5スレ>>399

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     【6月の気だるい雨(後編)】 …雨はまだ降り続く、同じように俺の中に渦巻く疑問が浮かんでは滴り落ちる、 濡れた服を無造作に脱ぎ捨てて、簡単な着替えを終えながら先程の出来事を振り返ってみる。 公園の茂みで出会ってしまったあの娘、その事実から思考を巡らさなければいけない。 「ほれ~! バブル光線やで~!! ごっしごし~♪」 「……!! 痛っ! もっと優しくやりなさいよ…! 目に入るじゃない…」 「あちゃ、悪いなぁ~、せやけど家にはシャンプーハットないしなぁ…どないしよ?」 風呂場からキャイキャイの騒がしい声が部屋まで飛び込んでくる。 「…………………」 何故、あの娘、ニューラは雨の中であそこに居続けたのだろう…、 あれ程の知能や常識、意思の強さを持っているなら雨宿りのできる場所なんて いくらでも探せただろう…、しかし、それもせずに野生の萌えもんがうろつく場所に 一人でいるなんて…。 「ちょっと! 子供扱いしないでよ!! シャンプーハットなんて死んでも嫌なんだから!!」 「えぇ~? きっと可愛えぇと思うんやけどなぁ~…、アンタちんまい娘やから余計に想像がなぁ…」 「…………………」 仲間とはぐれた? いや、それは考えられない…、 見知らぬ土地でトレーナーとはぐれた? …だとしたらもっと目立つ場所にいるだろう…、 何故、あんな人目につかない場所に雨の中を座って……。 「か、可愛いとか言わないでよ!! ちっとも嬉しくなんかないわ!」 「せやけど、耳まで真っ赤にしたら説得力ないなぁ…? ニューラちゃんっ♪」 「……もう怒った、やり返してぎゃふんと言わせてやる~!!」 「おわわっ! ちょ、何すんねん?! くっ、ぎゃははははは!! く、くすぐったいやろが…!!」 「このぉ~! このまま風呂場で大往生させてやる~!!」 「………………………………(ドキドキ)」 あの二人、ただのシャワー使ってるんだよな…? なんであんなに盛り上がってるんだ…? ゴル姉、何か凄く楽しそうだけど、まるで姉が妹とふざけ合っているような…、 っておい!! なに思考をずらして二人のこと考えてるんだよ、俺!! 再確認しろ、俺は人間で二人は萌えもんだ、いくら見紛う程だからって種族が違うんだ!! 劣情を抱くのは筋違いだろう?! 「わ、笑い死になんて御免やで~! こうなったら道連れや! ほれコチョコチョコチョ~!!」 「ひっ?! きゃははははは?! や、やへ…やへなさいよ!! このぉーー!」 「あうぅっ?! ちょ、何処掴んで…ってやめやめ~!!」 「…………!!!」 いい加減マズイ方向に角度が曲がってきたのでベッドに潜り込んで耳を押さえる、 …たまに俺の萌えもん嫌いはゴル姉のせいではないかと思う時があるのは気のせいじゃないだろう…。 ……………………………………………………………………………………………………………………………… 「ふぅ~…さっぱりした、6月っつても冷えるもんなんだなぁ…」 ゴル姉とニューラが風呂から出た後、芯まで冷え切った身体をシャワーで癒す、 先程のゴル姉のからかいのせいであがってきたニューラは俺を見るなり、 「こっち見ないで早く入ってきなさいよ!!」 と激しく罵倒してくる。 ……俺が何かしたか? 俺は念入りに身体を洗った後で気持ちを切り替えて接しようと思った、 そうすることで雑念無しにニューラに質問が出来る気がするからだ。 「ちょっと待ち…、一言言っておきたいんやけど……」 脱衣所から出ると廊下で待ち構えていたようにゴル姉が真剣な顔でこっちを見てくる。 「……ニューラは…?」 「…向こうでココア飲んでるわ…、アンタに会いに行く事心配してたんやけど、  とりあえずは飲み物何にするか訊いてくるって誤魔化しといたわ」 「悪ぃな、気を回してもらって…」 「ええって、それで本題や…、アンタの思ったとおりあの娘の身体には  服の上からは分からない場所に何箇所も痣があったわ…」 「な、何箇所も…?! そんなにあのニョロモ達に痛めつけられたのか…?」 「いや…、それがどうも痣の様子がおかしいんや、数時間であない紫に染まる訳あらへんねや」 「……お、おい…それってまさか…」 「そのまさかや…あの娘は誰かトレーナーの元にいて、そこで…」 「〝虐待〟を受けてたのよ……」 「?!!! お、お前…聞いてたのか…?」 ゴル姉が言葉を発する前に件の少女自身から真実が明かされる、ニューラは半ば虚空を見ているような瞳で 廊下にぽつんと立っていた。 「……聞かれてたんならしゃあないな…、話してくれるやろ?」 「…嫌って言っても、どうせあの場所に帰してくれないでしょ?」 「ま、その通りだ…、元々あの場所には連れ戻す気はなかったしな、  ……ここじゃなんだから、居間にでも場所を移そう、話はそれからだ」 俺がそれを言い終えると三人は無言で居間へ移動し始める、こんなに空気の重い空間は初めてだった。 「………………」 「……ぁ……ぅ…、……っ…」 居間のテーブルを境に俺やニューラは言葉を見つけることが出来ず、 ただ沈黙を続けるだけしか出来なかった、お互い、何から聞き始めようか、どんな質問が来て どのように受け答えしようかというのが空回りし合い、結局何も進展しない。 「単刀直入に言うで…、ニューラちゃん、アンタは自分の主人であるトレーナーから 虐待を受けていたんやな?」 「……………そうよ……」 俺がそうこうして悩んでいるうちにゴル姉が話を進めだす、 こういうときにはとても助かる存在なんだが、少し気持ちにわだかまりが出来てしまう。 「それじゃ、暴力に耐えかねてあの公園に逃げ込んだんか?」 「………違う…」 「違うんか……、じゃあ何で傘もささんと、その茂みの中にいたんや?  ありのまま話してくれるか?」 「………分かった、話すわ……」 ぽそりと呟くとニューラは順を追って話し始める………。 先ず、彼女はあまり腕のたつトレーナーに捕獲されなかったこと、 バトルでも負け続け、非常に苛立ちを感じたトレーナーから激しい説教を毎日聞かされたこと、 ある日、ニューラのミスで大事なバトル大会を予選敗退してしまった時に、 激昂したトレーナーから大会のど真ん中で平手打ちされたこと、 それが始まりで、多少気に入らないことや嫌なことがあると、 その時だけ萌えもんボールから呼び出して殴る蹴るの仕打ちを受けたこと、 そして今日の明け方…、公園の茂みに連れ込まれて、最悪の一言を投げかけられる、 〝用事があるからしばらくここで待ってろ〟 そう、彼女は捨てられたんだ…。 しかし、これだけでは苦しみが終わらないことをそのトレーナーは知っていたのだろう。 俺が助けに入ったときも、ニョロモ達に責め立てられたときも、彼女はその場を動こうとはしなかった、 彼女の意地の張り加減をトレーナーは知っていた、だから彼女は『捨てられた』という事実に気がついても プライドが先立ち、その場を離れられなかった。 ニューラは、ここで離れてしまえば『捨てられた』という事実を受け入れてしまい、結果、今までの虐待を耐え続けてきた 自分を自分で完全否定してしまう錯覚に囚われてしまうと思ってしまったのだろう…。 「……雨に打たれながら視えてきたの……アイツが薄ら笑いを浮かべる姿が…… 私は何度も思ったの……負けない…、負けたくない…って…!!」 「…ニューラちゃん……」 「……………何処だ?」 「……え…?」 「何処だって聞いたんだよ、そのトレーナーの家は…」 俺の中に抑制の効かない感情が渦巻き始める、涙を溜めながら打ち明けてくれたニューラ、 彼女にとっては自分の痴態を曝け出しているという気持ちにさいなまわれているのだろう……。 あの場所に留まっても地獄、誰かに助けられたとしても地獄、そんな境遇にしたトレーナーを 放っておくなんて出来はしなかった。 ぐいっ!! 「ひゃあぁっ?!! ちょ、イタッ…! 引っ張らないでよぅ…!!」 「…行くぞ」 「行くぞって……まさかアイツの所に?! い、嫌!! 行きたくない!」 「ま、待ちぃ!! そんな無理に連れてかんでもええやろ?!」 「うるせぇ!! 俺は萌えもんが嫌いだ! 白黒はっきりつけるときに躊躇する奴が特にだ!  このままで済ませるなんて死んでも御免だ!!」 「…っ!! ………っく、ひっく…うぅぅ~…」 何かが弾けたように呻き泣き始めてしまうニューラ、こんな風に泣けるのに、 それすらも我慢してたのかと、憤りと共に手荒く扱ってしまったことに多少後悔する。 「……悪かった、けど、俺はこの気持ちに偽りは無い、だから絶対にそいつのところに行く、 辛いだろうけど、お前がいなきゃ始まらないんだ…」 「……分かってる、分かってるよ…私が終わらさなきゃいけないことぐらい…、  でも、一人じゃ怖かった……怖かったのよ…!!」 「……一人やないやろ、ウチもおるし、こいつもおるんや、気持ちを歩きながら落ち着かせて 行くんや、ええな?」 気だるい雨は降り続く、物悲しく、これから一つの決着を付けにいく三人を 憐れむように……。 ……………………………………………………………………………………………………………………………… ピンポーン ある一軒家のドアチャイムを鳴らす、すると内側からのろのろと近づいてくる足音が聞こえてきた。 がちゃっ 「……どちら様……ってお前…!! そうか、耐え切れずに動いたか…ははっ!  ご主人様の言いつけを守らないしょうもない萌えもんだな…、もう消えろよ」 ドアを開けた男はニューラの姿を確認するやいなや、殺したくなるような台詞を平然と吐き捨ててきた。 俺は右手に力を込めるが、隣にいたゴル姉がそれを制止する。 (アカン、先に手を出したらこっちの負けや…) (…分かってる、気をつけるさ…) アイコンタクトで確認しあう、今は耐えるしかない。 「アンタにどうしても言いたい事があってきた!! ちゃんと応えてくれよ…」 「……ちっ、面倒だな…、何だよ?」 「コイツ…ニューラに土下座して謝れ!! 逃がすのならちゃんとそう言え!  言いつけを守ってこいつがどれだけ辛い思いをしたか分かってるのか?!」 「……うるっせえな、アンタ等がこいつのこと擁護したんだろ?  ならいいじゃんかw」 「……ぅっ、ひっく…うっく…」 「反省の色なしか…救いようないな、自分」 「んだと…萌えもんのくせに…あぁもうめんどくせぇ…!  ヤミカラス! やっちま…」 がしぃっ!! 「なっ?!」 男が萌えもんボールを投げようとしたその瞬間、ゴル姉がその腕を掴み、止めてしまう、 男はその速さに言葉を失ってしまうがゴル姉は続けて言葉を発する。 「萌えっ娘もんすたぁ保護法第14条、生活自立度の低い萌えもんを法的な処置なしに  放置することを禁ずる、またこれに違反した場合、トレーナー免許を剥奪する」 「な、何だと…?!」 「加えて言うなら、萌えもん刑法第52条、萌えもんバトル及び戦闘行為は双方の同意によって成立する、  これに違反し、攻撃を仕掛けたり、危害を加えた場合、懲役五年の刑に処す…」 「……!!」 「ウチ等三人が証人や、今そのボールから萌えもんを出して攻撃してきたら  アンタは萌えもんに関する殆んどを失い、堀の中で過ごすんやで、それでもえぇんやな?」 「…う…ぐぅぅ…」 法の前にはこの男も成す術がないようだ、歯噛みして悔しがっている。 俺の母さんは萌えもんトレーナー養成校の講師だ、そのお陰でゴル姉も 法学には詳しかったりする。 「さぁ、この娘に誠心誠意謝るんだ!! 俺達が認めるまでやらせるからな」 「……………っく…、すいません……でした…!!」 男は地べたに這い蹲りながら侘びを入れる。 ニューラはその姿を見た後に俺とゴル姉の方をじっと見つめる、 すると涙が止め処なく溢れてきて、瞳という受け皿から完全に溢れ出るほど流し、そして… 「あ…あぁ…うあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 彼女は泣いた、抑えていた何もかもを洗い流してしまうかのように…、 俺達はその姿を見て、彼女の本当の素顔に触れて思う。 泣けばいい、気が済むまで泣けばいいと………。 ……………………………………………………………………………………………………………………………… 俺は萌えもんが嫌いだ、いや、嫌っていたのは、 萌えもんと接しようとしても無理だろうと諦めてしまう自分の心だったと思う。 俺は目を背け、あの男は逃げ出した。 しかし、きっかけを見つけた俺は全てを受け止めることが出来る。 このニューラとの出会いをきっかけに…。                         完

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