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 萌えもんコンテスト アイドル育成ストーリー プロジェクト

               かんなな! ~未来予想図~

  プロローグ
                                      著:ぺる

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【あしたは突然やってくる】

その日の夜は、家族揃ってテレビを見ていた。
私の家族は特に番組通が居ないため、選局争いなんかは滅多に起こらない。
その時もたまたま、その番組を見ていただけであった。
『さぁ今週も始まりました、アイドルミュージックアワー。
今夜も生放送でお送りいたしております。司会進行はおなじみこの方………』
リビングの壁一面を大きく陣取るディスプレイを横目に、
私は箸を口に運びながら久々の家族団欒を過ごす。
「……それにしても最近の歌手ってのぁ、昔に比べて随分変わったなぁ。」
…そんなことをしみじみと語るのはわが父。
焼酎を片手にテレビを観ながら、独り言とも取れるそんな一言。
『それでは今週のゲストをご紹介します。』
観客の歓声が大きくなる。
アイドルミュージックアワー(通称AMH)は、萌えもんアイドルあるいはアイドルユニットの
新曲情報と共に彼女らを紹介していく生放送の歌番組。
お馴染みサングラスをかけてスーツを着たオールバックの男と女子アナの司会で今日も始まった。
『一組目は今期放送開始のアニメ"堕落才女マジカルモラトリアム"のオープニングテーマ
"怠惰の果実"を歌っている、紫山フォルティナ(ゆかりやまふぉるてぃな)さんです。』
カメラが切り替わり、スモークで画面が白一色に染まった。
そしてそこに、ゆらりと一つの影が現れる。
『ティナですぅ。どーもぉ。』
そこに現れたのは、巨大なスプーンを手にもった、金色のドレスを着た少女だった。
その顔は何度かこの画面の先に見たことがある。種族はフーディンらしい。
両手にもったスプーンがいかにも彼女を象っていて、その先端にはマイクがついている。
最初見た時はまさか、それで歌うのか?なんて思っていたけど、あれはトーク用のスプーンらしい。
ステージの上ではちゃんとスタンドマイクを使って歌っている。
……その代わりなのかギターがなんとスプーンの形をしている。
弾きづらそうだが空弾きじゃないらしい。しかも超絶にうまいとか。
『~♪』
カメラ目線での投げキッスも最早恒例。きっちりと決めるところを決めてファンサービスを怠らない。
170センチ超えの長身、細身で引き締まったウエストに突き出た胸と臀部がやたら誇張されて見える。
……何故そのようなスタイルを維持できるのか直に聞いてみたいものだ。
あと個人的に右目の下あたり頬に逆さハートのメイクを入れてるのはちょっと可愛いなと思った。
『二組目のゲストは……』
「ふぁ……ぁぅ。」
……私の欠伸じゃないわ、勘違いしないで。今のは私の隣に座っているこっちの方。
そういえば、さっきからこの子は何一言発することもなくずっと画面を見てる。
右手に箸を持ったまま微動だにしない。…ごはん入らないのかしら?少し心配になる。
「イブリ。」
私と同じように気にかかったのか、父がそんな眠たげな彼女に声をかける。
「……あ、はい?」
…イブリが反応したのは父が声をかけてから2秒ほど後。どうにもレスポンスが悪い。
余程テレビに夢中だったのかあるいは、体調が悪いのか。
どちらにせよちゃんとごはんは食べさせなければいけない。
「テレビが気になるのはわかるが…飯は熱いうちに食ったほうがうまいぞ。」
「あ……。」
箸が止まっていることにようやく気付いたのか、イブリは茶碗を左手に持ち直し食卓に向き直る。
「そうでした……ごめんなさい。」
……すぐ反省できるのはイブリのいいところ。
そしてつい沈みすぎてしまうイブリの扱いにも慣れている父。なんというか、叱り方がうまい。
『……そして、最後のゲストはこの三人!』
"向こう側"から聞こえてくる歓声がひと際大きくなった。
『一ヶ月程前に産声を上げたファーストシングル"Sweet Pink"が大ヒット!
ミリオンにも迫る勢いを見せる、現在ブレイク中の桃色三人娘!』
ゲストの登場口に再びカメラは移り、スモークが噴き出し辺りは再び真っ白になる。
「あー、この娘達ねぇ。最近ほぼ毎日見るなぁ。」
スモークが霞がかり、スタジオの照明はピンク色で舞台を照らす。
…なんかアダルトな雰囲気が出てるのは気のせいにするとして。
『萌えもんコンテストという狭き門を潜り抜けた選ばれし妖精!』
そこに現れたのは、3人の萌えもん。
センターに仁王立ちの一人と、その両脇を固める二人。
『"Ptris(ぴトリス)"!!』
しっかりとポージングをした後、ゆっくりと足並みを揃えて階段を下りる。
「おー、がんばってるなぁ、ぴんくちゃん。」
……父がまるで知り合いの活躍を見ているかのように言う。
というのも、それは私達家族の中にある密かな自慢が起因している。
そう。
実はこの超人気アイドルのうち、一人は私達の知り合いなのである。
…正確には、"知人の萌えもん"なんだけど。
ハピナスのぴんく。私は、いや私達家族は、彼女のことをよく知っている。
……といっても、その記憶は10年前から置き去りの、風化したものでしかないが。
「しっかし可愛くなったもんだ。ファンになるやつ等の気持ちもわからなくもない。」
メディアに対しては辛口評論として我が家ではお馴染みの父ですら、この評価。
…身内だからという補正もかかっているのだろうが、確かに人気なのも納得できる程の魅力がある。
「…何~?父さんまでぴんくのファンだったりするわけ?」
私にも昔、彼女と仲良く遊んだ記憶がある。
公園の滑り台を一緒に滑ったり、砂場で城を作るためにあれこれ画策していた"私達"がこの未来の
結果を、まさか予想できたであろうか。急かすようにやってくる時間を私達は駆け抜けてきた。
そうだとしても…今の彼女は、果たして私を覚えているだろうか。
「ファンというよりはなぁ。だって家族みたいなもんだろ?
身内がテレビに出ているようなもんだからなぁ。」
「だよねぇ。私も普通のアイドルを見ているような気分じゃないし。」
家族が突然有名人になったら、こんな気分なのかしら?
「それに近々帰ってくるからな、ぴんくちゃんも、アイツも。」
「……そ、そうね。」
…いきなり心臓を鷲掴みにされたように拍動が急上昇した。
自分でもわかるほどに動揺したのは、父の"アイツ"という言葉が引き金だった。
『さぁ今夜も始まります、アイドルミュージックアワー。
気になる今週のランキングは……CMの後で~す!』
気にしないように、今日まで無我夢中に駆け抜けて…記憶の奥底に眠らせていたのに。
遂に明日に迫ってしまったことを、父の一声で思い出してしまった。
歓喜、羞恥、不安…そんな様々な感情が、私の心を喜ばせたり締め付けたりする。
「………。」
窓際に貼られた、カレンダーを見る。
緑色のペンで描かれたものは私の予定。
そして、その色で大きく書かれた丸印は、明日の日付をはっきりと囲っていた。
明日か……。
思わず溜息が出る。動揺を押し殺すように、心を静めるように――
…そして、次の瞬間思わず声が出そうになるのを必死に堪えながら、私は目を丸くするのだった。
「……!?」
……明日!?
うそ?
しまった…忘却するのはいいけど、忘れすぎた結果がこれって…!
こっちは心の準備ができてないって…!どうしよう………


どうしよう!明日アイツが、帰ってきちゃうよ!




【あしたに突然やってくる】

『……さて今夜もアイドルたちとお送り致しました一時間。お別れの時間がやってきました。』
…あっという間に一時間が走り去ったような感覚。
気付いたら食卓の上に置かれていたおかずがなくなっていた。
満腹感は…ある。でも、いつの間にごはんを食べ終わったんだっけ?
そのくらい、目の前のディスプレイに意識を集中していたのかな。
「ふぁ~……」
気付けばこんな時間だ。
ふわふわと宙に浮くような眠気がやってきていることを、誘われた欠伸が私に知らせた。
「そろそろ眠くなってきたんだろう?さっきからあくびが絶えないな。」
「…ふぇ?」
パパに言われるまで気付かなかった。私はいつからそんなに欠伸をしていたのだろうか。
…家族とはいえ、ちょっと恥ずかしいかな。
「珍しくテレビに夢中だったな。」
「ごめんなさい…。」
「ああ、いや謝らなくていいんだぞ?」
パパは少し慌てたように取り繕う。
…またやってしまった。
すぐに責められたような気がして…謝ってしまう。私の悪いクセ。
「今日は…ぼーっとしてて。」
そんな言葉で、ごまかす。
本当はぼーっとしてなんかいない。逆だった。
思わず興奮して、テレビに熱中してしまう程だった。
「イブリ、具合でも悪いの?」
心配そうな顔で、隣に座っていたお姉ちゃんが様子を窺ってくる。
「う、ううん。大丈夫…。」
「本当に…?病院、行ったほうがいいんじゃ…」
「大丈夫、ホントに大丈夫だよ。」
全然元気!…と必死に伝えるために、胸の前に両腕を突き出し、肘を曲げて拳を上げ下げする。
"げんきげんき"のポーズ。これを決めるとお姉ちゃんは……
「…うーん…ならいいけど、ちゃんと具合が悪いときはお姉ちゃんに言うんだよ?」
「うん…わかってる、お姉ちゃん。」
この様にあっさり引き下がる。
「エミルは本当に過保護だな。イブリも困ってるだろうに。」
「いいじゃない。たった一人の"妹"なんだからっ!お父さんは黙ってて。」
……私に悪いところがあるように、お姉ちゃんにも直してもらいたいところがあった。
"妹に過保護"なこと。
………。
勿論、パパは人間。エミルお姉ちゃんも、人間。ママも人間。
私は萌えもん。
本当の家族じゃない。
私はパパが昔、とある事情で連れてきたという。
…その事情は話してくれない。
ママは、"あなたはみなしごだった"と、こっそり打ち明けてくれた。
けれど、事の詳細は知らない。そして、知る必要も無いと思った。
…ここに私の家族が、いるから。
みんな私の事を、家族同然として、大切にしてくれているから。
……。
でも、心に僅かに残る事が、一つだけある。
それは………私の生みの親は、何処にいるんだろう、ということ。
…それは、開けてはいけない、私の心の奥底にある扉の、最も奥。そこに安置されている。
――たぶん…きっと、私の親は………
「そういえば……」
はっとした。
またぼーっとしていたのではないだろうか。
また何か言われるのだろうかと思って、思わず"げんきげんき"を身構える私。しかし、
「イブリは、あの件どうするつもりなんだ?」
話しかけてきたのはパパの方だった。
あの件――。
「……。」
パパが何を訊きたいのかは、わかってる。
それは私に関わる大切なもの。
「…まだ決まってないんだな?」
「……はい。」
……一週間前、パパの元に、とある一通の封書が届いた。
それは………
「急に…カウンセリングと言われても…。」
「…まぁ、そうだな。」
私は戸惑っていた。
私の心は、別に障害があるわけでもない。
性格は…すこし弱気なところがある、と思う。
お姉ちゃんみたいに活発な女の子とは嘘でも言えない。
心当たりがあるとすれば、ここに来た時から暫くは、よく具合が悪くなったりしていた。
それでも今はそれほど体調を崩すことは無い。
「どうしてカウンセリングを受けないといけないのか……正直、わかりません。」
私は、思ったことをそのまま、口にした。
何故心理カウンセリングを受けなければならないのだろうか。
そして…そんなことよりも、もっとわからない事があった。
「それは"彼"が来てから話をつけるのもいいだろう。…ただ、パパはな…。
やはりイブリにはカウンセリングを受けてほしいと思っているんだ。」
………。
どうしてだろう?
何故だかわからないけど、私の家族はみんな口を揃えて、"カウンセリングを受けろ"と言う。
理由も、"彼"が直接話してくれるよ。そう言って誤魔化される。
「…な、エミルもそう思うだろう?」
そう、そしてそれはお姉ちゃんの言葉でさえ、覆らない、総意。
「………。」
……そう思ってお姉ちゃんの方に縋るように視線をうつした時に、違和感に気付いた。
「……エミル?」
「…お姉ちゃん?」
何故か、お姉ちゃんがぼーっとしている。頬も若干紅く染まり、明らかにそわそわしていた。
「…はっ?えっ?…何?」
…反応まで二秒弱。これは間違いなく何か悩みがあるはず…と、私は確信した。
何故かって?…付き合いが長いからかな。
「う、うん!聞いてた、聞いてたけどっ?…まぁねぇ、それについては私は何とも言えないわ。」
…こういう反応の場合、聞いていなかった、ということがよく判る。
「あっ!いっけな~いもうこんな時間じゃない。明日も仕事早いからそろそろ寝なくちゃ!」
…これはすごく誤魔化している時のお姉ちゃん。
"いっけな~い♪"の辺りに性格的に無理な脚色を感じる。…とは絶対に言えないけれど。
「ほらイブリ、歯磨いてこよっ!」
「あっ、ちょっ、お姉ちゃん!?」
そして腕を掴まれて、私はお姉ちゃんと共に、半ば強引にリビングから退去を強いられる。
「ああ、イブリ、一つ言い忘れたことがあったが…」
思い出したように、退場する私を引き止める、パパの一言。
一呼吸置いて、グラスに残っていた焼酎を煽り、全て飲み干した後だった。
「"彼"が来るのは明日だ。詳しい話はその時に聞くといい。」
パパの口から、衝撃の事実が発表された。
「う、うん。わかった。」
「…よし。それじゃぁおやすみ、二人とも。」
…これで一つ、解らない疑問が明日、遂に明らかに――
「……あ、明日っ!?えぇぇぇっ!?」
――なるのはいいけど、私の心はまだ決まってないよ!?
ど、どうしよう。てっきりまだ先の話だと思っていたら…



どうしよう、明日"彼"が、やってきちゃうよ!?





【天使たちのオフ、それとテイクオフ】

深夜、ヤマブキ某所。
ここは高級住宅や分譲マンションが集まる地帯。
高台から見渡す景観は、駅よりの東にビルが並び、不規則ながらもどこかこの都市を象徴する
一つの美観のようにも思える。まるで全体がオブジェのようで、見方によっては作品にもなる。
西よりには住宅街が並ぶ。建造物の間隔はそれほど狭いわけでもなく、仕切りを作って綺麗に
並べられたアンティークのような規則性と優雅さが見て感じ取れる。各々趣向を凝らした庭を
持っている様子で、そこにはささやかな緑が色を飾って、都市美観に一役買っている。
その二つの区域の間に立つ、高層マンション。こんな時間では窓から洩れ放たれる電飾もまばらに
建物たちは静かな寝息を立てている。
そして夜はおろか昼ですら人の気配無い、とある高層マンションの最上階の窓。
そこに今、光が灯った。
「さぁ~帰ってきたわよぉ!マイホーム♪」
玄関のドアを開けると直ぐに、膝が隠れる程度のブーツを厭うように脱ぎ捨て廊下を直進。
廊下の電灯が人の気配を感知して、点いた。まるで彼女達におかえりを言うかのように。
Ptrisの登場である。
「ただいま~。」
先陣を切って廊下を突き進むのは、ハピナスのぴんく。
「ただいまー疲れた~お腹すいた~シャワー浴びたい~。」
続くのは完全に脱力モードに切り替わった、ピクシーのぴすた。
「おおきに~♪」
そしてプクリンのぷりか。三人あわせてPtris。
「おじゃましますぅよ~♪っと。」
さらに荷物。
「まいど~♪ティナは適当にリビングで寛いでてな。」
開けてびっくり中身はフォルティナ。今夜のゲストである。
明日の収録の関係で、家がその現場に近いPtris家で一夜を共に過ごすことにしたらしい。
彼女達三人は全国4箇所でライブを行っている途中である。
カントーはヤマブキ、ジョウトはコガネ、ホウエンはカナズミ、シンオウはヨスガ。
現時点でホウエン、ジョウトのライブが終了しており、近日中にここヤマブキでライブがある。
それと時を重ねるように、アイドルミュージックアワー出演。Ptris旋風は止まる所を知らない。

「私先にシャワー浴びるけど、おふろ入りたい人いる~?!」
ぴすたがバスルーム越しに尋ねる。
「ん、うちはええよ~!」
玄関にいたぷりかからは、直ぐに返答が返ってきた。
「ぴんくは~?!」
「私もシャワーだけでいい~!」
やや遅れてからぴんくも反応した。
それなら風呂を沸かす必要はなさそうだと、ぴすたはネックレスを外そうと項の止め具に手をかけた。
「あ、ゆかりは入りたいな~風呂~!!」
………。
「ちょっとは遠慮しなさいよ客人!!」
顔だけ廊下に出して、ぴすたが一喝した。
「腰がつかる程度でいいから~!半身浴はダイエットにも効果あるよ~!」
全く怒声に臆しない。この神経の図太さ、それが紫山フォルティナという人物。
ぴすたは仕方ないという溜息をつきながら、バスルームに戻る。
そして渋々とバスルームを掃除するのであった。
「ホントに遠慮ってもんをしらないんだから…ぶつぶつ…」
口ではそんなことを言っていても、その動きに無駄はない。むしろどこか生き生きしている。
「ゆかりが言ったからやるのよほんとに……別にダイエットとか興味ないんだから。」
誰に言うわけでもなく、その独り言はバスルームに残響しては静かに消えていった。

「ミックスオレあるけど、飲む?」
ぴんくは冷蔵庫を開くと、缶ジュースを一本取り出した。
「うち?」
「ううん、ゆかり。」
台所で包丁を持っている相手にジュース飲む?とは普通聞かないだろう。
「ゆかり水でいいよー。」
ソファに身体をずんもり埋めているフォルティナが答えた。
おかまいなくといったところだろうが、遠慮している様子はこれっぽっちも感じられない。
「お水ね。」
フォルティナのリクエストに応えて、ぴんくは冷蔵庫からペットボトルを取り出す。
「"おいしい水"と、"なまらおいしい水"があるけど、"なまらおいしい水"でいいよね?」
「ちょっとまって"なまらおいしい水"って何?」
聞き慣れない形容詞(?)に戸惑いを隠せないフォルティナ。
「うん、シンオウ地方でとれるミネラルウォーターよ。
"なまら"はそっちの方言で、"すごく"とか"めっちゃ"って意味があるんだって。」
「へぇ~…じゃぁそれはめっちゃおいしい水ってこと?」
「そ。ホントにおいしいのよ?」
「なんていうか…"なまら"って響き的に中途半端な品質を予想させるてかねぇ…」
フォルティナが髣髴とさせたのは"生半可"という単語だろう。
地方に住んでいた人でなければたしかにわからないかしらね、と苦笑するぴんく。
「まぁいいや。もらうよ。」
と、フォルティナ。その噂の(?)ペットボトルを受け取って、キャップに手をかける。
「待った。」
「?」
「これって軟水?硬水?」
「硬水かしら…書いてない?」
「…『なまらおいしい水は、テンガン山六合目の新鮮な空気に晒された上流水をそのまま
汲み上げたもので…』ちがうな…ん、あった!硬水だぁ。んじゃ飲む。」
軽くボトルを左に回してパキッとキャップを外すフォルティナ。
いちいち何を気にしているのか知らないが硬水と聞いて気分上場ではある。
「いただきまーすらお♪」
その挨拶は正直いただけない。
「…っていうか、ぷりか料理してるの?」
ミックスオレ片手にソファに凭れて寛ごうとしたぴんくは急に台所のぷりかに話しかける。
「うん。みんなお腹へったやろー?」
「なにこの水!うますなまらうます!!食べるなまら食べる!!」
「ゆかりはちょっと落ち着きましょう…。」
キッチンとリビングは吹き抜けになっているので、直接の会話が可能。
ぴんく達と話し始めても、料理の手は休めない。
「今日はもう遅いし疲れてるだろうからそんなことしなくても良かったのに…。」
その為に惣菜関連を買ってきたのに、とぴんくは眉をひそめる。
「お惣菜だけやったらダメよ、栄養片寄ってまう。」
ぴんくの言いたいことはわかっているだろうに、それでも皆の栄養を気遣うという。
「さすがPtrisメンバー兼専属メイド!」
「あはっ、料理は好きなほうやから。ティナのぶんもちゃんとあるよ。」
フォルティナの与えし称号にも嬉しそうに笑うぷりかであった。
「ほんとにぃ!?ティナうれしーなー!こういうときはええと、ゴ、ゴショ…五所川原…」
頭の上に"?"マークが浮かび始めたフォルティナに、ぴんくの助け舟が。
「ご相伴にあずかります?」
「それそれ!ゴショウセンにアバカレマス…」
フォルティナには舵が取れなかったようだ。
「うちは大丈夫よー。ぴんくもそんなに気ぃ遣わんでええって。」
無理をしているようにも思えない。ぷりかは実に楽しそうに鍋をふるっている。
それを見たぴんくは安堵したようだ。彼女の姿を見て表情も自然と穏やかになる。
「……、そーだっ!」
唐突に立ち上がったのは、フォルティナ。
「ぷりかー!PC貸して。」
「ぅん?ええよ……あー…今直ぐ使えないけどそれでもええん?」
フォルティナの要求に対して珍しく、ぷりかはGOサインを渋る。
「うん?なんかあった?」
「やー…帰って来たばっかで、まだ鞄の中にしまっててん。」
直ぐ使えないとはそういう意味だったか、とフォルティナは納得。
「そうか持ち歩いてるのか。んーそっかぁー…んー…。」
納得はしたようだが、何やらうずうずしている。
「PC使いたいなら私の部屋にあるわよ?」
その様子を見かねたのか、ぴんくが声をかけた。
その提案に、ぱぁっと表情を弾けてみせるフォルティナ。
「ホントに!?ねぇ使ってもいい?なまら使ってもいい?」
「ええ、いいけど使い方すこし変よ?」
本日二度目のぴんくからの助け舟に乗り、今度こそと面舵いっぱいにぴんくの部屋に向かい始める。
鼻唄交じりにリビングから退場していくフォルティナ。彼女の落差に振り回されっぱなしである。
「……とりあえず、ついて行くことにするわ。」
「うん、そっちのほうがええよ。たまにどえらいサイト見てたりするからなぁ…。」
ゴハンできたら呼んでね、と言い残してぴんくもリビングを後にする。
最後に、ぷりかから一つだけお願い事をされたが、ぴんくには何のことだか解らなかった。
「あ、そや。オークションで"ご萌死戦隊モエルンジャー"のプレミアムBOXが
いくらになってるかだけ調べといてくれると助かるわぁ。」
…とりあえず相槌は打ったけど、ここらへんはゆかりに任せればいいかな、と。
「ただいまぁ~。」
入れ替わるように、ぴすたがリビングにやってきた。
たちまちソープの香りがぷりかの鼻腔にも触れる。
「ん、おかえり~。」
「あれ?ぷりか料理してるの?」
ピンク色のふわふわしたタオルで乾きかけの髪を優しくたたきながら、ぴすた。
「そや。ぴすたも心配してくれてはるん?」
中々に上機嫌なぷりかは珍しく強気。
「心配って何が?」
「うう…そやったね。」
…そして強気になったところで彼女には何の意味もないことを、ぴすたの言葉を聞き思い出す。
「ちゃんとおいしいもの作りなさいよね。期待してるから♪」
そう言い残してぴすたはソファの海に沈み、スケジュール帳を開いたのであった。

「うわぁ。」
リビングから廊下に出てすぐ右に、ぴんくの部屋がある。
そのプライベート空間への扉を開いた直後にフォルティナが発した第一声は、これだった。
「うーわぁ。」
大事でもなんでもないが、二回言うフォルティナ。
「どうしたの?入って入って♪」
後ろからぴんくに押される形で、その空間に埋もれてゆく。
フォルティナが何に驚嘆したのか。それは、見たことのないような未確認生命体が床、壁、天井一面に
無限ともいえるような群で這いずり回っている地獄絵図でもなければ、足場がないほど床にびっしりと
モノが散らかっている光景でもなかった。
「なんもねぇ。」
そういうことだ。ありえないほどシンプルな部屋に、落胆していたのだった。
見渡してみれば、部屋の隅を大きく陣取っているのはこれまたシンプルな、純白のベッド。
サイズからしてセミダブルだろうか。
その反対側にはメタルラック。置かれているのはテレビやぬいぐるみが少々、あとはコンポである。
そしてその隣にデスクがある。これまたシンプルな、真っ白の机。
その上にあるのは、デスクトップ型PC。
そしてその隣、隅に本棚。これで部屋をぐるりと一巡。パッと見て来て目に付くのはそんな感じ。
…以上。
「あら、心外ね。必要なもの以外あっても邪魔じゃない?」
ぴんくの言うことも正論ではある。いらないものがあっても徒に部屋を散らかしてゆくだけだろう。
「むーっ…。」
例えそうだとしても、それは納得出来ないと、抗議の目線をぴんくに浴びせる。
「足りてないわっ!」
他人のプライベート空間であろうがなんであろうが気に入らなければ噛み付く、
それが紫山フォルティナという人物。
「足りてない…?そうかしら?」
「そうよ!大事なものが足りない!」
思い当たる節もないぴんくは、首を傾げて頭の上に"?"マークをいくつも作る。
そんな彼女に、びしっと、フォルティナは言い放ったのだ。
「ゲーム機よッ!」
…ぴんくに向かい腕を真っ直ぐに指をさす、そんな彼女に後光がさして見えるのは気のせいだろう。
「ゲーム?」
ぴんくの頭に"?"マークが20個増えた。
「フィギュア!ぬいぐるみっ!ポスター!どうしてこれらがなくてあたかも、
"必要なものは全て揃っている"みたいな言い方ができるのかッ!?」
「????」
「…っ……。」
さらに混乱し始めたぴんくを見て、これでは収集がつかないと判断したのか、フォルティナ。
「あー…まぁ…いーか。とりあえず今度ゲームかりなよ、ぷりかが持ってるよ。」
そう言うと、どっしりとデスク備え付けの回転椅子に腰掛ける。
「それじゃ早速使わせてもらうよ。」
「??…はっ!え、何?」
「PCだよ。使うじぇー♪」
フォルティナは起動スイッチを押した。ポチッとな。
低い唸りを上げて、動き始める機械。モニタ一体となっているPCは、すぐにロゴを画面に示した。
「…お?」
フォルティナが視線を移した先は、モニタの上。
やや大きめなコルクボードに、重なり合うように何枚も写真が張られている。
よく見ると、ぴんくとのツーショット写真ばかりだった。
そして相手の男、どっかで会った事がある気がして、フォルティナは首を傾げた。
「…どうかしたの?」
その様子に気付いたのか、ぴんくが訊ねる。
「このイケメン誰?」
気兼ねなくフォルティナは訊ねた。気兼ねなさすぎだが。
「ご主人様よ。」
「へぇごしゅじ…は?」
何を臆することもなく平然と答えるぴんくに、テンポよく会話を合わせようとした
フォルティナのほうだった。…先に言葉を詰まらせたのは。
「ご主人様ってのは…このイケメン(笑)のことかしら?」
「なんで(笑)なのか解らないけど、そうよ。」
「…どういった関係で?」
「ご主人様はご主人様よ?」
「………。」
邪推で終らせておくべきだろうか?とここで今夜最大のブレーキを踏む準備にかかるフォルティナ。
後でぷりかにでも訊いておこうかな、と心得るに至るのであった。
「それより…。」
フォルティナの勢いが無くなってきた所で、今度はぴんくが訊ねる。
「急にPC使いたいだなんて、どうしたの?」
その言葉を聞いて、待ってましたとばかりに口角を吊り上げるフォルティナ。
「それはね…。」
ゴソ、と何処からともなく彼女が取り出したのは、片手に少し収まらない程度のデジカメだった。
ぴんくの方に向き直ると、がっ!とぴんくの肩に空いている腕を回して、
「! ひゃっ…!?」
顔を引きつけて撮る!
パッ!と眩いフラッシュがストロボから発射された。
「…どうしたのいきなり?」
「こういうことさ!」
そう言うと、彼女はマウスを右手に掴み、キーボードを手前に引き寄せて、再びデスクに向き直った。

気付けば、ホワイトソースのいい香りがリビングを包み込んでいた。
「…ん~っ!…すんすん。あらいい匂い…。」
スケジュール帳と暫くにらめっこしていたぴすたは一区切りをつけて、軽く伸びをする。
「シチューかしら?」
「ううん。カルボナーラや。も少ししたらできるよー。」
ぽこぽこと鍋からは煮物が沸いている音。
ホワイトシチューはまさかのフェイント。
「付け合せは温野菜スープや。これで栄養もバッチリやね♪」
ぷりかはフライパンでパスタにホワイトソースを絡める作業に入っている。
ぴすたは時計に目をやる。
帰ってきてから1時間ほど経っただろうか。
ドライヤーをかけてじっくり丁寧にアフターケアを施した、腰まで届くほどの長い髪は、
すっかり乾ききっている。
「………そういえば。」
指先で毛先をひとつひとつチェックしながら、ぴすたは気付いた。
「ぴんくとゆかりは?」
ぴんくも不在でさることながら、あの高気圧ガールがいないリビングはすっかり静かである。
「ティナがPC借りたいゆうから、ぴんくの部屋行ったよ。」
「ふーん。……ぷりか、サイコソーダ。」
「はーい。」
かけていた火を止めると、キッチンと対面にある冷蔵庫のほうへ踵を返す。
オーダーに従い、ぷりかは冷蔵庫からビンを一本、取り出す。
大き目の食器棚からは透明なグラスを取り出し、リビングで女性誌を見て退屈を凌いでいる
ぴすたの元へそれを運ぶ。
「注いで頂戴。」
「そこまでやらせるんね…。」
お嬢様気質なので仕方がないと、ぷりかはビンの中身をグラスに注ぐ。
しゅわしゅわと炭酸の弾ける音を立てて、泡の層を形成した。
「ん、ありがと♪」
至れり尽くせりでさえあれば上機嫌なので、ここは素直に従うほうが良い。
それを踏まえたうえで、ぷりかはぴすたに"お願い"した。
「そろそろゴハンできるから、ぴんくとティナ呼んで来てくれへん?」
「えー…」
「うち仕上げにかからなあかんから♪」
「もう、しょうがないわねぇ。」
してやったり♪…とぷりかは密かに反撃を決めたことを一人心の中で喜ぶ。
「ん…それじゃ呼んでくるわ。」
グラスに注がれたサイコソーダを口に運び、喉を潤しぴすたはソファから立ち上がる。
リビングを出る前に、ぷりかからもう一つ、注文が追加された。
「そや、"ご萌死戦隊モエルンジャー"のプレミアムBOXいくらになってるかぴんくに
頼んだんやけど、忘れてない思うけどもっかい聞き直しといてくれはると助かるわぁ。」
…よく判らないまま、ぴすたは相槌を打つ。
とりあえずゆかりに言えば解るわよね、と。

「じゃーんっ♪どう?」
「わ、すごい似合ってるー!」
こちら、ぴんくのお部屋。ベッドの上でくるりと回る、チャイナドレスを纏ったフォルティナ。
気付けば衣服が所かしこに散乱している。
巫女装束、スクール水着、どっかの学校の制服や、果ては手錠や注射器、様々なコスプレアイテム。
ぴんくはデスク備え付けの回転椅子に座っているが、何故か格好はメイド服である。
「ちょっと下が足りないけど、私のサイズで入っちゃうのね。」
「正直胸足りないんじゃないかなーとか思ったけど、よく考えたらぴんくちゃーんもなっかなかの
おっぱい星人だったアル♪」
プロフィール上では、ぴんくとフォルティナのスリーサイズは非常に酷似している。
大きく違うのは身長である。
フォルティナのほうがぴんくより10センチ程高い。
実はモデル体系だということを本人はいざ知らず。
「しかし何もない部屋だと思ってたらんっふっふ…」
お宝を発見した盗賊のような顔で、フォルティナは両腕を天井に掲げて二つ拳を作って叫ぶ。
「楽しいアルよー!」
事の成り行きは、フォルティナがPCを操作している時のこと。
急に、ぴんくの普段着はどんなの持ってるの?という疑問が始まりだった。
『洋服どこかしらん?このクローゼットかにゃ?』
『あ、そこは……。』
ぴんくの言葉も聞かないまま、クローゼットを開く。そこには……。
『………。』
『ご主人様の秘蔵グッズが…別に見ても構わないけど、つまんないとおもうよ?』
『……これのどこがツマラナイのかしら…♪(じゅるり』
『何で涎垂らしてるのよ。』
そこにあったのは、今現在ぴんくの部屋に散乱している"それら"である。
「まさかぴんくが…レイヤーだったなんてッ!ステキアル……♪」
「れ、レイヤー…?」
「ねね、今度一緒にイベントでよーよ!コスプレしてさ☆」
打って変ってテンションが急上昇したフォルティナに再び押され気味のぴんくは
戸惑った表情を見せた。
「えと…その…。」
そもそもコスプレって何?レイヤーって何?なぴんくには全く話が見えていないのだ。
それにも気付かないフォルティナの興奮度はまさに今夜最高潮を迎えていた。
その時――
「ぴんくー、ゆかりー!ゴハンだってさー!」
ガチャっと開かれた扉から、ぴすたが顔を出した。
「あ。」
「え?」
絶妙ともいえるタイミングで、ぴすたとフォルティナの目が合う。
ぴすたから見た構図。椅子に座っている後姿のぴんくの両肩に、両手を添えて迫っているフォルティナ。
見るところから見れば如何にも接吻をしているように見える。ぱっと見なら、尚更。
「ちょっ…あなたたちななな何をしているのよッ!?」
そんな誤解を招いたとは知らず、狼狽するぴすたに疑問を抱く渦中の二人。
「し、しかも何でチャイナドレスとメイド服なのよッ!?」
交互に指を指される、給仕と中国娘。
「これは…あのね…。」
「何って、着せ替えっ娘ぷりーず?」
へらへらとフォルティナがおどけてみせる。
「うっ……わ、私は何も見てないわッ!もう二人でゆっくり×××してらっしゃい!!」
見ているぴすたが先に羞恥の限界に達したか、思わず扉を閉めようとする。
「どしたん~?さっきから大声出して。」
そこに騒ぎを聞きつけたぷりかが見かねてやってきた。
「うふふ…桃源郷はこの扉の先ですわよ…うふふ……。」
ぴすたの言葉に"?"マークをいくつも浮かべながら桃源郷の入り口に手をかけるぷりか。
「やぁ、ようこそ桃源ハウスへ。」
「わ、二人ともどしたん?えらいかわいいの着てるなぁ。」
割と落ち着いたリアクションを取るぷりかも加わって、ようやく事態は収束した。
廊下でぶつぶつうるさいぴすたは、
「うふふ…どっちが責めるのか楽しみですわ…」
などという独り言と共に、終始独自の世界に入り込んでいる様子だったが。

「じゃじゃーんっ!!完成ー♪」
PCのモニタに向き合い、マウスをカチッと押して、暫く無言でモニタとにらめっこしていた
フォルティナが、遂に口を開いた。
その一声に、ぴんく(給仕)と彼女の―フォルティナ曰く―『着せ替えっ娘ぷりーず』
に巻き込まれたぴすた(ミニスカポリス)とぷりか(ナース)がデスクに集まる。
「へぇーこれが『うぇぶろく』っていうやつね?」
「イエス、その通りよ心の友!」
いつの間にかフォルティナの"心の友"にされたぴんくは興味津々に画面を覗き込んでいる。
「あは、これ今日のスタジオやん!こっちは楽屋?」
「そうそう。でなまらおいしい水とー、さっき撮ったぴんくとツーショット♪」
「あはは、ぴんくえらいカオしとるよ!」
ぷりかはブログの楽しみ方がわかっている様子で添付されている画像を楽しむ。
「ブログかぁー。私もやってみたいと思ってたのよねぇ。」
「ぴすたもやるの?作ったら絶対ゆかりのブログにリンクを貼るんだぞ☆」
「でもやり方があまりわからなくて…。」
「なぁんだ、簡単だよ。教えてあげようか?」
Ptrisの3人はそれほどPC等機械の知識に詳しくない。
ぴすたも例外ではなく、その提案は大いに助かるわと、躍起になる。
「ええなー。うちもブログはじめたいわぁ。」
ぷりかが羨望の眼差しを向ける。興味があったのはぴすただけではなかったようだ。
「あら、ぷりかはブログの作り方とか知らないの?」
「やー…なんかうちだけはじめるのも申し訳ないなぁおもて。」
「それなら言ってくれれば良かったのに。」
「だったらこうしましょう。」
ぴすたとぷりかのやり取りに、ぴんくも興味を示したのか、二人に思わぬ提案をするのであった。



「私たち3人で、ブログをやるのはどうかしら?」





【その男、舞い戻る】

深い眠りに落ちた住宅街を走る、一台のタクシーの姿があった。
そこから降りてきた男は、大きなキャリーバッグを片手に、去り行く車体を暫く見送っていた。
「………。」
男が向き直った先にあるのは、一戸建てのとある住宅。
表札の書かれた門の前で立ち止まると、ためらいも無く傍のインターホンを押す。
「懐かしいですねぇ、この音。」
そんなことをしみじみと感じていると、間もなくインターホンから声が洩れた。
『…はい。』
聞えてきたのは女性の声。
「私です、マダム。」
男は答えた。
『私ですと言われて誰だか判ればいちいちインターホンで訊きゃしないんだよ。
こんな時間に尋ねて来るとはとんだ非常識だね、あんた。』
確かに非常識ではある。しかしこの男は知っていたのだ。
この時間でも、この家の住民は誰かが必ず起きているということを。
「よく言われますよ。相変わらずですね、ナユタさん。」
『あたしの名前を知ってて尚、こんな時間に人様の家のインターホン鳴らすイカレポンチで
だいたい誰だかわかったが、名乗り出るまで玄関を開けることは出来ないね。』
インターホンの向こう側は、なかなかの肝いりぶりを発揮している。
仕方ない、といった苦笑を残した後、男は正直に名乗り出ることにする。
「……才門寺、ナナキ。」
『…いいだろう。玄関まであたしが直々に出迎えに行ってあげるよ。』
そこでインターホンからの声は途絶えた。
「………。」
男が取っ手を掴んで門を押すと、キィ、という音がして奥に開いた。
手入れされた庭、その石段を歩いていくと、家の玄関はすぐそこにあった。
男がそこにたどり着くと同時にガチャ、と鍵の開く音がして、重厚感のある扉は開かれた。
出てきたのは、一人の女性だった。
やや歳を召しているように窺えるが、それでも見た目はずっと若く見える。
そして体のスタイルはそれ以上に若く見て取れる。
…下着姿でウエストラインから何までが丸出しだからよくわかる。
「確かに今日やってくることは聞いていたけどね、早すぎると思わないか?」
「今日は今日ですから。早いことに越したことはないでしょう?」
「ほんっと、その減らず口もガキの頃から変わんないね。まぁ上がったらどうだい。」
男の顔を見るなり、家の中に招きいれる、半裸の女性。
男は素直に家の中に吸い込まれるようにして足を踏み入れた。

リビングに招かれたナナキは、ゆったりとしたソファに腰掛けていた。
「しかしまぁ、久々の帰郷がこんな時間じゃぁ誰も起きてないだろう。」
台所の方から、ナユタが声を上げた。
「…灰皿ありますか?」
その問に答えることもなく、ナナキはスーツの胸ポケットからジッポを取り出す。
口には既に巻き物を咥えて、火を点けようとしたその時であった。
「ウチは禁煙だよ。」
「……Oh」
どういうことだ、と言いたげな顔をナユタに向けながら、ジッポをもとの場所に戻した。
「ご主人、吸っていませんでしたか?」
「吸ってたけど、やめたねぇ。去年肺を患ってもうおいしく吸えないとか言い始めてさ。」
「そうですか。」
……10年という月日のなか、変わらないものあれば、変わらないものありき。
そう考えるナナキは、少し感傷的な表情を浮かべる。
「あんたは随分変わっちまったね。仕事先で会うことがなかったら、今日この日に再会したとして、
はたして憶えていたかどうか…怪しいくらいだよ。」
ナユタがリビングに戻ってくる。
手にしているのは、空のコーヒーカップだった。
ナナキの座るソファの前、テーブルにそれを置いた。
「………なんですかこれは?」
「欲しけりゃ自分で淹れな。悪いけどもうあたしは仕事で出かけるんだ。」
言いながら慌しく準備を始めるナユタ。いつの間にかスーツがばっちり決まっている。
「……相変わらず忙しそうですねぇ。」
お早い出勤で、ご苦労様ですとでも言うかのような苦笑を混ぜて、ナナキはその姿を見送る。
リビングと玄関を繋ぐ廊下への扉の前、棚に無造作に置いてあった車のキーを手に掴み、
ナユタは小さめのバッグの中身を確認する。
「そんじゃ、あたしはもう出るが、言っておきたいことは二つ。」
振り向きナナキの姿をじっと見据える。
「あんたの"勘"が正しけりゃ間違いなくイブリは病を患っている。…仮にそうだとしても、
あの娘の意思を尊重すること。いいね!」
「……わかっていますよ。」
「それともう一つ……。」
「?」
「ウチの"娘"はいつでもあんたにくれてやってもいいけど、正式な挨拶があるまでは
認める気はない。せいぜい避妊して楽しむこった。」
「?…は、はぁ。」
見当違いな言伝に、拍子抜けするナナキ。
そんなことはお構いなく、いつになくナユタの声には真剣さがあった。
そのまま振り向くと、リビングのドアを閉めて、さっさと出て行ってしまった。
「……???」
そして車のエンジン音が遠ざかるまで、ナナキはその場に固まっているのであった。
「いや、そんなことを真顔で言われてもなぁ…。」
何を勘違いしているのであろうか。
そう思いながら、ナユタの残していったコーヒーカップに目を落としては、苦笑い。
小さく溜息をつきながら、カップを持って、ナナキは立ち上がるのであった。


「とりあえず、コーヒーでも淹れますかね。」


夜も更けては去り際の、薄暗い光が差す部屋は、コーヒーの香りに支配された。






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 こっからはおまけだよ!のコーナー



【パロネタ裏事情】

プロローグだけで700行近い行数を費やして何やってんだろうという状態な本作品。
その中には様々なパロネタが存在しております。貴方はいくつ見つけられたでしょうか?
それらを一つ一つ考察してゆくコーナー、パロネタ裏事情の時間です。


◇アイドルミュージックアワー

どう考えてもMステしかないよね、これ。
"お馴染みサングラスをかけてスーツを着たオールバックの男と女子アナの司会" (本文より)
Mステ臭を更に助長。すごく・・・モリタです…。


◇堕落才女マジカルモラトリアム

語呂はなのはとしか思えないこの作品。一体どんなアニメなんだろうと自分でも疑問に思う。
"堕落才女"の方は「地獄少女」のOPだかEDだかを東方キャラでパロディ化したMADからもらった。
ニコ動から見に行けます。詳しくは「堕落少女」でggrとわかるよ。

折角だから、幾つかストーリーの大まかな原案を考えてみました。


[原案1]

才能のある魔法少女である主人公。そんな彼女はゲーオタの引きこもり(自称)美少女!
なんか外で見たことない巨大生物とかたまに暴れているけど、そんなことは気にせず今日も
ネットゲーで狩り放題!掲示板で釣り放題!!ニヒニヒ動画(SP)見放題!!!
働きたくない動きたくない外に出たくない!そんな彼女が持ってる魔法で、今日もネット犯罪、
チート使用者に容赦のない鉄槌を下す!気に入らなければ即迫害!
それが今日のネット界のオキテよっ!さぁこの厨どもが、かかってらっしゃい!
現代のネット社会について考える、史上最凶最悪カオスフルアニメーション。


[原案2]

才能ある魔法少女として生きる主人公は、極度の人見知りで家から一歩も出れない引きこもり。
夕方過ぎまでまた寝ては、今日もよく寝た飯がうまい状態!
しかしそんな彼女には、とある秘密があったのだ!
夢に巣くうといわれる、人智の力で撃退不可能とされている悪夢霊。
人の夢に巣くいはじめれば、たちまちその人間の魂が枯れるまで夢で呪うと言う。
主人公には、その悪夢霊を撃退する"魔法"があった。あるとき彼女は、睡眠中に、
無意識に他人の夢の中に潜入するという魔法「ナイトメアシフト」を発動させてしまう。
恐ろしい才能の持ち主である。それはそれとして、どうするんだこの状況!
これは現代に潜む病巣に立ち向かい、人知れず夜中を彷徨う、NEET魔法少女の物語――


[原案3]

人々は、歯車となってしまった、忙しく時を刻む現代の社会。
働く機械と化した人々。時に無理を募らせて、消えていく命のなんと儚きことか。
このままではいけない。未熟な歯車は、すぐに音を立てて割れてしまうものだ。
"強制的に休暇を作る"能力を持つ(自称)美少女である主人公は、働き口を見出せない
将来に夢を抱くワーキングプア。
人を堕落させてしまうこんな能力なんて、何の役に立つはずもない。
そう思っていた彼女の人生は今、一通の電子メールで劇的に変わる!
最近、働きすぎで疲れていませんか?そんな貴方に贈る、ハートフルストーリー。


なんという駄作の予感…


◇怠惰の果実

紫山フォルティナがリリースした、堕落才女マジカルモラトリアムのOPテーマソング。
表題は真夏の果実からもってきた…わけではないです。後から気付いたまったくの偶然。
曲調は椎名林檎っぽい?感じなのかなと思いますが、どうなんでしょうか。
あるいは鎌倉圭の女体マーケットとか、歌詞も曲調もイメージにぴったりなんですがねぇ。


◇Ptris

特にパロでもなんでもなく、私のなけなしのオリジナリティからひねり出した名前。
ぴんく、ぴすた、ぷりか、三人とも頭文字がPだったこと、ユニットが三人組だったこと。
そっから様々な候補を挙げていき最後まで生き残った候補がこいつでした。
他に何があったって?もうね、センスなさ過ぎでここじゃ言えない……


◇SweetPink

Ptrisデビューシングル。
センスがなさ過ぎた名前の一例。名前考えるのがめんどくさかったのはただの言い訳。


◇げんきげんきのポーズ

イブリの十八番。やらせたら可愛いかなと思った。病院には行かない。ほっといてくれ。
「みんなも一緒にやってみようよ。顔の前に拳を突き出し肘を曲げてガードのポーズ。
そのまま真下に拳を下ろすように、はい!げんき、げんき!」


◇ミックスオレ、サイコソーダ、おいしい水

いわずと知れた本家から。正直ミックスオレのほうが安くね?とか言ってぐいぐい飲ませていたら
ポケモンたちがぶくぶく太ったって言うオチの4コマ漫画をいまでも憶えている。
なまらがつくととてもおいしいとか。ちなみに硬水はダイエット効果があるとかないとか。
テンガン山は、ダイパの舞台になっているシンオウ地方中央にある山。
初代で止まってる人には正直何のことだかわからなかったと思う。


◇いただきまーすらお

…メシがまずくなるからやめようか。


◇ご萌死戦隊モエルンジャー

一体どんな戦隊だろうか。というか戦隊モノに何が起きたのか。
さらに私は戦隊モノは全然知らない。いうまでもないけど貶すつもりはこれっぽっちもないよ。


◇着せ替えっ娘ぷりーず

個人的には一世を風靡したと思っている、ポケモンカードゲームのアレ。
レイモンドは一体何処に……?


◇桃源ハウス

うん、パクリなんだ、すまない(´・ω・`)


◇才門寺

才門姓は、北海道の方に何世帯かいらっしゃるそうです。
しかし調べた限りでは才門寺という姓の方は確認しておりません。
ツールボックス

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