5スレ>>483

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「ふぃーっ…」 「はぁ…とりあえずはこれで完成だな。悪いなフライゴン、ここまで手伝わせて」 「いやいや、かまへんで。素敵やないの、七夕のためにおつきみ山まで笹取りって」 7月6日。トキワジム裏庭の縁側(基本洋風の建物なのにこんな和室の縁側が2,3か所あるようだ。)。 七夕の前日、俺は貰って来た竹を庭に埋めていた。縁側の蚊取り線香はなかなか強力なようで、 あまり蚊にも刺されずにすんでいる。それは俺の向かいで竹を補強しているフライゴンも同じだ。 今日の昼間。俺はフライゴンに協力してもらい、オツキミ山まで飛んでピクシーと交渉、 七夕のための竹を一本(?)切ってもらってきた。 再びトキワジムに戻ってそれを植え終えたのが今さっき。既に日は沈んでいる。 「よしっ!じゃあ上がるか」 「はいはーい」 玄関にまわり、俺達はジムの中にあがる。トレーニング施設やスタジアムがある点を除けば、 ここはかなり大きな普通の家だ。…なんか語弊があるような気もするが…まぁいいだろう。 「お帰り、ご主人さま!」 「マスター、フライゴン、お疲れ様です。お風呂沸いてますから、ご飯の前にどうぞ」 エプロン姿のシャワーズとフシギバナが出迎えた。どうやら夕食の用意をしていたらしい。 「おおきにシャワーズ。マスター、ウチ先入ってもええ?すぐあがるし」 「ああ、行って来い」 フライゴンを風呂場に送り出し、俺は洗面所で手を洗ってリビングに入る。 テレビでニュースを眺めているフーディンと、机の上で何やら作っているライチュウとキュウコン。 フシギバナとシャワーズはキッチンで料理中、プテラはその手伝いか、机を拭いている。 「おや、お帰りマスター。終わったかい?」 「お帰り、ご主人」 「マスター、おかえりー!」 「おかえり…なさい…」 「ただいま。今植え終わったとこだ。…明日が晴れればいいんだがな」 言いながら、天気予報をうつすテレビに目をやる。…降水確率30%か。まぁ問題ないだろう。 「で、お前らは何を作ってるんだ?」 「えっとね、これ!」 じゃあん、という効果音が似合いそうなポーズで何かを見せてくるライチュウ。 布で作られたこの人形は… 「てるてる坊主、か。なるほど。…よほど七夕が好きなんだな」 思えばあの笹の発案もライチュウとキュウコンだったか。 「だって、織姫と彦星が一年に一度会える日なんだよ!?」 「雨がふったら…好きな人に会えないのは…いや、です…」 (七夕伝説か…) 確かに、愛する人に会える、一年にたった一度の機会が雨によって潰されてしまえば。 それはとても辛くて悲しいことなんだろうな、とは思う。…実際にそういう訳ではないんだろうけど。 雨でも会いに行こうと思えば行けるもんだしな。 「…そっか。出来たら俺が縁側にでも吊るしておいてやるよ」 「わーい!」 …子供かお前らは。      * * * そんなこんなで、7月7日、正午。 午前の間に挑戦者3人をフーディンだけで叩き伏せて帰って来ると、シャワーズが机の上で何か作っていた。 「あ、お帰りなさい」 「ああ、ただいま。何作ってんだ?」 色とりどりの厚紙を長方形に切り、紐を通してひっかけられるようにしてある。これは… 「短冊だね」 「ええ。折角ですから、作っておこうとおもいまして。  私も七夕って好きですから」 なるほど。…まぁシャワーズは昔からこういうロマンチックなところあるしな。 「しっかし暑いな、今日は…ジムも換気扇じゃ辛くなってきたし…そろそろ空調動かすかなぁ」 「そうだねぇ…シャワー浴びてきてもいいかな」 「ああ、お疲れ。………ま、これだけ晴れてれば夜は心配いらないだろ」 言いながら、窓の外へ視線を飛ばす。 7月始めにしては強すぎる光が、地面を焼いていた。      * * * 日が暮れ、夕食も食べ終えて。 短冊やら飾りやらすべて用意しおえた俺たちを待っていたのは――― 大粒の雨だった。 「…さっきまで薄曇りだったのに」 「通り雨…と言う訳でもなさそうだね」 ふと見ると、ライチュウとキュウコンが泣きそうな顔で空を見つめていた。 笹は軒下にあったため無事だが、これでは意味がない。 「…星、か」 ふと、思いついたことがあった。正直ちょっと無茶かもしれないが、やる価値のある策だ。 「フライゴン、フーディン、ちょっと来い」 「ん?」 「へ?」      * * * 数分後。俺とフライゴンはびしょぬれになりながら、夏の空を飛んでいた。 一応雨具をつけているが、正直あまり役に立ってるとは言い難い。 「けどマスター!なんでわざわざタマムシまでいくねん!?別に近くの工具店とかでもよかったんちゃうん!?」 「どうせやるならちゃんとしたの買いたいだろ!前々からちょっと欲しかったんだよ!」 「めっちゃくちゃやなしかし!」 「うっせーよ!!」 豪雨の音にかき消されないように大声で言葉を交わす俺達。 タマムシデパートに駆け込み、閉店間際のショップで一つ大きな買い物をして、俺達はトキワへ戻った。          * * * 雨の中、ジムにたどりついたフライゴンと俺はフーディンの部屋に入った。 「ただいま。フーディン、出来てるか?」 「ちょうど今終わったよ。全く、ずいぶんと立派なものを買ってきたじゃないか」 「まぁな。…転送システムがなければ帰りは大変だった」 「ほんまに…雨の中飛ぶのはこれっきりにして欲しいわ…」 どうやら他のみんなは居間に集まっているらしい。 「ちょうどいい。今のうちにこれをあの部屋に運ぶぞ」 「おっしゃ!」 「ふむ。じゃあ私は皆を呼んで来よう」 先ほどの縁側の和室。電気を落とし、暗くした部屋の中央には、小さな機械が置かれている。 「さて。まぁあいにくの雨で星は見えない…が。  代わりにこんなものを買ってきてみた」 かちり、と。俺がスイッチを入れると―――― 「わぁ…!」 「ぁ…」 「きれい…」 星が、部屋の中全体に広がった。 ガラスで作られたプラネタリウム。天の川まで再現された輝きは、部屋の中を一気に広げたみたいだった。 「ま、これで一応は七夕らしいだろ。   どうせ、雲の上はこうなってるはずだしな」 軒下の笹につけられた短冊。俺も一つ、何となく書いてみた。 他のみんなも書いて、お互いに見せないようにして笹に吊る。 そうして、雨の縁側に俺とシャワーズだけが残った。 「…ホントは、一年に一度と言わず、毎日だって会いたいんだろうな。あの二人も」 「…そうですね」 雨の音と、揺れる笹の葉の音。ひょっとしたら、空の上の河のせせらぎも、こんな音だったのかもしれない。 そんな事を思いながら。俺は笹につり下げられた自分の願いを手に取る。 ありきたりで子供じみた願いだけれど、それでもたしかに、これは俺の本心だと確信できた。 『ずっと、大切な仲間たちと離れることのないように』  - end -

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