僕はシオンタウンに住んでいる。
萌えもんトレーナーになるのが小さな頃からの夢だったのだが…
恥ずかしながら、まだ一匹も萌えもんを持っていない。
そもそもこの街はトレーナーが旅立つのに向いていない。
イワヤマトンネルは真っ暗な上、イワークなどの強い萌えもんもいて危険だ。
南は水場ばかりで釣竿がないとどうにもならず、その先はカビゴンが通せんぼ。
なら西はというと、草むらはあるのだが細い木が微妙に邪魔して入れない。
その先へ行こうにもヤマブキシティは封鎖中。暴走族もいて怖いし…
萌えもんタワー? 幽霊くらいなら居そうだけどなぁ。
そう、最初の萌えもんを手に入れるのが極めて難しいのだ。
実際、この街から旅立つトレーナーの大半は、知り合いから最初の萌えもんを貰っている。
萌えもんハウスを運営しているフジ老人から貰うという手もあるが、
…小さい頃、あのじいちゃんには悪戯とかやりまくったんだよなぁ…
とてもじゃないが、まともに顔を合わせることなどできない。
というわけで、いつまで経っても最初の一匹を手に入れられないというわけだ。
そんな鬱屈した気を紛らわせるように、毎週萌えもんタワーに通って墓参りをしている。
萌えもんの世話をする代わりに墓の世話をする、ただの代償行為だとは自分でも分かっている。
でもまぁ、普通にボランティアでもあるわけだし。
もしかしたらカラカラの一匹でも捕まえられるかもしれないし。
もともと萌えもん自体が好きだから、ちゃんと墓の手入れはしてやらないと可哀想だとも思うし。
そんなこんなで今日も萌えもんタワーを掃除中だ。
祈祷師さんともすっかり仲良くなった。…萌えもんはくれないのだが。
なんでも手持ちのゴースト萌えもんは、実は死んだ友人の霊だとかなんとか…
ある墓の前にラブレター(っぽい手紙)が供えられているのを見つけた。
手紙のお供え物はたまにあるが、ラブレターというのは初めてだなぁ…
…ふと、おかしな点に気づく。
宛名が僕の名前になっている。
…おかしい。絶対におかしい。
ラブレターなんて送られるほど仲の良い女の子はいない。
何より墓前に置くというそのセンスが分からない。
っていうか開いていいのだろうか、読んでいいのだろうか。
迷いながらもその手紙を読むと、…やはりラブレターだった。
僕が毎週墓参りをしている姿を見て惚れたそうだ。見られてたのか…
差出人は不明。まったくもって謎の手紙だ。
しかし今日の夜に萌えもんタワーの裏に来いって…その待ち合わせ場所のセンスも分からない。
センスだけで人となりを決め付けるのはいけないと思うので、待ち合わせ場所には一応来てみた。
どんな人なんだろう… とりあえず強烈なセンスを持っていることは分かっている。
「ごめんごめん、待ちましたぁ?」
結構馴れ馴れしい人のようだ。
「いや、僕もちょっと前に来たばかりで」
と、適当に返事をしておく。
さぁどんな人だろう…あたりが暗いのでよく見えない。
その人が小柄で、黒い衣装を着ているのも原因の一つだ。
髪型はセミロングの黒髪、先のほうは微妙に赤みがかった色なのが印象的。
そして…………足がない!?
「えっと、はじめまして。萌えもんのムウマって言います」
「あ、こちらこそはじめまして… え?萌えもん?」
「はい。……えと……私のマスターになってくださいませんかっ!?」
いきなりだな! 一瞬思考が硬直する。
でもこれは願ってもない申し出。
「え、僕がマスターに…? いい…けど。」
「やったぁ! ありがとうございますっ!!」
とても嬉しそうだ。
こちらとしても、初めての萌えもんが手に入ってとても嬉しい。
さぁこれから旅に出る準備をしよう!
必要なものは何かな何かな~。
そんなことを考えながら、とりあえず家に連れて帰ることにする。
その一時間後。
僕の期待と予想は無残にも打ち砕かれた。
「ねぇムウマ、君の得意技は?」
「はい! 高○名人にはかないませんけど、1秒にボタンを14連射できます!」
「えっと…バトルで使える技のことを聞いてるんだけど」
「ぁ、そっちですか。スクリューパイルドライバーの入力だって出来ますよ♪」
「すご! 僕なんか昇龍拳がやっとで… って違う!!」
なんかこの娘、萌えもんバトルをしたことがないらしい。
ずっとタワーでふわふわまったりしていたとか。それだけならまだいいが…
「萌えもんリーグに興味は」
「無いですよー。今はガンダムvsガンダムの全国大会目指してます」
「…将来の目標とか」
「やっぱり名人とか課長になりたいですね! あ、○ガの湯○(元)専務みたいになるのもいいかも」
「…えーと」
「それが無理なら… 自宅警備員? いわゆるニートになりたいですっ!」
極度の廃人ゲーマー!
しかもニート志望!? どういう萌えもんだー!
「…というわけで、どうかこれから養ってくださいね? マスターっ♪」
「誰がマスターじゃぼけぇぇぇぇ!!!」
さすがの僕もぶち切れた。
希望の星がまさか只の穀潰しだったとは。
「こうなったら意地でも萌えもんリーグ出場目指してやる!」
「えー! 勘弁してくださいよ~」
「やだね! さあ旅の準備だ!」
「いーやーでーすーぅ! テレビとPS3とXbox360とWiiが無いとこなんて行きたくないです~!!!」
「贅沢すぎるわぁぁぁぁ!!」
仕方がないので強引に旅に連れ出すことにした。
居候されても迷惑なだけだし…
「じゃあ旅の間、炊事とか洗濯とかは交互にやるってことで」
「私そんなのできませんよ? …ということでマスターに全てお任せします」
「ちょ、おま…ふざけんな」
「ふざけてませんっ、出来ないもんは出来ないんですっ」
「じゃあせめて旅費稼げ!」
「バイトしてもドジ踏んで逆に請求書来るのが関の山ですよ~」
役に立たねぇ…
つまりなに? 旅をするには
・僕が頑張って働いて旅費を稼ぐ
・僕が炊事洗濯その他家事をする
・その上で萌えもんバトルをしてこの娘を鍛える
……無理だ……
ムウマいわく
「諦めたらそこで試合終了ですよ」
だそうだが、試合終了の原因は明らかに君だよッ!!
もう少しまともな萌えもんが欲しかった…
が、高望みしてもしょうがない。萌えもんが手に入っただけいいとしようか。
これでついに、ねんがんの萌えもんトレーナーになれたんだし。
「マスター! ゲーセンですよゲーセン! こんな辛気臭い街にもあったんですねー」
「…寄るの?」
「当然ですっ! ギルティ北斗メルブラ鉄拳ガンガン三国志ポップン虫姫ダンレボ絆、何からやろうかな~」
…いつまで資金がもつか、少し…いや、ものすごく心配だけど。
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・ムウマ Lv13
タイプ:ダメ幽霊
わざ: 食べる ゲームする 寝る ------
とくせい:オールラウンダー(全てのジャンルのゲームができる)
もちもの:「PSPとDSとスワンクリスタルは欠かせません!」
ニートでゲーム好きのダメ幽霊。
戦闘能力は皆無! ただしゲームの腕はかなりのもの。
最終更新:2008年08月20日 19:23