5スレ>>635-3


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 数時間も前の話。
 宿の受付にて。
 恰幅のよいひげの主人が、宿帳に俺たち三人の名前を記入しながらボソリと呟いた。

「あぁそうだ。この町はハロウィンが名物なんでな、旅人のところに来るかは知らんが、いくつか用意をしておいたほうがいいぞ」
「ハロウィン……? いつ行われるんですか?」
「今日だ。日付も知らんのか?」
「……ハロウィンってなじみ薄いですから」
「他所の町はそんなものか……。よし、これでいいか?」

 宿帳の名前を見せられる。
 俺、べとべたぁ、ふりぃざぁの三人分。
 それと……俺たち以外には二組泊まってるみたいだ。

「大丈夫です。一晩お世話になります」
「ほらよ、鍵だ。なくすんじゃねぇぞー」

 合鍵はねぇからな、はっはっはー。
 なんて豪快に笑う主人をスルーして、俺たちは荷物を下ろしに部屋へ向かう。

「お菓子の準備か……どうする?」
「たべるです!」
「だまるんだべとべたぁ」
「それなら自分に任せてくださいよぅ!」
「? わかった」

 普段が普段なだけに、なぜか物凄く頼りになりそうだ。
 





「ここです」

 ジャック・オ・ランタンを頭にかぶった紫の少女が一人、部屋の前に立っていた。
 一説にはヘドロから生まれたとも言われる萌えもん、ベトベターだ。
 ベトベターは戸の脇にあるべき呼び鈴を、キョロキョロと可愛らしく首を振って探していたが、存在しないと言う結論に達すると、

 コンコン

 戸を二、三度ノックした。
 部屋の中からは、気の弱そうな返事が一度返り、軽い足音が戸の傍へ向かってくる。
 足音を耳にして、いよいよ待ちきれなくなったのか、ベトベターは体を震わせ、一つの呪文を小さく繰り返した。
 とり、くお、あとりーと。とり、くお、あとりーと。
 足音が止み、ノブがカチャリと回った。

「はい……?」

 戸から小さく首だけをひょこりと出して、部屋の主は客の姿を探す。
 やや濁った水色。大きな耳。ズバット、萌えもんである。
 顔が左右に動くたび揺れる前髪から、赤い瞳が紫の少女を捉えた。
 かぼちゃを頭にかぶった奇異な姿に一度目を見開き、硬直するが、すぐに理由に思いついたか、表情を崩す。

「とり、くお、あとりーと!」
「あ、ああああのっ。ちょっとまっていてくださいっ」

 戸を半開きにしたまま、ズバットはますたー、お菓子をっ、と慌てて部屋の奥に戻っていった。
 ものの十秒ほどで、玄関に舞い戻ってきて、

「ハッピーハロウィンです」

 大事そうに胸に抱いていた、やや大きめの包みをベトベターに優しく手渡した。
 その大きさに比例して、ベトベターのお礼の声も大きくなる。

「あ、ありがとうですっ!」

 包みを高く掲げて楽しそうに跳ねて去っていく背中を、控えめな笑顔が見送っていた。





「つぎはここです」

 ベトベターが立っているのはもう一組の滞在している部屋の前。
 こちらにもやはり呼び鈴はついておらず、先と同様にこつこつと戸を叩いた。

「……」

 しかし。

「……」

 返事も物音も返ってこない。

「るすですか……?」

 数度ノックを繰り返したが、結果は同じ。
 しょんぼりとした様子が見てすぐにとれるほど肩をガクリとおろして、自分の部屋に戻っていった。





「おーい、ふりぃざぁ。俺だ。開けてくれ」
「オレオレ詐欺ですねっ そんな手にはひっかかりませんよぅ」
「てめぇマスタードかわさびか直接突っ込まれたいかおい」
「ひぃぃぃぃっ」

 べとべたぁと別れてすぐ、俺は自分の部屋へ戻ってきた。
 が、体中荷物だらけで扉を開くことが出来ず、中にいるはずのふりぃざぁに頼っていた次第である。
 がちゃり。
 脅しの一言にはどうにも弱いようで、すぐに扉が開き、ビクビクと体を震わせながら、ふりぃざぁが現れた。
 ……。

「なぁ……」
「は、はいっ マスタードかわさびと言われれば……マスタードでおねがいしますっ」
「……」

 やっぱりおかしい。
 ギアが一個回りすぎているような。

「どーした。なにかあったか」
「……」
「べとべたぁならお前の変化に敏感なんだけどな……」

 これは事実であり、そして、ベトベタースキーのふりぃざぁへの脅しでもある。
 ぴくりと肩を上げ、ぽつぽつと訳を話し始めた。

「用意してたんですよぅ……」
「かぼちゃのアレか」
「それと……」
「?」
「来客用のお菓子もです……」
「あ……あー……」
「ランタンといっしょに準備をしてたんです」

 半分ほど理解した。
 ベトベタースキーであり、子供スキーであるふりぃざぁ。
 ハロウィンがマイナー行事のこの国であったとしても、それは彼女にとって大事な行事なのだろう。
 この町に来ることを提案したのも、よくよく思い出せばコイツだった気もする。
 だから……。

「見てください……この悲しい包みたちを」
「うわ……」

 テーブルに並べられている包みの数は五十、いや百を越えているかもしれない。
 計画性と予見がないといってしまえば一言だが、逆に、それだけ期待していたともとれる。

「一つ、たった一つでも、誰かが貰いに来てくれれば……こんな気持ちにならずに済んだんです」
「一つも売れてないのか……」

 それは相当大きなショックだと推察するのに難しくない。
 俺だって、似たような経験くらいある。
 ただ、それが生き甲斐に近いか近くないか、それだけの差で。
 勿論ふりぃざぁにとってのこのハロウィンは前者だったのだ。

「……どうしましょう。捨てちゃいましょうか」

 果てに自嘲気味。
 全く。
 全くもって鬱陶しいヤツだ。

「おい……これ持ってけ」
「……?」

 荷物を全部、わけがわからないという表情のふりぃざぁに押し付けた。
 廊下まで足を進めていたが、くるりとターンして外へ。
 静かに戸を閉める。

「ふぅ……」

 戸に背を預け一息。
 やるべきことは決まった。
 もう一度だけ大きく息をつき、扉から一、二歩離れた場所に立つ。
 ……よし。
 理由のわからない怒りのような力強さを抑えて、落ち着いたノックを数回。

「はいぃ……?」

 戸が開く。
 ふりぃざぁは若干でも、まだ子供たちが来ることを期待していたか、俺の顔を見て溜息をついた。
 ……さぁて。
 俺は呪文を唱えた。

「Trick or Treat ?」

 ぽかん、と口を半開きに、ふりぃざぁは硬直する。
 そのまま五秒経ち、十秒経ち……。
 埒が明かないので、頭にコツンと軽く拳骨を当てて、

「菓子くれないと悪戯するぞ?」
「あ……。は、はいっ」

 ち。
 どうせなら悪戯してやりたかったんだが……。
 表情をぐるぐると変え、最後に光ったふりぃざぁの笑顔を見たらそんな気も失せた。
 大慌てで部屋から包みを一つ抱えてきて、

「は、はっぴーはろうぃんですよぅっ!!」

 菓子を渡すのも忘れて飛びついてきた。
 あーはいはいわかったからちかづかないでねつめたいから。
 はなれてと いえないこころ おとこごころ
 ……願わくば、べとべたぁには見られないように。
 恥ずかしすぎる。

「ありがとうですよぅ……ありがとうですよぅ……」

 ほんっと、別行動とっててよかった。

「……」

 だが。
 俺が気付かなかっただけで。
 一軒分早く済んでいたべとべたぁは、俺たちを目撃していた。





「残りはどうするおつもりでふりぃざぁ殿」

 べとべたぁも戻ってきて、とりあえずはふりぃざぁの用意したお菓子をどうするかについて話をしていた。

「だからわたしがたべるとなんどもいってるですっ!!!」
「お前は貰った分でぶくぶく太れるほどあるだろうが。勿論三人分だから俺とふりぃざぁにも余裕はない」
「えぇと……どうしましょう……」

 さっきはいえなかったが今は言うぞ。いいよな? いいよな?

「世間離れしてたんだからお前はもっと計画性を持てよ!」

 あーすっきりした。

「で、こいつはいつ頃まで保ちそうなんだ?」
「明日一杯です……はい……」
「わたしg(ry」

 捨てるしかないか……。
 諦めの結論を下そうとしたそのときだった。

「話は聞かせてもらった!」
「まってニーノ! 勝手にお邪魔しちゃ駄目だよ!」

 玄関から怪しげな二人組登場。
 こいつらは図鑑で調べなくても分かるぞ。
 ばばんと胸を張って登場したのがニドリーノ。
 その後ろから様子を窺いつつ現れたのがユンゲラー。

「ポリ呼んでいい?」
「ダメ」

 否定の切捨ては以外にも気の弱そうなユンゲラーが放った。

「そこにあるお菓子が処分しきれないと聞いた! 間違いないなっ!」
「はいぃ……」
「だからわたs(ry」

 べとべたぁはさっきから何かムキになってないか……?

「じゃあ俺がそれを全部引き取るぜ!」
「ニーノ……もうちょっと落ち着いて……」
「ユンは黙って見てろって、な?」

 こいつら誰の萌えもんだ……。
 監督不届きで補導されるぞ……。

「勿論ただとは言わない! 金ならちゃんと用意してある!」
「いや、金はいい。貰ってくれるなら持っていってくれ」
「いいの……?」
「当たり前だ。腐らせるくらいなら誰かが貰ったほうがコイツも喜ぶさ」
「はいっ」

 こうして、俺達の目下のところの問題は解決となった。
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