5スレ>>491-1


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大気中に水分が多く含まれるようになる六月。
雅にいえば水無月。

思わず『しとしとぴっちゃんしとぴっちゃん』と言いたくなるかどうかは別として。

そんなじめじめした空気の中、必死の形相でレンガづくりの花壇に向かっている
ちいさな少女がひとりふたり。


「ああ~~~もう、何だってこんな季節に、こんな大量に集まるのかなぁ…
 しっしっ! お願いだからお家へ帰れ! ゴートゥーハウス!!」

「“帰れもクソも、ここが俺達の家なんだけど”って言ってるよ?」

「うがーーーーーー!
 ここ以外だったらどこでも構わないから、頼むからこの花壇に湧かないでよ
 アブラムシさんたちーー」

「“住み心地サイコーだから離れたくない”ってさ」

「……ねーケムッソ、害虫代表としてアブラムシさんたちと話しつけてよー
 後生だからさーー」

「害虫て、まあそれ真実だけどそれが人に物頼む言い草?」

「こっちだって殺虫剤とか手荒なマネはしたくないんだよ。
 花たちにだってダメージいくし」

「結局そこは譲れないのね」

「だって私、花だもん」

「今はまだツボミだろ」

「マダツボミじゃないよ! フシギソウだよ!」

「…だから、まだ花として咲いてないだろ、って言いたかったんだよ…」


じめじめとした空気を取り巻くのは、傘を差しても防ぎきれないような
さらさらとした霧雨。

不快指数をさらに上げて生き物に止めを刺そうとでもしているのか、スプレーから
噴射されたような細かい水の粒は、不毛な会話を交わしている少女たちの素肌にも
ぺたぺたと貼りつく。

ケムッソと呼ばれた赤い髪の毛の少女は、霧雨がうっとおしいのか先ほどから
むき出しの腕を手のひらでごしごしと拭い続け、フシギソウと呼ばれた少女は
特に気にならないのか、防水の役割をほとんど果たしていない蓮の葉っぱの傘を
頭上に差したまま花壇の前にしゃがみ込んでいた。


そしてそんな二人を室内…否、校舎内つまり教室の窓から見守っている影がひとつ。
外にいる二人が萌えもんであるから、その影もまた萌えもんであるべきなのだが…


それは、いわゆる『普通の子』。

人間の少女だった。



――― これは、萌えもんと人間が、『主従』の関係を結んでおらず

いわゆる『同列』の生き物として共存している


へんてこな学校の、馬鹿らしい日々のお話。






『  不思議学校物語。
 

        = 花精アルティメット = 』






キンコンカンとベルが鳴り。
それぞれ振り当てられた自分の席に座っていく子供たち。

半分は、まあごくごく『普通』の人間の外見をした子供がいて。

もう半分は、頭に蕾がついてたり、ふさふさの尻尾がついてたり
ぴょこんと立った立派な三角形の耳がついていたりと、およそ人ではありえない
姿をした子供が占めていた。

傍から見れば異様極まりないこの光景。
しかし当の本人たちはこの状況に慣れてしまっているらしく、不平不満の声は
一切上がらない。

まだ少々ざわついてはいたが、休み時間の時よりはマシになった話し声の中を
頭に大きな花の蕾をつけたフシギソウがつかつかと歩いていく。
フシギソウは先生ではなく、生徒の一人でしかないが、何故か教室中の子供たちは
全員ざわめきを止めて静まり返った。

歩いて数秒。
辿り着いたのは教壇。

学校におなじみのアイテム、黒板の前に立ち、フシギソウは神妙な面持ちで
チョークを右手に取り、かつかつと濃緑色の板に白い線を書きはじめた。

計ってみれば、5秒ほどの出来事。
緑色なのに「黒板」と命名されている板の上に出来た文字は


『 かだんについての会議 』


というものだった。



「えー、というわけで今日は、またみんなの知恵を借りたいと思います」

「今度は何だよまたオケラでも湧いたか?」

「ううん今度はアブラムシ」

「そりゃまた悪質な虫が湧いちまったな」

「そうなんだよ!」


ドン! と、総勢8人しか生徒の居ない小さな教室に、フシギソウが拳を
机に叩きつけた音が広がった。

2、3人ほどその音に驚いて椅子から飛び上がったが、そんなことは
気にせずに話は本題へと入っていく。


「べつに花に虫が湧くのは悪いことじゃないけどさ、せっかく植えたのを
 みすみす枯らされたら嫌でしょ?」

「…うん、嫌だ」

「フシギソウたち、一生懸命土いじりして植えてたもんねー」

「虫ならまた他のクラスの虫萌えもんどもに話しつけてもらったら
 いいんじゃねー?」

「そーれーが今回は全然協力的じゃないんだよ…
 今日も頼んでみたんだけど、ぜんっっぜんダメだった」

「むこうも虫ですから、アブラムシ殿たちの気持ちが分かるのかも…」

「それじゃあもう万策尽きたんじゃね?
 はい撤収撤収~~」

「ちょっと待てや! まだ五分も経ってないじゃないの
 どーしていつもいつもそう非協力的なのかなアンタは!?」

「俺は面倒が嫌いなんだ!」

「胸を張って偉そうに言うな!!」

「お兄、それってただ『自分はただの面倒くさがりでしかありません』って
 カミングアウトしてるだけじゃんか」

「それの何処が悪い?」

「悪いに決まってるでしょ! サボるくらいなら何かアイデア出せ
 良いアイデアーーーーー!!!」


バンバンバン!
どこぞの腐ったミカンじゃないと叫んだ教師でもやらなかったような勢いで
教壇を叩きまくるフシギソウ。

対する「お兄」と呼ばれた男の子…ツムギは小学生にあるまじき生命力の失せた
『ダルい』という言葉がこれ以上ないくらい似合う表情で
花壇への情熱に燃えるフシギソウから微妙に視線をそらしていました。

何も言わなくても分かります。
ただ一言「メンドイ」と言いたいのでしょう彼は…。


「はいはいはい! オレ良いアイデア浮かんだ!」

「はい、カノコ!」

「虫といえど花壇に爆弾ぶち込めば木っ端ミジンコの一網打尽だよ!
 カノちゃんさまあったま良い!」

「はい他にはー?」

「んじゃ、はいはーい!」

「はい、ガーディ!」

「虫は熱に弱いから、ボクの炎で燃やしちゃえば一発で」

「はい他ー!」

「炎がダメなら水攻めとか」

「いい加減攻撃から頭を離せ! それじゃ花まで一網打尽でしょ!?」


どう転んでも物騒な方向にしか進まないクラス会議。
それもそのはずこのクラスの大半は、良く言えば元気で前向き
悪く言えば何事にも血気盛んな子ぞろい。引き起こしたトラブルの数は
他のクラスの倍はゆうにありますでしょう。

キンコンカンコーン

と、ああでもないこうでもないと知恵(?)を絞っている間に
時間はあっという間に過ぎ、午後のHRの時間は終わってしまいました。


「よっしゃチャイムが鳴ったから帰るぞー。
 時間内に終わらせなかったお前が悪いんだ、文句は言わせねえぞじゃあなー」

「ちょっとコラ勝手に帰るなツムギいいいいいいい!
 アンタどんだけ協調性ないのさこんのアー●ード●アオタがああああ!!」

「後は頼んだぞレイヴンー」

「別にネタで返さなくていいっての!
 ……ああもう本当に帰りやがったあんの薄情もんが……!!」


苛立ち紛れに頭をがしがし引っ掻き回すフシギソウ。
頭のツボミはどういう構造になっているのか、彼女の手荒な引っかき攻撃にも
びくともせずに、新緑色の頭髪の上に佇んだままだ。


「……はあ、まあでももう授業は終わり。放課後の時間になったわけだし…
 ごめんねみんな、引き止めちゃって…今日はもう解散ー」


その言葉をきっかけに、ごそごそと帰り支度をはじめる生徒たち。
ツムギのように露骨に言う者こそいなかったが、やはりチャイムが鳴ったら
早く帰りたいのが本音だったようだ。


「フシギんー、一緒に帰ろうぜー?」

「今日もまた、サイカチ殿のお見舞いに行きましょう」

「ああうん、そうだったね…すぐ支度するからちょっと待っててね」


教壇から降りた後、自席に戻ってしょんぼりとしていたフシギソウだったが
サイカチ、という名前を耳にした途端、その目に意志のある光が宿った。

つやつやと真っ赤に光るランドセルを背負い、ツボミの少女は
尻尾のように長い白銀のポニーテールを持つ少年、カノコと
真っ黒な髪の毛をショートカットにして、メガネをかけている少女、ヒツギの
背を追いかけるようにして教室を後にした。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


この世で最も寂しいのは何か?
私ならこう答える。孤独。

この世で最も悲しいことは何か?
私ならこう答える。友達がいる孤独。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


明るいキャラメルブラウンの扉の前に、フシギソウ、カノコ、ヒツギの三人が立つ。
扉のプレートには「サイカチ」と小さく書かれている。

サイカチというのは、フシギソウたちのいる「紫陽花クラス」の一員である生徒の名前だ。
大人しく自己否定的な態度が目立つが、根は良心的な少女で、植物が好きという点で
フシギソウと意気投合し、彼女と共に花壇の番をしている子だった。


説明が遅くなったが、この学校はいわゆる小学校でいわゆる「全寮制」の学校だ。
しかも今時めずらしく、一部屋の大きさは狭いといえど一人につき一部屋を
割り振られている。

思春期に突入しかけている子供たちにとっては、プライバシーを守ることができるので
有り難いことなのだが、今回は一人一部屋のルールがちょっとした問題を生んでいた。


「サイお姉ー、遊びにきたよー!」

「ドアを開けてくださいですー」


二人の声に対する返事は無言。


「…また学校に来てよ、サっちゃん。
 サっちゃんが来なくなってから、花たちも寂しがってるんだよ?」

「セキとニド夫ならツムギ兄がフルボッコにしてくれたから、
 もう二度とイタズラしないって誓ったよ?」

「ですから安心して出てきてくださいませ。
 貴女に危害を加えるものはもうありませんですよー」

「ああそうだそうだ。セキとニド夫からお詫びの花束貰ったんだ!
 ほらお姉受け取ってよー」

「∑いやああああああああああっっ!!
 捨てて捨てて捨ててきてえええええええええええ!!!」

「即答かと思ったら返事はNOかよ!」

「だ、大丈夫ですよサイカチ殿! 花に虫とか爆竹とかの類は
 仕掛けられてませんでしたから!」

「いやあああああああああ!
 いらないいらない要らないいいいいいいいっ!!」

「ひーちゃんそれ逆効果逆効果!」

「…もうお前らちょっと黙ってようよ…!」

「やだやだやだよおおおお、もういいよ私なんかに構わないでよぉおおお…
 …うええええ、ふええええええ…! ふえええええええええん…!」


やっと部屋の向こうから声が聞こえてきたかと思ったら、それは拒絶の言葉だった。
外と関わることを全面的に拒否した少女、サイカチの叫びはどこまでも悲しげで
心が深く傷ついたことを示す何よりの証拠となっていた。

カウンセリングの心得など微塵も持っていない三人に出来たのは、
サイカチの部屋の前から離れることだけだった。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


この世で一番残酷なものは何か?
私ならこう答える。無邪気な害意。

この世で一番惨いものは何か?
私ならこう答える。希望をぶち壊すこと。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「はあーーーぁあぁぁぁ……」


肺いっぱいに空気を吸い込み、吐き出す。
酸素を二酸化炭素に変えるこの行為は、肺呼吸をする生き物にとって
落ち着きをもたらすというが、この日のフシギソウたちにはあまり効果はなかった。

とぼとぼと三人が歩くのは、学校の敷地内にある食堂。
食事の時間になれば校内の人物のほぼ全てが集い、賑やかになる場所だ。

授業が終わって自由な時間が訪れたものの、まだ夕食の時間には早いせいか
可愛らしい丸型の椅子に座る人数は少ない。


「おう、辛気臭えツラしてどうしたよ三馬鹿トリオマイナス1プラス秀才」

「えっと、三馬鹿引くひとりで、秀才がプラスされるってことは…えっとえっと」

「分かりづらい説明ありがとうよ三大馬鹿大将。
 そしてそんぐらいの計算くらいちゃちゃっと出来ろよニド夫」

「うるせえよ三大馬鹿大将のうち一匹が!」

「誰のせいで俺たちがしょんぼりしてると思ってんだよ!
 おめーらがサイお姉に訳わかんねーイタズラ仕掛けまくったからだろうが
 反省が足りてねえぞこのっ!このっ!この~~~~~!!」

「ぎゃあああああ!!いてえいてえいてえ!
 止めろ角だけは止めろぉ、もげるもげるうううううううう!!!」


しょんぼりと肩を落として歩く三人に声をかけたのは、三大馬鹿大将ことセキと
ニド夫と呼ばれたニドラン(♂)の二人だった。

血の気の多いカノコは反論してきたニドランの額の角を掴み、地面に生えた
雑草でも引っこ抜くような勢いでぐりぐりと力任せに引っ張り、当然ニドランは
その暴挙から来る痛みに悶絶、絶叫した。

ちなみに三大馬鹿大将とは子供たちがつけたあだ名の一つであって、
セキ、カノコ、そしてツムギの三人がそう呼ばれている。
由来は言葉の響きからして分かると思うが、『馬鹿で腕っぷしの強いガキ大将』から来ている。


「反省ならこれでも一応したんだぜ大将ー?
 義手とはいえ、ツムギに右腕もぎ取られてボコられて…」

「当分は誰にもイタズラしたくねえ…」

「つーかイタズラしなきゃいいだけの話だろ。
 いつまでもガキみたいなことやってんじゃねえよ!」

「そうですよ、今時カバンにバッタを入れたり机にカエルを仕込んでみたりなんて
 幼稚園児でもやりませんよ!」

「まあ、イジメよかはマシかもしれないけどさぁ…」

「いやフシギん、ある意味イジメよか酷くね?」

「稚拙な分だけダメージもでかいのですねー」

「悪かったなどうせ俺らは幼稚だっての!」

「そんで? サイカチの様子はどうだったんだよ大将?」

「最悪としか言わざるを得ない」

「アンタらのせいで怯えきってて、部屋から出てくる気配すら無かったよ…」

「お詫びのお花も丁重に拒絶されましたし。
 あ、お花はサイカチ殿の要求どおり湖に捨ててきましたので悪しからず」


「あちゃー」と、わざとらしく唸り上を仰ぐセキ。
どこまで本気なのかは分からないが、その顔は苦渋で歪んでいるように見える。


「でもよ、ちょっと大げさじゃねえかサイカチの奴?
 あんな軽いジャブみたいなイタズラで引きこもりになるなんて」

「サイお姉のチキンハート甘く見んじゃねえぞニド夫!
 お姉は暗がりじゃあスズメの影にもビビる上に、閉所では
 鉛筆が床に落ちた音にも跳ね上がるくらいなんだぞ!?」

「カノコ、それフォローしてんのそれとも貶しているの?」

「そうですそうです、世の中にはやっていい事と悪いことがあるのですよ」

「で、今回の俺らは『やっちゃならん事』をやっちまったってー訳か…」

「おお、セキが真剣に悩んでいる顔なんてはじめて見たぜ」

「失敬な、こう見えても俺は週に七日はシリアスモードだぜ?」

「せめて月一回に譲歩しろよ嘘つくなセキ」


日が落ちかけている空は、とろりとした橙の光に包まれている。
熟れて落ちかけたオレンジの実のような陽が逆光となり、セキとニドランの顔を黒に染める。

フシギソウは思った。逆光というものは偉大だなあと。

それほど真剣ではない顔でも、ドラマの主役のように格好よく見せる
演出力が、日の光にはあった。


「ま、弱った花には虫が沸くって言うからな。
 下手に手を出したら余計こじれそうだ」

「っていうことは基本放置の姿勢かセキ?」

「放置すんじゃねーよ諸悪の根源どもが!
 三日以内にどうにかしねーと、またツムギ兄から鉄拳制裁喰らわされるぞ!?」

「うわっちゃーそれはカンベン、マジ勘弁」

「うう、ツムギの野郎、サイカチ絡みになると
 いつもの三倍くらい強くなるからなぁ…」


「とにかく早くなんとかしろよー?」とカノコがそう言うと同時に
ニドランの尻を蹴り飛ばし、ドミノの要領でセキもろとも床にぶち倒れた。

流石に怒った二人とカノコが乱闘に入りかけた刹那、どこからともなく
ディアルガ先生が現れ、某ナイフのメイドさんのごとく時を止め「喧嘩両成敗」を
見事に成し遂げたことにより、その日の会議は無事終わった。
ツールボックス

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