5スレ>>655-1


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12月25日、夜―――

僕は待ち合わせ場所へ急いでいた。
雪のせいで電車が止まり、会社から帰るのに時間がかかったのだ。

走る。
雪を踏み分けて走る。
凍った路面、何度も転びそうになった。
走る。待ち人が見えてきた。
「オニドリル、遅くなってごめん!」
謝るが、彼女はご機嫌斜めな様子。
あぁ睨んでるよ僕を睨んでるよ。
「いや雪で電車が止まってさ……ホントごめんって」
彼女は顔を背けてしまう。弱ったなぁ……
と、急に振り向いて笑顔を見せてくれた。
……言わなくても最初から分かっていたようだ。
なのに怒ったふりをしてみせて。意地が悪いというか可愛いというか。
「……怒ってない?」
彼女は頷き、僕の手を取った。
そして顔を寄せ、頬を当てる。
とても冷たい。
この寒空の下、一時間以上も待っていたのだから当然だろう。
「こんなに冷たくなって……本当にごめんな。早くどっか暖かい所へ行こうか」
彼女は頷きで答える。
どちらからともなく腕を組んで、僕たちは歩き出した。


喫茶店を見つけて入る。
温かいものも飲めるし丁度いいだろう。
「んー、僕はこれにしようかな。君は?」
オニドリルがメニューを指差す。
「ん、これだね?」
頷きを確認してから注文する。

その後は運ばれてきたコーヒーを飲みながら、他愛もない話をして過ごした。
「相変わらず砂糖いっぱい入れるねぇ。それなら無理してコーヒー飲まなくても…」
いいの! と言わんばかりに、頬を膨らせてむくれる。
「太るよー?」
軽く小突かれた。やっぱり女の子にこの話はタブーかい?
「別に紅茶とかでも……あ、ひょっとして僕と同じのがいいとか」
彼女は答えず、目線をそらす。微かに顔が紅潮しているのは気のせいか。

僕らが話をするときは、喋るのは一方的に僕のほうだ。
彼女は表情や頷き、手の動きなどで応える。
そう、彼女は言葉を発することができない。
不便だと思う人もいるだろう。僕らの関係を心配する人もいるだろう。
だけど僕たちは、別に何とも思わない。
長年の付き合いだ。言葉にせずともある程度のことは分かる。
それに何より、一緒にいるだけで十分に幸せなのだ。



彼女と出会ったのはもうずっと前、僕が小さい頃のことだ。
散歩中に出会ったオニスズメの少女。
とても好奇心旺盛な子だった。
草むらを飛び出し、街のすぐ近くまで来ていた。
そして僕を見るや、恐れも威嚇もせず無邪気に話しかけてきたのだ。
とても明るい子だった。内気な僕には、彼女がとてもまぶしく見えた。

すぐに僕らは友達になった。
待ち合わせは決まって同じ場所。出会ったあの場所、街外れ。
一緒に色々なことをした。
家からお菓子を持ち出して一緒に食べた。
僕が知ってる遊びを言うと、目を輝かせてやりたがった。
街の中を案内してあげたこともあった。
僕たちは毎日のように二人で遊んだ。

だけど母はそれが気に入らなかったようだ。僕の母は萌えもんが嫌いだった。
その頃は分からなかったが、父が自身の萌えもんと仲良くしているのを見て嫉妬していたようだ。
毎日遊んでいたから、徐々に成績が下がってきたというのもある。
そんな理由から、もう彼女と一緒に遊ばないよう言われた。

でもそんなことには構わず、僕たちは会い続けた。
もともと親しい友達はいなかったし、なにより彼女と過ごす時間が一番楽しかった。
ずっと一緒にいようね、と言った。
ずっと一緒にいられると信じてた。
しかしそんなある日、あの事件が起こった。

その日も遊びに行こうとすると、母に呼び止められ、隣町までのおつかいを頼まれた。
僕は快諾して出かけた。母は凶器を持ち出かけた。
僕は「寄り道しないで帰ってくるのよ」との言葉を忘れ、いつもの場所へと向かう。
しかし彼女がいない。
たまにこんなこともある。どちらかが遅れると、こっそり隠れて待っているのだ。
その日もいつもと同じ、かくれんぼだと思った。
「見ーっけた!」
草むらの中にいた彼女。大量の血を吐いて倒れていた。
何があったのか分からなかった。
そこからの記憶はおぼろげで、気がついたら家にいた。
話では、通りかかったトレーナーに付き添われ、萌えもんセンターに彼女を預けたらしい。
とにかく、僕たちは離れ離れになった。


それからは最悪だった。
証拠こそないが、僕は母がやったのを確信していた。
僕と母の仲は悪くなり、やがて口もきかなくなった。
空気を読めない父に腹が立った。父とも口をきかなくなった。
待ち合わせ場所へ行くことも無くなった。

中学を卒業する頃には、僕はもう立派な不良になっていた。
喧嘩は日常的だったし、原チャリの無免許運転もよくやった。
警察にしょっぴかれたことも何度かある。
両親はとっくに愛想をつかし、縁などあって無いようなものだった。
そう、あの日も喧嘩をしていた。
いつもと違ったのは、相手が萌えもんを持ち出してきたことだ。
人間同士の喧嘩に萌えもんを使うなどもちろん犯罪だ。
だが不良同士が喧嘩しているその場に、都合よく警察がいるわけもない。
ただの一撃で、何人もまとめて吹っ飛ばされた。
そこにオニドリルが飛んできて、僕を庇うように立ちはだかる。
そして相手の萌えもんを倒してしまう。
逃げ出す相手。彼女は追わずこちらを向き、僕の手をとって引っ張っていった。
行き着いたのは思い出の場所。毎日通った街外れ。
数年ぶりの再会だった。


そして彼女に何があったのかを知った。
僕がおつかいに行っている間に、母は待ち合わせ場所へ行き彼女を襲ったのだ。
優しく話しかけ、近づいたところを捕まえる。そして舌を切った。
哀れな舌切り雀は、痛みにのたうちながら死んでいくはずだった。
だが彼女は生き延びる。皮肉にも加害者の息子の手によって。
快復した彼女がまず向かった場所は、あの待ち合わせ場所だったそうだ。
その後は陰から僕のことをずっと見守っていたのだと彼女は言った。
徐々に荒んでいく僕の姿は、とても悲しかったとも……

僕はすぐに荷物をまとめ家を出た。彼女と一緒に暮らすために。
母のせいで言葉を失った彼女を、僕が支えてあげようと思った。
支えられることのほうがずっと多かったけれど。
数年ぶりに会った彼女は、とても強く、そして優しくなっていた。
まだ未熟な僕のことを、物心両面で支えてくれた。
辛いことがあった日には、昔と変わらぬ彼女の明るさが胸に沁みた。
大変なことも多かったけど、二人で力を合わせて乗り越えてきた。



そうだ。
遥か昔の約束。
改めて君にそれを伝えよう。

「そろそろ行こうか」
彼女の手を取り、店を出る。
向かう先は街の中心。
大きな木に煌めくイルミネーションの輝き。
多くの恋人たちが集う、この街で最高のデートスポットだ。

「ねぇオニドリル、昔の約束を憶えてるかい?」
彼女は頷いた。
「あの時は結局守れなかった……すぐに家を出る勇気も無かったしね」
彼女は首を横に振る。
いま一緒にいられるんだからそれでいい、そういうことだろう。
「ありがとう。でも僕は、僕の気持ちとしては……守れなかったんだ」
悲しい目をする彼女。
「でも今は違う。今なら、今度こそは守ってみせる!」
恥ずかしい。勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。
「改めて誓おう、君とずっと一緒にいることを。……今度こそ離さない、絶対ずっと傍にいる」
言い切った。
彼女は瞳に涙を浮かべ、そっと寄りかかってくる。
肩に手を回し、抱きしめた。
……言葉がなくとも、気持ちは通じ合う。

しばらくの後、そっと彼女を引き離し、僕は彼女の手を取った。
約束の証を取り出す。それは給料三か月分。
左手の薬指に嵌めてやる。
彼女は呆然とし……顔を赤くし、涙を浮かべ、抱きついてきた。
まったく、本当に表情豊かな子だよ。思わず頬が緩む。
「メリークリスマス、オニドリル」
彼女の返事は、今まで見た中でも一番幸せそうな愛らしい微笑。
僕らはそっと口付けを交わした。
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