5スレ>>487


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【麺道は面倒を招く!?】


―――   ―――   ―――

   ―狐(Capri)Side 1―   

―――   ―――   ―――


 なんだってこんな初夏の暑い日にわざわざ出歩くのか?
炎天下たる正午前、怒涛の気温・湿度上昇により極めて不快指数を高める時間である。
……常人であれば。

――ウチのマスターには関係ないわね、どうせこの暑さでも汗ひとつかいてないんでしょ。

暑さを助長させる気の早い油蝉の声を聞きつつ、自らも涼しい顔で歩みを進めるキュウコンこと狐。(実はニックネームである。)
お互いそろそろ煙草のストックも切れ、最寄のセンターへと向かう道すがら、頭の隅で考えるのは他愛もない事だ。
予想通りに汗ひとつかかず、普段より1歩分早い歩みを進めるマスターは歩みでしか暑さを感じている事が判らない程度にはポーカーフェイス。
いつしか無言になった道行も、最早常であり、このまま数時間経つなどという事も平常であったりするのだった。

~そして本当に30分後~

――ひとこと位は喋ってもバチは当たらないと思うわ。
世間ではクールで通る狐にすら、こう思わせる程に真実無口なマスター、愛想を尽かさないのはケアがしっかり行われるから、という通説である。


そんなこんなで正午に差し掛かり慢性的な怠惰感が頂点に達するその時、目の前に目的の建造物を発見する。
やっとの事でたどり着いたセンターはそこそこの大きさで、暑さにダレた萌えもんやそのトレーナー達でそこそこににぎわっていた。

―――

「まずは……」

マスターの一言で『何をするか』、と言うが判るのも最早慣れた証か。
受付に行った所でやる事がない狐は素直に休憩所へ向かう、喫煙の為だ。
周りの人々をまさに『ガン無視』し、周囲に人の少ない空いた席へと一直線に歩を進める。
入り口横で購入した新品を歩きながら開封、席につく前には口に咥え、足を組んだ所で火を付ける、一連の動作に滞りはない。
見る人が見れば美しいと賞賛するのだろうが、本人の内心は大よそその期待に反するかの如く、喫煙欲だけに満たされているのだ。
色香に彩られた口元から燻らせられた紫煙は、果たして周囲の少ない人々の視線を集めるに事足りるものである事を本人は自覚していない。


「…早く受付済ませて下さい、マスター」

囁きの様な、それでいて存在感のある声の響きと共に狐の耳に入ったそれはすぐ傍に居た(今まで喫煙で気付かなかった)オニドリルのものであった。
煙草を取り上げ蹴りだすかの様に自らの主人を受付へと追いやるその姿は熟練した主婦の『それ』にも通ずるな。
そう頭の片隅で夢想した狐の視線とオニドリルの視線が不意に交差した。
自分自身、気にも留めずその光景を見ていた狐は、視線が合ってしまった事に何か気まずさを感じ、足を組みかえる程度には頭の切り替えに手順を要した。

「貴女のご主人も吸うのね。」

指先に摘まれた紫煙の源を軽く示す様な仕種をしつつ、ごく自然な様相を呈する努力と共に狐は話しかけた、古女房の様な彼女に少し興味を抱いたのだ。
隣(と言っても一席空けてではあるが)に座りオニドリルは軽い羞恥を振り払うかの様に髪を撫でつけ、こちらもごく自然な風体を装って言を返してきた。

「…私は、余り好きではありませんけど。」

冷静さをその身で体言する、そういう表現がぴったり合う彼女の瞳は半眼……怠惰であるが意思の光の宿った瞳だ、どこかの誰かに似てる瞳だ、と狐は思った。
さり気無く(実際は根元近くまで吸い終わっていたのだが)煙草を消し、自らの空腹を思い出した狐は、話題を変える事が先決だ、と確信した、嫌煙家に煙草の話は振りたくないのだ。

「貴女は料理するのかしら。」

相手がクールであるならば、こちらも外面用のクール仕様でなければならない、勝手に思い込む辺りがお茶目であるのだが、そこに気付くにはまだ少しの時を要する。

「…一緒にいる他の子が作ります。」

失敗した、そう思ったのも束の間、表紙の挿げ替えらたオニドリルの読む本の内容を意図せず垣間見て、ほくそえんだ。

――これは……使える。

ひょい、と立ち上がるやいなや、オニドリルの手を取りその瞳を間近で捉えつつ言い放つその言葉は、これから起こるちょっとした騒動のきっかけであり、大いなる原因であった。

「料理の本なんて読んだって無駄よ、食べて覚えればいいわ、そうしましょ、丁度お昼よ。」

有無を言わさず、腕を引く狐に反論の余地所か一言の喋りすら許されず、瞬く間に食堂へと連れ去られていくオニドリル、その姿を確認できたのは唯一、受付より戻った紫煙がトレードマークの……。


―――   ―――   ―――

―オニドリル(嫁ドリル)Side 1―   

―――   ―――   ―――


失礼な人だと思った。
何故こんな見ず知らずの人に突然話しかけられ、更に身の上の話までしなければならないのか。
挙句の果てには強引に私の手を引き、食堂に行くと言うではないか。
食べて覚えるという名分のもとに、実際は昼食を一緒に取る相手が欲しかっただけのように思えた。

「………」

自己紹介もされぬまま、なすがままに手を引かれて食堂まで連れて行かれる様は、端から見れば珍妙なものだろう。
しかし煙草の煙で微妙にヤニ臭くなったであろうその手は、いわゆる「手タレ」の人のようにしなやかだ。
それに背もスラッと伸びているし、豊満な体付きながらも締まる所は締まっている。いわゆるボン、キュッ、ボンというやつだ。
そのモデルのような体型で、今までどれだけの女性の羨望と嫉妬を受けてきたのだろう。

「…あ、あの」

引っ張られるのはさすがに恥ずかしかったので、とりあえず手を離してほしかったのだが、どうやら相手に私の意志は届いていないようだ。
私達のパーティーにいる人といい、この人といい、キュウコンという種族はかくも押しが強いものなのか。
そうこうしていると、あっという間に食堂前まで連れて来られてしまった。

「さあ、何でも注文しなさい (おごりじゃないけど」

確かに昼食はまだだし、お腹は先程から何かよこせとしきりにアピールしている。
でも今日は久々にマスターと2人きりで食事が出来ると思ってたのに、横槍が入ったせいでそれも実現しそうにない。
どうせ逃げられそうもないし、ここは諦めて素直に空腹を満たしてさっさと退散しよう。

やむなく券売機にお金を入れ、一番安上がりなラーメンのボタンを押す。
安食堂にしては珍しく、味が自由に選べるのが少し嬉しい。
キュウコン――狐さんというらしい――はというと……もうここにはいなかった。

「…?」

キョロキョロと辺りを見回していると、既に食堂のおばちゃんに食券を渡しながら、楽しげに会話をしている姿が見て取れた。
どうやら初対面の人とも気兼ねなく話せる性格らしい。ちょっと羨ましいな。

―――

昼時という事もあってか、食堂内は人で溢れており、空席はまばらだった。
おばちゃんに食券を渡し、ラーメンが来るのを待っている間に空いている席を確認していると、狐さんがこっちこっちと手招きしている。
この混雑の中で、あなたはどうやってそんな広いスペースを確保したんですか。周りの人が萎縮しちゃってるじゃないですか。
でも席を探す手間が減ったと思えば、今はとりあえず感謝かな。

「あら、ドリルちゃんもラーメンかー」

注文した品と共に狐さんの待つ席へ向かうと、にこやかな表情で隣の席を勧めてくれた。
それにしてもドリルちゃんか……。早くもニックネームまで付けられてしまったようだ。
もはや鳥どころか生き物としてのアイデンティティすら失ったその名に若干不満ではあったが、席を取っておいてくれた恩もあるし、敢えて言わない。

「それだけで足りるの? 少食なのねぇ」

狐さんはこう言うものの、私のラーメンはごく普通のサイズだ。
むしろあなたのそれが、少なくとも一般的な女性の食べる量ではないだけかと。麺が伸びないか心配です。
でもそのむっちんボディーを手に入れる秘訣が、たくさん食べる事にあるとするなら…。

「……(ぶんぶん」

いや、きっとマスターはスレンダーな方が好きなんだ。きっとそうだ。でないと困る。
刹那の思考を振り払いながら、視線を目の前のラーメンに向ける。
ほこほこと湯気が立ち、それと共に顔を覆う熱気は、夏場の冷やされきった屋内では逆にちょっとホッとする。寒いの苦手だし。

「んー、おいし♪」

狐さんは既に顔をほころばせながら、幸せそうにラーメンを啜り始めている。
じっとしていても仕方ない。私もさっさと食べちゃおう。そう思って備え付けの胡椒に手をかける。
これが、これから始まる大きな争いの火種となることも知らずに…。


―――   ―――   ―――

   ―狐(Capri)Side 2―

―――   ―――   ―――

 その手に取られた瓶、所謂胡椒瓶は振り続けられた。
ラーメンの麺、具材、スープ、無差別に降り注ぐそれは留まる所を知らず、あたかも地表に降り積もる雪の如く表層を埋め尽くしていく。
6回、7回、8回と数を重ねるその瓶の上下に狐の表情は蒼白になっていく、そう、オニドリルの胡椒量は普通の量を超えていた。

「ま、待ちなさいドリルちゃん、その手を止めなさい、いいわね、今すぐよ。」

立ち上がり声を張り上げてしまっている事すら狐は気付いていなかった、こと食に関しては周りが見えなくなるのである。

「…………?」

かけられた声に気付いている、そう、顔はこちらを向いているが手は止まらない。
表層を覆い、狐からすれば見るも無残に胡椒で埋め尽くされていくラーメンが出来上がりつつある。
刺激のある胡椒でラーメン全体を覆うのだ、考えてもみてほしい、口にした瞬間の驚異的な舌の感覚を、痺れ、ほとほと味覚として機能しなくなったスープの、麺の味を!

「何て事を……、貴女一体どういうつもり? それではスープの味が死んでしまうわ。」

それが無礼に当たる事を失念しているのか、指を『ずびし!』とオニドリルに向け声高らかに狐は言う、食堂中に聞こえるであろう声で。
自らの器を持ち上げ箸で麺を掬い上げ掲げる、まるで料理アニメのワンシーンのようだ。

「繊細なスープで作られたラーメン、それに使う胡椒など一振りで充分なのよ、具材、麺、スープ、全てに振り掛けるなんて言語道断よ。」

まるで世界の終わりが来たかの様な顔だ、悲鳴を上げ、天地の終焉を嘆くかの如き顔。
許せなかったのだ、その料理を作った者への冒涜とも言うべき調味料での蹂躙、そして味覚を破壊するかの様な刺激物。
自らが料理を作るを趣味とする反面、その手で作る料理には拘りがありすぎ、マスターから静止させられるほどの食への探求心。
その心が、この『とんこつラーメン胡椒味』を目にしたとたん爆発したとして、誰に止める事が出来ようか。

「そこに直りなさい、私がそのとんこつを選んだ所からお説教してあげるわ!」

傍若無人で名を馳せる狐のこれは、言わずもがな全力で言葉による制圧を行う事の宣戦布告に等しい。
例え初見の相手であっても、自らの主義に反するのであれば徹底的に戦う姿勢、それを崩す事など恐らくないだろう。

しかし、指差されているオニドリルも、ただ黙っているわけではない、幽鬼の如くゆらり揺らめく炎を宿らせた瞳を狐に向けている。
己の主義を否定された事への反逆か、己が好みを叩ききられた事への逆襲か。
静かに立ち上がった彼女の迫力は別の意味で狐のそれを圧倒していたのだった……。

―――   ―――   ―――

―オニドリル(嫁ドリル)Side 2―

―――   ―――   ―――

やはり失礼な人であった。
突然立ち上がり、これでもかという程の怒号と共に私に掛けられた言葉は、私をまるで戦争犯罪人のように糾弾するかの如き仇視を伴っていた。


「…突然何を言い出すかと思えば、一体何ですか」

こちらも多少なり分別はあるつもりだけれど、殊更に食べ方に文句を言われる筋合いはない。
好きに食べたって良いじゃない。辛いもの好きなんだし。

「…私は自分の味覚に合うよう、このラーメンを一番美味しく食べられるよう、味を調整したまでです」

声を張り上げることなく、あくまでも冷静に対抗しようとする。営業用のクールスキルを舐めてもらっては困る。
舌が痺れる? 刺激が過多? それこそが私にとっての『旨み』であると。
具材や作ってくれた人に対する敬意? そんなものは美味しく食べるという前提の前では無力であると。
だがそれが、かえって狐さんの闘争本能に火をつけてしまったようだ。
高速でまくし立てる様子に治まる気配は無く、むしろ先程よりも一層激しさが増している。
ここは一度、こちらの主張をきちんとしておくべきか。

「…私の胡椒の量は確かに常軌を逸しているでしょう。あなたの言葉も、辛いものを好む者なら等しく振り向けられる主張です。ですが…」

私の論点は既に胡椒の量にはなかった。確かに幅広く受け入れられる食べ方とは言えない。それは認める。
だけど、その次の批判に関しては感化するわけにもいかなかった。全国のとんこつ好きの人々のためにも。

「…とんこつスープを批判されるのだけは許せません。最初からとんこつを批判という面でしか見れないあなたに、とんこつの何が分かるというのですか」

そう。そんなに万人に批判されるスープなら、最初から店には置かれていないはず。
だがこれがメニューとして存在するということは、とんこつスープは確かに少なからぬ人からの需要があるという証左なのだ。
この言葉を投げかけてもなお、狐さんはこちらに対する非難の声を緩めようとはしない。
次第にこちらのボルテージも上がってくる。
あちら側はやる気まんまんのようだし、マスターも見ていないし、たまには自我を押し通すのも良いかもしれない。

突然食堂に連れて来られ、自己の食を批判されたことにより、幾分不満を抱いていた私は、おそらく狐さん並みに厳しい目をしていたことだろう。
すっと立ち上がり、相手を睨み付けるその姿。マスターに見たれたら恐れられるかもしれない。嫌われるかもしれない。
でもそんな思考すら消えてしまうほど、今の私は怒り以上に使命感に満ち溢れていた。

(負けるわけにはいかない…)

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