1スレ>>753

 
 私は人の言葉を話すあの生き物が嫌い。

可愛い顔で人を騙し、平気で人を傷つけるから、奪って行くから。

この‘昏い(くらい)世界’に私を閉じ込めたのも、あの生き物。



 あの生き物が何か? 知りたいの?

私以外の多くの人に愛され、共に過ごす萌えもんとか言われてるあの生き物。



 私だってこんな世界に閉じ込められなければ、好きでいられたかもしれない。

あの日まで一緒に居た、あの生き物達。

ずっとずっと一緒に頑張って来て、この先も一緒だと思ってた。


 何故今一緒じゃないのかって? この昏い世界に閉じ込めたから……私から光を奪ったから。

それも、旅立ちからずっと一緒だった子に、奪われた。




 初めて博士にもらった子。

――この昏い世界にずっといるせいで、記憶も曖昧になってる。

 美しい焔のたてがみと白い透き通る肌だけが記憶に焼きついている。

――光を奪われた日だけ、鮮明に記憶している。

 初めてもらった子はその日の数日前から妙に落ち着きがなく、探し物をしているとか言っていた。

――落ち着きが無くなった日から、私からのプレゼントを見なくなった。



 昏い世界にきて、今どれくらいの月日がたったのか。

5日目の朝、看護士の人に日付を教えてもらって以来、長すぎる時間に耐え切れず聞いていない。

その倍の時間が過ぎた位までは、あの生き物達も何も知らないフリして、毎日見舞いに来ていた。

見舞いに来た最後の日に、私はあの生き物達にある事を言った。

また私の何かを奪っていくのか、人を苦しめるのはやめろ、同じ場所になんて居たくない。と。




 最初の2日間、初めての子が人違い、私じゃない、なんて言い訳してた気がする。

人違い? 莫迦も休み休み言ってほしい。

襲ってきたあの生き物は、私があの子の誕生日にあげたイヤリングだって持ってた。

わざわざ目の前で地面に捨てて踏みつけてくれた。



 最近、入ったばかりの新人という割には、

妙に落ち着いた声の看護士が、丸一日付きっ切りで居てくれた事がある。

その時、今でも萌えもんを恨んでいるの? と聞かれた。

――恨み……はもう無い、のかもしれない。

ただ、嫌いなだけで、まだ憎い、恨んでいる。

そう答えた気がする。

その日以来、その看護士は寂しそうな気配をするようになった。



 質問をされる3日前(推定)に新人で始めて受け持つのが私だとか言ってた。

何故か私の好物や、好きな歌なんかを知ってたけど、多分家族にでも聞いたのだろう。



 今日もその看護士がやってきた、朝の見回りだとか言ってる。

その看護士が居なくなった直後はいつも、心が安らぐ温かい空気が残る。

落ち着いた声の割りには、少しとろい様子でたまに転んだりしてるようだ。



 それからどれくらい過ぎた頃か、点字の手紙を医師が渡してくれた。

家族が送ってくれたようだ。

内容は……



『(挨拶は省略する)5年前の事故の現場に‘さくらさんの無くした’イヤリングが落ちていました。

 貴女の言う通りの場所でしたが、犯人はやはり別人だったようです。』



 家族もおかしくなってしまったようだ。

それはそうだろう、一人娘が失明、さらには心臓を痛め歩く事さえできなくなったのだ。


……どうやら続きがあるみたいだ。



『さくらさんが看護学校を卒業し、そちらに向かったはずです。

 少し日数が早まると言っていたので、手紙を読む頃にはもう会っているかもしれませんね。』



 あの生き物がここに? 

『事故の後、さくらさんは自分がついていればと、ずっと後悔し続けていました。

 今度は絶対に守ると一人で頑張り、新しい姿になって落ち着いた雰囲気になっています。

 落ち着いてはいるけれど、まだ持ち前のドジな所……』


 続きは読めなかった。

指が震えて、文字をなぞる事もできない。



 この震えが恐怖なのか怒りなのか、それとも別の何かなのか。

判っている、認めたくないだけ。

――自分の醜さを、認めたくないだけ。



                      ――終――



 備考

 この話はジャンル不明、同作者著の『始めてのゲット?』における、

シリアス? ダーク? を目指して書いてみたパラレル作品です。

主人公の性格も若干違いますし、ピカも作中では既に野生に帰っています。

さくらに置いては野性に返すべく、ボールから解放してもなお、主人の為に尽くす事を選んでいます。

萌えもんっていう単語1個でシリアスムードが消えそうで怖いですが……。

とりあえず、こんな感じです。

次回気が向けばまた。
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最終更新:2007年12月10日 17:49
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