5スレ>>493

――――――『時は金なりというが場合によって金は時よりも重い』






某月の某日。天気は快晴、雲一つない大空の中で清々しい青色が広がっている。
太陽も地上とはそれなりの距離を取っている為に気温は高くなければ低くもなく。
時折吹く風が不快感を吹き飛ばし生物が活動するのに丁度よい環境を築き上げている。

そんな日の、某地方、某町にて。

「主よ、本当に間違い無いんだろうな」
「間違いはない。ここのジムトレーナーはお前一人でも十分倒せる」

萌えもんジムを目前にして発せられた女性の問いに青年は答えた。

紅い瞳に前に伸びた灰色の髪。日差しの中でも平然としているゴースト萌えもんのヨノワール。
青年の方は紫色の帽子を目深く被りその下にサングラスと一見不審者のようにも見える人間。

蒼い空と太陽の下で、そんな見るからに怪しげな二人がジムの目の前に立っていた。

「ふむ……」

堂々とそこに建つジムを見つめながらもヨノワールは考えるような仕草を取る。
頭の中に浮かんだのは出掛ける前に言い渡された今現在の少なすぎる所持金。

「下手をすれば私達の生活が危うくなるのだぞ?」
「だが例え中堅でも勝てば他のバトルとは比べものにならない程の賞金が手に入る」

非公式な野試合はあくまで賭けバトルに過ぎず、よっぽどの相手でもない限り収入は少ない。
しかしジムでの戦いは様々な組織から正規のファイトマネーとして支払われる為に、期待が出来る。
もっとも負けてしまえば賭け試合と同じようにこちらがマネーを支払わなければいけないのだが。

「我らが主よ、誰が為にでもない争いを望む事は深き罪であると思います。しかし我らが主よ、御許し下され。それが我々に科せられた使命でもあるのです」

突然、彼女は祈るように言った。

「何だそれは」
「かっこいいだろう。戦いに行く前の口癖にしようと思ってな」

胸を張り尊大な態度が赤い目に宿るが、対照に青年は顔を顰め

「……幽霊が神に祈るな」

その一言にヨノワールは「あ」と間の抜けた声を出す。

「それに口癖なんてどうでもいいだろう。無理にキャラを立てる事も無い」
「確かにどうでもいいと言われればどうでもいいな。止める事にするよ」

どうやらあまり拘りを持たないタイプのようだ。

「………今思い出したんだが」

そこで青年は何かを思い出しかのように言い「そういえば」と付け足すと

「出掛ける前にメガヤンマが笑顔で「負けたら売りますからね」とか言ってたな。冗談らしいが」
「…………」


沈黙。
二人の頭の中で常に微笑んでいるものの黒い少女の姿が浮かび上がった。


「一体何を売るかは分からないが……何にしてもあの蜻蛉が言うと冗談に聞こえない」
「まぁ、そうだろうな」

それでも冷静な青年に対しヨノワールは嘆くような口調で言った。 
 
「私も今気付いたんだが」

声音はそのまま、首だけを捻り己の主へと向ける。
 
「リーダーとは戦わないとはいえ何故に私一人でジムに行かなければいけないのだ。他の二人はどうした」
「メガヤンマは配達のバイト、エレキブルは発電のバイト……俺達だけ暇だからな」

最後に「俺もお前も働く気がないし」と駄目人間確定な台詞を堂々と付け足した。 
その答えが気に入らないのか灰色の髪を揺らし「むー」と唸り声をあげる。

「よく考えてもみたまえ。仮にも幽霊である私が太陽の下で汗を流して働く等と可笑しな事じゃないか?」
「お前、太陽は平気なんだろう」

再び「むー」と唸る。

「暇っていうのは嫌な響きだな………まぁ暇であった事には間違いないが」
「これも今思い出したがエレキブルの奴も「勝つまで帰ってくるな」とか言ってた。こっちは本気」

先に浮かべた仲間とは相反し感情の起伏が激しい仲間を思い浮かべ「ふぅ」と息を吐いた後、

「短気な奴め……背水の陣ならぬ背電の陣だな」

訳の分からない事を言うヨノワール。
そういえば話題がずれているな。青年は先の発言は無視して本題に戻る事にした。

「だが下見した時にこのジムのレベルは分かったから大丈夫だ。リーダー戦は無理だが、拒否すればいい」
「ふむ……そうか」

彼の言う下見、実力を見抜き勝てるかどうかを判断する作業は確かなものであると彼女は思っている。
事実、彼が下見をした上で行われる戦いに自分達は今まで一度も敗北したことがなかった。

ヨノワールは再び考えるような仕草を取った後、

「主のその能力……今の生活のせいか昔よりも磨きがかかっているような」
「そういえばそうだな。最近では一目見ただけで大体の強さが分かるようになった」
「なにっ」

その一言に驚き瞼を最大にまで広げ青年を見る。

「それは凄い。では今日から主の事を人間スカウターと呼ぼう」
「嘘に決まっているだろう。っというか呼び方のランク下がっているじゃないか」
「なんだつまらん」

軽い口調だったが心底ではガッカリしたようで溜息と共に俯いて灰色の髪を垂らした。


「まぁ嘘じゃないんだけどな」


誰にも聞こえないだろう、小さな声で呟いた。 

「何か言ったか?」
「なんでもない」

それでも僅かにも反応したヨノワールに声音は変えないが内では慌てて返した。

「行くぞ」

気を取り直し青年はドアノブへと手を付ける。

そうして彼等二人はジムの中へと消えていった。

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最終更新:2008年07月22日 18:45
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