボールから出している。
「お、ポケモンも可愛いとは思ってたが、萌えもんになると人間的な可愛さがあるな」
初めて生で見る萌えもんに、ケイスケは感嘆していた。
俺も同様だ。初対面で素っ気無くされて面食らったが、その可愛さには驚きだった。
まだ幼い女の子、といった容姿で、ポケモンの特徴と類似する点がある。
人間に限りなく近い姿に、少々見とれてしまった。
「ほえ」
ヒトカゲが声を発する。覗かせる八重歯がチャームポイントだろうか。
「俺、ケイスケ。今日からお前と旅をする事になったんだ。宜しくな」
自己紹介が始まった。俺は黙ってそのやり取りを博士と見守っている。
レクラットは、一つ小さな欠伸をして暇そうに俺とケイスケをじっと見やっていた。
「博士さんからきいてましたです!」
目を輝かせて、笑顔で答えるヒトカゲ。博士の顔を見ると、微笑んでいた。
「お孫さんの、ケイスケ様ですねっ!」
「あ、ああ」
「わたしは、パルフェといいますです!よろしくおねがいしますですっ」
元気が良い。レクラットとは対照的な性格だ。外見と年相応な性格をしているようだ。
えへへ、と笑ってケイスケに飛びつくと、必死に手足をもそもそとして肩に乗る。
「元気だな、パルフェ」
「背の高い人の肩は見晴らしがいいのです。最近は博士、乗せてくれなかったら我慢できなかったです」
そうなのか、とケイスケが博士に目を向けると、
「ワシの年を考えんか」
と笑みを浮かべる。自分の事のように嬉しそうな博士を見て、心が和む。
同時に、ケイスケに嫉妬のようなものを感じて、俺も再度レクラットとの交流を図る。
「…れ、レクラット?」
返事は無い。言葉を待っているのだろう。
「俺と旅に出るつもりは…」
「どちらでも」
俺は苦笑せざるを得なかった。難しい子だと思う。
これは時間を掛けてゆくしかあるまい。
とにかく、俺はフシギダネ改めレクラットを手にしたわけだ。先程受け取った図鑑が、ピピピッと音を鳴らす。
「なるほど」
俺は図鑑の画面に目をやると、そこにはレクラットの姿が映し出されていた。
No.001フシギダネ。
画面の中のお前は、従順で素直そうな笑みを浮かべている。現実に戻ると、そこには表情を崩さないお前が居る。
難しい。
初っ端から嫌われでもしたんだろうか…。
****
「頂きまーす」
今日はラーメンだったようだ。
俺の所にだけ、白飯を持った茶碗がある。
「ズズズーっ」
麺をすすり、レンゲでスープをすくってすすり、間髪入れずに飯を頬張る。
これぞ三位一体。旨味が広がる食し方だと俺は思う。
母さんとレクラットは、それぞれラーメンのみ。
というか、萌えもんは人間の食事を取れる事に俺は驚いたもんだ。
少し見ると、レクラットは器用に箸を持っている。
麺を口に含もうとして、
「熱っ…」
小声でそんなことを言って、顔をしかめる。
どうやら彼女は猫舌のようだ。
ふーふーと麺を少し冷ましてから口に入れ、熱くなくなったのか美味しそうな表情を浮かべて食べていた。
すると、彼女が俺の視線に気付いた。
「…何でしょう」
熱そうにしてたり、美味しそうにしてたり、ころころと表情が変わる光景が何とも微笑ましく可愛らしかったが、本人は自覚してないらしい。
「…え、あ、いや、美味しいか?」
「ええ」
すると母さんが、申し訳なさそうな口調で
「ごめんね…まさかアキラが萌えもんを連れて帰ってくるなんて知らなかったから、ラーメンしか無くて…」
確かに初対面の女の子とラーメンという取り合わせは、何とも言い難いが、美味しければ良いのではないかと俺は思う。
「いえ、私はラーメン好きですので」
礼儀正しく受け答えるレクラットに、俺に対する態度との温度差を少し感じてしまった。
だが、空腹が俺の虚しさをも満たそうと、箸を持つ手を止まらせはしない。
「ズズズーっ」
今度は具も、このラーメンと飯の合わせに参加させる。
メンマと麺を同時にすすり、スープを含んで、飯を頬張る。メンマの味と歯ごたえが、新しい世界に導いてくれる。
麺のみを楽しむ事もあれば、具を楽しむ事も。無論スープも単体で。
そうやって各々の味を楽しみながらも、おまけ程度に飯を頬張る。
これがラーメンライスという俺の究極の食事といえよう。
「マスター」
勢いよく食べてると、レクラットが話し掛けてきた。
あまりにも唐突で、そして考えられない事だったので少々慌てる。
「んぐ…。な、なんだ?」
「それ、美味しいんですか…?」
視線が俺のご飯茶碗に向けられる。なるほど、彼女はどうやらラーメンライスなるものを知らないらしい。
「絶妙な旨さだ」
自信に満ちた表情で、断言してやった。
「…そ、そうですか」
その気迫に押されたようで、たじろいでいる。
その時、俺は名案を思い付く。
「そうだ、お前も食え」
「はい?」
キョトンとするレクラット。俺はすぐさま立ち上がって、食器棚から茶碗を取り出す。
「母さん、ご飯余ってるー?」
「ええ、保温してるわよー」
ラーメン単体もそれはそれで、美味しい。まさに一つの芸術品だ。
そして、ご飯も美味しい。日本人として生まれてきた特権といえよう。
米の甘みを何倍にも膨らまし、香ばしい醤油スープがコクと深さを増させ、麺のコシと具のハーモニーが何とも言えぬ。
妙なる味に舌鼓を打つといい。
「お待たせぃっ!」
もはや自分のラーメンの麺が伸びてしまう事などお構い無しに、俺はレクラットにラーメンライスの極意を伝授する。
「まず一つ、最初はスープと麺、そして具を楽しむことにある。ラーメンそのものを愛する気持ちを忘れない事だ」
レクラットはポカーンとしているが、構わず続ける。
「次に、ご飯だ。まずは初心者コース。レンゲにご飯をすくい、その状態でスープをすくってみろ」
これまで見た事のないレクラットの唖然とする表情に密かにニヤニヤしつつ、その様子を見守る。
「食べてみ」
猫舌なので、すぐには口に入れようとはせずに、ふーふーと冷ましてから食べた。
「…どうだ?」
「……」
もぐもぐと味わって、ごっくんと飲み込む。
一連の動作が完了したのちに、ポツッと呟く。
「おいしい…」
ぱぁぁ、と俺の心が晴れた気がした。
「そうか!美味しいか!後は、麺とスープを口にしたあと、ご飯を頬張るなどのコラボ技も存在する!自由に楽しんでくれたまえ!?」
俺は嬉しくてたまらなくなった。
そしてふと我に返る。
――食事の時間にこういう事されるのって、非常に鬱陶しくないか…
自分の愚かさに心の中で、うな垂れながらも、結果的にレクラットはこのラーメンライスを気に入ってくれたらしく俺は満足だった。
俺も自分のラーメンの続きを食す事としよう。
「ズズズーッ」
よし、麺もそろそろ終わりに近い。
「レクラット、見てるんだ」
ラーメンライスを楽しむレクラットに、俺は見せ付ける。
かもん、外道ライス。
「えい」
茶碗からごっそりと残りのご飯が、ラーメンのどんぶりに入れられる。
「えっ」
レクラットが目を丸くしてその光景を見ている。ああ、そうだろう。行儀が悪いだろう。
「麺が少なくなり、具とスープを残している今こそが、ベストタイミングなのだよ」
だがあくまで俺のスタイルは崩さない。だって此処は、自宅なのだから。遠慮する事など無いのだ。
「まぁ、分かりやすく言えば、ラーメンのスープで雑炊にするんだ。こうすると、残りの麺をちまちま食ったり、スープを飲む作業も省略出来る。
スープを残す人には不健康なようにも思えるかもしれないが、俺は全部飲む派だからな。この方法を思いついた訳だ」
「へぇ…」
昼飯前の素っ気無い返答は、いつしか感心するような返答となり、俺の術中にハマってくれたようだった。
ラーメンライスは、矢張り世界を救うらしい。
「あとは、ラー油やコショウで味覚を変えて、レンゲで食べる感じだ。サラサラと食えて旨いぞっ」
「や、やってみます」
と、少々の間を置いて、
「あ、…す、すみません」
何故か俺の母さんに謝っている。
「ん、どして?」
俺が尋ねると、母さんがレクラットに返事をした。
「良いのよ。家族同然なんだから。遠慮される方が困るわよ」
うふふ、と笑って食後のお茶をすすった。
なるほど。これは行儀の悪い食べ方だと自覚してはいたからな。レクラットって礼儀正しいんだな。
俺がダメなヤツなだけだろうか…。
「え、えっと、本当にすみません」
レクラットがどもりつつも、ご飯茶碗に手をやった。
どうやら、やるらしい。
「やっちまえ、やっちまえ」
俺も言葉で促し、自分の雑炊を食べ続ける。
レクラットはラー油を手に取り、数滴垂らす。
ごま油の風味と、辛味が、麺を食い終えた後の味覚をガラリと変えて、更なる食欲をそそるってものだ。
「改めて頂きます」
はふはふ、とレンゲですくっては食べる。
「…あ、…おいし…」
スープとの相性は抜群に優れている。
「だろだろーっ」
俺はもう、素っ気無さによるショックなど忘れて満面の笑みでレクラットを眺め続けた。
****
二人とも頼んだぞ、と博士は言って、研究所を俺達は後にした。
「これからどうしよ」
俺が呟いていると、ケイスケが俺の肩を叩いて、
「旅に出るっきゃねーだろ?」
ニヤッと笑ってそう言った。
「でも、あてがないぜ…?」
「そうだなぁ、トキワシティにでも行けば、何か掴めるんでねーの」
俺の母校がある町だ。俺とケイスケはそこに通っていた。
「なるほどなぁ…。でも、まだ母さんに話してないし、明日か明後日に家を出ると思う」
「好きにしとけって。俺は帰ってねーちゃんと昼飯食ったら、すぐに出るぜ」
「そうか…。じゃあ、ケイスケ」
「…おう」
見つめ合い、しばしの別れを決める。
「ま、しばらくカントー地方をうろちょろするしな。いずれどっかで会うだろうよ」
「そうだな。…じゃ、少しの間、あばよ」
「おう、じゃな」
手を軽く振って俺達は別れた。
そして最後まで、パルフェがあいつの肩から降りる事は無かった。
――第01話 終わり
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【あとがき】
ラーメンライスについて書ければそれでよかった。今では後悔している。
第00話からの続きになります。色々とごめんなさい。
キャラ萌えよりラーメンライス萌えになりましたヽ(゚∀゚)ノ
レクラットについては、もう少しツンツンしてて欲しかったんですが、ラーメンライスが食いたくなった俺の心情により、
かなりの早さでデレが覗かれました。
さすがです。ラーメンライス。
次回も宜しければ読んで頂けたら幸いです。
今回も読んで頂き有難う御座いました♪
作者:てんくるり