5スレ>>661

「あーっ、ちくしょー!!」

夜のタマムシシティの雑踏で、虚しい声を上げたのは一人のトレーナー。

「それはこっちのセリフだ!!何でクリスマスに野郎と二人で街歩かなきゃならねぇんだ!
!!!」

応じて叫んだのはオスのリザードン。そう、今日はクリスマス(イブ)である。

トレーナー「敢えて答えてやるよ!!それはオレがモテない男で、お前はオレの手持ち萌え
もんだからだ!!ぐあぁ、大体オスで萌えもんって何だ!?燃えもんの変換ミスか!?!?
こんなの詐欺だぁぁぁぁ!!!!」

リザードン「あっ、てめぇ!!ついに言っちゃいけねぇこと言いやがったな!?それでどれ
だけオス萌えもんが冷遇されてるか……!!!!こちとら野郎のパートナーなんかごめんな
んだよ!!」

ト「(マサラでセーブ&リセットしてメス出しときゃよかった……)」

リ「聞こえてんぞ!?セーブ&リセットって何だ!?!?」

ト「くそぅ、一人くらいはメスを捕まえておくべきだった……」

リ「モンスターボール買う金を惜しんで、全財産をDVD・小説・グッズに注ぎ込んでたのは
どこのどいつだ!?」

ト「う、うるへー!!草むら歩いたって出てくるのは何故かほとんどオスだったじゃねぇか
!!たまにメスが出たって、そういうときはピンとこねぇ萌えもんだし!!!!それなら究
極に安定しているグッズに注ぎ込んだ方がいいじゃねぇか!!!!!!」

リ「それが言い訳か!?なぁ、お前はバカか!?!?何回かは『ピンと来て』たのに、いつ
もボールのストックがゼロだから捕まえられなかったんじゃねぇかよ!!!!それで何回後
悔してたか思い出せよ!!!!」

ト「『もしかしたら使うかもしれない』ものより『今欲しい』ものを買っちまうのは逆らい
ようが無い本能だろうが!!!!」

リ「やっぱりお前はバカだ!!それに逆らえなかったから今日みたいなことになっちまった
んだろうが!!!!」

ト「そ、それを言うな!!クリスマスなんて、忘れたフリでもしてなきゃやってらんねぇだ
ろ!?」

リ「忘れたフリしてるからこうなるんだろうが!!……はぁ。お前とバカ話してるのも疲れ
た。ちょっと空飛んでくる」

ト「……まぁいいさ。勝手にしろ」

リザードンは飛んでどこかへ行ってしまった。

別にバカだからバカ話してたわけじゃない。気を紛らわせたかっただけだ。

ト「はぁ……一人、か」

これまでだってクリスマスは一人だったし、一人でいることは一向に構わないのだが。

ト「問題は場所だよな……」

やっぱり、浮ついた雰囲気の街に居るのは耐えられなかった。

ポケセンの駐輪場に行き、自転車に乗って。

オレは夜のサイクリングロードへ向かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

サイクリングロードは、タマムシ~セキチク間の海上を埋め立てて作られた、道路である。

川岸の堤防のようなつくりだが、舗装の脇には等間隔に照明灯があり、中央には川のように
長い池がある。

もともとは交通を考えて作られたのだろうが、外観も随分と凝っている。観光なども意識し
たのだろうか。疑問なのは何故橋にせずに埋め立てたのかだが、作者の妄想だとごみの増加
などやけにリアルな問題が絡んでしまいそうなので触れないでおきたい。

ともかく、オレはなんとか時間を潰すべくここにやってきた。

サイクリングロードに来たからには(しかもタマムシ側だ)、することは一つ。

ト「いーーーーーーーやっっっほうぅぅぅぅぅぅぅ(ry」

夜のサイクリングロードに奇声が響き渡る(ドップラー効果付きで)。



そして。

ト「はぁはぁ……戻らなきゃいけないのを忘れてた……」

行きはよいよい。勢いでセキチクまでいってしまい、すっかり真夜中になってから上りを行
くハメに。

ト「あ゛ー、う゛ー、一体何時間かかんだよ……ちくしょう、もういやだぁぁぁぁ」

酷い弱音を吐いて自転車を降り、池のそばに座りこんだ。

辺りを見る。人の気配は無い。真夜中だからか。いや、やっぱりクリスマスだからだろう。

はぁ、とため息。

今は、頬を刺すような冷たい空気が心地よかった。

しばらくそうしていて……

オレはふと、横を見た。

すると、恐ろしい速さで下ってくる赤い流星。

否、自転車に乗った赤い何か、だ。

そいつがオレの脇を通り過ぎる。

そのときだった。

―――ピシッ。

???「えっ!?ちょっ、のわあぁぁぁぁ!?!?」

派手な音を立てて、『何か』が転がる。

???「きゃぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

―――ザッパーン。

自転車ごとぶっ倒れ、『何か』は吹っ飛んで池に落ちた。

ト「…………はい?」

しばらく呆然と立ち尽くすしかなかった。

はっ、と我に返る。ああ、『何か』は池に落ちたんだ。

とりあえず数メートル先の事故現場に駆け寄る。

『何か』はまだ浮いてきていないようだった。

ト「おーい……。大丈夫ですかー…………。」

水面からは何も出てこない。

少し考えたが、結論が出るのは早かった。

オレは池に飛び込んだ。



池はそこまで深くはないが、それでも人(あるいは萌えもん)が溺れるには十分な深さがあ
った。

夜ということもあり、水中での視界はほぼゼロ。街灯のわずかな光と、周囲を探る手の先を
頼りに『何か』を探す。

もうそろそろ息がきつくなってきた頃、底の方を探る手に土でない柔らかい感触があった。

何を触ったのか分からないが、とりあえずその柔らかい『何か』を引き寄せ、水面に出た。

ト「はぁ、はぁ……なんだこれ、萌えもんか!?」

『何か』は、萌えもんだった。図鑑集めにあまり熱心でないオレは見たことがなかったが、
確かギャロップだったか。

ト「おーい、起きろー。」

とりあえず頬を軽く叩く。

起きない。

ト「こ……これは……。心臓マッサージやら人工呼吸やらをするパターンか!?」

正直やり方を良く覚えていない。

しかし、やらなければなるまい……と手を伸ばしかけた瞬間。

ギャロップ「けほっ、けほっ……ん?」

ギャロップが見たものは。

池のほとりに仰向けに寝かされている自分と。

脇に座り微妙な感じに手をこちらに向けるトレーナー。

ギャ「何すんのよ!!!!!!!!」

夜のサイクリングロードに、ビンタの音とトレーナーの断末魔が響いた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ト「うう……何故オレがこんな目に…………」

やられた頬がまだ痛む。

ギャロップはというと、

ギャ「うっわ、もう使い物になんないわね……サ イ ア ク」

自転車を見て毒づいていた。

自転車は、恐ろしいことにチェーンが切れていた。どうやったら切れるんだろう。まぁ、全
ての元凶はあのチェーンであることは間違いない。

爆走中にチェーンが切れ、切れたチェーンは後輪に絡まり、猛スピードで回っていた後輪は
アッチャッチャ。派手に転び、さらに運の悪いことに池に投げ出されてしまった、と。

ト「で、オレの説明信じてもらえた?」

ギャ「あんたがやましいことをしようとしてないって証拠が無いわ」

ト「命の恩人に対して言うことかよ」

ギャ「命助けた相手を襲う人に言われたくないわね」

ト「だから違うっつーの。……で、どうすんだよ。」

ギャ「何を?」

ト「こっから先を歩いて行くのか?そりゃ大変だねー、頑張って。それじゃオレは行くから」

ギャ「待ちなさい。」

ト「で、どうすんだよ」

ギャ「簡単な話よ。その自転車をよこしなさい。」

ト「冗談きついぜ。そんじゃな」

ギャ「だぁかぁらぁ、待てぇぇぇぇい!!」

ト「うぎゃぁ!?火炎放射は反則だぁぁぁぁぁ」

ギャ「うっさい。襲おうとしといてこんだけで済むんだからありがたいと思いなさい」

ト「違うって何度言えば分かるんだ。ったく、服が乾くどころか焦げちまったじゃねぇか……。」

ギャ「じゃあ何よ、やっぱり歩けっての?」

ト「んなことは言ってねぇだろ。……他にどうしようもねぇんなら、セキチクまで乗せてっ
てやるよ。」

ギャ「乗せてって何をしようとしてるのか分かったもんじゃないわね。」

ト「ああそうかい、仮にも命の恩人のオレが、アフターケアまで申し出てるのにそれでも変
質者扱いかよ。もういい、オレはタマムシに行くんだ。じゃあな。」

ギャ「あーもうさっさと行けばいいじゃない!!」

くそっ、なんて強情なんだ。

ムシャクシャして、オレは自転車を走らせた。



ト「………………」

本当においてきて良かったのだろうか。

よく考えれば、萌えもんが自転車に乗って移動するなんておかしい。

それに、いくら身体能力が高いとはいえ、あそこからセキチクまではかなりかかるだろう。

ト「……やっぱり放っておけねぇよなぁ」

これは自分のエゴだと分かっていても、戻らずにはいられなかった。



壊れた自転車を少し過ぎた辺り。彼女はトボトボと歩いていた。

ト「よう。ご機嫌いかが?」

ギャ「何?バカにしに戻ってきたの?さっさと消えて。」

まずったか。やっぱり戻ってくる必要なんて無かったのか……。

ト「いや、変質者扱いされたままじゃ気分が悪くてね。なんとなく。」

ギャ「バカでしょ。無駄足ご苦労様」

まずい、このままじゃほんとに無駄足だ……。

ト「本当は気になったんだ。萌えもんが、何故自転車に乗って隣町に行かなければいけなか
ったんだ?しかもこんな時間に?」

ギャ「あんたには関係無いでしょ。いいから帰ってよ。」

ト「ところがそうもいかないんだな。ゆとり教育によって偽善者精神を刷り込まれたオレは
、こんな風にあからさまにワケありな人を放ってはおけない。それに、まだ変質者発言を撤
回してもらってない」

ギャ「どこまでも自分勝手ね。あまりの最低さに閉口するわ」

ト「お褒めの言葉、ありがとう。まぁ、そういうことだ。後ろに乗れ」

ギャ「イヤよ」

ト「じゃあオレも一緒に歩こう」

ギャ「本当に変質者じゃない。他人のことに無理矢理首突っ込んで、オマケにストーカーま
でする気?」

ト「ああそうかい。そんなら言わせてもらうが、あんな『助けてオーラ』出しながらトボト
ボ下向いて歩いてたのはどこのどいつだよ。命の恩人に対して変質者とまで言うやつが、普
通あんな風に元気なく歩いたりするのかよ。逆に聞くぜ、そういうやつ見てお前は放ってお
けるのかよ。」

ギャ「……本当にどこまでも最低な人ね。ここまでしつこい人始めて見たわ。いいわよ、後
ろに乗ってあんたにセキチクまで送ってもらえばいいんでしょ?それで勘弁して頂戴」

ギャロップは渋々といった様子で自転車の荷台に座った。

オレは、自転車をこぎ始めた。

……これでよかったんだよな?

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最終更新:2009年01月25日 02:45
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