5スレ>>492


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 夜空を彩る無数の提灯。
 道の脇には屋台が立ち並び、客引きの声が響いてくる。
 道には数えるのも馬鹿らしくなるほどの人があふれ、熱気が満ち満ちている。

 季節は夏真っ盛り。
 この日セキチクシティでは、年に一度の夏祭りが開かれていた。


「ほんとにたいした人数だなぁ……」
「もともとが観光地ですからね。この祭りを見るためにいつもより大勢の人が来ているようですよ」
 俺のつぶやきにデルが律儀に応えてくれる。流石はデル、下調べも万全なようだ。
 デルの話によればここの祭りはカントーではなかなかに有名で、観光客も大勢来るらしい。
 にぎやかなのは結構なことだ。祭りはにぎやかなのに越したことはない。
 しかし、この人ごみはなんとかならないのだろうか。これでは、
「……いたか?」
「……いえ、見つかりません」
「ったく、メリィのやつどこいったんだ……?」
 これでは、迷子が見つけにくくてしかたないじゃないか。

―――

 ことの始まりは、今日の夕方に遡る。
「マスター、これ見て、これ!」
「祭り?」
 メリィが持ってきたチラシにはでかでかと『祭』の文字が描かれていた。
「今日の夕方からやるんだってさ! ねぇ、行ってみようよ」
「おもしろそうですね。いってみませんか? ご主人様」
「まあ、特に用事もないし……。よし、行こうか!」

 それからわずか1時間後、俺たちの姿は祭り会場の入り口にあった。
 どこから調達してきたのかは知らないが、デルは黒を基調としたアサガオ柄の浴衣、
 メリィは薄黄色を基調としたひまわり柄の浴衣を着ており、2人とも準備万端といった様子だった。
「2人とも、よく似合ってるぞ」
「うん。ありがと」
「あ、ありがとうございます」
 俺の率直な感想に頬を染めて礼を言う2人。
 その様子に俺もなんだか気恥ずかしくなり、無意味にあたりをぐるりと見回した。
 提灯はまだ灯ってはいないもののあたりには人ごみができ始めており、
 屋台はすでにフル回転を始めている。
「まだ夕方なのに、すごい人だかりですね」
 続々と集まってくる人を見ながらデルが感嘆の声を上げる。
「ああ、これははぐれたら大変だぞ」
「だったら、こうすればいいんじゃない?」
 言うが早いか、メリィが俺の右手を取ってきた。
「お、おい……」
「はぐれたら困るんでしょ?」
 確かにそうだが、ちょっと恥ずかしい。などと戸惑っている間に今度は左手が引かれた。
「ん?」
 視線を向けた先にはデルの姿。彼女は少し恥ずかしそうにしながら、
「確かに少し恥ずかしいですけど、皆やってますよ?」
 言われて視線をめぐらせると、
 多くの人々――主に家族連れや恋人と思しき人たちは皆手をつないでいた。
「……そうだな。俺たちだけ恥ずかしがっててもしかたないしな」
「そうそう」
「そうですよ」
 2人の嬉しそうな声を聞きながら歩き出す。
 多分俺もまんざらでもなさそうな顔をしているんだろう。

 このとき、はぐれたときのことをもっと考えておけばこんなことにはならなかったと思う。
 しかし浮かれ気分の俺達はそんなことを少しも心配せずに祭りに乗り込み、
 予想以上の人波にもまれてはぐれてしまったメリィを探すはめになってしまったのだ。

―――

「ふぅ……」
 人の波から外れて一息つく。流れの外側に出たおかげで、人の多さをあらためて感じさせられた。
 この中からたった一人を探し出すのは至難の業だろう。
「メリィ、大丈夫でしょうか……」
 デルが不安そうな声を上げる。俺もデルも、頭の中はメリィを探すことでいっぱいだった。
 この祭りには3人で来たのだ。3人そろっていなければ楽しむ意味がない。
 この上メリィに何かあったらと思うと、とてもじっとしてはいられなかった。
「きっと大丈夫だ。さぁ、行こう」
 デルの手を取って歩き出す。その瞬間、
「やめてください!」
 そんな声と共に、もめごとの気配が漂ってきた。
 見れば、ハクリューの女性が人間の男にからまれている。
 今はメリィを探し出すのが最優先だ。それはわかっている。
「なあ、デル」
「はい。なんですか?」
「少しだけ、寄り道してもいいか?」
 でも、俺にはなぜかほうっておくことができなかった。


「本当にありがとうございました」
 助けた女性が丁寧に頭を下げてくる。
「あ、いえ。大したことはしてないですよ」
 この言葉は謙遜ではない。俺たちが介入したとたん、男たちはさっさと逃げ出してしまったからだ。
 その程度の度胸ならからんだりするなとも思うが、争いごとにならなかったのでよしとしよう。
「いえ。そんなことはありませんよ。実際に私はあなた方のおかげで助かったのですから」
 そう言ってやわらかくほほ笑む女性。
 彼女はミルトという名前で、俺達と同様に連れとはぐれてしまったらしい。
 俺たちと違うところは、合流場所をしっかりと決めていたところだろうか。
 その方向はまだ探していなかったので、俺たちはミルトさんと一緒にその合流場所に行くことにした。
 道すがら、俺たちはいろいろと話をした。
 旅の目的、今まで訪れた町のこと、道中でのトラブルなどなど。
 お互い旅人ということもあってか、それらの話はすごく盛り上がった。
 特にデルはミルトさんと気があったようで、とても楽しそうに話をしている。
「……メリィのやつ、ほんとにどこにいったんだ?」
 そんな様子を横目に見ながらも、周囲の人波のなかにメリィの姿を探すことは忘れない。
 見つからないのは先ほどまでと同じだが、俺は自分の中の焦りが小さくなっていることを感じた。
 ミルトさんと話してリラックスしたおかげだろうか。視野も幾分か広がっているように感じる。
 今ならきっとメリィを見つけることができる。根拠もなくそう思ったとき、
「あ、着きました。あそこが合流場所です」
 ミルトさんが示す方向を見る。俺の目に飛び込んできたのは、
「「メリィっ!」」
 紛れもなく、はぐれてしまった大事な人の姿だった。

―――

「なぁ、そろそろ機嫌直してくれよ」
「ふーんだ」
 もう何度このやり取りを繰り返しただろう。
 再会すると同時に「この、バカマスター!!」と言って電気ショックを放って以降、
 メリィはまったく口をきいてくれない。
 メリィの怒りはもっともだと思うが、いい加減話をしてくれてもいいんじゃないだろうか。
 ふと横を見ると、ミルトさんが彼女のマスターと思しき男性と話をしていた。
 きっとはぐれてごめんとか、無事でよかったとか、そんな話をしているんだろう。
 話をしているミルトさんは、俺達が見たことの無いような柔らかい表情をしていた。
「あの様子なら、今回は心配ないみたいですね……」
「え? 何か言ったか? デル」
「い、いえ。何でもないですよ」
「そうか? しかし、どうしたもんか……」
 思案にくれていると、ミルトさんがマスターらしき男性を伴ってこちらへと歩いてきた。
「紹介が遅れてすみません。こちらが私のマスターです」
「はじめまして。トウマといいます。ミルトがお世話になりました」
 そういって男性――トウマさんは右手を差し出してくる。
 眼鏡をかけた、人のよさそうな男性だ。
 骨折でもしたのか左手を吊っているが、とりあえず悪い人ではなさそうだ。
「いえ。こちらこそ、メリィがご迷惑をおかけしたようで」
 握手に応じると、思いの外がっしりとした手をしていた。
「迷惑だなんてとんでもない。……彼女、まだご機嫌ナナメのようですね」
「そうなんですよ。まあ、無理もないけど……」
 メリィのほうを見る。相変わらずのその様子に思わずため息が漏れた。
「相当寂しがってましたよ? なんせあなたを待ってる間中―」
 トウマさんの口からその言葉が漏れた瞬間、そっぽを向いていたメリィが一瞬でこちらを向いた。
「ちょ、ちょっと。それは……」
「―俺が何を勧めても『マスターと一緒じゃないと嫌』の一点張りでしたからね」
「~~~~~!」
 メリィの顔が赤く染まっていく。
 何か言おうと口が必死に動いているが、漏れてくるのは言葉にならない音ばかり。
 でも、俺にはわかる。この後に来るのは、照れ隠しの電撃だということが。
 その想像を裏付けるかのようにメリィの周囲の空気が帯電し始め―

 ドーン

 腹に響くような衝撃がはしり、大きな爆発音が響く。
 咄嗟に目をつぶるが、なぜかぜんぜん痛くない。
「…………?」
 恐る恐る目を開けると、俺以外の全員が空を見上げていた。
 その視線を追って夜空を見上げた瞬間、

 ドーン

 そこには、大輪の花が咲いていた。
「うわぁ……」
 誰かが感嘆の声を漏らす。あるいはそれは、おれ自身の声だったかもしれない。
 夜空を彩る様々な光に、俺達はしばらくみとれていた。
「……許してあげる」
 そんな中で、ぽつりと聞こえた声に振り返る。
「え?」
「だから、許してあげるってば!」
 口調こそ少し乱暴だが、花火の光に照らされるその顔には怒りの色は見えない。
「……ありがとう。これが終わったら、3人でいろいろと出店を回ろう」
「うんっ!」
 そういってメリィが浮かべた笑顔は、夜空の光よりも輝いて見えた。
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