5スレ>>328

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5スレ>>328」(2008/04/11 (金) 21:32:02) の最新版変更点

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ロケット団によるオーキド博士の研究所襲撃事件の数日後、俺は久しぶりにセキエイ高原に降り立った。 相も変わらない重たい空気に顔を顰めつつ、俺は萌えもんリーグの扉を叩いた。 王座を返還して数ヶ月が過ぎたが、制覇者という肩書きは未だに効力を発揮している。 四天王への面会を求めると、それはあっさりと受諾された。 待っている間、テレビで緊急特番が放送されていた。 なんだか、ホウエンの二つの珠が奪われた事が露呈した、というものだ。 さして興味もなかった俺は、テレビから視線を逸らした。 そんな事をしているうちに、受付の人が俺を呼びに来た。 通された場所は大広間だった。こんな場所もあったんだ、と暢気に思考する俺を置いて、受付の人は四天王の許へと向かった。 元々、バッジを揃えられる実力者が少ない上に、現在トキワシティのジムは休業中だ。 新たな挑戦者が現れるわけもなく、ある種暇な時間を過ごしていた四人はすぐに集まった。 その際、カンナさんと目が合ったので会釈しておいた。 「珍しいな……。一体、どういう心境の変化だい?」 代表して口を開いたのはワタルさんだった。 俺は、セレビィやお兄さんの事を排して、ロケット団の動向についてのみ話しをした。 血相を変えて反応したのはカンナさんだった。故郷がロケット団に襲われた経験も手伝っているのだろう。 氷の女王としての顔は綺麗に消え去っていた。 伝説のジョウト三犬の一角であるライコウの件では、皆が一様に顔を顰めた。 あの捻くれているキクコさんですら、怒りを隠しきれずに口元を震わせていた。 「殴りこむか?」 黙り込んでたシバさんの発言に、俺はひっくり返りそうになった。 それはワタルさんも同様のようで、すぐさま宥めていた。流石、四天王の筆頭といわれるだけはある。 「今回はちょっとしたお願いがあるんです」 ワタルさんのおかげで広間に静寂が戻ったのを見計らい、俺は本題を切り出す事にした。 それは、四天王にジョウトとカントーを飛び回ってもらう事だった。 俺の話を聞いた四天王の皆さんは、当然の事ながら渋い顔をした。 当然だ。リーグ四天王に数え上げられる、数居るトレーナーの頂点に君臨する四人を小間使いにしようというのだ。 だが、逆に言えば四天王にしか頼めない事なのである。 たださえ強力な伝説の萌えもんの力が、ロケット団の発明した機械によって増幅されてしまうのだ。 もしもの時に対応できるのは、それこそ一握り。俺、アイツ、そして四天王というわけだ。 アイツは現在ナナシマにいる。ナナミさんに連絡をしてもらってはいるが、アイツとて多忙の身だ。 噂では、トキワシティのジムリーダーに就任するという話も持ち上がっているそうだ。 その手続きに追われながら、忙しい時間の合間を縫ってアイツはナナシマの探索を続けている。 ナナシマに残った史料の断片を集めながら、萌えもんの研究を続けているそうだ。 伝説の手掛かりも掴めるかもしれない、と息巻いていた姿が懐かしい。 と、皆して多忙なのだが、その合間を縫って協力してもらいたいという意思を伝えた。 「いいだろう。フスベシティには知り合いも居るし、一旦ジョウトに赴くのもいいかもしれない」 ただし、とワタルさんは続けた。 「出向くのはオレだけだ。リーグの運営に支障をきたすわけにはいかないからな」 俺としては十分すぎるほどの回答に頭を下げ、俺はグレンタウンへと向かった。 博士の研究所が狙われたのだ。カントーでも有数の研究施設があるから、ここも狙われるはずだ。 この俺の懸念は見事に当たる結果となった。 ----------- 首尾は上々。 とはいえ、先んじてのナナシマでの失敗に加え、オーキド研究所でも失態を晒した女からは余裕が消えていた。 だがオーキド研究所襲撃計画の失敗から暫くたち、漸く女にも余裕が戻りつつあった。 アクア団が解放し、マグマ団が捕縛したホウエンの伝説が届いたからである。 使用したボールには、三犬に使用したものと同じ改造が施してある。 ID機能を排し、代わりに催眠電波の受信装置を備え付けてある一品だ。 ID機能を排したことによって、催眠効果を高め、特定の主人に縛られる事もなくなる。 これによって少年の意表をつくことが出来ると、女は踏んでいた。 女は、例の少年を異常なまでに警戒していた。 彼女が心酔する、元ロケット団首領――サカキを打ち倒すほどの実力を持っているからだ。 だが、いくら実力があってもまだまだ少年だ。不測の事態には必ず脆さが出る。 ホウエンの伝説はまだ実践で使える程洗脳が進んでいないが、それも直ぐだ。 六人の伝説が雁首を揃える光景を想い、女は蕩けた笑みを浮かべた。 だが、夢見心地の女は、耳に張り付いた機械音によって現実に戻らされた。 「流石に時間がかかるか」 女は呟き、その機械へと歩みを進めた。 安置されているのは藍色の珠と紅色の珠。 特殊な機械によって、内部に文様が刻まれている最中である。 放たれるレーザーの光がちかちかと女に迫る。 不可思議な力を持つ珠は、現代科学の粋を集めても傷つけるのに時間がかかる。 マグマ団やアクア団はヤキモキしているだろうが、こればかりは仕方ない。 「しかし、いいように動いてくれる」 女は口元を吊り上げて呟いた。 どちらの団体も己の信念こそが正義だと妄信し、伝説のグラードンとカイオーガの力に目がくらんでいる。 そして、その力を制御する為に一手講じよう、というロケット団の提案により二つの団体は手を組んだ。 決して交わる事のない水と油が、ロケット団の手によって融和されたのだ。 だが、ロケット団としては体のいい駒程度にしか彼らを思っていない。 利用するだけ利用して、後はポイする気満々なのである。 その事に、二つの団体の長は気付いていない。それどころか、数々の情報をもたらしてくれる。 ホウエンに眠る物質を司る伝説についてのソースは、この二つの団体である。 この情報によって、女の計画は更に盤石な物となった。 伝説の圧倒的な力を従え、元首領のサカキを連れ戻し、ロケット団を復活させるという計画が。 「お待ち下さい、サカキ様。もう直ぐです……。もう直ぐ」 とはいえ、この女にも心配事があった。 コガネシティのラジオ搭を占拠し、そこからサカキへと呼びかける事を計画している一派の存在である。 女は、その一派の行動が気がかりでならなかった。 その一派の計画は行き当たりばったりであり、綿密なロジックを組み立てた女からすれば目障りもいいところである。 彼らの余計な行動で計画が潰れることなど考えたくもない。女は悪夢を振り払うように頭を振った。 そのタイミングを見計らったかのように、通信機がけたたましく鳴り響いた。 女が通信機を取ると、彼女の部下の声が耳に届いた。 「グレンタウンに到着いたしました」 「ご苦労。慎重に事を運んでくれ」 グレンタウンの萌えもん研究所はホウエンの研究所と深い繋がりがあり、グラードンやカイオーガに関する資料を蔵しているといわれている。 情報は多いに超したことはない、というのが女の持論である。 グレンの研究所を襲うというリスクを伴うが、計画を更に磐石なものにするために女は資料の奪取を決定した。 それに、グレンはその内"消える"。 女は怪しげな笑みを浮かべていた。 ---------- カラッとした空に、日の光が眩しい。 グレンタウンは今日もいい天気に恵まれていた。 地面からは蒸気が立ち、ムワッとする気性に拍車を掛けている。ここまで来ると寧ろ暑い。 「私にとっては、あまり好ましくない天気ではあるな」 日の光に目を細める俺を横目にグレイシアがポツリと呟いた。 氷タイプの彼女からすれば、暖かな陽の光よりも凍てつく吹雪のほうが心地よいのかもしれない。 それにしては俺に引っ付きたがるよな、と思いつつ俺は相槌を漏らした。 しかし、不自然なほどの暖かさだ。 いくらグレン島が休眠中の火山とはいえ、この地熱は異常だ。 炎に関する気象を司るファイヤーも、違和感を感じて俺に忠告をくれている。 専門ではないから詳しい事は分からないらしいが、休眠中の火山とは思えないそうだ。 これも、ジョウトから三犬が消えた弊害であろうか。 そんな事を思いつつ、俺はグレンタウンの研究所へと向かった。 グレンタウンの研究所は、オーキド博士の研究所と他の地域の研究所とのパイプの役割を果たしている。 各地域から様々な情報が集まり、それを各地の研究所に流す一方、その情報量の多さで数々の独自の研究を行っている。 化石の復元はデボンコーポレーションとの共同開発らしいし、各地を繋ぐこの研究所はオーキド博士の研究所と同じくらい重要だ。 そして、俺も化石復元の件ではお世話になった。 復元して現れたのは非常に変わった奴らだが、ボックスでもうまくやってるし、俺との関係も良好だ。 閑話休題。 俺は、馴染みの研究員さんの研究室に赴いた。 「やぁ、君か。新しい化石でも見つけたのかね?」 相変わらず化石の事しか頭にない人だ。 お決まりのセリフに苦笑しつつ、俺はオーキド研究所襲撃事件を掻い摘んで説明した。 その上で、ここが狙われないかと思い様子を見に来た事を告げた。 研究員さんは記憶を手繰るように人差し指を頭に当てた。 「ふむ――いやね、この研究所にはね、色々な地方の伝説の資料が集められているんだがね……。  そんな話はついぞ聞いてないね。伝説を追うならナナシマに赴くのではないかね?」 ナナシマは古来からの自然を多く残す島の群れだ。 伝説の手掛かりを追い、今もアイツがナナシマを駆けずり回っているはずだ。 なるほど、伝説を追うならそういった遺跡のほうがはるかに史料的価値は高いだろう。 まぁ、ここにしかないような物でもあれば話は変わってくるが……。 「それがあるのだよ」 ズイッと顔を近づけてきた研究員さんに面食らい、俺はもんどりうって尻餅をついた。 てか、人の思考にまで干渉しないで頂きたい。 「口に出していないつもりだったのかね? ――まぁ、そんなことはどうでもいいのだがね」 デスクに散らばっている書類を無造作に集め、ファイルに挟み込むと、彼はやおらに立ち上がった。 そして、ついてきたまえ、と言葉を紡ぐとさっさと歩き出した。 「この研究所には各地から様々な資料が集められているのは知っているね?」 研究員さんの後を追いながら、俺は投げかけられた質問に短く肯定した。 「実はだね、ホウエンに伝わる天地創造の萌えもん……。その伝承がカントーにも残っているのだよ」 へぇ、と感嘆し俺は着々と歩を進める。なんでもナナシマの伝承を再編し纏めたものが、ここに蔵されているらしい。 ホウエンに伝わるものとはまた角度の違う伝承らしく、血眼になって調査を進めているらしい。 「なんでもね、ニシキ君が開発した転送装置に使われている『ルビー』『サファイア』は力の欠片が固まったものらしいね」 かつて、ロケット団の残党とナナシマで繰り広げた騒動を思い出す。 伝説の力、ねぇ……。世界征服を狙うロケット団からすれば手が出るほど欲しい一品だろう。 何せ天地創造だ。その力のスケールは、文字通り世界を揺るがすだろう。 それにしても、何か研究員さんが急がしそうに走り回っている。 聞けば、火山が活性化したとの知らせを受け、全島民に避難勧告が発令されているらしい。 資料もあらかた運び終え、残っているのは奥のほうに蔵された噂の史料を始めとした貴重品だという。 「天地創造といえば、ホウエンのおくりび山で窃盗事件が――」 研究員さんの言葉は、けたたましい警報の音で遮られた。 奥から駆けてくるのは、見飽きたRがワンポイントの全身黒タイツ。 見間違えるはずがない。ロケット団だ。 素早く腰のボールホルダーに手を回し、グレイシアを場に出す。 「『みずのはどう』!」 俺の指示を聞いたグレイシアは、即座に空気中の水分を集めて水の玉を作り出し、それを発射した。 途中で接近に気付いたロケット団員は、盾代わりに繰り出したベトベターで事なきを得た。 だが、その過程で足を止める結果となり、ロケット団員を追い詰める事には成功した。 俺は奥歯を噛みながらロケット団と正対する。 「クッ! また貴様か!」 「それはこっちのセリフだ!」 言葉でジャブの応酬をしながら、俺はじりじりと距離を詰める。 ロケット団の手には資料の束。あれが天地創造の……。 と、一瞬逸れた思考の隙を狙われた。 ロケット団員は窓をぶち破って外へと躍り出た。 俺は思考することすら忘れて、ロケット団の後に続いた。 俺とグレイシアが窓から飛び出したのと、ロケット団員がボールを振りかぶったのは同時だった。 着地と同時にボールが開かれ――伝説が降臨した。 勇壮に大地を踏みしめるその姿は、正に伝説だった。 この前聞きかじった伝承の通りなら―― 「炎の帝王――ジョウト三犬の一角エンテイ」 俺が呟いた言葉に呼応するかのように、帝王の咆哮がグレン島を包み込んだ。 背筋が震えた。怯えと武者震いがフィフティフィフティの不思議な感覚。 こんな存在を相手に、あのお兄さんは一歩も退かずに渡り合ったのか。しかも、ライコウとカメックスという最悪の相性で。 エンテイ、といえばその名の示すとおり炎タイプだ。 セオリーでいくならば水タイプで相手をするべきなのだが、悲しいかな俺の現在の手持ちに水タイプは居ない。 そもそも、俺の仲間の中で伝説と拮抗できる面子など、同じ伝説と殿堂入りメンバーくらいなものだ。 その中で水タイプは居ない上、水を操る事の出来る面子も限られてくる。 伝説は、まず除外。伝説は言わば切り札だ。ここで切るには早すぎる。 そうすると、殿堂入りメンバーに絞られてくる。 今日、ホルダーに挿んでいるメンバーはグレイシアとキュウコン、そしてピジョット。 ピジョットの能力はエンテイとの戦いには向いていない。だから、必然的にグレイシアとキュウコンでの戦闘になる。 正直キツイ。いくら『もらい火』の特性で炎の攻撃への対抗策があるとはいえ、それは完全ではない。 相性も良くない――寧ろ悪い。 だが、俺は退くわけにはいかなかった。 立ち上る蒸気は一層増え、グレン島は灼熱の地となった。湿度も高いから性質が悪い事この上ない。 心なしか、地面の脈動も感じる。 マズイなぁ……。 これは完全に"予兆"だ。 しかも、考えられる限り最悪のシナリオの。 嫌な予感が拭えないまま、俺の意識は戦いへと傾いていった。 ---------- 時間もない上に、下手に攻撃を貰えば一撃でのされる恐れもある。 キュウコンを繰り出した俺は、攻撃をグレイシア、防御をキュウコンに割り振り先手必勝に打って出た。 「グレイシア! 『みずのはどう』!」 本来、シンオウ地方で発見されたイーブイの氷の進化形態――グレイシアの特性は『ゆきがくれ』だ。 だが、うちのグレイシアの特性は『てんのめぐみ』だ。 本来進化しないはずのカントーでの進化による突然変異だと推測されるこの変化。 この変化により、うちのグレイシアには強みが出来た。 状態異常を併発させる技の強化である。 『冷凍ビーム』『かみつく』『みずのはどう』『ふぶき』、とグレイシアの使用する技は全てが状態異常に関連している。 とはいえ、命中に難のある『ふぶき』はダブルバトル専用と化してはいるが。 突き抜けたとくこうを武器にして、多数の状態異常も引き起こすのがグレイシアである。敵に回したくないタイプだ。 「キュウコンは『めいそう』。グレイシアにかかる火の粉は全部振り払ってくれ!」 極悪な能力を持つグレイシアに比べると、キュウコンのソレはパッとしない。 だが、炎タイプとは思えないほどの技のバリエーションを持つキュウコンはこういった機会に重宝する。 特性の『もらいび』もあり、グレイシアとの相性は抜群だった。 目を瞑り、精神を研ぎ澄ませるキュウコン。その様は彼女自身の容姿もあってとても神秘的だ。 一方のグレイシアの『みずのはどう』はこちらの思惑通り――とはいかなかった。 エンテイが放出した『かえんほうしゃ』により、綺麗に蒸発されてしまったのだ。 残った衝撃波も、エンテイの手でぺしっと叩かれて消えてしまった。屈辱だ。 いくらグレイシア氷タイプで技の威力が引き出せないとしても、もともと技の威力がたいしたものではないとしても、この結果は衝撃だった。 水タイプの萌えもんが居ない俺の主力パーティにおいて、グレイシアの『みずのはどう』とピカチュウの『なみのり』は貴重な炎潰しだった。 カツラのウインディや、アイツのリザードン相手に真っ向から立ち向かったのは記憶に新しい。 そんな激戦を潜り抜けてきた自慢の一撃があっさりと防がれたのだ。俺の精神的ショックは推して知るべし。 この一連の攻防を見て、ロケット団員は惚けたように立っている。 呆然と立ち尽くしていた男が笑い出すという光景に、俺は思わず身を退いた。 「素晴らしい……! これが、伝説の力……!」 強大な力を手に入れた人間の反応は大きく分かれる。 すなわち、その力に怯えるか、魅入られるかである。 この反応を見る限り、団員は力に魅入られているのだろう。そして、その力を制御している自分自身に酔っているのだろう。 トレーナーの指示がないなら、こっちにだって考えがある。 「グレイシア! もう一回!」 再び形成される水の球。 それを打ち払うように先ほどより強力な『かえんほうしゃ』が放たれる。 それは『みずのはどう』を消すだけでは飽き足らず、グレイシアに向かってくる。 グレイシアとエンテイを結ぶ一直線上を奔る炎に、キュウコンが身を投げる。 帝王の業火をキュウコンは一身に受けるが、ダメージはない。 それどころか業火をその身に纏い、吐き出す火炎と織り交ぜて強烈な『かえんほうしゃ』を放つ。 エンテイはそれを打ち消す為に三度『かえんほうしゃ』を放った。 交差する二筋の炎。 炎の帝王に対してもキュウコンは一歩も退かない。何時もの余裕は見受けられないが、決して押し負けているわけではない。 『めいそう』と『もらいび』が上手く機能しているからだろう。 しかし、逆に言えばこの二つの要素が絡み合ってやっと五分だ。油断は出来ない。 何よりも、この好機を活かさなければならない。俺と一緒に幾度となく戦ってきたグレイシアなら、俺の思っている通りの動きをしているはずだ。 果たして、グレイシアは格好のポイントへと回り込んでいた。 キュウコンから目を逸らすことのできないエンテイの死角――背後へと。 トレーナーの指示があったならこんな事にはならないだろう。 萌えもんと信頼関係を結んでいないトレーナーに、負ける道理なんかありはしない! 「グレイシア!」 俺の叫びに応えて、水の球が発射される。 三度目の正直を体現したその一撃は、エンテイの脳天に綺麗に叩き込まれた。 球に内包された強烈な衝撃が弾け、エンテイの脳は大きく揺さぶられた。 結果として脳震盪を引き起こし、エンテイは昏倒する事となった。 「な――!?」 驚愕の声を上げるロケット団員。 一瞬意識に紛れ込んだノイズを排除し、俺はエンテイに意識を向ける。 意識を取り戻したエンテイであるが、脳が揺さぶられた影響は大きかった。 全てを焼き尽くす帝王の業火は―― 「――――っ!」 ロケット団員を狙っていた。 何とか身をかわした団員であったが、その回避の瞬間に懐から零れ落ちた機械は無残な姿を晒していた。 この様を見て、ロケット団員が顔を青ざめさせた。 俺が思考をめぐらせる暇すらなく、エンテイの姿は大きな獣に成り果てた。 ジョウト三犬――正にその姿は犬のソレであった。 口から放たれる咆哮は、先ほどとは比べ物にならないほどのプレッシャーを持っていた。 そして、ソレが周囲に与える影響は絶大だった。 「戻れ!」 ロケット団員が無理矢理エンテイを回収し、グレン島を脱出した。 俺はその妨害が"出来なかった"。 足元を襲う大きな揺れにより、俺の行動は阻害されてしまった。 俺はキュウコンとグレイシアを回収して、ピジョットを繰り出してその背中に飛び乗って脱出した。 この日、グレンタウンは姿を消した。 そして、これがジョウトとホウエンの伝説を巡る、俺とロケット団の戦いの狼煙でもあった。 噴煙を巻き上げるグレン島を見ながら、俺は奥歯を噛み締めた。 ――了――

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