よく晴れた、風の気持ちいい日のことだ。
トレーナーと萌えもんの二人一組で行われる競技があるようで、私、ふりーざーはすみっこの休憩室で待機することになった。
部屋の中は洋式で、談話室のようなつくりになっていた。
四角いセンターテーブルに、それを囲むように椅子が四つ。
そして、
……うぅ……人がいますよぅ。
そのうちの一つに、炎を思わせる赤。萌えもんが座っていた。
とてもニガテである。
長い間ふたごじまに籠っていたせいなのか、人と接するということに恐怖のような感覚を覚える。
ましてそれが、
「りざーどん……」
ニガテなタイプなのだから、余計にこわい。
気が強くて、勇猛果敢。自分とは大きくかけ離れたイメージのリザードンは、私に昔の友人のことを思い出させた。
……帰りたいですよぅ……べとべたぁ大佐ぁ……。
でも彼女のことを考えると少し勇気がわいた。
……が、がんばります!
とりあえず、向かいの椅子に座ることにしましょう。
「……」
勇気を出して座ってみたものの、あちらからアクションがやってこない。
相手の出方を窺って応答する、という作戦が失敗に終わった。
……うぅぅぅ。
そればかりか、リザードンは眉をひそめるような、難しそうな表情をとる。
……き、きげんがわるくなってしまったんでしょうかぅ……。
びくびく。
……やっぱりわたしには無理ですよぅ……。
難易度が高すぎた。
初心者に難易度最高なんて無理ゲーだったんです。
しかし、こちらの諦めがついたところで相手には関係ない。
こうしている間も、リザードンの表情は曇っていくばかりである。
……あぅあぅ。
このままじゃだめだ。
このままじゃだめだ……。
このままじゃ……だけど。
心臓がばくばくと激しく鼓動する。
血が頭にたまってきて、顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
くらくらと視界が揺れて、
……このまま倒れてしまった方が楽かもしれません。
少なくとも、リザードンから受けるプレッシャーは感じなくなるはず。
……だめです。だめです。
目の前で倒れられちゃ相手に迷惑をかけてしまいます。
それに、
……がんばるために、私は外に出てきたんです! 見ていてください、べとべたぁ大佐!
深呼吸。
血がさぁ、と降りていく。
自分の周りの空気を少しだけ冷やして。
ごくり。
「「あ、あのぅ……」」
私とリザードンの声は、見事にマッチングした。
「「……!?」」
一瞬の驚き。
「「……」」
一瞬の間。
「「……?」」
一瞬の疑問。
全ての結果はただ一つの行動となってフリーザーとリザードンを動かした。
「「ふふ……」」
小さな笑みだ。
本当に小さな、ささやかなものだった。
だけど、彼女達の間に、それ以上のコミュニケーションはありえなかった。
二人は同時に理解する。
彼女とは、似たような気持ちでいたのだ。
ということを。
「えぇと、一応自己紹介をしたほうがいいんでしょうか……?」
「では、私からいきますよぅ……」
……と、年上の貫禄を見せ付けてあげます!
意味もなく椅子から立ち上がり、意味もなく咳払いを一つ。
彷徨っていた視線をようやくの思いでリザードンの目へ。
「わ、私は……つい最近までふたごじまに引きこもっていたふりーざーというものですよぅ」
そして意味もない紹介までしてしまった。
くすくすと、控えめに笑みをこぼすリザードン。
……あぅぅ。
でも、笑われても、心地が悪い気はしなかった。
「私は……リザードンです……。その……えぇと……」
「私みたいに自爆はしなくてもいいですよぅ……。それで、リザードンさんはどうしてここに?」
ぴく、と体を跳ねさせ、可愛らしい反応。
「ご主人様に少しだけ、時間を頂いたんです。色々、考えたいこともあったので」
「考えことですかぅ……?」
「……」
「……」
じー。
「ひ……ひみつです! ひみつです! フリーザーさんはどうなのですか……?」
むむむ……。
『なにがむむむですかっ!』
べとべたぁ大佐の声が聞こえた気がした。
「そのぅ……今日は近くでイベントがあるのをしってますか……?」
「……?」
「そのイベントが、二人一組で……」
「……その、ごめんなさい」
「違うんですよぅ。余ったんじゃないんです、イベントはニガテなので辞退したんですよぅ」
本当だ。
……べとべたぁ大佐も彼とイベントにでたがっていましたし……。
二人が出場することに決まった時の、べとべたぁ大佐の笑顔のほうが、イベント参加よりも……。
にへら。
頬が緩んだ。
その変化を見てか、リザードンも説明に納得したようだ。
「好きなんですね。そのお二人のことが」
「ち、ちがいますよぅ……。別にべとべたぁ大佐のことが好きだというわけでは……」
「そうなんですかー。べとべたぁ大佐さんのことが特に好きなんですね」
「ちがいますっ。笑顔が可愛くて好きなわけでも、行動が可愛らしくてすきなわけでもないのですよぅ……」
「そこまで言われると、私もべとべたぁ大佐さんに会ってみたくなりました」
「イベントが終わったらこっちに来るといってましたから……ここにいれば会えますよぅ」
「……でも私のほうが時間のようです。今からご主人様のところにいかないと心配をかけてしまいます」
「それは残念です……」
リザードンは立ち上がり、私に軽く礼をして、
「それでは、フリーザーさん」
「さようならですよぅ……」
「……」
部屋を出る直前、リザードンは振り返った。
「……では、いつか、きっとべとべたぁ大佐さんに会わせてもらいますね」
「……。は、はいっ。また、また会いましょう!」
パタン。
扉が閉じて、私は気付く。
……リザードンさん、以外のことは全部分からないままです。
つまり、再び会うことは……難しい?
「違います」
……私は、リザードンさんを知っているのです。
必ずまたどこかで会える自信が、私の心の底には秘められていた。
最終更新:2008年09月09日 23:27