1スレ>>823


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 風が止んだ日、海岸線に二人。
 男と、全身を覆う絶対防御の服に身を包みながら、相変わらず時々簡単に爆散するもえもんであるパルシェンは、
砂浜で午後を過ごしていた。
 だからといって、海にロマンを語りにきたわけではないのだが。

 男はくまなく砂浜を歩き回って、時々腰をかがめて手を伸ばし、砂を一杯掬い上げる。
 そうして凝視しながら、慎重に片手の指で砂を弄繰り回しているのだった。
「おい、主」
 少し離れた砂浜にぽつんと立って、不満なような、理解できないというような表情をするパルシェン。
 その空気に耐え切れず、彼女は口を続けた。
「……一体、何をしているんだ」
「分からないのか?」
 片手が止まると、砂浜に足跡をつけながら彼女の元へと向かってくる。
 そして、その左手に残っていたものを、彼女の盆のように広げられた両手にしゃらしゃらと入れていった。
「金は力だってことさ」
 そう言って、彼はまた砂浜へと戻っていく。
 彼女の両てのひらには、砂に混ざってきらきらと日の光を受けて輝く何かの結晶のようなものがあった。
 砂粒程度のものから、欠片と言えるくらいのものまで。

「星のかけらとか、星の砂って言うんだったか。子供の頃はよく見たな。近頃は見なかったから、きっと流れ着く場所と流れ着かない場所があるんだろうと思ったが。
どうやら、ここは当たりみたいなんだよ。よく取れる。結構いい値なんだぞ」
 そう言いながら、彼はまた砂を掬い上げていく。
 適当に漁っているわけではなく、見当をつけているらしいその手馴れた作業に、パルシェンは何とも言えない気持ちになった。
「そういう事を言っているのではない。……ここまでして金を稼ぐ必要があるのか、と私は言っているんだ」
「ある」
「みっともないぞ」
「誰もやらないからな」
 含みのある言葉に、チッと舌打ちして結局パルシェンは黙り込む。

 ポケモントレーナーには、負けた者はその時の所持金の何割かを渡さなければならない取り決めのようなものがある。
 勝てばお金が増える。
 だが、勝つ為には躊躇いなくギリギリの場面で薬なども使えるお金も必要なのだった。
 自分が相手を探しているように、相手も自分を狙っている。
 そう思ったように連戦連勝とはいかないのが、世の中であった。


 しかし、しかしと彼女のいらだつ気持ちは募る。
 こういう事までしてお金を稼ぐのは、彼女のプライドとかその他色々なものが許しがたいのだった。

――主が集めて自分に渡しているのでなければ、こんなものは今すぐにでもこの場で投げ捨ててやるものを。

 現実、そんな事まで思っていた。


「大体、私がなんで手伝わなければならないんだ」
「見張り番と、いざという時のためだ。凶暴なのが出たら困るからな」
「……モルフォンがいるだろう」
「モルフォンは子守のバイトだ」
 道理で姿を見かけないと思った、とパルシェンは嘆息する。
 同時に、そんな仕事に抵抗もなく行かせる主にも。
「あの毒蛾、子供に肺炎でもこじらせていないだろうな」
 モルフォンは実際に何度かそのテの仕事を請けたことがある。
 大抵は問題なく終わるのだが、一度だけ彼女が子守をしている間に酷くタチの悪い風邪をひいた子供達がいた。
 仕事が終わって引き取りにいった時、にこにこしているモルフォンに対して、不自然なほど従順な子供がいた時は何が起こったのかと顔を見合わせた。
 不行き届きということで、結局代金の一部は返還されていたのだが。
「心配なら代わってみるか?」
「……お断りだ」
「俺もそれがいいと思う」
 後姿でさらさらと砂をこぼしながら、彼女の主は頷いた。
 そしてそのまま、くるりと踵を返してくる。

「さて、そろそろ終わりだな。もうあらかた見つけた感じがするし、街に帰ってちょっと休憩するか」
 そう言って、最後になる星の瞬きを、広げられたパルシェンの両掌に落とす。
 きっと険しい顔で睨んでいるだろう、と顔の方に目を向けると、予想通りに険しい顔だった。
 ただし、方向が違う。
「……ん?」
 彼女の視線は、男の脇を通り過ぎてたった今立っていた砂浜へと注がれている。
 それにつられて彼女の主も、振り返って視線を泳がせると。
 何かが、いた。

 それは波間から。
 なんとも言えない脱力感のある瞳を持った少女は黒い服を着ており、帽子を被ったような青い傘状の頭には赤く半透明の物体が見える。
 柔らかそうな二本の腕が地面に垂直に伸ばされており――それに付随するように、服と体のあちこちから長い触手が数え切れずついている。
 それが今、たゆたう波の中から現れて砂浜に降り立っていた。
「……ドククラゲか!」
「そうだな。もっとも、野生が陸まで上がってくるのは珍しいが……何の用だかな」


 ドククラゲはどこか潜在的に眠くなりそうな半開きな目で、ゆらゆらと砂浜の間を歩き回る。
 そしておもむろに、その砂を手で掬い上げるのだった。
「お前、何をしに来たんだ」
 珍しく興味を持ったのか、一歩も動かなかったパルシェンは両手に持っていた星のかけらを主に預けると、その野生のもえもんに対して話し掛ける。
 特に害意もなく、彼女はどこか虚ろというか、抜けているような瞳で声をかけた彼女を見つめ返した。
「……探しにきたの……光のかけら」
「かけら?」

「そう……ここはよく星のかけらが打ちあがる、私のおきにの場所……。いわゆるテリトリー。
一ヶ月分くらい貯めておいて、一気に掬い上げると……気持ちいいの。うふ、ふふふ」
 そう言って、何かが欠如したような、ネジがすっぽ抜けたように笑って、掬った砂を手から振り落としていく。

「……でも、ない……。きっと誰かが、盗んでいった……私の大切な宝物。
取っていった人、見つけたら代わりに私の大切な大切な宝物にする……いわゆる、ギブアンドテイク」





「……主」
「あー……」
 ジト目で振り返るパルシェンに、心底困った表情で彼女の主は応対した。
「どうする。それよりさらに一段大切にしてくれるそうだぞ」
「突っかからないでくれ、パルシェン。とげキャノンはまだ覚えてないと思うんだが」
「主こそ寒いだけのくだらない冗談を言っている場合ではない」
「……あ……それは……」
 びくっと一瞬震えて、パルシェンが後ろに振り返る。
 二人がやりとりをしている間に、当然のごとく彼女は自分の『大切な宝物』を見つけてしまった。
 その男の、掌の中に。

「……それは私の……そう、そうなのねん」

 うわごとのように呟くドククラゲからは、威圧感も、高圧的な態度も、何も感じられない。
 逆にそれが却って恐ろしかった。
「あー……そういう事情なら、これはいくらか返すから」
 そう彼が言うと、ドククラゲはふるふると首を横に振った。
 あくまで表情の変わらない彼女に反して、その触手がうにうにとうごめき始める。
 獲物を、探すように。

「戦って勝って、奪えばいいのね……」
「いや、ちょっと待て」
「少し待てクラゲ。お前、話を」




「戦って奪って、手足を縛って神経冒して、適当な島で監禁しちゃおう……。
お姉さんが優しく、やさぁしく飼ってあげる……ふ、うふふ、うふふふふふふ」





「( д)゜゜」
「主が――?! 主の目がぁ?!」

「あ、いや、大丈夫……ああ、大丈夫だ」
「そ、そうか。そうだな、見間違えだな。主の目が飛び出したように見えるなど……私としたことが」
 とてとてといつの間にか、守ろうという本能かそれとも一人だと不安だという本能なのか、パルシェンは主の下へ戻っていた。
 その二人に、計80本の触手がうにうにと動きながらじりじりとドククラゲが近づいてくる。
「このクラゲめ……脳が増えるワカメで出来ているんじゃないのか」
 思わず気圧されて汗をかいたパルシェン。
 調子を取り戻してくるものの、そう素早くは立ち直れず、少ししどろもどろになりながら突っ掛かっていく。
 ぎりぎりと歯を鳴らして、何か理不尽だという表情をしながら。

「大体、そんなふざけた事を……だな。……事をのたまうなど、狂ったクラゲに付き合っている暇はない」
「何具体的に想像してるの……? ヘンタイ。キモーイ」
「主、今すぐ攻撃命令を寄越せ。なんならだいばくはつでも構わん、今なら特別に許してやる」
「ああ、わかった。わかったからとりあえず落ち着け、落ち着こうなパルシェン。KOOLになれ」
 珍しく感情を露にするパルシェンの襟を、主が引っつかんで抑える。

 それを自覚すると、怒りより、考えずに飛び出そうとして主に抑えられている今の状況に対する羞恥心が勝ったのか、
ふんと鼻を鳴らしながら彼の手を振りほどいた。
 手を顎に当てて、今度こそ冷静に、改めて当面の敵を見据えた。

「さあ……きませい。HELL or HEVEN。気分はランチャーオクパルド」
 そう言うと、二本の腕と触手をこちらに向けて、くいくいと立てる。
 それは彼女なりの戦闘意思の表現らしかった。
「もし敵前逃亡するようなら……後ろの○○を頂く」

「一体俺とお前、どっちのことを言ってるんだろうな」
「それ以前に間の二文字が主には分かるのか?」
「さあな」
 うでゅるうでゅると動く半透明の触手を眺めて、男はふうと息を吐く。


「とりあえず、やる気みたいだな。いけるか?」
「やれと言われればやろう。だが、どうする。私の技は奴にほとんど効かんし、撒きびしもこの場所と相手じゃ効果が薄い」
「大丈夫だ。相手の攻撃もお前には効かないからな」
 励ましにならない励まし、結局それは同タイプ同士の不毛な戦いをしろという事で。
 ドククラゲは毒タイプでもあるが、毒では彼女の絶対防御は崩せない。
 崩されないという自信も、パルシェンにはある。
 その点において信頼されているのは彼女にとっても誇りであったが、それはさておいてため息をつかざるを得なかった。
「……疲れるバトルになりそうだ」

 戦いの幕が降りる。




   ◇ ◇ ◇


 果てしなく不毛な戦い。
 目に果てしなく悪そうなオーロラビームが吹き抜ければ、お返しにとバブル光線が飛んでくる。
 海という同郷に生まれた彼女達にとっては仕方ないのだが、やはりぐだぐだな試合内容になってしまうのは仕方ない。
 そんな戦いも、結局はじりじりと戦況がはっきりし始めた。
 まだどこか余裕がありそうなパルシェンと、その絶え間なく動く口を噤んでいる時間が徐々に多くなっていくドククラゲ。

「しぶといッ……だが、これで、」
「オーロラビームだ、パルシェン!」
「終わりだ!」
 倒れかけながらもその触手で至近に持ち込もうとしていたドククラゲは、逆に殻の中からの一撃に身を晒すことになった。
 輝く七色の視力低下光線は、日の光に混ざって溶けて消えていく。

 一方、吹っ飛ばされたドククラゲは仰向けに砂浜へと転がっていた。
 体に力が入らないのか、すぐには起き上がれずにいる。
「お疲れ、パルシェン」
「ようやくだ。ようやくだぞ、主。……全く、手こずった。多分致命傷にはなってないと思うが」
 倒れ伏したままのドククラゲは、ふうふうと息をつきながらまだ起き上がらずにいる。
「……負けた……私が負けてしまった。私が敗者で、敗者が私……」
「大丈夫みたいだな」
「そう言ったはずだ」
 そう、確認し合ったところで空気が止まる。

 ふうふうと息をつくドククラゲ以外に、何か息を吐き出すものが何もいなくなってしまった。
 ……つまるところ、パルシェンはこう聞きたいのであり、彼女の主は彼女の主で、自分に自問自答したいのだった。
 それがこの空白の時間を作ってしまっている。
 即ち、


――倒して、弱らせたけど。こいつを仲間に入れるのか?


 それを考えると、二人は何とも言い難い雰囲気になってしまったのだった。
 結局――



「帰るか、パルシェン」
「そうだな、帰ろう。それがいい」
 主はドククラゲを自主的に仲間にする事を躊躇い、またパルシェンもそれに乗っかって考える事をやめた。
 着衣を整えて踵を返し、砂浜を去っていくパルシェンの隣に合わせて、彼も歩き出す。
 歩き出したが、三歩目から急激に一歩が重くなった。
「……?」
 不思議に思って自分の体を見ると、彼の腰にはいつの間にかしゅるしゅると触手が巻き付けられている。
 加えて、その服の後ろを二本の腕で掴んでしがみついていた。
「……何の用だ、クラゲ」
 先程まで倒れこんでいたはずのドククラゲは、いつの間にか起き上がって彼を引き止める。
 いや、正確には気付いて欲しかったのかもしれない。
 眉を顰めながら尋ねるパルシェンには目もくれず、じっと彼が振り返るのを見上げて待っていた。

「いや……。何だ?」
 そう彼が尋ねると、ドククラゲは余った触手の一本でひらひらと自分を指し、
「敗者」

 そして切り替えして彼を指し、
「勝者」

 最後に、ぎゅうっと彼の腰に総計80本の触手ごと、強く抱きついた。
「……敗者は勝者に従うもの。いわゆる煮ても焼いてもおっけーの……。……ご奉公」
「いや、なあ……」
 そんな事言われても。
 そう言いたいかのように、彼は半分困惑したような表情で何も言うことが出来ない。

「少し待てクラゲ、お前に勝ったのは私だ。その理屈なら私がお前をどうこうする権利があるはずだ」
 至極全うなことを主張して睨みつけるパルシェン。
 しかしドククラゲは全く問題ないという風に、むしろ絡みついた触手を強く強くしていく。
「貴方の主人は、こっち。つまり私の主人も、結局はこちら」
「何だその暴論は。到底納得できる話じゃないぞ」
「……どうでもいい。私が決めた……」

 ただでさえ厳しいパルシェンの表情が、どんどん険しくなっていく。
 険悪な空気の中で、しかしドククラゲは頑なに離れようとはしなかった。

 どうしたものか。
 険悪な空気、何かの板ばさみ状態、様々な状況に思いをめぐらせながら、彼は特に何も思い浮かべられないまま、腰に抱きついたドククラゲを見下ろす。
 見てるだけで脱力しそうな、緩んで濁った赤い瞳は、しかし何者にも左右できない絶対意思を持っているようだった。
 射抜くのではなく、押し通すような。


「……ご主人様、旦那様、閣下……どれがいい?」
 見上げながらそんな事を、相変わらずの無表情で尋ねてくる。
 それに心底困った表情をしながら、彼は相棒に質問を投げかけた。



「……どうすればいいと思う? パルシェン」
「知るか」
 そう言ったパルシェンは半分呆れていて、ほんの少しだけ拗ねているような声だった。
ツールボックス

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