5スレ>>707


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「ごーしゅーじーんーさーまー」
「暇だからってくっつくなー。もうそろそろ暑く感じる季節だからー」
「どーこーかーにーいーくーでーすーよー」
「きょーうーはーよーるーかーらーバーイートーあーるーかーらーだーめーだー」
「いじわるーですー」

 畳にうつ伏せって寝転がっている俺の背に、べとべたぁが馬乗りになって騒いでいる。
 ……ゆ、ゆっくりさせてくれ。
 なぜ疲れているのかを聞かれれば簡単な話で。
 養う対象にふりぃざぁが増えた分、稼ぐ必要があるわけでござい。
 単純に考えれば五割増。
 週に二十時間働いてたとしたら十時間も増えるってことだ。
 まぁ実際は、
 べとべたぁ→子供料金
 ふりぃざぁ→大人料金
 とかあって普通に五割では済まないのだけど。
 最初のうちはわずかな貯えを切り崩して持ちこたえていたが、そろそろ限界ということでバイト時間が増大した。

「いーちーじーかーんーねーむーらーせーてーくーれー」
「ぜーろっ! いーちっ! おーきーるーでーすーよー!」
「そーれーはーじーかーんーじゃーなーくーてーびょーうーだー」

 こいつのお勉強もしないといけないよな。
 というかそういうのふりぃざぁ得意だから任せればいいか、うん。
 ……最近頻繁にいなくなるが。
 どうせなら宿に最初から泊まらないような放浪の仕方をして欲しいものだ。

「うーーーー」

 しかし、べとべたぁとここ数日まともに遊んでやってないのも事実であり、心に突き刺さる憂いでもある。
 とはいえこんな状態では満足に遊んでやれないからどうしたものか。

「……」

 このとき俺に閃き! 圧倒的閃き!
 うつ伏せのままポケットに手を伸ばし、財布を取り出す。
 小銭入れから百円玉を摘み、べとべたぁに渡して、

「お小遣いだ……大切に使え……」
「おかしかってもいいですかっ」
「勿論だ……だが、大切に使えよ。大切に」
「わーいです! やったーですっ!」

 べとべたぁはうれしそうにその場で数度大きく跳んで、百円玉を握り締めると、勢いよく外に出て行った。

「ゅぎ……」

 俺は意識を失っていた。





 十数分後、べとべたぁの姿は商店街にあった。

「これがたべてみたいです……あれはどんなあじがするですか……あっちのはふたつかえるです……」

 興味を惹くものがあればぱたぱたと駆け寄って、目を輝かせじっくり眺める。
 諦める時には離れるまでに何度も振り返り、目を潤ませる。
 しかし、別の食べ物の匂いがすればあっという間に切り替わってしまう。

「どれもおいしそうです……」

 たっぷりと一時間以上かけて商店街を練り歩いたべとべたぁは、駅前にやってきていた。
 そしてそこには、べとべたぁにとって見過ごせない存在があった。
 とことこと近寄って、

「どうしたですか?」
「……?」

 べとべたぁが声を掛けたのは、お婆さんだった。

「なにかこまってるですか?」
「えぇ……。孫のために玩具を買ったのはいいのだけれど……どうやら帰りの電車賃が足りなくなってねぇ……」
「そうだったですか……。あ、そうです!」
「なんだいお嬢ちゃん?」

 べとべたぁは握り締めた百円玉をお婆さんに差し出して、

「これで足りるですか?」

 お婆さんは困ったように一度体を小さく引いて、

「お嬢ちゃんのお金はもらえないよ」
「いいです! あげるです!」

 べとべたぁはぐっと背伸びをして、お婆さんの手に百円玉を握らせる。
 ……ごしゅじんさまはたいせつにつかえっていってたです!

「お嬢ちゃん……」
「おまごさんにちゃんとおもちゃをあげるですよ!」
「ありがとうねぇ」
「とうぜんのことをしただけですっ」

 と、お婆さんは何かを思いついたのか、パッと顔を上げ、鞄の中を探り出した。
 べとべたぁはその様子を疑問符の張り付いた顔で眺める。

「これを貰ったのを忘れていたわ……はい、お嬢ちゃん」
「……?」

 取り出したるは一枚の紙。
 そこに刷られているのは福引券の三文字だった。
 勿論べとべたぁは読めない。

「これはね、福引券って言ってねぇ、ガラガラが出来るようになる券だよ」
「がらがら!? まわすやつですか!」
「えぇ」
「あ、ありがとうです! やったです!」

 券を受け取ると、べとべたぁは諸手を挙げてぴょんぴょんと喜びはねる。
 その姿を見てお婆さんは上品に微笑んだ。

「お嬢ちゃん、本当にありがとうねぇ……」
「おばあさんこそありがとうですっ!」





「がっらがっらがっらがっらー」

 べとべたぁはるんるんとスキップをしながら即興の歌を歌う。
 目的地は勿論福引会場。

「ふっくびきーふっくびきー」

 到着すると、そこは人で溢れかえっていた。
 三十分待ちという、アトラクションのような待ち看板の傍にべとべたぁは並ぶために駆け寄る。
 しかし、その途中。
 またもべとべたぁの進行は妨げられる。

「どうしたですか?」

 話しかけたのは一組の親子。
 べとべたぁより一つか二つ幼いか、という程の年齢の子が泣いていたのだ。
 べとべたぁの問いに、子供は泣くのを止め、母親から向き直り、

「がらがら……」
「がらがらがやりたいですか」
「うん……」

 べとべたぁは握り締めた手を子供の前に差し出し、開いた。

「?」
「あら、それは……」

 子供は疑問を。母親は理解を返した。

「これがあればがらがらができるですよ」
「がらがら、できるの?」

 べとべたぁは頷く。

「いいの?」
「いいですよ」

 瞬間、子供の表情が、ぱぁっと明るく変化する。
 差し出された福引券を、べとべたぁの手ごと両手で掴み、

「ありがとっありがとっ」

 ぶんぶんと上下に振りながらお礼。
 券を手にすると、あっという間に順番待ちの最後尾に並びに走る。
 残されるのは母親とべとべたぁ。
 アクションを起こしたのは母親で、

「お嬢ちゃん、ありがとね」
「きにしなくていいです!」
「それでも、何かお礼をしなくちゃいけないわね……」
「?」
「……こんなものしかないけれど、お礼よ。ありがとう」

 べとべたぁに向けられたのは福引券とは随分と様相の異なった券だった。
 それは一辺にゼロから百刻みで数字が描かれていた。
 勿論、べとべたぁは初めて見るものだ。

「これはね、テレホンカードって言って、あんまり見かけないけど、公衆電話が使えるようになる券よ」
「こーしゅーでんわ? けーたいでんわとはちがうですか?」
「公衆電話は携帯電話と違って、持ち運べないけど、誰でも使うことが出来るの」
「たよれるけんです。おばさん、ありがとうです!」
「お、おば……こほん。こちらこそありがとうね」





 その後、公衆電話の設置場所を教えてもらったべとべたぁは、試しに使ってみようとその場所へ向かっていた。

「こーしゅ! こーしゅ!」

 よく分からない歌がセットで付くのは恒例のようである。
 改めて、べとべたぁはテレホンカードを眺める。
 そこには白、黄、赤の花の絵が描かれていた。

「きれーなかーどーです」

 テレホンカードのことが大層気に入った模様。
 そして、目的地に辿り着いた。

「こーしゅーでんわ……あれです!」

 たたた、と素早く近寄り、電話をかけようとして、しかし、、べとべたぁは使い方が分からず固まった。
 使い方は近くに書かれているが、漢字が多く混ざっていて、読むことが出来ないのだろう。

「……うー」

 うなだれ、あきらめ、振り返ると、べとべたぁは自分のことをじっと見つめる萌えもんがいることに気付いた。
 バリヤードだ。
 その視線をよく辿ると、公衆電話とテレホンカードを行き来していることが分かる。

「どうしたですか?」

 本日三度目。
 べとべたぁが訊ねると、バリヤードは待ってましたというような勢いでべとべたぁに詰め寄った。
 それは周りから見るとかなり警察を呼びたくなるような雰囲気だったが、

「?」

 べとべたぁは気付かない。

「そ、そのカード、ゆずってくれないかな?」

 鬼気迫る表情で、テレホンカードを持ったべとべたぁの手を両手で握り締めるバリヤード。
 べとべたぁは驚いてから、

「いいですよ」
「い、いいの!?」
「もちろんです! かーどもつかえるひとにもっていてほしいとおもうです」
「あ、ありがとっ! ありがとっ」
「どういたしましてです」
「あ、そうだ。代わりにこれをあげる」

 バリヤードはポケットから石を取り出し、べとべたぁの眼前にかざした。
 その石は光を吸収してしまうような、闇の色をしていた。
 勿論(ry

「これはつきのいしって言って、僕らの可能性を拡張してくれる石さ」
「かのーせー? かくちょー?」
「できることを増やしてくれる、ってことだよ」
「それはすごいです! そんなものもらってもいいですか!?」
「うん。ボクはどうしても電話がしたかったんだ。つきのいしじゃ電話は出来ないからね」
「ありがとうです! ぴかぴかいしです!」





「きれいですー」

 べとべたぁはつきのいしをじっと眺めながら、宿に向かっていた。

「てれほんかーどもきれーだったですけど、ぴかぴかいしもきれーです」

 えへへー、と頬を緩めて、つきのいしに目を奪われっぱなし。
 しかしそれでもべとべたぁのセンサーは反応する。
 つきのいしから離れたべとべたぁの視線の先には、一人のトレーナーがショーケースを眺めて溜息をついていた。

「どうしたですか?」
「あー、ベトベターだー。かわいー」

 トレーナーは質問に答えず、べとべたぁを抱きしめた。

「このあたりじゃぜんっぜん見ないのよねー。めずらしー」

 抱き上げて、頬ずりをし始める。
 べとべたぁはどうしていいやら困った表情のまま、なすがままにされていた。
 トレーナーがひとしきりべとべたぁを愛でると、

「聞いてくれる? 私、欲しいものがあるんだけどね、それがなかなか手に入らないの」
「なにがほしいですか?」
「ベトベターちゃんにわかるかなぁ? つきのいし、っていう石なんだけど」

 黒っぽくて、でもキラキラしてて、でも数が少ないのよねー……ぶつぶつ。

「ぴかぴかいしならもってるです!」
「ぴかぴかいし?」
「これです!」

 つきのいしを掲げてみせると、トレーナーは口を大きく開けて、三秒ほど硬直した。

「これがほしいですか?」
「う、うん……。くれるの……?」
「あげるです!」
「え、あ……」
「?」
「ありがとっ!!」

 トレーナーは再びべとべたぁを抱きしめ、抱き上げ、頬ずりを開始する。
 やはりなすがままのべとべたぁ。

「あーもうかわいすぎるっ。も、もしかして、だれの萌えもんでもなかったりしないかな?」
「ごしゅじんさまがいるですよ!」
「そっかー。流石にそこまでうまくはいかないよね……あ」
「つきのいしをくれたお礼に、これあげる」

 トレーナーは福引券でもテレホンカードでもない券をべとべたぁに渡す。
 そこには、べとべたぁの好物が描かれていた。

「はんばーがーです!」
「そ、ファストフードのお食事券。私はあんまり好きじゃないから、あげる」
「い、いいですか!?」
「もっちろん! こっちこそつきのいしもらっていいのか聞きたいくらいだよ」
「いいです! いいです!」
「そんなに喜んでもらえると凄くうれしい。あーあ、だれかのこじゃなかったらなー」





 べとべたぁが外へ出て行ってから三時間が経過した。
 俺も流石に気絶したままでいられず、つい五分ほど前に復帰していた。
 しかし、
 ……心配だ。

「誰かに騙されてないか連れて行かれてないか迷子になってないかお腹すかせてないか泣いてないか」

 どことなく病んでる。
 そわそわ。
 そわそわ。

「あーもうっ! 落ち着かない!」

 頭をくしゃくしゃと掻き乱して、立ち上がる。
 と、そんな時、部屋のドアノブが回った。

「ただいまーです!」

 ドアの影からは見間違えることなくべとべたぁの姿が。
 頭から足まで怪我がないか確かめ、何もないことに一安心。

「おかえり。何かいいもの見つかったか?」
「そ、そうです! すごいいいものです!」
「? なんだ……?」

 百円でべとべたぁが大興奮するようなものってあまり思いつかないが……。

「これです!」

 それは小さな券だった。
 よく見てみると、それにはハンバーガーが描かれていていた。

「おしょくじけんです!」
「すごいな。というかそれ、いったいどうした……?」

 べとべたぁはえへんと胸を張って、

「おばーさんがおかねにこまってたからひゃくえんあげたです。そうしたらがらがらのけんをくれたです」

 がらがらのけん……福引券か? ってことはそれであてたのかな?

「がらがらしにいったら、おとこのこがやりたそうだったからあげたです。そうしたらおばさんからてれほんかーどをもらったです」

 ……おばさんって母親のことだよな。

「こーしゅでんわのところでばりやーどさんがてれほんかーどほしがってたからあげたです。かわりにぴかぴかいしをもらったです」

 ……ぴかぴかいし?

「つぎはぴかぴかいしをほしがってるとれーなーさんがいたのであげたです。そうしたらこれをくれたです!」

 なるほどね。
 ……最後がハンバーガーのお食事券って辺りがこいつらしい。
 わらしべ長者ならぬ、わらしべとべたぁ。
 まさしくこう表現できた。

「さ、ごしゅじんさま! たべにいこうです!」
「ん? おれもたべていいのか?」
「もちろんです!」
「ありがとなー、べとべたぁ」
「どういたしましてです」

 ふりぃざぁは……いないのが悪い。うん。
 俺とべとべたぁはおなかいっぱいになるまでファストフードを楽しんだ。
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