かち、かち、かち。
壁にかけた時計の秒針の音だけが、雪の降る中、マンションの俺の部屋を満たしている。
先ほどまでテレビを見ていたのだが、なんとなく嫌になって消してしまった。
だれもが浮かれる聖夜も、もうすぐ終わろうとしている。
こんな時に俺は一人部屋で何をしているのかというと…サンタクロースを待っていた。
かち、かち、かち。
10年ほど前のクリスマスも、俺はサンタクロースの正体を確かめようと待っていた気がする。
子供のころ、サンタがどんな人なのかと確かめたくて、ベッドの上で座ってずっと外を見ていた夜。
「…そういや、あの日も雪が降ってたっけ」
ごーん、と。
聖夜の終りを告げるベルが鳴った。
…俺は立ち上がり、冷蔵庫から4号のケーキを取り出す。
あの夜は、ただサンタクロースの正体を見るのも失礼かな、なんてわけのわからないことを考えて、
ケーキを二切れ失敬して机の上に置いて待っていたんだった。
…サンタと一緒に食べるつもりだった。
ぱた、ぱた、ぱた。
廊下から足音が聞こえる。鈴の音と重なるように、廊下を走り、俺の家の前で止まった。
ばたん、とドアが開く。
「め、メリークリスマス、マスター!」
頬を真っ赤にしたデリバードが、ドアを開けて駆け込んでくる。
おそらく、プレゼント配達の仕事を終えてずっとここまで走ってきたのだろう。
玄関で息を弾ませながら、不安そうな顔でこっちを見ている。
「…入らないの?」
「ご、ごめんなさい…ちゃんと夜には帰るって言ったのに、間に合わなくて…」
そう。デリバードは今日家を出る前、自信たっぷりに言って見せたのだ。
『ボクにかかれば、こんなの簡単ですよ!ちゃんと25日中に帰ってきますから、
家でのんびりまっててください!』
…と。
「…ご、ごめんなさい…ごめんなさ、ますた…」
「何言ってんだよ」
「…ふぇ?」
「デリバードは、ちゃんと約束を守ってる」
壁掛け時計が指しているのは、11時58分。
「この部屋はまだクリスマスだ。…ほら、泣かないで雪落として。
ケーキもツリーもちゃんとある」
「う、うぅ、うえぇぇ…」
「あー、もぉ…泣くなってば」
10年前の夜。
結局ベッドに倒れこんで眠った俺が目を覚ますと、プレゼントが置いてあった。
ずっと「萌えもんが欲しい」と願っていた俺への、モンスターボールのプレゼント。
その年のクリスマスが、デリバードと出会った日になった。
12月25日で時が止まったままの二人きりの部屋で。
「…メリークリスマス、マスター」
「メリークリスマス、デリバード」
…俺たちのクリスマスは、まだもう少しの間だけ続く。
「はい、デリバード。配達お疲れ様。…これ、プレゼント」
「わーい、ありがとー!…すっごく綺麗…
…あ、ボクからもプレゼン…って、あれ?」
「どうしたの?」
「な、ない…本部に忘れてきちゃった…」
「…………」
「…………」
「え、えーと…ちょっと待ってて!」
がらがら…
「…………」
がらがら…
「…帽子にリボン巻いただけじゃないか?」
「こ、今年はボクがプレゼント…なんちゃって…」
「…………」
「…………え、えへへへへ…」
「…………」
「ご、ごめんなさい…」
「…………」
ぱちん。
「ふぇ?マスタ、何で電気消しちゃうの…って、きゃー!?」
おしまい。
最終更新:2009年01月25日 02:47