5スレ>>602-1

「…はぁっ…はぁっ…」

ミュウツーの入ったマスターボールは、数メートルもいかないうちに転がるのをやめた。
…ぴくりとも動かない。…本当に捕まえられたのか。

「…やったか」

その声を絞り出した瞬間に、俺の体から力が抜けた。
…情けないことに、安堵で思わずへたりこんでしまっている。…まぁ、仕方ないといえばしかたないか。

(…いや、終わってない)

力の抜け切った足を無理やり動かして立ち上がり、そのまま暗闇に覆われた施設の奥に歩いて行く。
…ミュウツーのボールは無視した。何かが起きそうな気がして触れるのが怖かったし、
何よりも一刻も早くみんなを助け出したかったからだ。






20メートルほど先にいったところに、大きなボックスのようなものがあった。制御盤などがとりつけられ、
ボール射出口らしきものも存在する。まず間違いなく、こいつが皆をとらえたボールの出所だろう。

「…動かせるのか、これ」

制御盤に触れてみるが、何やら青いスクリーンが映し出されるだけ。
…キーボードを叩いても意味がない。…こりゃシステムがイカれてるのか?

(…ミュウツーが念力でいじりまわしたからだろうなぁ…仕方ないか)

中にどのような被害が及ぶかわからないから、やりたくはなかったんだが…
俺は鞄から電流放射機能つきのスタンロッドを取り出して、思い切り振りあげ―――








ぞわり。

「……………!!」

言いようのない悪寒が、背筋をほとばしった。
ぺたり、ぺたりという裸足の人間のような足音が、背後から聞こえてくる。

(嘘だろ終わったのに嘘だうそのはずだそんなわけがないそんな訳が――!!)

だが。
振り返った俺が見たのは、紫の瞳とぼんやりと輝く白い身体―――まごうことなき、ミュウツーそのものだった。







「がっ!!」

軽く10メートルは飛ばされ、壁際の機器に叩きつけられた。
口の中で塩の味がする。…どうやら、顔をぶつけた際に切ってしまったらしい。

手で触れて外傷確認。…あちこちぶつけているが、どれも重症ではない。
身体を起こす。…真正面にいたミュウツーの目と、俺の目が睨み合う。

(このまま壁伝いにさっきの機械のところまで走って、それを破壊してボールを回収…)

…まず無理だ。その前にミュウツーの念力が俺をとらえて首をへし折る。
説得なんてできるはずもないだろう。…完全に手詰まり。

(ここまでか…?)

…目を閉じようかと思ったが、開けておいた。たとえ殺されても、
出来るなら相手を睨みつけたままでというくだらないプライド。…だが。




暖かい風が顔を後ろから撫でていった、と感じた瞬間に。
ミュウツーと俺の間で、突如何かが燃え上がった。

ばさり、と炎の翼がはためく。

「遅れて申し訳ありません、マスター」
「…いや、助かった」

ファイヤーは眼前の敵を睨みつけたまま、背後の俺をかばうように移動した。

「…首尾は?」
「大丈夫です。…もう来ますわ」

次の瞬間、ファイヤーの左右に青と黄の光が奔り、形を成していく。

「コイツか、夜中にオレの安眠を妨げた電波の元凶は」
「……………」

三体の伝説の萌えもんである、ファイヤー・サンダー・フリーザー。
…さすがに並ぶと壮観だな。

「…ファイヤー、説得はできたのか?」
「思ったよりあっさり進みましたわ。…二人もあのノイズには少々怒っていたようですから」

…あれを少々で済ませるか。
だが、これなら対抗できるかもしれない。


俺が洞窟に入る時にファイヤーに頼んだのは、サンダーとフリーザーに連絡を取ってもらうことだった。
もし俺達で勝てないなら、さらに強い力を投入するしかない。そのために、ファイヤーに頼んだというわけだ。

…この三人、仲はあまりよくないようだが、それぞれが伝説…カントーを守るための存在としての義務感を持っている。
カントー全域の萌えもんに被害を及ぼすミュウツーの力に、黙っているはずはないと見積もったが…正解だった。

「すまないファイヤー、俺たちじゃ止められなかった…頼む。
 あいつを止めてくれ…どんな手段でも構わない」

正直、情けない。自分でケリをつけるなどと言っておいて、結局はファイヤーに頼るしかない。
…だが今は、それ以上にミュウツーを止めることが重要だ。


「…仰せのままに、マスター!
 行きますよ、サンダー、フリーザー!」
「オレに命令すんなっ!」
「…右に同じ…」

赤と青と黄。三色の光が散り、次の瞬間戦闘ははじまっていた。





俺はしばらく、三人の動きを観察していた。
敵味方ともに動きが複雑なうえ高速で見切ることは難しかったが、段々パターンが読めてきたのだ。

ファイヤーは高速で移動せず、遠距離から火炎放射で攻撃を繰り返している。
…よく見てみれば、俺とミュウツーの直線状からあまり離れないように動いているのだ。

反面サンダーは、中距離・近距離からの雷撃や突進で相手の目を引くように動いていた。
多少のダメージはモノともせずに、攻撃を繰り返して反撃をさせない。

そして、その二人の隙を完全にカバーしているのがフリーザーだ。
冷凍ビームは弾けても、ミュウツーの念のバリアは冷気そのものを遮断はできないらしい。
攻撃の合間にその特性をいかし、反撃を阻害して二人の被害を抑えている。

…正直、仲が悪いとはとても思えないチームワークだ。

だが、ミュウツーも全く引いてない。念のバリアは火炎放射・冷凍ビーム・電撃波を遮断し、
サイコウェーブで応戦している。テレポートで近接攻撃を回避するため、有効打も与えられない。

戦況は膠着状態…ちょっとしたきっかけでこの均衡が崩れて決着がつく。
だが…そんな危険な状況の中で、俺はこの極限の戦いに見惚れていた。



戦うためだけに作りだされた力と、すべての生命を守るための力のぶつかり合い。
それは世界の何よりも美しく、輝いて見えた。

焔(あか)と氷(あお)と雷(き)と冥(くろ)。

4色の光が煌めき、舞い踊るその様はまるで現代によみがえった神話か何かのようで。
見る者を惹きつけて離さない、危うさと美しさがあった。
この力の前では、俺はあまりにも無力でちっぽけな存在としか思えなくなるほどに。

(…でも)

無力は無意味ではない。
弱さは無価値ではない。
すべては強さではない。
そして何より―――

(人の業は…人が、俺がケリをつけるべきだ)

この手では暴走するミュウツーは止められない。…けれど。
そんな無力な手をとって、力となってくれる者がいる。
俺の無力さを知りながらも、信じて全てを預けてくれた奴もいる。
何もできないこの手を、俺のすべてを…愛してくれた奴がいる。

(だから…!!)

「フリーザー、足場を崩せ!ファイヤーは左上の電灯を焼き落とす!
 サンダーはタイミングを合わせて雷!上下から挟みうちにしてその上で攻撃!」

一瞬、三人の目が同時にこちらと、指示した場所を確認した。
…本当に、一瞬。それで充分だった。

ファイヤーの火炎が重い電灯を支えていたケーブルを焼き切るのと、
フリーザーの破壊光線がコンクリートの床を粉々に爆砕するのは同時。
即座に念力で浮き上がり、両手から発した力で電灯を弾こうとしたミュウツーを、超出力の雷撃が襲う!!

一瞬とも永遠とも思える時間、雷光が消え去り―――



――― ミュウツーが、堕ちた。

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最終更新:2008年10月07日 21:40
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